手マンの後に手を洗う男 再び

７話 手マンの後に手を洗うくせに食事の前に手を洗わない男

「何系がいいの？こっちが中華でそっちが洋食。」
「和食かな。」
「和食はあっちだよ。」
「うん。」

和食売り場に歩いて行った。

「あ、西京焼美味しそう。」
「西京焼いいね。」
「じゃあ私これにしようかな。」
「じゃあ俺も同じのにする。」

彼がさちこと同じものを注文して
何だか好意的に感じた。
弁当を買ってタクシーに乗った。

「すみません、公園の入り口まで。」
「わかりました。ここ一通で右折できないんですよ。」
「あ、すみません。こんなところで乗ってしまって。
　遠回りでいいんで。」
「わかりました。」

（今日の彼はやけにいい人だな。
この前とは大違い。）

車はしばらく真っ直ぐ進んだ。

「すみません。
　なかなか右折できるところがなくて。。。」
「いや、こちらこそすみません。
　真っ直ぐ行ってUターンする感じで大丈夫ですので。」

（なんなの？
　ほんと今日はやたらいい人ではないか。
　前回のタクシー運転手はおっさんで
　今日は女性ドライバーだからか？）

公園の端まで行くとようやく右折できた。
そこにも入り口があった。

「あ、じゃあここで降ります。」

いつもスイカで支払う彼が
ここは現金で払うのが少し気になった。

タクシーを降りた。

「ねえ、飲み物買わなくていいの？」

（私はさっきコンビニで買ってもらった水
　持ってきたけど
　買ってもらったとはいえペットボトルは
　シェアしたくないから。）

「さっきの持ってきた？」

（げ！）

「うん。でもあんまり残ってないよ。ほら。」
「まあいいや。」
「そこに自販機あるけど。。。中にもあるかな。」
「今いらないから買わなくていいや。」
「ふーん。」

（後で一口ちょうだいって言うなよ。）

公園に入った。
遅咲きの品種の桜が満開であった。

「わあ、綺麗！ほら見てみて！」
「ほんとだ。結構咲いてるね。」
「よかったね。お天気もいいし、最高！」

先週55歳と行った日本庭園の美しさとは
また違った感動であった。

「平日だけど結構人多いね。」
「敷物持ってきたら良かったね。」
「ほんとだね～。
　まあどっかベンチ空いてるんじゃない？」

しばらく歩いているとベンチが空いていた。

「あ、ここにしよっか。
　日陰はないけどしょうがないね。」
「うん。」
「待って。鳥のふんが。。。
　私、除菌シート持ってるから。」
「さすが。」
「これで取ろう。」
「待って。シート置くだけでいいよ。
　手汚れるから。取ろうとしなくていいよ。」
「え、大丈夫だよ。」
「俺、ビニール袋持ってるから
　ほら、こうやってこれを手袋代わりにするから。
　俺が取るから。」
「えーなんでビニール袋持ってるの？笑
　さすがだね。じゃあよろしく。」

鳥のフンは乾いていてなかなか取れなかった。
彼はビニール越しに除菌シートでガリガリと
ベンチにこびりついた鳥のフンを削り取っていた。

「はい、もう一枚どうぞ。」

さちこは何枚かシートを彼に渡し、
彼がそれでガリガリとフンをこそげとっていた。

ようやく汚れが取れきった。

「あ、綺麗になったね。ありがとう。」
「ほら、このまま裏返してくくればいいでしょ？
　手汚れないし。」
「さすがだね。はい。」

さちこは彼の手拭き用に新たに一枚シートを渡した。

「手汚れてないからいいよ。」
「でもご飯食べる前だから。
　一応、手拭いといたら？」
「うん。じゃあ、もらう。ありがとう。」

（私の手マンの後は念入りに手洗う癖に
　弁当食べる前は手拭かないのか？
　さっきタクシーの支払いで現金触ってたよな。
　大勢が触ってる小銭より
　私のほうが絶対菌少ないからね。）