39 / 52
chapter3__城、営業中
開幕★道の城グランプリ(6)
しおりを挟む「賭けはおじゃん。優勝したのに報酬剥奪のうえ、トイレ掃除の刑。……そこまではまだいい」
憮然と馬にまたがるダリルが、隣に並んだ馬をキッと睨む。
「なんでそっちに乗ってるんだよっ!!?」
手綱をしっかり握りつつ、ザラが顔を横向けて二人乗りの後ろを見た。
「ユージン。なんで?」
「なぜって、乗馬を覚えたいんだろ?」
「うん。だから休みを潰して私に教えるのを、ダリルへの罰のひとつにしようと思ったのよ」
盛況に終わった道の城グランプリ。二日後の今日はもともと、ダリルの休暇だ。
そこで仕事の手がすく時間帯を利用して、彼に乗馬を教わることにしたのだった。
「ザラ。それは罰になってない」
同じく休暇中のはずのユージンが断言する。
「カラオケを使われなければ俺が勝ってた。馬の乗り方は俺が教える」
(初心者に乗馬を教えるのが好きなの??)
不思議に思いながらも、ザラは視線を隣へ戻してサラリと告げた。
「ユージンが面倒じゃないなら、ありがたく教えてもらうことにするわ。じゃあダリル、もう帰っていいわよ」
「はあっ!? ふざけんな!!」
「べつにこれ以上罰を増やしたりしないから。心配せずに帰って」
「そういう問題じゃねー! オレが教える約束だ。ユージン、お前が帰れよ!」
「イヤだね」
(どうしていちいちユージンにライバル意識を燃やすかなー。モテる云々関係なく、高身長と筋肉への嫉妬??)
(……しょうがないなぁ、)
「ねえダリル。悪行を許す気はないし、次やらかした時にはもっと厳しい罰にするつもり。それをよーく肝に銘じて聞いて」
「な、なんだよ……」
「短い時間とはいえ不機嫌なカラオケに乗って走り、宣言通りお客様を大盛り上がりさせた。……あの時は、ちょっと格好よかったわよ」
「……っ!!」
「モーラー子爵ともども、反省はしてもらわなきゃ困るけどね」
「わかってるよ」
ふてくされた態度で目を逸らす。だがほのかに染まった頬と表情に、嬉しさが抑えきれていない。
「闇賭博の胴元とかありえないです……」
「ごめん。今すぐ手を引くよ」
レース直前。獲った肉を卸しに来た際、ザラから話を聞いたカルナの鶴の一声で。
フリッツはあっさり賭博を放棄し、金を返す決意をしたのだった。
ダリルに賭けた者はいない。賭けに乗った令息達も、喜んで金を受け取るだろう。
彼らに思うところがないわけではないが。無事、闇賭博がご破算になってザラは心底から安堵した。
(それに三角関係の件も。無事、幕を引いたみたいでホッとしたわー)
昨日、仕事が一段落した頃にジャンヌが城館を訪れた。
「まさかダリルが勝つとはね。エロイーズはユージンを諦めたみたいだよ。もちろん兄貴とよりを戻す気もなさそうだ。まじで助かったよ~」
「ジョーイには悪いけど……。めでたしめでたし、かな」
「それに馬主のこともね。人柄のよさそうな紳士だったし。ザラ、ありがとう!!」
「あたしは何もしてないわ。あなたたち一家が良い馬を育てた結果よ」
馬主がついたのは、ヤコブの乗っていた3歳馬。カラオケの猛追にも動揺せず、とっさの判断力も優れていると見込まれたのだった。
馬主から支払われる預託料はまだ大した額ではなく、副収入としての価値は今後の活躍次第になるが。手塩にかけた馬の実力を認められたことは、金額以上にトロット家を喜ばせた。
ザラの返事に、彼女の手を握って感謝をしたジャンヌがしみじみと言う。
「あんた本当に変わったよねぇ。……今回の件で、こっちのレースにもよけいな火を注いじまった感じもするし……」
「??」
「なにげに男所帯だもんな~~。アタシの作品のせいで、ますますそっち方面に燃え上がらせちまったら、って心配になる日もあったりなかったり……」
「ジャンヌ? こっちとかそっちとか、何の話??」
「……なんでもないよ。あんたは天使のままでいてくれ」
「???」
「人間関係に悩んだら、いつでも相談するんだよ! ミニは一生着てもらうけど!」
「う、うん。ありがとう……?(一生着るんだ……)」
真剣な面持ちのジャンヌに首をひねる。
また遊びに来ていたヨシュアとヨナタンが、立ち話をする二人にまとわりついた。
「ザラー! 誰とえっちなのか聞いても、みんな教えてくれないー」
「ザラとユージンは一緒に寝てるのに、えちえちじゃないんだよ。って教えてあげてからずっと、ちびっこが口きいてくれないの。なんで~?」
「なんでかな~。そもそもダリルを『ちびっこ』と呼ぶあたりがまずダメかな~」
「うん、わかった~。ちゃんと名前で呼ぶから、ダリルにザラとえっちかどうか聞いてもいい?」
「それはダメだな~~」
「じゃあムッツリもちゃんと名前で呼ぶから、えっちかどうか……」
「それも絶対ダメだな~~~」
「「ええーー」」
「お前たち、いい加減にしなさい!」
笑顔を張りつけたザラに、揃って頬を膨らませる。
姉に叱られると、はしゃぎながら駆け去っていった。
「安心しな。相談内容は絶対、あの子たちにも誰にも言いふらさないからね」
「う、うん……?」
(相談ってもしや。いわゆる恋バナを期待されている!?)
(ジャンヌは18歳。なにげにお年頃だもんね)
(実年齢は15でも、最近また前世のいらない記憶を思い出したりして。あとたぶん性格の問題で、その手のイベント全然縁がないや……。イケメンに囲まれてるのに、浮いた話ひとつ提供できなくて申し訳ない……)
頼もしく自分の胸を叩いてみせるジャンヌに。じわっと謎の悲哀を胸に湧きおこしたザラが、心の中で詫びた。
凹凹†凹凹
(仕事が休みの日に晴れると嬉しいよねー)
(本当は一人で馬に乗れるようになってから、と思っていたけど。お出かけにはやっぱり天気とタイミング、それに気分も大事!)
(……ということで。“視察”ピクニックを決行してみたのですが……)
「なんでこいつらまで来るんだよ」
不満げなユージンに、ザラがあいまいに頷いた。
「ほんと、こんなにタイミングよく全員で休める日ができるなんてビックリね。……お客様ゼロデーの発生は、正直涙目なんですが……」
本来なら今日と明日は、馬好き貴族が城を貸し切っての宴会の予約が入っていた。
だが直前で数名の予定が合わなくなったそうで、キャンセルされてしまったのだった。(一応、規定のキャンセル料は支払ってもらう。)
降ってわいた休みを利用し、ユージンに二人乗りを頼んでバレーネ湖を目指したところ……。
のんびり進んでいた街道の途中、後から来た4騎に追いつかれた。
「お言葉ですが。優勝してもいないのに報酬を独り占めしようとする君に、文句を言われる筋合いはありませんよ」
「そーそー。オレの権利を横取りしといて、偉そうにすんなっての」
「闇賭博を計画し、杖を利用した君に権利を主張する資格はないのだが……」
「イアンにバレないようにお弁当を用意するの、すっごく大変だったんだよ~」
(この世界の男子のピクニック好き率、異常に高くない……?)
二人分の弁当を頼む時、「俺も二人乗りができるようなったら、一緒にピクニックしてください!」とイアンにしつこく食い下がられたのを思い出し、前世とのギャップ(?)に内心で驚愕する。
気付けば大所帯でピクニック(視察)をする結果になったザラが、振り返って笑顔をみせた。
「たまにはこういうのもいいよね。このメンバーでワイワイお出かけする日が来るなんて、少し前までは考えもしなかったな~」
「まぁお前が楽しいならいいけどさ」
「……ユージンは楽しくない?」
やや眉尻を下げて言うのを見て、慌てたように返す。
「ザラが楽しいなら俺も楽しい、ぞ」
「え。な、なんか気を遣わせちゃったのなら、ごめん……?」
「いや……本当にそんな気がしてきた」
一度空を仰いで、ゆっくり戻すと片手で鈍色の髪をなでる。
「自分がこんなふうになるなんて。少し前までは全く予想できなかった」
(こんなふうって、どんなふう??)
「こらあ~~お前ら! 馬上でいちゃつくんじゃねーっ!」
「ザラ。ボートは僕と二人乗りしよう?」
「あっ! 最近あなたから、そこはかとなく抜け駆け臭を感じるんですが~!?」
「雇用主の安全を考えると、君との二人乗りは不安がある。認められないな」
「ヘルムートの言う通り、水の事故はガチで危険だから……」
「そんなー……」
「ごめんねアシュレイ。運ってけっこう大事な要素なので」
半分笑いながら謝るザラ。落胆するアシュレイを尻目に、誰とボートに乗るかで男性陣がまた揉めはじめるのを不思議そうに眺めている。
その様子を頬をゆるめて見つめるユージンが、ザラの耳にも届かない声で囁いた。
「こういう生き方も、案外悪くないかもな」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる