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chapter2__城、始動
お客様第一号様(5)
しおりを挟む「ふははは!! みたか、僕の偉大なる力を!!」
(この声は、ノヴァ!?)
「……あ? くそっ、また失敗か。ネズミに変えてやろうと思ったのに」
人影が再び杖を振ると、天井付近で光が灯った。
辺りがぼんやり照らしだされる。声の主は、謎の杖を手にしたノヴァだった。
しかし見た目はそのままで巨大化している。と、訝しむザラだったが。
「……っえ!? なにこれ、もふもふ!!?」
自分の手足がフワフワの毛皮になっているのに気付いて驚愕する。
慌ててまわりを見回すと。
(小鳥、黒猫、リス、……クマっ!!)
この場にいる全員が、それぞれ動物に変化していた。
ノヴァが大きくなったのではない。ザラが小さくなったのだった。
「ザ、ザラ嬢がウサギに!? なんと愛らしい!!」
「たれ耳か。解釈は間違ってねーな」
「ちっこくて目がくりくりして……いつもとそんなに変わらないな?」
「すごくもふもふ。抱っこして寝たらいい夢を見れそう」
「ねえ皆!? 今は感想言う時間じゃないよね!?」
「……君たちまで来てしまったのか」
「あ、キツネ」「「「「ヘルムート!」」」」
ノヴァとは反対側の物陰から現れたキツネを黒猫(アシュレイ)が指差した。
ヘルムートの声で喋るキツネが、ノヴァを警戒しながら歩いて合流する。
「これは幻惑魔法だ。実際に動物にされたのではない。魔法を解くには術者を倒すか、影響範囲、つまりこの部屋から出るしかないが……」
「……いたっ!? なんですこれ、見えない壁!?」
「一度ここへ足を踏み入れると、脱出できなくなるらしいな」
壁の穴から出ようとした小鳥(エンドレ)が、何もないはずの空間に弾かれる。
「どちらにせよ術者を倒せば解除されるはずだが……」
「ノヴァを倒すってこと!? そんなのダメよ!(間違いなく営業停止になる!)」
「なので、杖を奪う。不安定とはいえ彼に魔法の才を与え、正気を失わせているのはおそらくあの杖……っ」
「うわっ!?」
杖の先から火炎が飛びだす。目前に迫ったそれをヘルムートが魔法でかき消した。
「さっきから目障りな奴だ。僕の城でコソコソと魔法を使って」
「……」
「えと。いつからリッチョ様のお城に?? 一応、名目上の責任者はあた……」
「うるさーい! 今日から僕が城主だ! そして封印されし『道』を開き、精霊界へ渡るのだー!!」
「? げーと、ってなんだ??」
「この城にそんないわくつきの噂もありましたっけ」
「でも精霊界じゃないよ。行き先は魔人が封じられた魔界……」
「えーい、うるさいうるさいっ!!」
「ぎゃー!? 話はいいから、さっさとあいつから杖をとりあげろ!」
ノヴァが杖を振り回すと、一同の頭上から大量の石つぶてが降り注いだ。魔法で弾くヘルムートの背後に隠れ、リス(ダリル)が悲鳴をあげる。
「言うは易しなんですけどねぇ」
「怪我を負わせずに、は難しいね。ヘルムートも防戦一方だったようだし」
「それもあるが。あの杖を調べたい。損傷させることなく奪うのに苦労している」
「あ、こいつ杖が目当てだったんだ……」
「んな悠長なこといってる場合かよ」
つぶらな瞳で鋭く杖を見すえ。クマ(ユージン)が腰の剣を抜いた。
「ユージン!? 危険な状態だからって、お客様に暴力は……!」
「わかってる。――ヘルムート、ちょっと耳かせ」
「……! 了解した、やってみよう」
頷き返すのを合図に、ユージンが床を蹴った。
一気にノヴァへ迫る。と、目の前に彼を守る壁のように炎が広がった。
ノヴァに剣先が届かないギリギリのところで剣を横薙ぎにふるうと、炎の壁が霧散した。どうやらこれも幻だったようだ。
「くっ! 無礼者めっ!!」
ノヴァが青い炎をまとわせた杖を振り下ろす。
今度は本物の炎らしい。さらりとかわしたユージンの頭上から、城の罠に似た槍が次々と降り注いだ。それもなんなく横にとんで避ける。
「なぁ坊ちゃん。なんで精霊界なんかに行きたいんすかー?」
「ふん。品性のカケラもないクマゴリラに話しても無駄だろうが……まあいい。あるお方に会うためだ。そして精霊王の叙勲を受け、僕も“精霊の騎士”になる」
「精霊の騎士?」
「精霊の騎士ランスキント様を知らんのか。精霊に愛され、優れた才知で秘宝を手に入れ、敵の追跡を颯爽とかわしつつご婦人の心も盗む。伝説の怪盗騎士だ!!」
「騎士なの怪盗なの、どっち??」
「あれも民間伝承のたぐいだよなー」
「ですが600年ほど前に実在した騎士がモデルという説も……」
「トレジャーハンターの義賊って説もあったよね」
後方でざわつくザラたち。
一応の丁寧語(?)で語りかけるユージンが呆れ声で続けた。
「どっちにしろ行っても無駄だと思いますがね」
「……どういう意味だ」
「今の坊ちゃんじゃー、騎士と認めてもらえるわけがないっすから」
「なんだと!?」
「騎士とは主君や弱き者を守るため、命をかけて戦い。高潔に己を律することができる者。少なくともまわりに暴力ふるって喜んでるような奴につとまるものじゃない」
「……っ!!」
どこかおごそかな言葉にノヴァがたじろぐ。
が、すぐに炎の杖を握り直すとユージンへ向けて振り下ろした。
「黙れっ、侵略者の子孫めが! 僕に騎士道を語るなど千年早いんだよっ!」
「まー、俺は騎士でもなんでもないしな……でもよ、」
杖の攻撃をかわしながら、クマの顔がにやりと笑う。
「騎士になるには、ちーっと背が足りないよなぁ」
「愚弄するな! 僕はまだ11歳だ、これからどんどん身長も伸びて……」
「うーん。伸びても限界があんだろ。ほら、よく見ろよ」
言うと、ギラリと輝く刀身を見せる。そこに映った姿にノヴァが悲鳴を上げた。
「――あ……っ、アリ!!!?」
それまで人間の少年だったものが、小さなアリに変わっていた。クマがおどけたように片足を交互に上げたり下げたりする。
「やべ~な。そんなにちっこいと、うっかり踏んでも気付かねー自信がある」
「や、やめ……っ!!」
「クマになったら二足歩行がやりにくくてよー……おっとっと」
「嘘つけ!! さっきから僕の攻撃をひょいひょい避けまくって……っうわー!! やめろお~~!!」
「あっ……」
(あーー!? 従業員の過失でお客様がぺちゃんこに!!?)
「単純な子どもで助かったな」
幻惑魔法を相手にやり返したヘルムートが呟く。
片足を上げたユージンの足元で、気を失ったノヴァの手から離れた杖が、ころりと床を転がった。
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