公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter3__城、営業中

開幕★道の城グランプリ(6)

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「賭けはおじゃん。優勝したのに報酬剥奪のうえ、トイレ掃除の刑。……そこまではまだいい」

 憮然と馬にまたがるダリルが、隣に並んだ馬をキッと睨む。

「なんでそっちに乗ってるんだよっ!!?」

 手綱をしっかり握りつつ、ザラが顔を横向けて二人乗りの後ろを見た。

「ユージン。なんで?」
「なぜって、乗馬を覚えたいんだろ?」
「うん。だから休みを潰して私に教えるのを、ダリルへの罰のひとつにしようと思ったのよ」

 盛況に終わった道の城グランプリ。二日後の今日はもともと、ダリルの休暇だ。
 そこで仕事の手がすく時間帯を利用して、彼に乗馬を教わることにしたのだった。

「ザラ。それは罰になってない」
 同じく休暇中のはずのユージンが断言する。

「カラオケを使われなければ俺が勝ってた。馬の乗り方は俺が教える」
(初心者に乗馬を教えるのが好きなの??)

 不思議に思いながらも、ザラは視線を隣へ戻してサラリと告げた。

「ユージンが面倒じゃないなら、ありがたく教えてもらうことにするわ。じゃあダリル、もう帰っていいわよ」
「はあっ!? ふざけんな!!」
「べつにこれ以上罰を増やしたりしないから。心配せずに帰って」
「そういう問題じゃねー! オレが教える約束だ。ユージン、お前が帰れよ!」
「イヤだね」

(どうしていちいちユージンにライバル意識を燃やすかなー。モテる云々関係なく、高身長と筋肉への嫉妬??)
(……しょうがないなぁ、)

「ねえダリル。悪行を許す気はないし、次やらかした時にはもっと厳しい罰にするつもり。それをよーく肝に銘じて聞いて」
「な、なんだよ……」
「短い時間とはいえ不機嫌なカラオケに乗って走り、宣言通りお客様を大盛り上がりさせた。……あの時は、ちょっと格好よかったわよ」
「……っ!!」
「モーラー子爵ともども、反省はしてもらわなきゃ困るけどね」
「わかってるよ」

 ふてくされた態度で目を逸らす。だがほのかに染まった頬と表情に、嬉しさが抑えきれていない。


「闇賭博の胴元とかありえないです……」
「ごめん。今すぐ手を引くよ」

 レース直前。獲った肉を卸しに来た際、ザラから話を聞いたカルナの鶴の一声で。
 フリッツはあっさり賭博を放棄し、金を返す決意をしたのだった。

 ダリルに賭けた者はいない。賭けに乗った令息達も、喜んで金を受け取るだろう。
 彼らに思うところがないわけではないが。無事、闇賭博がご破算になってザラは心底から安堵した。


(それに三角関係の件も。無事、幕を引いたみたいでホッとしたわー)

 昨日、仕事が一段落した頃にジャンヌが城館を訪れた。

「まさかダリルが勝つとはね。エロイーズはユージンを諦めたみたいだよ。もちろん兄貴とよりを戻す気もなさそうだ。まじで助かったよ~」
「ジョーイには悪いけど……。めでたしめでたし、かな」
「それに馬主のこともね。人柄のよさそうな紳士だったし。ザラ、ありがとう!!」
「あたしは何もしてないわ。あなたたち一家が良い馬を育てた結果よ」

 馬主がついたのは、ヤコブの乗っていた3歳馬。カラオケの猛追にも動揺せず、とっさの判断力も優れていると見込まれたのだった。
 馬主から支払われる預託料はまだ大した額ではなく、副収入としての価値は今後の活躍次第になるが。手塩にかけた馬の実力を認められたことは、金額以上にトロット家を喜ばせた。

 ザラの返事に、彼女の手を握って感謝をしたジャンヌがしみじみと言う。

「あんた本当に変わったよねぇ。……今回の件で、こっちのレースにもよけいな火を注いじまった感じもするし……」
「??」
「なにげに男所帯だもんな~~。アタシの作品のせいで、ますますそっち方面に燃え上がらせちまったら、って心配になる日もあったりなかったり……」
「ジャンヌ? こっちとかそっちとか、何の話??」
「……なんでもないよ。あんたは天使のままでいてくれ」
「???」
「人間関係に悩んだら、いつでも相談するんだよ! ミニは一生着てもらうけど!」
「う、うん。ありがとう……?(一生着るんだ……)」

 真剣な面持ちのジャンヌに首をひねる。
 また遊びに来ていたヨシュアとヨナタンが、立ち話をする二人にまとわりついた。

「ザラー! 誰とえっちなのか聞いても、みんな教えてくれないー」
「ザラとユージンは一緒に寝てるのに、えちえちじゃないんだよ。って教えてあげてからずっと、ちびっこが口きいてくれないの。なんで~?」
「なんでかな~。そもそもダリルを『ちびっこ』と呼ぶあたりがまずダメかな~」
「うん、わかった~。ちゃんと名前で呼ぶから、ダリルにザラとえっちかどうか聞いてもいい?」
「それはダメだな~~」
「じゃあムッツリもちゃんと名前で呼ぶから、えっちかどうか……」
「それも絶対ダメだな~~~」
「「ええーー」」
「お前たち、いい加減にしなさい!」

 笑顔を張りつけたザラに、揃って頬を膨らませる。
 姉に叱られると、はしゃぎながら駆け去っていった。

「安心しな。相談内容は絶対、あの子たちにも誰にも言いふらさないからね」
「う、うん……?」

(相談ってもしや。いわゆる恋バナを期待されている!?)
(ジャンヌは18歳。なにげにお年頃だもんね)
(実年齢は15でも、最近また前世のいらない記憶を思い出したりして。あとたぶん性格の問題で、その手のイベント全然縁がないや……。イケメンに囲まれてるのに、浮いた話ひとつ提供できなくて申し訳ない……)

 頼もしく自分の胸を叩いてみせるジャンヌに。じわっと謎の悲哀を胸に湧きおこしたザラが、心の中で詫びた。


   凹凹†凹凹


(仕事が休みの日に晴れると嬉しいよねー)
(本当は一人で馬に乗れるようになってから、と思っていたけど。お出かけにはやっぱり天気とタイミング、それに気分も大事!)
(……ということで。“視察”ピクニックを決行してみたのですが……)

「なんでこいつらまで来るんだよ」

 不満げなユージンに、ザラがあいまいに頷いた。

「ほんと、こんなにタイミングよく全員で休める日ができるなんてビックリね。……お客様ゼロデーの発生は、正直涙目なんですが……」

 本来なら今日と明日は、馬好き貴族が城を貸し切っての宴会の予約が入っていた。
 だが直前で数名の予定が合わなくなったそうで、キャンセルされてしまったのだった。(一応、規定のキャンセル料は支払ってもらう。)

 降ってわいた休みを利用し、ユージンに二人乗りを頼んでバレーネ湖を目指したところ……。
 のんびり進んでいた街道の途中、後から来た4騎に追いつかれた。

「お言葉ですが。優勝してもいないのに報酬を独り占めしようとする君に、文句を言われる筋合いはありませんよ」
「そーそー。オレの権利を横取りしといて、偉そうにすんなっての」
「闇賭博を計画し、杖を利用した君に権利を主張する資格はないのだが……」
「イアンにバレないようにお弁当を用意するの、すっごく大変だったんだよ~」
(この世界の男子のピクニック好き率、異常に高くない……?)

 二人分の弁当を頼む時、「俺も二人乗りができるようなったら、一緒にピクニックしてください!」とイアンにしつこく食い下がられたのを思い出し、前世とのギャップ(?)に内心で驚愕する。

 気付けば大所帯でピクニック(視察)をする結果になったザラが、振り返って笑顔をみせた。

「たまにはこういうのもいいよね。このメンバーでワイワイお出かけする日が来るなんて、少し前までは考えもしなかったな~」
「まぁお前が楽しいならいいけどさ」
「……ユージンは楽しくない?」

 やや眉尻を下げて言うのを見て、慌てたように返す。

「ザラが楽しいなら俺も楽しい、ぞ」
「え。な、なんか気を遣わせちゃったのなら、ごめん……?」
「いや……本当にそんな気がしてきた」

 一度空を仰いで、ゆっくり戻すと片手で鈍色の髪をなでる。

「自分がこんなふうになるなんて。少し前までは全く予想できなかった」
(こんなふうって、どんなふう??)

「こらあ~~お前ら! 馬上でいちゃつくんじゃねーっ!」
「ザラ。ボートは僕と二人乗りしよう?」
「あっ! 最近あなたから、そこはかとなく抜け駆け臭を感じるんですが~!?」
「雇用主の安全を考えると、君との二人乗りは不安がある。認められないな」
「ヘルムートの言う通り、水の事故はガチで危険だから……」
「そんなー……」
「ごめんねアシュレイ。運ってけっこう大事な要素なので」

 半分笑いながら謝るザラ。落胆するアシュレイを尻目に、誰とボートに乗るかで男性陣がまた揉めはじめるのを不思議そうに眺めている。

 その様子を頬をゆるめて見つめるユージンが、ザラの耳にも届かない声で囁いた。

「こういう生き方も、案外悪くないかもな」

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