幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

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第一章 『ベルガレートの迷宮』

第一章4 迷宮《最深部》

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 扉の奥。左右の壁には、デスハウンドの魔石のような黒紫色の光を放つ石が埋まっている。そのためか、さっきより足元が見える。
 
「この奥にベルガレートがいるのか?」
「おそらくね。……ルレイト・イン」

 アルノアは短くそう答えると、小さな声で何か詠唱を行った。だが、見る限りで変化した場所はない。身体強化の類だろうか。

 奥へ進むにつれ、石の色は青色へ変わる。完全に色が青に染まったときには、温度はかなり下がっていた。

「さっきなんか魔法使ってましたよね。何したんですか?」
「身体強化だよ。ここらへんは寒いから、体温を少しあげるだけの魔法なんだけどね」

 それにしても、ここってどれくらい深いのだろうか。
 落ちてきた感覚からして、相当下まで落ちてきただろうな。

「これ、下に続いてますよね」

 目の前に現れた階段に、俺は思わず問いかけてしまった」

「ベルガレートの迷宮〈最深部〉です。ここからはデスハウンドの倍近く強いモンスターが出るので気をつけてね」
「わ、わかりました」

 どうせなら俺にも身体強化の魔法かけてほしい。このままだと普通に死んじゃうんですけど。

「進むよ」
「はい!」

 一応いつでも『発射』できるようにしておく。これも念のためだ。

 階段を降りると、そこには神秘的な光景が広がっていた。
 青白く光る結晶は、その場全体の色を変え、地面はガラスのような結晶で出来ていた。

「こんなのあっちの世界でも滅多にないぞ」

 俺が結晶に興味を示していると、突然後ろから――

「ルレイト・アウトッ!」

 陰から四体のデスハウンドが現れた。
 青白く光る空間に、四体のデスハウンドが影を作った。

「アハッ! アハハッッ! その顔よ! 絶望に満ちた顔、死を覚悟した顔! 我慢した甲斐があったわっ!」

 人格が変わったように、高笑いを始めるアルノア。
 でも正直な話、こいつの正体は大体わかっていた。

「お前、ベルガレートだろ」
「へぇー、分かってついてきたんだ。そうよ、私こそこの『森の主』アルノア・ベルガレート」

 なんだ? 割とあっさり……いや、ここまで来て誤魔化すわけもないか。
 格好つけたものの……どうすんの、この状況。

「何が目的だ? 俺を殺したいのか?」
「いいえ、あなたの持ってるそのスキルが欲しいのよ」
「スキル?」
「ええ。スキル『倉庫』を渡しなさい」

 なんでこいつがスキルのことを……もしかして出会ったときに見られてたのか! 
 だとしても……。

「断ったら?」
「あなたに拒否権なんてないわ」

 どっちにしろバッドエンドじゃねーか。
 考えろ、俺!
『奪う』って、どうやったら奪えるんだ? スキルだとしても、何か条件があるはずだ。
 ここまで来る途中、いくらでも奪える隙があったんだからな。

「俺に死なれたら、その奪うスキルは役に立たないってわけか」
「子供のくせに頭は使えるのね」

 条件……条件ってなんだ。

「もういいわ。やりなさい」

 アルノアの合図と同時に、デスハウンド四体は俺を睨んだ。

 もうやけくそだっ!

「全弾『発射』ッッ!」

『倉庫』に入れた石をすべて、空間の天井から落とした。

 や、やったか? 
  まずい変なフラグを立て、て……

「あれ、ほんとうに死んだのか」

 見渡すと、四つの魔石が落ちている。とりあえず回収。
 全部デスハウンドの魔石だ。魔力が130になってる。さっき約30だったから、単純計算で一つの魔石で魔力25くらいか。

 だがその時、目の前で山になってる石の下から声がした。

「おっも」
「――ッ!?」

 石を落としただけでラスボスを倒せるわけないか。
 こんなとき、異世界転生者はどうすんだよ!

「逃げるが勝ち、だっ! ――あと回収」

 ベルガレートに気付かれる前にここから離れよう。
 もし奪う条件の中にこの場があったら、奪われて殺されるからな。

 急いで目の前の通路へと走った。
 回収できた石五個を壁代わりとしておいておく。破壊されるのがオチだけどなっ!

「なんだ、ここ」

 目線の隅に入ってきた石でできた柱。俺くらいの身長で、かなり低い作りになっている。

「魔導書……?」

 本だ。中は全く読めないけど。
 今はとりあえず収納。『倉庫』にしまっておこう。

〈言語、解読可能状態になりました〉

 この声、あっちの世界で聞いた幻聴……?
 確かにおっさんの声だわ。こりゃ、ロリニオンも怒るわけだな。次会ったら謝ろう。

「可能? もう一回出してみるか。『発射』――」

 掌を上に向けてたせいか、天井目掛けて魔導書が飛び出てきた。
 
「あ、発射じゃなかった」
 
 本は無事のようだ。これがラノベだったら捨てるはめになってたな。
 
 お、読める。

「ベルガレートの魔導書……ってあいつの魔導書かい!」

 思わず床に投げてしまいそうになるが、我慢する。
 一応読み進めるか。

 なになに?
 魔精霊ベルガレートと契約を結ぶことでスキル『略奪』が取得できる。

「すご、ゲームの攻略本みたいで読みやすっ!」

 つまりはあいつ魔精霊と契約したってことか。
 どこかに倒し方みたいなのって……。

 うわ、ダメだ。ほとんど真っ白だ。

「使えねっ!」

 ゴミ魔導書はとりあえず『倉庫』行きだな。
 魔法が書いてある魔導書とかだったら便利なんだけど。
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