公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

文字の大きさ
26 / 52
chapter2__城、始動

お客様第一号様(6)

しおりを挟む


 気絶したノヴァが手放した杖を、すかさずヘルムートが拾い上げ。

 魔法が解けたザラたちが隠し部屋を出ると、騒ぎに気付いたニコロが穴の前に立っていた。だいたいの事情を聞くなり、深く頭を下げる。

「すんません。坊ちゃんは伝説の怪盗騎士の強火ファンで……。この城に訪れたことがあるらしい、って話をしちまったら、」

 郵便屋はビサイツィアの街角にもポスターを貼ったようだ。それを見たニコロが何気なく教えると、即刻道の城行きを決めたらしい。

「ここって色々とアレな噂があるじゃないすか。『精霊界に通じる道もあるんじゃないすか』て軽い気持ちで言ったら、すっかりその気になって」
「あの……、それ系の捏造はご遠慮願います……」
「すんませんした」
「この城に怪盗騎士が来たってのも、作り話だろ」
「いえそっちはわりとマジっす」

 なぜか確信を持っている様子のニコロを皆で不思議がると。

「これ、まだ坊ちゃんにも内緒なんすけど。自分、怪盗騎士の子孫みたいで」
「えええーー!?」
「ウチに代々伝わる宝の地図とかがあるんすよねー」

 それによれば怪盗騎士が城を訪れた際、“秘密の部屋”に宝物を隠したという。

「あの部屋にお宝が!? 今すぐ探すぞっ!!」
「ダリル、もし見つけたとしても君のものにはなりませんよ。ザラ嬢の財産です」
「あたしじゃなくてイゼルラント家のだけどね……」
「どうせ夕飯まで暇だしな~」
「そうだね。ノヴァ君が寝ている間に済ませた方がよさそうだし」
「坊ちゃんのことは任せてください。起きても皆さんの邪魔はさせませんから」

 ということで。ランタンを用意し、皆で隠し部屋を調べてみたところ……。

「こ……これはっ!?」
「これは……」
「……箱、だな」
「だが蓋もねーし開かねーぞ?」
「不思議な小箱だね」

 金庫なのだろう、部屋で見つけた鍵穴に鍵がささったままの大きな箱を開けると。中に入っていた小さな木箱に皆が首を傾げる。

「これ、もしかして……! んん~~!」
「ペタペタ触ったからって、開かねーもんは開かねーだろ」
「……!? いえ、微妙に表面が動いてます!」
「なんかカチャカチャいってんな! よしザラ、もし開けられたらオレのビーフジャーキーをやろう!」
「ぬんんん~~!! それもともとあたしが戸棚に隠しておいたやつ~~!!」
「ザラがんばれ~~」

 ザラが繰り返し木箱の表面を触り、少しずつ動かしていく。
 ついにスルリと箱の一面が大きくスライドした。

「ぬんっ……!? 開いたぁ!!」
「「「「おおーー!」」」」

(懐かし~! 前世で旅行のおみやげに買った、からくり仕掛けの箱にそっくり!)
「なるほど。“秘密箱”か」
 ヘルムートが感心したようにザラの手元を覗き込む。

「精巧な仕掛けだ。腕のいい職人が作ったようだな」
「それはいいから、中身は!? 金貨か宝石か~!?」
「中は…………カラッポよ!」
「はああぁー!!?」

 瞳を輝かせていたダリルが、何もない箱の中を見てがっくり肩を落とす。

「中身はきっと、かつての城主が手に入れた後なのでしょう」
「なんで空の入れ物なんか、後生大事に金庫に入れとくんだよっ」
「この秘密箱自体も職人技の光る一品。宝物、ってことかな」
「ほんとそれ。こういうパズルを思い付く人も、実際に作れる人も尊敬するわ」

 ザラの手の箱を不思議そうにユージンが眺め。鼻を寄せた。

「……え。におうの?」
「いや……、よくわからん。だが嫌な気配はしないな。こっちの杖も」

 ヘルムートが持つ杖のにおいもかいでから、かすかに首を傾げる。
 ユージンと首の角度を同じにしたザラへ、アシュレイが笑顔を向けた。

「立派な金庫が手に入ってよかったね。これで3階の金庫部屋を客室に使えるよ」
「! うちにとってはこっちが現実的なお宝ね」
「金庫が立派でも、中身がスカスカじゃ意味ねーんだよっ」

 諦めきれないのか、部屋の隅々を血眼になって調べながらダリルが毒づいた。


   凹凹†凹凹


「ほら坊ちゃん、きちんと皆さんにごめんなさいしましょう」
「…………悪かったよ」

 ニコロに促され、仏頂面のノヴァがぼそりと言う。
 朝日に照らしだされた中庭の一角。馬車の前のノヴァに正対し、ザラが微笑んだ。

「リッチョ様がご無事でなによりです」

(……結局、どうしてあんなことになったのかも分からずじまいか)

 昨夜目覚めたノヴァから話を聞くも、なぜあんな状態になったのか、彼にも分からないようだった。
 城を探検中、隠し部屋に入り込んであの杖を手にしたようだが。どうやって部屋に入ったのかすら覚えていないらしい。

(おそろしげな噂のつきまとう、いわくつきの城。こんなところで事業経営なんて、あたしの手には負えないのかも……?)

 とはいえ他に良い場所があるわけでもない。逆に領内の好条件な場所は、なんの実績もないザラ相手にイゼルラント公が許可しないだろう。

「それにしても。本当にこんな大金をいただいてよろしいのですか?」
「ああ、とっておけ。ランスキント様のお手が触れたであろう小箱。それでも全然足りないくらいだ」
「ついでに迷惑料も込みってことで、よろしくっす」

 うっとりと大切そうに秘密箱を抱えるノヴァの隣で、ニコロが顔の前で両手を合わせる。

(どこの世界にも推し活に全力のひとはいるんだね。本当に推しが触ったかどうか、保証はない品だとしても……)
 渡された大金入りの金袋を困ったように見下ろしていると、

「ぼんやりした記憶しかないし、僕に責任などないが。……迷惑をかけたらしい詫び代わりに、またここへ来てやるよ」
「坊ちゃん。素直にザラさんにまた会いたいとおっしゃれば?」
「なっ!? だ、誰が……っ!!」
「それに“カスタードプリン”をまた食べたいと素直に、」
「うううるさいっ! ランスキント様情報にやたら詳しいからって、お前最近調子に乗りすぎだぞっ!」
「ハイハイすんませんした」

(記念すべきお客様第一号様を無事、リピーターにできた……かな!?)

 騒がしい主従のやりとりを見守りながら、ザラが満面の笑顔でぺこりと一礼した。

「ノヴァ様のまたのご来城、心よりお待ちしております!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...