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chapter2__城、始動
お客様第一号様(6)
しおりを挟む気絶したノヴァが手放した杖を、すかさずヘルムートが拾い上げ。
魔法が解けたザラたちが隠し部屋を出ると、騒ぎに気付いたニコロが穴の前に立っていた。だいたいの事情を聞くなり、深く頭を下げる。
「すんません。坊ちゃんは伝説の怪盗騎士の強火ファンで……。この城に訪れたことがあるらしい、って話をしちまったら、」
郵便屋はビサイツィアの街角にもポスターを貼ったようだ。それを見たニコロが何気なく教えると、即刻道の城行きを決めたらしい。
「ここって色々とアレな噂があるじゃないすか。『精霊界に通じる道もあるんじゃないすか』て軽い気持ちで言ったら、すっかりその気になって」
「あの……、それ系の捏造はご遠慮願います……」
「すんませんした」
「この城に怪盗騎士が来たってのも、作り話だろ」
「いえそっちはわりとマジっす」
なぜか確信を持っている様子のニコロを皆で不思議がると。
「これ、まだ坊ちゃんにも内緒なんすけど。自分、怪盗騎士の子孫みたいで」
「えええーー!?」
「ウチに代々伝わる宝の地図とかがあるんすよねー」
それによれば怪盗騎士が城を訪れた際、“秘密の部屋”に宝物を隠したという。
「あの部屋にお宝が!? 今すぐ探すぞっ!!」
「ダリル、もし見つけたとしても君のものにはなりませんよ。ザラ嬢の財産です」
「あたしじゃなくてイゼルラント家のだけどね……」
「どうせ夕飯まで暇だしな~」
「そうだね。ノヴァ君が寝ている間に済ませた方がよさそうだし」
「坊ちゃんのことは任せてください。起きても皆さんの邪魔はさせませんから」
ということで。ランタンを用意し、皆で隠し部屋を調べてみたところ……。
「こ……これはっ!?」
「これは……」
「……箱、だな」
「だが蓋もねーし開かねーぞ?」
「不思議な小箱だね」
金庫なのだろう、部屋で見つけた鍵穴に鍵がささったままの大きな箱を開けると。中に入っていた小さな木箱に皆が首を傾げる。
「これ、もしかして……! んん~~!」
「ペタペタ触ったからって、開かねーもんは開かねーだろ」
「……!? いえ、微妙に表面が動いてます!」
「なんかカチャカチャいってんな! よしザラ、もし開けられたらオレのビーフジャーキーをやろう!」
「ぬんんん~~!! それもともとあたしが戸棚に隠しておいたやつ~~!!」
「ザラがんばれ~~」
ザラが繰り返し木箱の表面を触り、少しずつ動かしていく。
ついにスルリと箱の一面が大きくスライドした。
「ぬんっ……!? 開いたぁ!!」
「「「「おおーー!」」」」
(懐かし~! 前世で旅行のおみやげに買った、からくり仕掛けの箱にそっくり!)
「なるほど。“秘密箱”か」
ヘルムートが感心したようにザラの手元を覗き込む。
「精巧な仕掛けだ。腕のいい職人が作ったようだな」
「それはいいから、中身は!? 金貨か宝石か~!?」
「中は…………カラッポよ!」
「はああぁー!!?」
瞳を輝かせていたダリルが、何もない箱の中を見てがっくり肩を落とす。
「中身はきっと、かつての城主が手に入れた後なのでしょう」
「なんで空の入れ物なんか、後生大事に金庫に入れとくんだよっ」
「この秘密箱自体も職人技の光る一品。宝物、ってことかな」
「ほんとそれ。こういうパズルを思い付く人も、実際に作れる人も尊敬するわ」
ザラの手の箱を不思議そうにユージンが眺め。鼻を寄せた。
「……え。におうの?」
「いや……、よくわからん。だが嫌な気配はしないな。こっちの杖も」
ヘルムートが持つ杖のにおいもかいでから、かすかに首を傾げる。
ユージンと首の角度を同じにしたザラへ、アシュレイが笑顔を向けた。
「立派な金庫が手に入ってよかったね。これで3階の金庫部屋を客室に使えるよ」
「! うちにとってはこっちが現実的なお宝ね」
「金庫が立派でも、中身がスカスカじゃ意味ねーんだよっ」
諦めきれないのか、部屋の隅々を血眼になって調べながらダリルが毒づいた。
凹凹†凹凹
「ほら坊ちゃん、きちんと皆さんにごめんなさいしましょう」
「…………悪かったよ」
ニコロに促され、仏頂面のノヴァがぼそりと言う。
朝日に照らしだされた中庭の一角。馬車の前のノヴァに正対し、ザラが微笑んだ。
「リッチョ様がご無事でなによりです」
(……結局、どうしてあんなことになったのかも分からずじまいか)
昨夜目覚めたノヴァから話を聞くも、なぜあんな状態になったのか、彼にも分からないようだった。
城を探検中、隠し部屋に入り込んであの杖を手にしたようだが。どうやって部屋に入ったのかすら覚えていないらしい。
(おそろしげな噂のつきまとう、いわくつきの城。こんなところで事業経営なんて、あたしの手には負えないのかも……?)
とはいえ他に良い場所があるわけでもない。逆に領内の好条件な場所は、なんの実績もないザラ相手にイゼルラント公が許可しないだろう。
「それにしても。本当にこんな大金をいただいてよろしいのですか?」
「ああ、とっておけ。ランスキント様のお手が触れたであろう小箱。それでも全然足りないくらいだ」
「ついでに迷惑料も込みってことで、よろしくっす」
うっとりと大切そうに秘密箱を抱えるノヴァの隣で、ニコロが顔の前で両手を合わせる。
(どこの世界にも推し活に全力のひとはいるんだね。本当に推しが触ったかどうか、保証はない品だとしても……)
渡された大金入りの金袋を困ったように見下ろしていると、
「ぼんやりした記憶しかないし、僕に責任などないが。……迷惑をかけたらしい詫び代わりに、またここへ来てやるよ」
「坊ちゃん。素直にザラさんにまた会いたいとおっしゃれば?」
「なっ!? だ、誰が……っ!!」
「それに“カスタードプリン”をまた食べたいと素直に、」
「うううるさいっ! ランスキント様情報にやたら詳しいからって、お前最近調子に乗りすぎだぞっ!」
「ハイハイすんませんした」
(記念すべきお客様第一号様を無事、リピーターにできた……かな!?)
騒がしい主従のやりとりを見守りながら、ザラが満面の笑顔でぺこりと一礼した。
「ノヴァ様のまたのご来城、心よりお待ちしております!」
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