公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter3__城、営業中

開幕★道の城グランプリ(3)

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 いきなり開催する運びとなった『第一回道の城グランプリ』。

 参加者はジョーイ、ユージン、ヘルムート、エンドレ、ダリル。
 そして話を聞きつけ「まだまだ若いもんには負けん」「祭だワッショイ!」と参入したヤコブ、ホセの7名だ。

 現在、道の城にいる馬は13頭。そのうち1歳から5歳の7頭が出馬する。

 レースは城が建つ丘のふもとを中心に行われる。
 城門の反対側、牢獄塔の下あたりに位置する地点からスタートし、堀の外側を約半周して城門を抜け、中庭中央でゴールというコースだ。

 観覧席は牢獄塔最上階や、城壁の歩廊、城館3階バルコニーなど。
 誰でも無料で観戦できるが、馬主になることを検討している者には優先的に良い席を提供する。

 今回は馬を披露するのが主な目的。(ジョーイにもそう理解させ、エロイーズの件を大っぴらにするのは控えた。)

 当然、順位の予想に金銭を賭ける行為は禁止だ。

「無許可の賭博場運営は禁じられているのもあるが。賭け競馬は貴族社会で聖域的な位置付けだ。地位や実績のない者が開催しても無視、下手をすれば潰される」
「こわっ……!!」
「ひとまずは馬好き界隈へ向けた、城の宣伝を兼ねてのちょっとしたイベント。ワイワイ楽しく過ごしてもらう、くらいのスタンスでいるべきでしょうね」

 ということで。違法賭博を行わないよう、関係者に周知を徹底したのだが……。


「なーに甘っちょろいこと言ってんだ★」
(やっぱりこいつだよ……)


 おおむね予想通りの開き直りに、ザラが片手でこめかみを押さえた。
 小さなノート(おそらく賭け台帳)を懐にしまうダリルをギロッとにらみつける。

「ダ~リ~ル~?? あれほど言ったわよね? 賭博は絶対厳禁って」
「そんなだからいつまでも資金繰りに頭抱えるハメになんだよ。思いつきで大浴場とサウナなんか作って。おかげで赤字ギリギリ、水洗トイレ化も見送りだよな?」
「ぐうっ……」
「いいかザラ。よーーく聞け」

 痛いところをつかれて呻くザラを、薄笑いを浮かべたダリルが人気のない廊下の壁際へ追い詰めた。

「思った通り、皆の本命は圧倒的にジョーイかユージン。ユージンがやや優勢ってとこかな。ちなみにオレはぶっちぎりで最下位」
「そ、そう。いまだに馬に乗れないあたしからすれば、ダリルだって十分すごいと思うわよ? そんな予想、気にすることなんて……」
「べつに気にしてねーよ。むしろ期待した通りになって、笑いを堪えるのに必死」

 ダリルが壁に両手をつく。いつの間にかその中に閉じ込められたザラが、いぶかしげに見返した。

「なに企んでるの?」
「ザラ。オレに賭けろ」

 質問には答えず、真顔になると強い瞳で見つめる。

「超大穴がレースをひっくり返す。高額配当間違いなしだ」
「水洗トイレもよゆーで設置。バレーネ湖なんかより、二人でビサイツィアに行って豪遊しようぜ」
「だからオレに積めるだけ積んじゃえよ」

(だから、じゃないって。違法賭博に手を染める気はありません。一応前提として、公爵家に認められる実績作り中なんだし)

 心の声を口に出すかわりに。ザラがひとつ息をつき、ダリルと目を合わせた。

「どうしたの。ダリルらしいようで、らしくない感じ。なんか焦ってない?」
「なにそれ。大金が手に入るチャンスに、経営下手な雇い主にも一枚噛ませてやろーってだけだけど」
「経営下手ですみませんねー」
「どうせユージンが勝つと思ってるだろ」

 至近距離の顔がさらに近付く。

「あいつの人間離れした身体能力はまじでバケモン。しかもあれで多分、普段は力を抑えてんだぜ。お前が応援すれば、本気出して勝ちにいくだろうな」
 にっこりと笑顔になる。
「逆に言えば。ザラが他の奴を応援したら、一気に筋肉しぼませてグダグダになって。オレにも勝ち目が見えてくるって話」

(んーと。謎の理屈はひとまず置いといて)
(これってユージンへの対抗意識??)
 腹黒い微笑みを張りつけた天使のような顔を、まじまじ見つめ返す。

「ダリル。もしアルベルゾ村でピアノのリサイタルをしたら、あなたのファンになる女子がわんさか現れると思うわよ」
「は? そんなのいらねーし」
(村娘にモテたいわけじゃないのか……)

「とにかく。少しは番狂わせも起こさなきゃ盛り上がんねーだろ。馬主は掴めなくても、貴族のリピーターを増やす努力はしないと」
「それはそうなんだけど。だからって賭博も八百長もする気は、」
「ったく、すっかりくそ真面目になって。そんな君もキライじゃないけどねっ☆」
「唐突なビジネスショタっ!?」


「お金を賭けるのがムリならぁ。今回だけはユージンや他のやつらじゃなくて、ぼくを応援して……? そしたらゼッタイ、レースをギンギンに盛り上げてみせるから! ねっ??」
「え、あ……」
「ザラはマッチョでも高身長でもないぼくなんか、応援できない……?」
「あ……、う……、」


 瞳を潤ませ、甘ったるい声を震わせて。
 だが壁ドンと畳みかけは緩ませず、顔をのぞき込む。

「ねえ、ザラぁ。……お願い……」
「……わ、わかった。今回だけだからね」
「やったあ~~☆☆☆」

 ようやく身体を離し、天使の笑顔でザラの手をとり両手で包みこむ。それから小指に自分の小指をからませた。

「約束だよっ★」
「あ……、うぅ……、」

 するりと指をはなすと、ダリルが鼻歌まじりに去っていく。

「ビジネス(演技)とわかってるのに抗えなかった。ショタ、恐ろしい……!!!」

 壁にもたれて硬直したまま、一人残されたザラが戦慄した。

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