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chapter3__城、営業中
開幕★道の城グランプリ(5)
しおりを挟むスタート地点に7頭の馬が横一列に並ぶ。
歓声が城の建つ丘全体に響き渡った。
(ついにこの時がきてしまった……)
観客にまじって見晴らしの良い歩廊に立ったザラが、外から見えないようにつけたペンダントを服の上から握りしめる。
少しでも心を落ち着かせようと、ほとんど無意識に部屋に戻ってつけたのだった。
(闇賭博容疑確定のダリルは応援できない。だけどレースは盛り上がってほしい)
(本音を言えば。ユージンが勝って、エロイーズとお金を盗んだクソ令息たちを喜ばせるのも正直イヤかなーっとか……)
(ああぁジレンマ。こんな気分で勝負を見守らなきゃいけないなんて~~!!)
ザラの苦悩を尻目に、つつがなく開始時刻が迫る。
前世のような1頭ずつ収容できるゲートはない。旗を振るのがスタートの合図だ。
短い期間だったが賢い7頭は、数回の練習で発走をマスターした。
旗を持ったジャンヌがスタート地点に現れた。
拍手とざわめき。その波が徐々に収まり、熱気をはらんだ静寂が丘を包みこむ。
勝負の始まりを感じた馬たちに緊張がはしる。馬上の7人もそれぞれ真剣な面持ちで姿勢を整えた。
「なんだろう。なにか違和感が……」
「アシュ……いえ、アーシャ?」
「ダリルの馬。あれは……――」
独り言じみた呟き。ザラが隣の顔(※念のため馬の面装着中)を見上げた時。
ジャンヌがあざやかな手さばきで、掲げた旗を一気に振り下ろした。
馬が一斉に駆けだす。ワッと大きな歓声が上がった。
(始まった――!!)
顔を戻してレースに集中する。
とびだしたのはジョーイだ。誰よりも闘志をみなぎらせている。
エロイーズにしなだれかかられていたユージンを、厩舎のそばから憤怒の表情で睨みつけていた。機先を制した勢いに乗って、ゴールまで駆け抜けるつもりだろう。
それを1馬身差で追いかけるのは、やはりユージン。
余裕ありげな騎手とぴったり折り合って、馬が軽やかに疾走する。
3、4馬身ほど離れた後方集団にはホセ、ヘルムート、エンドレ、ヤコブ。
ホセが一番外側を走り、虎視眈々と前の二人を狙う。
第一コーナー(的な緩いカーブ)を回ったあたりでエンドレがヤコブに抜かれた。
近くの城壁の上で、華やかな貴族の娘たちがかたまって観戦している。敗因はあきらかに脇見だ。
大方の予想通り、最後尾はダリル。
青毛の馬との折り合いもいまいちのようで、しがみつくような不安定な体勢だ。歯を食いしばりながらエンドレを追う。
ヘルムートが怪訝な顔で後ろを見た。ダリルを心配するというよりは、何か気になることでもあるのか。眉根を寄せて何度も振り返る。
(……ん? あんな青毛の子、うちにいた??)
ダリルが乗る、見覚えのない馬をいぶかしんでいると。
「――カラオケだ」
「へっ!??」
アシュレイの呟きに、ザラが驚いて振り向く。
「あれがカラオケ!? 確かに毛色は似てるけど、普通の大きさよ?」
「きっと、魔法だよ」
「魔法っ!? でもダリルは魔法使いじゃな……、うわ。もしかして」
「うん。きっと、ヘルムートの部屋から杖を盗んできたんだね」
(あいつはほんとにもおおぉ~~!!!)
今回のレースの目的から、カラオケの使用は認めていない。どれだけ速かろうと競馬には適さない、馬主のつかない規格外だ。
「魔法で小さくした……いや、この場の全員を幻惑しているのか」
「どうしてそんなこと。カラオケは機嫌がいい時でも、ユージン以外はほんの数分しか乗せてくれないって聞いたわ。どう見ても機嫌よさそうじゃないしっ」
(レースを盛り上げてみせるっていう自信の根拠は、この魔法を計画していたからか。……あたしの応援なんてはじめから必要なかったんじゃない)
(なんで。そこまでしてお金が欲しいの!?)
(……ううん。お金が欲しいだけなら、恋愛で頭がいっぱいのジョーイを仲間に引き込んで、カラオケに乗るよう仕向ける。自分が大怪我するかもしれないのに、それを思いつかなかったはずない……)
「危険を冒してでも。どうしても勝ちたいんだね」
(ダリル……。だからなんで、そんなに勝利にこだわるのよ~~)
混乱する心への解答のように。のんびり返すアシュレイからレースへ目を戻す。
ちょうどホセが前に出たところだった。まずはユージンを追い上げていく。
だがユージンがスピードを上げ、軽々とホセを振り切った。そのままジョーイとの差を縮めていく。
あっという間に隣に並ばれ、ジョーイが馬に連続でムチを入れる。
二頭が後ろを大きく引き離した。
直線コースを過ぎ、最終コーナーを回ると緩やかな坂。そこをのぼれば城門、ゴールまであとわずかだ。
先頭争いがコーナーを回りきる瞬間。観客が大きくどよめいた。
騎手を振り落としそうな勢いで駆ける青毛の馬。ダリルが後方集団をごぼう抜きして、一気に駆け上がっていく。
外を通ってコーナーを回ると、ピタリと二頭の後ろについた。
「!? おまっ、まさかカラ――」
「真剣勝負の最中によそ見か? そんな奴にエロイーズは渡さないっ!!」
激しく追い込んでくるダリル。その馬の正体に気付いたユージンが動揺する。
するとジョーイが馬を斜めに走らせた。ユージンの進路を妨害する形で前に出る。
正式な場なら反則行為になりそうな、少々悪質な走りのおかげで。
前が開いたダリルが二頭の横を、猛スピードで駆け抜けた。
最下位から先頭におどり出た少年の活躍に、観客のボルテージは最高潮だ。
高揚した歓声が迎える城門をくぐり。中庭を直進し、ゴールをとらえた時――。
暴れ馬の首にしがみついていた華奢な身体が、ぐらりと傾いた。
歓声が悲鳴に変わる。落馬を察し、貴族令嬢たちが扇子で目元を隠す。
「ダリルーーーーっっ!!!」
(カラオケお願い!! 落とさないで――!!!)
思わず目を閉じ叫んだザラは、ペンダントの宝石をきつく握りしめた。
必死の祈りがカラオケに通じたのか……。
ピクッとかすかに耳を動かすと。馬が半分宙に浮いていたダリルへ身を寄せ、力の抜けた身体を受け止めると、軽く頭を振って両手を自分の首へ回させた。
弱々しくしがみつく騎手を落とさないよう慎重に、まっすぐゴールを目指す。
その後ろからほぼ同時に城門を抜けたユージンとジョーイが迫る。
ダリル(を乗せたカラオケ)がハナの差で逃げきった。
城を震わすほどの拍手喝采が、見事な大逆転劇をみせた少年を称える。
「無茶しやがって」
ゴールの先で馬のくつわを並べ、再びくずれそうになった身体を支えるユージン。
それからひょいっとダリルを抱えると、自分の前に乗せた。気が抜けたのか、どうやら気を失ってしまったらしい。
(……無事でよかった……)
「――とはいえ悪行の数々。これはしばらく単独・全トイレ掃除の刑、決定よ」
「それに1位の報酬も、白紙だね」
弾んだ声で付けたす馬の面に、眉を吊り上げたザラが頷き返した。
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