幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

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第一章 『ベルガレートの迷宮』

第一章5 スキル『略奪』

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 せめて、奪う条件でも書いてあったらなぁ。

 ベルガレートの魔導書、最後のページにはこの迷宮のことが書かれていた。
 ここは本当にベルガレートの迷宮の最深部らしく、地上へは階段を上がれば辿り着くみたいだ。

   まぁここはかなり深いから、一つの階段で地上へは出られないだろうけど。

「アルノアにバレず、この迷宮出られる気がしないな。やっぱ倒すしか……」

 殺しに躊躇いがないわけじゃない。恐怖だって感じてるし、俺自身が死ぬ可能性だって十二分ある。

 周りを見渡しても、アルノアが近づいてる気配はしない。
 事前にあいつがベルガレートだって気付いた理由はいくつかあった。

 一つ、俺に身体強化の魔法をかけなかったことだ。あれは身体強化の魔法なんかじゃないってことだ。

 二つ、ここまで来るのに、迷いもしなかった。こんな暗い道を迷わない。そしてモンスターも出てこない。違和感がありすぎだろ。

 三つ、とっても単純なことだ――子供を連れてボス攻略なんて馬鹿だろ。

「アルノアについて行った過去の俺を呪いたい……」

 ってか! あのロリニオンがこんな危険な森に落としたのが悪いだろ!
 街で落とせよ、街で!

「ん? あれは」

 視界の片隅に、白銀の刀身が見えた。
 お? 剣? すごく怪しくない? めっちゃ怪しいんだけど。

「しゅ、収納。……オープン」

 ベルガレートの剣っ! わかってた。なんとなくわかってたよ!

「ベルガレートってやつは自己顕示欲の塊か!? あるいは自分の名前を相当気に入ってのか!?」

 いや、別に武器として使えるならいいんだけどさ。名前なんてどうでも……。
 
 足音が近づいてきている。この音は……おそらくアルノアだな。デスハウンドはもっと大きいはずだもんな。

「や、やっと見つけた」
「っ……」
「私の思った通り、あなたはここに来た」

 嘘だろ、何言ってんだよこいつ。
 もしかしてここが略奪条件になる場所……?

「ディア――」

 詠唱!? 魔法陣もっ!?
 下を見ると、俺を中心に魔法陣の輪が広がっていた。
 
「オープン……。試すか」

 剣の『発射』に魔力を加えて……。
 魔力の扱いなんかわからない。だが、感覚に任せて。

「一か八か、だ。アルノアすまん……『発射』ッッッ!」

 それはアルノアの二回目の詠唱よりも早かった。
 一直線に風を切りながら、剣はアルノアの心臓目掛けて進んだ。

「グ、ハッ! お前、その剣……」
「自分の剣で死ぬのは嫌だろ。じゃあな、魔精霊」

 頼む、死んでくれ! 

 静かになり、周りを見渡せば魔法陣はなくなっていた。
 アルノアのいた位置には魔石が置いてある。

 収納して、ステータスのところで確認しようした寸前。

〈精霊スキルを確認。スキル『略奪』を獲得可能。獲得しますか?〉

『略奪』ってベルガレートと契約しないといけないんだろ?
 でもそうか、今はベルガレートいないんだもんな。え、憑りつかれたりしない?

「一応もらっておくとするか」

〈獲得許可確認。スキル『略奪』を確認。同時に、略奪条件の更新。デスハウンドのスキル『危険察知』と『魔力感知』獲得しました〉

 よ、よくわからないけどたくさんスキルが手に入ったな。
 これ、ラノベというよりゲームみたいだ。
 頭の中に聞こえてくるこの声、可愛い女の子に担当してほしかった気もするが。

「魔力感知って、どういう意味だ? なんにも感じないけど」

 なんか近づいてきてる。
 あ、感じる。めっちゃ大きい魔力。

「ラスボスのつぎに中ボスって順番おかしいんですけど!?」

 一先ず、ベルガレートの剣を収納しておこう。

〈剣スキル『魔力遮断』を獲得しました〉

 剣スキル!? あぁ、確かにユルシリアの剣にもスキルついてたな。
 剣にもスキルがあるってことは、あんまり投げない方がいいかな。

「持って戦ってみるか?」

 そんな簡単じゃないだろうけど。

「ふぅ、来い!」

 この先の曲がり角におそらくいる。
 
「グァアアアアアアッ!」

 うるせっ! 思わず、耳を塞いでしまった。それくらい大きな叫び声に、俺は一歩後退りした。
 お、オーク!?

「ほ、本物だよな。なんか気持ち悪い……」

 後ろには数体のゴブリンがいる。
 異世界系の実写化映画が出ても見ないでおこう……。

「と、そんなことより」

 気付けば念じることで『倉庫』の中のものを取り出せるようになった。便利!
 まぁ最初も「出てこい」で出てきてたしな。

「おもっ! 勇者はこんなの持って戦ってんのかよ」
「ガルゥ、ギャッギャッ!」

 気持ち悪いよ……いきなり奇声あげないでほしい。
 心臓止まるわ、ほんと。

 そんな俺に気付いた一体のゴブリンは、口元を斜めに歪ませた。
 そして考える隙を与えることなく、俺の方へと走ってきた。

「ギャッギャッギャッ」
「やば! はやすぎだろっ!」

 とりあえず思いっ切り振った剣は、ゴブリンに強い打撃を与えた。
 刃が当たってたら返り血浴びてただろうな……。        

   壁に叩き付けられたゴブリンは、地面についたと同時に魔石へと変わった。

「一体撃破……」

 さすがにこの音は気付いたのか、オークがこちらの方へ来た。
   これはチャンスじゃないか?

「――収納! んでもって、『発射』ッ!」

 剣を一度しまい、再び威力をつけて出した。
 オークの胸に狙いを定めて放たれた剣は、

「嘘だろ……」

 オークが持っていた斧によって簡単にはじかれてしまう。
 
 勘違いしていたようだ……俺は別に最強になったわけではなかった。
 チートスキルをたまたま手に入れ、それに酔ってモンスターを甘く見ていた。
 
「また死ぬのかよ……」

 二度目の人生はのんびり暮らすはずだったのに……スローライフにチートスキルなんて必要ないのに……。くそっ!

 俺の目の前には、とっくにオークが立っていた。
 振り下ろされた斧は、俺の頭目掛けて容赦なく進んできた。

 スローライフのため、まだ死ねない。猫耳少女とも会ってないってのに。
 こんなところで死ぬわけには。

「考えろよ、俺っ!」
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