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第一章 『ベルガレートの迷宮』
第一章3 ベルガレートの森の迷子〈2〉
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「えっと、何もしていませんよ」
「じゃあ、なぜデスハウンドの魔石が無くなっているんだ……」
誤魔化すにも言葉が出てこない。この威圧感は普通じゃない……。
「すまないが、尋問のためにスキル『威圧』を使っている。正直に答えたまえ、君は魔精霊か」
「ち、違う。命にかけても僕は魔精霊じゃない」
根拠はないが、とりあえず否定しないと殺されそうだ。
「そうか。さっきの魔石はどこに行ったか知ってるかい?」
「いいえ……」
「そうか。君を疑って悪かった」
――オープン。
魔力が30になっている。つまり魔石を収納したからか?
「なぁ、レイくん。このベルガレートの森に入るには、一つ大事なことがあるんだ。それは知っているかい?」
「し、知らないです」
「この森には魔力を持った者しか入れないということだ。そして魔力が宿るのは十五歳の儀式を行った者だけ」
この先は言われなくても分かる。
「君は何者だ」
さっきの雰囲気とは打って変わって、剣呑とした空気になってしまった。
うそだろ。俺の歳で魔力を持ってること自体チートなのかよ……。
「答えないんだね。悲しいが君とはここでお別れだ」
「僕を殺すんですか」
ユルシリアは無言のまま、腰にぶら下げた剣を地面に突き刺した。
「リアリルト・ティア・サーガ」
その剣は突き刺した場所よりも、さらに深く突き刺さると、ユルシリアは言った。
「レイくん、ここにはもう一つの呼び名があることを知っているかい?」
一瞬、悲しい瞳を俺に向けてきたユルシリア。
片目から一滴の涙を落とすと、その涙を拭うことなく言った。
「ベルガレートの、迷宮だ」
その瞬間、大きく揺れ始めた大地に、俺の体も揺さぶられた。
そしてバランスを崩した途端、俺は真下にできた穴へと落ちていった。
ユルシリアがこぼした涙の正体も知らないというのに。
――痛い。
だいぶ深くまで落ちてきたみたいだ。
「落ちたところが水だったのが、不幸中の幸いだな」
とはいえ、落ちた場所から結構流された。
真っ暗で何も見えない。
「転生後、いきなり迷宮ってハードモードかなんかか?」
さっきのデスハウンドってやつも、ユルシリアがいなかった今頃餌になっていたところだ。
「――オープン」
魔力が29になってる。もしかして収納してる間は魔力が減り続けるのか?
このままだと、魔力切れとかでどちらにしろバッドエンドだ。
「モンスターを倒す術を見つけないと」
魔法も教えてもらったわけでもなし、使えるものがあるとしたら『発射』くらいしかないんだよな。
そういえば、俺が住んでた世界には石でとてつもない破壊力を生むものがあったな。
「――『隕石』だ! でかい隕石をたくさんモンスターに降らせれば」
あれは重力によって生み出される力。俺は魔力でどうにかそれを再現する。
それに周りを見ると、たくさん石が落ちてるしな。こんなの上から落ちてきたら、人間なんて一溜まりもないな。
俺は収納を繰り返し、何個か『倉庫』に仕舞った。
「よし、一先ずこれくらいストックがあればいけるだろ」
ステータスを見ると、大きな石は二十七個ある。
「攻撃方法も見つけたことだ、進むか」
明かりが欲しい。どうにか火をつけるか。
「ファイア~、ってつくわけないか」
「グルルルルゥ……」
「この音……モンスターか」
モンスターも少し慣れてしまった。
「お前なんざ、俺の『隕石』でぺちゃんこに」
暗すぎてどこにいるかわからない。そのうえ、鳴き声も響き過ぎて。
「こっち来て」
「わっ!」
背中を闇に引っ張られ、つい変な声を上げてしまった。
お、次は女の子のようだ。顔は見えないけど。
女の子に引っ張られるがまま、俺は岩陰に隠れた。
「君、こんなところで」
「しっ! 今は喋っちゃダメ。デスハウンドの気配が近い」
気配察知みたいなスキルを持っているのか?
気配なんて一切わからないんだが。
「ほっ、離れたみたい。さっきの質問、そのままあなたに返すわ」
「僕はレイ・アキシノ。この迷宮? に落とさ……」
あまり言わない方がいいか。
「迷い込んだ」
「そう」
案外あっさりだな。少しは疑ってくると思ったけど。
「――ヴィスティラ」
短い詠唱を口にした瞬間、少女は指先こちらに向けてきた。
それが見えるのも、指の先端が黄色く光ってるからだ。 白髪で、俺より少しだけ背が高い少女。
「私はアルノラよ。魔石を探しにここまで来たの」
「魔石? デスハウンドの?」
「あんなのいらない」
あんなの……さっき俺、あいつに殺されかけたんだけど。
「ベルガレート。この森に住まう魔精霊よ」
え、森の名前って魔精霊の名前から取ってたのかよ。
少しゾクッとしたわ。
でも、この森の主の魔石を取りに来たって相当強いんだろうな、この人。
「この先にベルガレートがいるみたいなの。あなたもついてきてくれる?」
「あぁ、できることはするよ」
いきなり命懸けイベント発生とか、俺相当ついてないな。
のんびり暮らしたかったんだけど。
足元も見えないくらい真っ暗な道。光魔法を使うアルノアに、俺はついていく。
「アルノアさんって、『気配察知』みたいなスキル持ってるんですか」
「アルノアでいいよ。あと、そんなスキル持ってないわ」
そのあと、大した会話をすることなく歩いた。そして俺の身長の三倍近くある扉の前についた。
如何にもボスがいそうな場所だな。
扉の小さな隙間からは白い霧のようなものが出ていて、かなり冷たい。
「行くよ」
「は、はい」
嫌な気配がプンプンするところに飛び込むってこわいな。
「飛んで火にいる夏の虫ってことわざを思い出す……」
「じゃあ、なぜデスハウンドの魔石が無くなっているんだ……」
誤魔化すにも言葉が出てこない。この威圧感は普通じゃない……。
「すまないが、尋問のためにスキル『威圧』を使っている。正直に答えたまえ、君は魔精霊か」
「ち、違う。命にかけても僕は魔精霊じゃない」
根拠はないが、とりあえず否定しないと殺されそうだ。
「そうか。さっきの魔石はどこに行ったか知ってるかい?」
「いいえ……」
「そうか。君を疑って悪かった」
――オープン。
魔力が30になっている。つまり魔石を収納したからか?
「なぁ、レイくん。このベルガレートの森に入るには、一つ大事なことがあるんだ。それは知っているかい?」
「し、知らないです」
「この森には魔力を持った者しか入れないということだ。そして魔力が宿るのは十五歳の儀式を行った者だけ」
この先は言われなくても分かる。
「君は何者だ」
さっきの雰囲気とは打って変わって、剣呑とした空気になってしまった。
うそだろ。俺の歳で魔力を持ってること自体チートなのかよ……。
「答えないんだね。悲しいが君とはここでお別れだ」
「僕を殺すんですか」
ユルシリアは無言のまま、腰にぶら下げた剣を地面に突き刺した。
「リアリルト・ティア・サーガ」
その剣は突き刺した場所よりも、さらに深く突き刺さると、ユルシリアは言った。
「レイくん、ここにはもう一つの呼び名があることを知っているかい?」
一瞬、悲しい瞳を俺に向けてきたユルシリア。
片目から一滴の涙を落とすと、その涙を拭うことなく言った。
「ベルガレートの、迷宮だ」
その瞬間、大きく揺れ始めた大地に、俺の体も揺さぶられた。
そしてバランスを崩した途端、俺は真下にできた穴へと落ちていった。
ユルシリアがこぼした涙の正体も知らないというのに。
――痛い。
だいぶ深くまで落ちてきたみたいだ。
「落ちたところが水だったのが、不幸中の幸いだな」
とはいえ、落ちた場所から結構流された。
真っ暗で何も見えない。
「転生後、いきなり迷宮ってハードモードかなんかか?」
さっきのデスハウンドってやつも、ユルシリアがいなかった今頃餌になっていたところだ。
「――オープン」
魔力が29になってる。もしかして収納してる間は魔力が減り続けるのか?
このままだと、魔力切れとかでどちらにしろバッドエンドだ。
「モンスターを倒す術を見つけないと」
魔法も教えてもらったわけでもなし、使えるものがあるとしたら『発射』くらいしかないんだよな。
そういえば、俺が住んでた世界には石でとてつもない破壊力を生むものがあったな。
「――『隕石』だ! でかい隕石をたくさんモンスターに降らせれば」
あれは重力によって生み出される力。俺は魔力でどうにかそれを再現する。
それに周りを見ると、たくさん石が落ちてるしな。こんなの上から落ちてきたら、人間なんて一溜まりもないな。
俺は収納を繰り返し、何個か『倉庫』に仕舞った。
「よし、一先ずこれくらいストックがあればいけるだろ」
ステータスを見ると、大きな石は二十七個ある。
「攻撃方法も見つけたことだ、進むか」
明かりが欲しい。どうにか火をつけるか。
「ファイア~、ってつくわけないか」
「グルルルルゥ……」
「この音……モンスターか」
モンスターも少し慣れてしまった。
「お前なんざ、俺の『隕石』でぺちゃんこに」
暗すぎてどこにいるかわからない。そのうえ、鳴き声も響き過ぎて。
「こっち来て」
「わっ!」
背中を闇に引っ張られ、つい変な声を上げてしまった。
お、次は女の子のようだ。顔は見えないけど。
女の子に引っ張られるがまま、俺は岩陰に隠れた。
「君、こんなところで」
「しっ! 今は喋っちゃダメ。デスハウンドの気配が近い」
気配察知みたいなスキルを持っているのか?
気配なんて一切わからないんだが。
「ほっ、離れたみたい。さっきの質問、そのままあなたに返すわ」
「僕はレイ・アキシノ。この迷宮? に落とさ……」
あまり言わない方がいいか。
「迷い込んだ」
「そう」
案外あっさりだな。少しは疑ってくると思ったけど。
「――ヴィスティラ」
短い詠唱を口にした瞬間、少女は指先こちらに向けてきた。
それが見えるのも、指の先端が黄色く光ってるからだ。 白髪で、俺より少しだけ背が高い少女。
「私はアルノラよ。魔石を探しにここまで来たの」
「魔石? デスハウンドの?」
「あんなのいらない」
あんなの……さっき俺、あいつに殺されかけたんだけど。
「ベルガレート。この森に住まう魔精霊よ」
え、森の名前って魔精霊の名前から取ってたのかよ。
少しゾクッとしたわ。
でも、この森の主の魔石を取りに来たって相当強いんだろうな、この人。
「この先にベルガレートがいるみたいなの。あなたもついてきてくれる?」
「あぁ、できることはするよ」
いきなり命懸けイベント発生とか、俺相当ついてないな。
のんびり暮らしたかったんだけど。
足元も見えないくらい真っ暗な道。光魔法を使うアルノアに、俺はついていく。
「アルノアさんって、『気配察知』みたいなスキル持ってるんですか」
「アルノアでいいよ。あと、そんなスキル持ってないわ」
そのあと、大した会話をすることなく歩いた。そして俺の身長の三倍近くある扉の前についた。
如何にもボスがいそうな場所だな。
扉の小さな隙間からは白い霧のようなものが出ていて、かなり冷たい。
「行くよ」
「は、はい」
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「飛んで火にいる夏の虫ってことわざを思い出す……」
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