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chapter1__城、再誕
公爵家の義妹、追放を宣告される
しおりを挟むザラ・イゼルラント。
……と自称してはいるものの。
実際はイゼルラント公爵が昨年再婚した相手の連れ子であり、養子ではない。
よって正式にイゼルラント姓を名乗ることはできない。もちろん身分は平民。
さらにいうと、母親のマグダレナはある男爵の養女になった後、公爵の後妻におさまったのだが。
その時に男爵はザラの後見人になった。とはいえ養子縁組したのはあくまでマグダレナのみ。
なので彼女は、ただのザラのままだった。
(マグダレナが産んだ直後、孤児院へ押しつけた私生児。あたしが7歳の頃に迎えに来たのは、成金おじいちゃん男爵の同情を引く作戦か。それとも使用人たちが噂するように、実は父親疑惑のある男爵に責任追及するためだったのか……)
(なんだかなぁ。“家”ってものに、とことん縁がない運命なのかしら~)
しみじみと広いテーブルで一人で粥をすすり。
(厨房へ「ごちそうさまでした」と皿を返したら、全員妖怪を見る目だった。)
しみじみとあてがわれた部屋へ引き返すさなか、
「――――ザラ」
硬い声に、驚いて振り返る。
広い廊下の中央に、20代半ばほどの黒髪の執事が立っていた。彼もとりまきの令息たちに負けない容姿だ。この屋敷は美形のインフレ中なのだろうか。
その美形執事にピッタリ寄り添い片手を繋いだ令嬢が、ザラを睨みつけていた。
「ナタリエお義姉さま」
「あ、あなたに義姉などと呼ばれたくありませんわ!」
ぴしゃりと返しながら、不安げに視線がさまよう。
イゼルラント公爵の実子、一人娘のナタリエ。銀髪に碧眼の貴族らしい美少女だが、いつもどこか怯えた表情で魅力が半減している。
ザラの1つ年上の義姉だ。
しかし彼女とまともに顔を合わせるのは、これが初めてだった。
(このひと母親を亡くして塞ぎこみがちになり、マグダレナ(とあたし)が来たら、ますます引きこもってるのよね。……執事のレスターが一緒じゃなきゃ部屋から出てこないって話、本当だったんだなー)
しげしげ義姉を見ていると、再びキッと睨みつけられた。
それから繋いでいない方の手でザラに指をつきつけ、ナタリエが叫んだ。
「あなたは公爵家にふさわしくない!! 即刻、出ておいきなさいっ!!!」
(ええー!? いきなり追放!!?)
彼女にとってはかなり勇気のいる行動だったのだろう。小刻みに震えだしたナタリエをかばうように、半歩前に出たレスターが表情を変えずに口を開いた。
落ち着いた低めの美声だ。こんな状況でなければ、別の意味で聴き入ってしまったかもしれない。
「ザラ様。あなたが後見を受けるのは18歳になるまで、とお聞きしております」
「へ?? 期限があったの!?」
「やはりご存知ありませんでしたか。それまではご主人様もあなたの好きにさせるおつもりのようですが。18歳を迎える日には、どのみち出ていっていただくことになるのですよ」
(じゃあ約3年後には……住所不定無職っ!!!?)
実は今とそれほど違いのない肩書きなのだが。経済的な困窮度合いは、おそらく天地の差がある状況になっていることだろう。
体調不良で青白い顔をさらに青ざめさせるザラに、美声が少しだけやわらいだ。
「それが嫌なら、お振る舞いを改めたうえで。ご主人様、ならびにナタリエ様がお認めくださるような“実績”を作るほかありません」
「え……? レスター?」
ナタリエが当惑した顔で隣を見上げた。どうやらこの提案は初耳らしい。
救済措置を匂わせる言葉に反論したいのか、もの言いたげに執事とザラを交互に見る。やがて諦め、ぎゅっと黒服の腕に抱きつくと、
「わ……わたくしはそう簡単に、あなたを認めたりしませんからね!!」
捨て台詞を吐き、レスターに縋りつく格好で引き返していった。
「ふえぇ……お外コワイヨ……」
「ご立派でした、ナタリエ様。お部屋でゆっくりアフタヌーンティーをしましょうね。今日は特別にカスタード2倍のタルトを作らせましょう」
「信頼と実績のカスタードが2倍……幸せも2倍……」
「……実績……」
(って?? もっと具体的にお願いします……)
べったりナタリエに付き従うあの執事が、そこまで懇切丁寧対応、つまりザラの味方をしてくれる気はないだろう。
ありがたいのかそうでもないのか判断しかねる忠告に、ザラは頭を抱えて呻いた。
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