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chapter3__城、営業中
開幕★道の城グランプリ(2)
しおりを挟む「馬を駆り、どちらが速いか競走だっ!!!」
(そこはかとなく自分の得意分野で勝負を挑んできたーー!!!)
つきつけられた指先を嫌そうに見て、ユージンが眉をひそめる。
「こっちはお前と勝負する理由なんか――」
「今すぐとは言わない、万全の状態のお前に勝たなければ意味ないからな。大浴場が完成するまで待ってやる。馬のプロが相手だからって、怖気づいて逃げるなよ」
言葉を遮ってジョーイがまくしたてると、踵を返して休憩室を出ていった。
「大浴場の完成予定日って、」
「明後日には終わる」
「わ、わあ~!! 仕事はや~い、筋肉ばんざ~~い!!」
「……手放しで喜ばせたかったのに。なんか面倒なことになっちまったな」
困惑したまま拍手するザラを横目に、ユージンがため息を吐いた。
凹凹†凹凹
「うちのアホ兄がすいません」
うららかな昼下がりの休憩室。
うららかとは言い難い空気のなか、ジャンヌが頭痛を堪えるような顔で言う。集まった面々が口々に質問を投げた。
「エロイーズって誰? ジョーイとの関係は?」
「てかユージンとの関係は?」
「俺はそんな奴知らないぞ?」
「ユージンが勝った場合はどうなるんだろう?」
「あ~~いっぺんに聞かないどくれ」
隣のジャンヌを気遣わしげに見やり、エンドレが代わりに口を開く。
「エロイーズさんはアルベルゾ村で暮らす19歳。非常に魅力的な女性です。少々、フリーダムな恋愛観をお持ちのようですが……」
「ジョーイさんは彼女と交際をはじめたばかりでした。しかし一方的に関係を解消されてしまった」
「なんでそんなに詳しいのかはあえてつっこまないけど。大体合ってるよ」
「なぜなら彼女の今の想い人は……」
もったいぶった調子で言葉を切り、エンドレがユージンに視線をやった。
それにならってダリルがにやつきながら横目を向ける。
「へえぇ~。本命以外は見向きもしませんって顔して。意外と抜け目ないのな」
「はあ? だから俺はそいつなんか知らねーって」
「その言葉を信じるならば。ユージンは今まで何かと村に行き来する機会がありましたからね。一方的に見染められた、といったところでしょうか」
「さすが顔・身長・筋肉なにもかもお持ちのアニキ。おモテになりますねえぇ~」
「お前、今日はやけに絡むな」
ユージンがうっとうしげに返す。ダリルがフンっと顔をそむけた。
(なんか機嫌悪いなー。村娘にモテるのが羨ましいのかな?)
ザラと目が合うと、ダリルがますます不機嫌に視線をそらす。
一時沈黙が流れたあと、パンっと両手を合わせたジャンヌが頭を下げた。
「ごめん。兄貴が留守の時にエロイーズが来て、いろいろ聞いてきたもんだから。『ああ見えてユージンはいいとこのお坊ちゃん』って言っちまったんだ」
この城の者とは知っていても、貴族だとは思っていなかったらしい。
前のめりで食いついてきたエロイーズに。ジャンヌはつい、「これはチャンスだ」と考えてしまった。
「あいつを“義姉さん”と呼ぶはめになるのだけは、まじで勘弁してほしくてさあ。さっさと他の男に目移りしてくれないかな~とか……」
どうやらジョーイと別れさせたいあまりに、ことさら興味を煽るような情報提供をしたようだ。
「家族になるのは遠慮したい相手だから、ユージンにあてがおうとしたんだね」
「おいおい。何してくれてんだよ」
「そんな女子をうちのスタッフに斡旋するのは、さすがにちょっと……」
「ご、ごめんて!! でもあてがおうってんじゃないよ。ほら、ユージンに惚れたってどうせ無駄だろ? サクッとフラれて、次へ行ってもらおうと思ったんだ」
「発想がわりと鬼だな」
「――ま、なんとなく話は分かった。俺が勝負を受ける必要はないってことだな」
「もらい事故っぽい案件だものね。ヘタに勝負して、もし勝ったらエロイーズさんとお付き合いする流れになりそうだし……」
話をまとめるユージンにザラが同意すると、
「いや……、女うんぬんはともかく。勝負を開催するのは面白いかもしれない」
それまで我関せずを貫いていたヘルムートが、意外な反対意見を述べた。
「他人事だと思って面白がるなよ」
「そうではない。貴族の間で、馬を競わせ順位を予想する遊びは人気がある」
(競馬かー。この世界でも人気なんだ)
憮然とするユージンにヘルムートが続ける。
「勝負に強い馬を所有する、つまり馬主になることが一つのステータスと見なす向きもある。良い馬がいると聞けば、実力を確かめに辺境まで訪れる者もいるそうだ」
「なるほど。乗馬勝負の開催は、いい集客ネタになりますね」
「馬主のついた馬は馬車に使えなくなるが。代わりに競走馬として活躍すれば、なかなかの収入が期待できるはずだ」
馬主が買った馬が競馬で勝った場合、馬の世話をするトロット家にも内容に合わせた報酬が支払われる。
説明を聞き、ザラ、ジャンヌも期待にほんのり目を輝かせた。
「試しに開催してみるのも悪くないかも」
「でもそういう競走馬って、若い時だけって聞くけど……」
「速さを競うものは概ねその通りだが。障害物を設置するなどテクニックを必要とする競技もある。その場合若い競走馬よりも、成熟した馬の方が有利だともいわれる」
「お眼鏡にさえかなえば、どの子も馬主がつく可能性はあるってことね」
頷くヘルムート。すっかり乗り気のザラが笑顔で宣言した。
「そういうことなら、どーーんと派手に開催しちゃいましょう!!」
「“美女を賭けた男同士の熱き闘い”ってか~」
「だからなんで俺が会ったこともない女を賭けて勝負なんぞ、」
「まーまー。あくまで表面上の触れ込みですから。ここは道の城の発展のため、呑み込んでください」
「イイ女なんだろ? 付き合っちゃえばいーじゃん。案外ハマったりして」
「いらねーよっ!」
「ユージンが勝った時は、別の報酬にすればいいんじゃないかな」
「それもそうね。ユージン、なにか欲しいものはある?」
アシュレイの打開策に納得し、ユージンに向き直る。
するときょとんとした後、うーん、と少し考えて、
「じゃあ、ザラと遠乗り」
「えっ」
「時間ができた時に、この周辺をいろいろ見たいって言ってたろ。バレーネ湖とかさ。弁当持って、そういう場所を巡ったりして一日のんびり過ごす」
(なんかデートみたいなんですが……。いや、単に観光地っぽい場所でゆっくりしたいだけよね)
憮然顔が一転、にこにこと提示した内容に内心どぎまぎするザラ。
双子のおかげで“過去の悪行”を思い出したせいか。気まずさで満面の笑顔を直視できなくなっている。
ユージンの言葉を受け、ヘルムートがゆるりと返した。
「休暇を兼ねた周辺環境の視察か。私もその報酬で構わない」
「「「「「んっっ!???」」」」」
「馬主たちに馬の実力を見せるのが目的だ。それなりの数を競わせなければ意味がないだろう」
「「「「「みんなで参加するんだ!!!?」」」」」
どこかソワソワした様子のダリル、笑顔のエンドレがザラに顔を向ける。
「「オレ(僕)も同じ報酬で」」
(みんな疲れてるのかなぁ……。デモとか起こされる前に、休みを増やすべき?)
「僕も同じ報酬で……」
「アシュレイは不参加よ。落馬したらどうするの」
「一応、馬には乗れるんだけど……」
「ダメ。どっちにしろ見に来るのは貴族なんだから」
貴族へ顔出し不可のアシュレイがぴしゃりと遮られ、肩を落とした。
「すぐに主要都市へ宣伝を開始、週末にレースを開催する。以上」
一同を軽く見回して、なぜか主催者顔になっているヘルムートが締めくくった。
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