幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

文字の大きさ
2 / 34
第一章 『ベルガレートの迷宮』

第一章2 ベルガレートの森の迷子〈1〉

しおりを挟む
    ……ここは、森林か?
 日本、ではないだろうな。やっぱ異世界転生ってやつ?
 殺したのドミニオンだけど。
 
 そうだ、もらったスキル試してみるか。
 とはいえ、収納するものないな。
   とりあえず何かしら試してみることにしよう。

「オープン――お、なんか開いた」

 見たところ、ステータスのようなものだ。
 こういう展開はラノベを読んで慣れた。

「それにしても、体が軽いような……」

 地面が近い。身長が縮んだのか。
 あ、ステータスのところに歳が書いてある。なになに? 八歳……

「一回り若くなってんじゃねーかっ!」

 あっちの世界では二十歳だったからな。
 それにしても腕も足も細いな。

「おーい、ドミニオンー」

 もちろん返事はなしか。
 お決まりの展開とはいえ、ここまでくると不安だ。

 金さえあればと思っていたが、金はどこにあるんだ……。
 金が収納できても、収納する金がねぇーじゃねーか!
 中卒だからかっ!? 俺がここまで馬鹿だとは知らなかった。

「とりあえずスキルを試してみるか」

 あと、このステータスどうやったら消えるんだ! 
 オープンの反対は、

「クローズ――おお、消えた」

 危うく、ずっとステータス表示しながら旅するところだった。
 俺のステータスは攻撃力が少なかった。その代わり、魔力が攻撃力数値の四倍近くあったのだ。

 攻撃が2、そして魔力が8。この数字が小さいかも大きいかも分からない。
 
「スキル試してみるか。詠唱とかしないといけないのか――なんて言えばいいんだ……」

 収納といえば、タンスか。いや、タンスなんてダサいし、詠唱したくない。それに絶対違うしな。

「しゅ、収納」

 落ちてる枝に向けて短い言葉を放った。
 だが、それが正解なのか、枝を中心に魔法陣が地面に描かれ、その光は森一帯を赤く照らした。
 数秒もしないうちに、枝は魔法陣の中へと消えていった。

「お、合ってた。よかった、タンスとか言わなくて」

 もう一度ステータスを開くと、そこには『枝』とだけ書かれていた。
 おいおい、ちょっと雑すぎないか?

「もう一本入れてやる」

 さっきと同じ方法で枝を、『倉庫』に収納する。
 よし、確認してみるか。

 ――『枝(二本目)』
 これなんか酷くない!? 別にいいけど……。
 ついでに出す方法も覚えておこう。

「えっと……」

 こういうのって頭の中で念じればいいんだよな。
 じゃあ『枝(二本目)』を、

「は、発射」

 突き出した掌から円形の小さな魔法陣が現れると、それと同時に風を切る音がはっきりと耳に届いた。
 今のかなり強い気が……。奥を見ると、手前の木に枝が突き刺さってる。

「普通に物は出せないのか?」

 さっきは『発射』だったから威力が出たのだろう。
 次は『枝(一本目)』で試してみる。

「うーん、出てこい」

 いいのが思いつかなかった。あとで考えればいいことだろう。
 それに『枝(一本目)』は出てきた。成功だ。

   枝は上を向いた掌からゆっくりと現れた。

「これは便利だ」

 あっちの世界で使えたら、万引きとかで悪用できそうだな。

「使い方はこれでわかった。とりあえず勇者以外の仕事を見つけよう」

 俺が歩き始めた瞬間、まったく逆の方向からガサッという音が聞こえた。
 こういうときに『気配遮断』とか役に立つんだけど。

 「魔法の使い方もわからない俺にモンスターとか早いぜ……」

 後方にある枝を数本、倉庫に収納しておく。
 魔法が使えなくても、『発射』さえ使えれば……。

「ガルルルゥゥーー」
「おいおい、いきなりボスみたいなやつがお出ましかよ。発射」

 勢いよく俺から発射された細い枝は、巨大な犬みたいなモンスターに狙いを定める。
 モンスターに触れた瞬間、細い枝は簡単に折れた。

 いや、折れるなよ!

「やばい、どうする……」

 こんな細い枝、何本飛ばしたところで意味ないよな……。
 
「リアリルト・アス・サーガ」

 詠唱のような声が後ろから聞こえてきた。
 一振りさえも肉眼で追えないくらいのスピードで、巨大な犬を斬撃したのは、

「ぼく、大丈夫かい?」

 青髪をした青年だった。白い衣装に身を包んでいる青年は、剣を腰に仕舞うと俺の方を見てそう言った。

「こういう時は普通、可愛い女の子が現れる展開だろ……」

 つい不満を口走ってしまった。
 一応見た目は子供だからな。ふりだけでもしておかないと。

「お兄さんありがと! さっきの剣さばきすごかったね!」
「あれは僕の力じゃない。この剣にそういう力があるだけさ」

 剣に力……? 剣装備スキルのようなものか?

「その剣は僕にも使えるの?」
「いいや。この剣はサルトーガ家に伝わる剣でね。今だと僕しか扱えないんだ」

 見たところ騎士か。
 この人についていけば街まで帰れそうだな。

「それで君名前は? ベルガレートの森に迷い込んだのかい?」

 この森はベルガレートの森というのか。
 
「僕はレイ・アキシノ。なんか気付いたらここにいて」
「そうか。……君のような子はあまりここに近づかない方がいいんだけど」

 小さくて何言ってるのか聞こえない。
 まぁ独り言だろうから、詮索する気はないけど。

「あなたは?」
「あ、失礼。騎士たる者が名前を……僕は国家騎士の一人で、七大聖騎士のユルシリア・ノア・サルトーガだ。怠惰の騎士とも呼ばれている」

 怠惰って……めっちゃ仕事してそうなのに。 

「ここらへんに魔精霊が現れたらしくて、今探してるんだ」
「魔精霊?」
「魔精霊というのは……」

 この雰囲気。訊くのまずかったかも。

「別にこれは仕事じゃない。誰かに頼まれたわけでもないんだ。ただ……」
「ごめんなさい。話したくないなら無理に話さなくても大丈夫ですよ」
「すまない。一先ず、君をベルガレートの森から出すよ」

 転生早々、殺されても困るからな。
 ふと、さっきユルシリアが斬ったモンスターの場所が視界に映り込んできた。
 黒紫に光る石。魔石のようなものか?

「――収納」

 あの小さな石を倉庫に入れるくらい、バレないだろう。
 この石をステータスで確認っと。

 そんな俺の方を向き、ユルシリアは笑顔を崩して言った。

「君、今なにをした」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...