公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

文字の大きさ
37 / 52
chapter3__城、営業中

開幕★道の城グランプリ(4)

しおりを挟む


『違法賭博は犯罪です! ~特に競馬の世界はアンタッチャブル(こわーい貴族様にお仕置きされちゃうかも!?)絶対にやめましょう~』

「うっ……クオリティ低い。(絵が下手すぎる)」

 自作の啓発ポスターを2階の掲示板に貼り、思わず呻く。(水道職人たちが余った材木で作成(×3階分)。サウナでととのった効果は抜群だったらしい。)

(今までイラスト系は全部ダリルにお願いしてたからなー。才能の違いが歴然。)
(応援するって約束しちゃったけど。本気で賭博をやるつもりなら、反故にするのもやむなしよ)

 城の者には再度、順位の予想はしても金品は賭けるなと厳命した。
 ダリル以外は、真面目に守るだろうと信じられる反応が返ってきたのだが。

(まさかフラれ元モラ夫、モーラー子爵を巻き込むなんて。恐ろしい子……!)

 ダリルが目をつけたのは、妻にガチ惚れした瞬間離婚された子爵フリッツ。
「カルナが安心して僕のもとに戻ってこれるよう、まずは借金を完済する!!」
 と意気込む彼に、賭博の胴元をけしかけているらしい。(リーク元はエンドレ。)
 ザラが追及してものらりくらりとかわし、子爵と密かに計画を進めているようだ。

(あーあ、カルナさんのドン引きする顔が目に浮かぶ。努力の方向性が微妙に間違ってるんだよね~。まあ自業自得子爵は横に置いといて、)
(開催するからにはお客様に楽しんでもらいたい。もしダリルが予想を裏切る活躍を見せたら、盛り上がりそうなのは事実)
(ユージンがあたしの応援次第で調子を左右させるわけないだろうし。そういう意味でも、応援自体はしたっていいんだけど。……闇賭博に手を染めてさえいないなら)

 壁を見つめてひとりで唸っていると。
 ふいに片手を掴まれ、傍の入口から東ホールの中に引っ張りこまれた。

「わっ!? アシュレイ?」
「……」

 アシュレイが引き寄せたザラの肩へ、後ろから抱きしめるように両手を回す。

「僕だけのけ者にされて、拗ねてます」
(自己申告……?)
「僕もザラとピクニックをしたい」
「ピクニック好きなの? 意外に健康的」
「一緒にボートで揺られながら、のんびり月を眺めて……」
「時間設定が半日ずれてるのよ。ピクニックは基本的に昼開催なのよ」

 呆れ声で返すと、名残惜しそうに絡ませていた腕をはなす。
 ふと首元の違和感に気付いたザラが視線を落とし、驚き目をみはった。

「……えっ……!!?」
「隠し部屋で見つけたんだ。みんなには内緒だよ」
 アシュレイがいたずらっぽく、人差し指を口元にあてる。

 ザラの首に、宝石が一粒ついたペンダントがかけられていた。
 窓から差すやわらかな陽射しを反射し、鮮やかに青くきらめく。

(隠し部屋にこんな宝石が? 皆で隅々まで探した時は見つからなかったのに)

 部屋の奥、タペストリーで隠している壁の穴と、すぐそばにある顔を交互に見る。
 戸惑うザラにふわりと笑いかけ、

「夜になったら、もう一度部屋でよく見てね。とっても綺麗だから」

 そう言うと身を離し、ホールを出て仕事に戻っていった。
 言われた通り、夜に部屋でペンダントを取りだしたザラが息を呑んだ。

「あれっ、赤!? ……カラーチェンジするタイプだったんだ。きれい……!!」

 どうやら光の質によって変色する宝石のようだ。
 自然光の下では青に。人工光、ろうそくの明かりの下では紫に近い赤に。

「魔法みたい」

 ザラはしばらくの間、幻想的な輝きを夢見心地で見つめた。

(アシュレイってなんだか魔法使い感あるよね)
 急に距離を詰められ、触れられても、なぜか気にならなかった。
 浮世離れした容姿と存在感の従業員を思い浮かべ、口元をほころばせる。

「お礼にいつか、月夜のピクニックに付き合ってあげようかな」

 頭の痛い問題からひととき心を解放させると、急に眠気がおそってきた。
 ペンダントをそっと小箱にしまい、明かりを消す。ベッドにもぐりこんだザラは、すぐに穏やかな寝息を立てはじめた。


   凹凹†凹凹


(――とかいってるうちに。闇賭博を摘発できないまま、レース当日ですっ!!)

「これはダーヴィー卿。ようこそお越しくださいました」
「なかなか将来性のありそうな馬がいると聞いてね」
「よろしければ厩舎をご覧になりますか?」
「そうしよう」

「おや。君はエレンベルク卿の……」
「ヘルムートと申します。本日はお会いできて光栄です、アリマン卿」
「お父上とはいつか馬場で馬談義にふけったことがある。君も馬が好きなのかね?」
「私は最近ようやく目覚めたばかりで。ご指南いただければ幸いです」
「そうかそうか! よし、良い馬の見極め方を教えて差し上げよう」

(わあ~! 大物感のある貴族がぞくぞくと……!)
(そつなくこなすエンドレの安定感もさることながら。案外ヘルムートも対応うまいなぁ。さすが名家のお坊ちゃま)

 訪問客を一緒に出迎え、二人の上流階級然とした接客スキルに感嘆する。

 だが訪れるのは貴族や金持ち馬主ばかりではない。誰でも無料で競馬を観戦できると聞いて、周辺地域の平民もこぞってやって来た。そして彼女もやって来た。

「ユージンっ!!」
「ん? 誰だっけ」
「やーね、前に村で会ったじゃない。エロイーズよ」
「そうだったか。覚えてない」
「ひっど~い! ……だったら忘れられないようにしてあげる」
「おい、くっつくなよ」
「んふっ……♪」

(でた、エロイーズ。なんかこう予想を裏切らないお色気おねーちゃんって感じ)

 駆け寄ってきた肉感的な美女がユージンの腕に両手をからませ、豊満な胸元を押しつける。ジャンヌが嫌がる理由に納得していると、迷惑そうな顔と目が合った。

(助けてくれ!)(ごめん。忙しいから無理)(ザラ~~!)

(有り難いことにお昼は満員御礼だわ。そろそろイアンを手伝わないと。あ、その前に途中で放りだした洗濯を片付けなきゃ)

 レースの開催は午後。ランチ時間が終わった頃だ。
 アイコンタクトでユージンのSOSを断ってから、訪問客をエンドレたちに任せ、ザラは完成した大浴場2階の物干し場へ向かった。


「――もっと下回るかと心配したけど。いい感じに売り上げたじゃん」
「ああ。……君の指示通りに声をかけたら、ほとんどの者が乗ってきたからな。全員、ユージンに賭けたよ」
「ふっ、だから言ったろ。あいつらは真正のカス。脳みそにゴミクズ詰まってんの」


(あれはダリルとモーラー子爵……!?)

 大浴場施設の裏手。人目を避けて話す二人に気付き、ザラはとっさに二人の死角で身を潜めた。
 小声での会話は少ししか聞き取れなかったが。話題はあきらかに闇賭博だ。

 会話を終え、フリッツがザラのいる場所とは反対側から去っていく。
 その後ダリルが歩いてくるのを、物陰に隠れてやり過ごした。
 少し時間を置いてから物干し部屋に入って扉を閉じ、ひとつ重い息を吐く。

「あいつ……やっぱやらかしてたか。応援の話はナシね。いやそれより、今からでもやめさせないと……」
「ふえ~~んザラの嘘つきぃ~。針いちおくぼん飲ませちゃうぞっ★」
「ヒッ!!?」

 軽い音を立てて背後の扉が開くと、軽く甘い声が部屋に響いた。
 とびはねるように振り返ったザラへ、ダリルがゆっくり近付いてくる。

「さっきの話、聞いてたろ。隠れ方が素人すぎてバレバレ」
「……ダリル。ヤミ馬券を買った人たちに謝って、お金を返しなさい」
「なぁ。その馬券を買った奴らが誰か、知りたくない?」
「そんなの知ったところで……」
「あいつらだよ。ちょっと前までここに居座って“サロン”でクダ巻いて。お前が死んだと思った瞬間、金を盗んでとんずらしたクズ令息たち」
「……!」

 驚くザラの前までくると、首を傾げて顔を寄せる。

「とられたもんをとり返す。ただそれだけのことだ。だから見逃して、ねっ★」
「そ、そういう問題じゃないでしょ。相手が誰であれ、違法賭博はだめ絶対……」
「ほんとに変わっちまったなぁ。――ねえザラ。君は本当は誰なの?」
「え……」

(前世を思い出したせいでちょっと変わっただけ。あたしはあたしよ)
(…………だよ、ね??)

 うつむく顔を無言で見つめ。ダリルがやわらかく微笑んだ。

「べつに悩まなくていいよ。……今のままでいてよ」
「つーことで。汚れ役はオレに任せとけ」

(格好つけてもダメなものはダメだってば。元締め的な方々に睨まれて、道の城が古城廃墟に逆戻りしちゃうってば……)

 部屋を出ていく後ろ姿を、立ちすくんで見送ったあと。にわかに不安の広がる心でザラが呟いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

処理中です...