公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

文字の大きさ
24 / 52
chapter2__城、始動

お客様第一号様(4)

しおりを挟む


 道の城ノヴァ捜索班の活動はやや方向性を変え、罠の総点検へと移行した。

「城中の落とし穴(※下に尖った杭あり。)片っ端から調べて!!」
「天井から槍を降らせる装置を動かした形跡は!?」
「このレバーはたしか、隠しクロスボウで一斉掃射するやつ……」
「牢獄塔の拷問部屋にはいなかったよ~」

 とりあえずは命にかかわる危険な罠にかかった様子はなく。
 一同が安堵の息をもらすも。依然としてノヴァの行方はつかめないままだ。

「精霊の宴会に迷い込んだ、ってかぁ?」
「精霊の宴会?」
「不可解な失踪をそう呼んだりするんです。いわゆる民間伝承ですね」
(へ~、神隠し的な。こっちの世界にもあるんだ)

 ダリルのぼやきを解説するエンドレ。アシュレイがどこまで本気なのかわからない笑顔で言う。

「宴会が終われば戻ってくるかもね。精霊たちの食べ物に手をつけていなければ」
「ん? 持たされた弁当箱を開けなきゃいいんじゃなかったか?」
「伝承にも諸説ありますから」
「そういうのほとんど知らないなぁ。サービス業をやっていくうえで、そういった知識もある程度必要かしら」
「では勉強内容に加えましょう。なんなら夜、お部屋で眠る前に1話ずつお聞かせしても……」
「あ、それ効率いいかも」
「あほかっ!! どうみても下心しかねーだろっ!!」

 停滞した状況のせいか。微妙に話題が逸れていくなか、ヘルムートが席を立った。

「もう一度城内を見回ってくる」

 そう言って退室するのを視線だけで見送り、ダリルが沈黙を破る。

「……あいつも謎だよな。オレらの宴会に迷い込んだ精霊、って感じ」
「幼い頃から将来を嘱望されていたらしいね」
「彼の家なら、あれほど有能でなくても宮廷でなんらかの役職につけるでしょうに」
「そんなエリートコースまっしぐらなはずの人が、どうしてこんなとこでトイレ掃除なんかしてるんだろ」
「いやお前がやらせてるんだが」

(ワガママタイプとの人間関係の話は、皆にしてないみたいね……)
 ふとそんなことを考えてから、仕切り直すように立ち上がる。

「雑談はここまでにして。今度はもっと範囲を広げた捜索活動を――」
「――っザラ!!!」

 言葉の途中、ドアが勢いよく開く。
 焦った顔のユージンがとびこんでくると、ザラを見て張り詰めた空気を緩ませた。

「よかった……無事か」
「え、あたし?? なんともないわよ?」
「城に戻ったら、おかしな気配がしてよ」

 今もそれを感じるのか、わずかに鼻にしわを寄せながら報告する。

「今のところ村で見かけた奴はいないそうだ。周辺を軽くひと回りして、帰り道も捜したが見つからなかった」
「そう……。では改めてよく捜してみましょう。……ユージン?」
「こっちだ」

 部屋の外で鼻をひくつかせるユージンが手招きすると、階段をのぼりはじめた。
 四人が怪訝な顔を見合わせる。

「なんだなんだ。ノヴァのにおいを嗅ぎつけたのか!?」
「本当にできそうだから怖いんですよ」
「五感も第六感も鋭いのは間違いないだろうね」
(ユージン……警察犬なのかな??)

 人間離れした能力を次から次へと垣間見せる青年の背中を、ザラは一瞬状況を忘れ、ほのぼのと追いかけた。


   凹凹†凹凹


 2階、東ホール。
 その奥まで進んだユージンがじっと壁を見つめる。

(あれ? なんだろうこの既視感)

「この先に何かいる」
「先って。行き止まりだぜ?」
「……いえ。言われてみれば、この間取りには少々違和感があります」
「西ホールに比べて、少し狭いよね。他の階はもっと奥行きがあるのに」
「まさか……この先に、隠し部屋が?」

 アシュレイの補足で、気付いたザラが可能性を口にした。
 地下には(落とし穴とともに)城壁の外へ脱出できる隠し通路が存在する。他にもその手の仕掛けがあっても不思議ではない。

「古城の隠し部屋か~。埋蔵金とか出たりして」
「夢のある話だけど、今はノヴァを捜すのが先よ」
「そうですね。わかりやすい入口や、中へ入る仕掛けなども見当たらないですし」
「……」
「ユージン、この先からノヴァ君のにおいがするの?」
「いやにおいはわからん。だが妙な気配が……、あとヘルムートもいる気がする」
「「「ヘルムートもっっ!!?」」」

「なにあいつまで地味に失踪してんだよ!?」
「彼は魔法使い……精霊に仲間だと思われたのかな?」
「今そういうのいいですから!」
「うちの城で世にも奇妙なストーリーが増産されていくっ!?」

 慌てふためく面々を背に、ユージンが首をほぐし、肩を回す。

「しょうがねー。……ぶっ壊すか!!」
(ふええぇん! 設備投資もままならないのに、修繕費がかさんでくよ~~!)

 半泣きのザラの前で屈強な拳がうなりを上げ、轟音を響かせて壁にめり込んだ。
 二度、三度と拳を打ち込むと――。
 あっけなく壁に大きな穴があいた。ユージンがそこから窮屈そうに身体をすべりこませる。ザラたちがそれに続いた。

 窓のない部屋には冷たくこもった空気と暗闇が広がっていた。夜目がきくザラでも中の様子がわからないほど、濃い闇だ。

「おーい。ヘルムート、いるか~」 
「あいつはどうやって中に……って、魔法か」
「でしょうね。もともと間取りからここを怪しんでいて、入る算段をつけていたのでしょうし」
「それで捜索を兼ね、人目を避けての侵入を試みたんだろうね」
「違法だとかいってたくせに、なにげに使ってるよなー」
「いい意味でタガが外れているのかな。ザラのそばにいるとそうなるの、わかる」
「ちょ、ちょっと!? あたしのせいにしないで!?」
「いい意味で、なんだけど」
「それにしてもこの暗闇は危険ですね。一度戻ってランタンを……、」


「――小うるさいネズミ共め……」


 突然投げられた声に、皆がお喋りを止め闇の奥を振り向く。
 くぐもった含み笑いが部屋に響いた。

を這いまわる害獣ども。まとめて駆除してやる!!」

 ザラの目にうすく映る、部屋の隅で佇むシルエットが手にした杖を振りかざした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...