公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter3__城、営業中

開幕★道の城グランプリ(4)

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『違法賭博は犯罪です! ~特に競馬の世界はアンタッチャブル(こわーい貴族様にお仕置きされちゃうかも!?)絶対にやめましょう~』

「うっ……クオリティ低い。(絵が下手すぎる)」

 自作の啓発ポスターを2階の掲示板に貼り、思わず呻く。(水道職人たちが余った材木で作成(×3階分)。サウナでととのった効果は抜群だったらしい。)

(今までイラスト系は全部ダリルにお願いしてたからなー。才能の違いが歴然。)
(応援するって約束しちゃったけど。本気で賭博をやるつもりなら、反故にするのもやむなしよ)

 城の者には再度、順位の予想はしても金品は賭けるなと厳命した。
 ダリル以外は、真面目に守るだろうと信じられる反応が返ってきたのだが。

(まさかフラれ元モラ夫、モーラー子爵を巻き込むなんて。恐ろしい子……!)

 ダリルが目をつけたのは、妻にガチ惚れした瞬間離婚された子爵フリッツ。
「カルナが安心して僕のもとに戻ってこれるよう、まずは借金を完済する!!」
 と意気込む彼に、賭博の胴元をけしかけているらしい。(リーク元はエンドレ。)
 ザラが追及してものらりくらりとかわし、子爵と密かに計画を進めているようだ。

(あーあ、カルナさんのドン引きする顔が目に浮かぶ。努力の方向性が微妙に間違ってるんだよね~。まあ自業自得子爵は横に置いといて、)
(開催するからにはお客様に楽しんでもらいたい。もしダリルが予想を裏切る活躍を見せたら、盛り上がりそうなのは事実)
(ユージンがあたしの応援次第で調子を左右させるわけないだろうし。そういう意味でも、応援自体はしたっていいんだけど。……闇賭博に手を染めてさえいないなら)

 壁を見つめてひとりで唸っていると。
 ふいに片手を掴まれ、傍の入口から東ホールの中に引っ張りこまれた。

「わっ!? アシュレイ?」
「……」

 アシュレイが引き寄せたザラの肩へ、後ろから抱きしめるように両手を回す。

「僕だけのけ者にされて、拗ねてます」
(自己申告……?)
「僕もザラとピクニックをしたい」
「ピクニック好きなの? 意外に健康的」
「一緒にボートで揺られながら、のんびり月を眺めて……」
「時間設定が半日ずれてるのよ。ピクニックは基本的に昼開催なのよ」

 呆れ声で返すと、名残惜しそうに絡ませていた腕をはなす。
 ふと首元の違和感に気付いたザラが視線を落とし、驚き目をみはった。

「……えっ……!!?」
「隠し部屋で見つけたんだ。みんなには内緒だよ」
 アシュレイがいたずらっぽく、人差し指を口元にあてる。

 ザラの首に、宝石が一粒ついたペンダントがかけられていた。
 窓から差すやわらかな陽射しを反射し、鮮やかに青くきらめく。

(隠し部屋にこんな宝石が? 皆で隅々まで探した時は見つからなかったのに)

 部屋の奥、タペストリーで隠している壁の穴と、すぐそばにある顔を交互に見る。
 戸惑うザラにふわりと笑いかけ、

「夜になったら、もう一度部屋でよく見てね。とっても綺麗だから」

 そう言うと身を離し、ホールを出て仕事に戻っていった。
 言われた通り、夜に部屋でペンダントを取りだしたザラが息を呑んだ。

「あれっ、赤!? ……カラーチェンジするタイプだったんだ。きれい……!!」

 どうやら光の質によって変色する宝石のようだ。
 自然光の下では青に。人工光、ろうそくの明かりの下では紫に近い赤に。

「魔法みたい」

 ザラはしばらくの間、幻想的な輝きを夢見心地で見つめた。

(アシュレイってなんだか魔法使い感あるよね)
 急に距離を詰められ、触れられても、なぜか気にならなかった。
 浮世離れした容姿と存在感の従業員を思い浮かべ、口元をほころばせる。

「お礼にいつか、月夜のピクニックに付き合ってあげようかな」

 頭の痛い問題からひととき心を解放させると、急に眠気がおそってきた。
 ペンダントをそっと小箱にしまい、明かりを消す。ベッドにもぐりこんだザラは、すぐに穏やかな寝息を立てはじめた。


   凹凹†凹凹


(――とかいってるうちに。闇賭博を摘発できないまま、レース当日ですっ!!)

「これはダーヴィー卿。ようこそお越しくださいました」
「なかなか将来性のありそうな馬がいると聞いてね」
「よろしければ厩舎をご覧になりますか?」
「そうしよう」

「おや。君はエレンベルク卿の……」
「ヘルムートと申します。本日はお会いできて光栄です、アリマン卿」
「お父上とはいつか馬場で馬談義にふけったことがある。君も馬が好きなのかね?」
「私は最近ようやく目覚めたばかりで。ご指南いただければ幸いです」
「そうかそうか! よし、良い馬の見極め方を教えて差し上げよう」

(わあ~! 大物感のある貴族がぞくぞくと……!)
(そつなくこなすエンドレの安定感もさることながら。案外ヘルムートも対応うまいなぁ。さすが名家のお坊ちゃま)

 訪問客を一緒に出迎え、二人の上流階級然とした接客スキルに感嘆する。

 だが訪れるのは貴族や金持ち馬主ばかりではない。誰でも無料で競馬を観戦できると聞いて、周辺地域の平民もこぞってやって来た。そして彼女もやって来た。

「ユージンっ!!」
「ん? 誰だっけ」
「やーね、前に村で会ったじゃない。エロイーズよ」
「そうだったか。覚えてない」
「ひっど~い! ……だったら忘れられないようにしてあげる」
「おい、くっつくなよ」
「んふっ……♪」

(でた、エロイーズ。なんかこう予想を裏切らないお色気おねーちゃんって感じ)

 駆け寄ってきた肉感的な美女がユージンの腕に両手をからませ、豊満な胸元を押しつける。ジャンヌが嫌がる理由に納得していると、迷惑そうな顔と目が合った。

(助けてくれ!)(ごめん。忙しいから無理)(ザラ~~!)

(有り難いことにお昼は満員御礼だわ。そろそろイアンを手伝わないと。あ、その前に途中で放りだした洗濯を片付けなきゃ)

 レースの開催は午後。ランチ時間が終わった頃だ。
 アイコンタクトでユージンのSOSを断ってから、訪問客をエンドレたちに任せ、ザラは完成した大浴場2階の物干し場へ向かった。


「――もっと下回るかと心配したけど。いい感じに売り上げたじゃん」
「ああ。……君の指示通りに声をかけたら、ほとんどの者が乗ってきたからな。全員、ユージンに賭けたよ」
「ふっ、だから言ったろ。あいつらは真正のカス。脳みそにゴミクズ詰まってんの」


(あれはダリルとモーラー子爵……!?)

 大浴場施設の裏手。人目を避けて話す二人に気付き、ザラはとっさに二人の死角で身を潜めた。
 小声での会話は少ししか聞き取れなかったが。話題はあきらかに闇賭博だ。

 会話を終え、フリッツがザラのいる場所とは反対側から去っていく。
 その後ダリルが歩いてくるのを、物陰に隠れてやり過ごした。
 少し時間を置いてから物干し部屋に入って扉を閉じ、ひとつ重い息を吐く。

「あいつ……やっぱやらかしてたか。応援の話はナシね。いやそれより、今からでもやめさせないと……」
「ふえ~~んザラの嘘つきぃ~。針いちおくぼん飲ませちゃうぞっ★」
「ヒッ!!?」

 軽い音を立てて背後の扉が開くと、軽く甘い声が部屋に響いた。
 とびはねるように振り返ったザラへ、ダリルがゆっくり近付いてくる。

「さっきの話、聞いてたろ。隠れ方が素人すぎてバレバレ」
「……ダリル。ヤミ馬券を買った人たちに謝って、お金を返しなさい」
「なぁ。その馬券を買った奴らが誰か、知りたくない?」
「そんなの知ったところで……」
「あいつらだよ。ちょっと前までここに居座って“サロン”でクダ巻いて。お前が死んだと思った瞬間、金を盗んでとんずらしたクズ令息たち」
「……!」

 驚くザラの前までくると、首を傾げて顔を寄せる。

「とられたもんをとり返す。ただそれだけのことだ。だから見逃して、ねっ★」
「そ、そういう問題じゃないでしょ。相手が誰であれ、違法賭博はだめ絶対……」
「ほんとに変わっちまったなぁ。――ねえザラ。君は本当は誰なの?」
「え……」

(前世を思い出したせいでちょっと変わっただけ。あたしはあたしよ)
(…………だよ、ね??)

 うつむく顔を無言で見つめ。ダリルがやわらかく微笑んだ。

「べつに悩まなくていいよ。……今のままでいてよ」
「つーことで。汚れ役はオレに任せとけ」

(格好つけてもダメなものはダメだってば。元締め的な方々に睨まれて、道の城が古城廃墟に逆戻りしちゃうってば……)

 部屋を出ていく後ろ姿を、立ちすくんで見送ったあと。にわかに不安の広がる心でザラが呟いた。

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