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chapter3__城、営業中
幸せの青い羊(1)
しおりを挟む「……はぁ……」
「食事はお口に合いませんでしたか……?」
「あ、いえ。とても美味しかったです。辛気臭い顔をして申し訳ない。実は――、」
「――というわけで。お客様の少ない本日は、アイドルタイム(ランチタイム後~夕方頃)を使って『幸せの青メリーノ』を捜索したいと思います」
「いきなりなんか始まった」
「青めりーの??」
「たしか幸福を呼ぶと言われる、青い羊さんだよね」
「民間伝承として定着していますが、発端は有名作家による創作のパターンですね」
「その空想の産物を捜索とは……??」
休憩室へ皆を集めたザラが、並んだ戸惑い顔へ説明をはじめた。
昨夜遅くに城を訪れ一泊した、中年の紳士チルウール。
朝食後、椅子にもたれて憂鬱そうにする様子に声をかけたところ。
「病気の妹に頼まれたのです。青メリーノを探しだし、連れて来てほしいと……」
彼女は夢の中で、「青い羊を見つけることができれば病気が治る」と精霊に告げられたという。
見舞いに行ったチルウールは病床の妹に強く頼まれ、半信半疑で承諾した。
それから青い羊がいるとされる場所を巡るも……。空振りのまま一週間だそうだ。
「なんでオレたちまで協力しなきゃいけねーんだよ」
「病気で苦しむ妹さんの力になりたいし。……もしそんなご利益ありそうな羊が見つかったら、パワースポット的に有名になって、うちにも恩恵ありそうじゃない」
「宣伝効果を狙うわけですか」
「理解しがたいものだが。実際その手の眉唾話を好む者は多い」
「そういうもんか?」
「みんな幸せになりたいんだね~」
「で。チルウールさんの調査と地元民トロット家の話によれば。近隣で青メリーノの目撃情報がある場所は、『忘却の森』『常闇の丘』『黒き歴史の沼』の3ヶ所よ」
「なあ、地名がおかしいと思うのオレだけ?」
「幸福の使者が住むとはにわかに信じがたい名称ですよね」
「……『常闇の丘』というのはまさか、」
「はい。ここのことだそうですー」
ヘルムートの疑問にザラが淡々と返す。この丘にはそんな異名もあるようだ。
「残念ながらうちの敷地内にいるとは思えないけど。一部はここで留守番がてら探してもらうとして……。二手にわかれて2ヶ所を重点的に調べようと思うの」
乗り気には見えないものの、全員が頷くのを確認して続ける。
「チルウールさんは忘却の森の可能性が高いとみて、探しに行きたいそうよ。でも狼とか、危険な野生動物の目撃情報もあるみたい。だから……、」
「わかった。俺が行く」
「ありがとう、ユージン」
意図を先読みしたユージンに、ザラがホッとした笑顔をみせる。
「危険動物の噂はないらしいから、あたしは沼へ行ってみるつもり。誰か、二人乗りで一緒に来てもらえる?」
「仕方ねーな。オレが……」
「君は二人乗りが苦手でしょう。ここは僕が」
「僕が行くよ」
「そんな羊が存在するとは思えないが。協力するのは構わない」
(うちの従業員、やたらお出かけ好きだよね……)
結局くじ引きになり、ヘルムートとエンドレが当たりを引いた。(二人乗りが苦手なダリルが当たりくじを増やした。が、外した。)
「ダリル、アシュレイ。どちらか一人なら森へ行ってもいいわよ」
「は? 狼とかいるんだろ、絶対行かねー」
「うん。こわいからいいや」
(お出かけならなんでもいいわけじゃないのか……)
「民間伝承にもそれなりに通じているつもりです。僕に任せてください」
「もし何か危険があれば、私の魔法で対処する」
「ありがとう。ではランチタイムの営業が終わり次第、各自捜索を開始してください。青い羊さんを見つけだし、チルウールさんご兄妹を幸福に、そしてうちの城にもお客様という幸福を呼び込みましょう!!」
やる気を見せるザラへ、エンドレとヘルムートがしっかりと、他の三人がしぶしぶ返事をした。
凹凹†凹凹
「黒き歴史の沼は、“魔王の記憶が眠る場所”だといういわれがあるのです」
馬を寄せて話すエンドレにザラが首を傾げた。
「魔王の記憶?」
「二千年前に封印された魔王。その復活には奴が自身から切り離し、この世に残した“記憶”が必要だとする説がある」
ザラの背後でヘルムートが補足する。
「ゆえに魔人たちはまず、魔王の記憶を収集しようとするそうですよ」
「ほえ~。記憶が宝箱か何かに収納されてるのかな?」
「沼の底に沈んでいるのかもしれませんね」
「そもそも真偽の定かではない話だが」
「そんないわくつきの場所ですから。沼には魔物が棲むという伝承もあり、地元民は基本的に近付かないはずなので……」
「目撃情報とやらの信憑性にも欠けるな」
「そっかあ……」
「もちろん捜索にはベストを尽くします」
「努力はしよう」
「うん。よろしくね」
(チルウールさんも、沼は可能性が低いって言ってたしなぁ)
二人の言葉に、従順に期待値を下げる。
1時間ほど馬を走らせた頃、目的地に到着した。
黒き歴史の沼。その東側にそびえる山の反対側には、バレーネ湖がある。
山一つ挟んだ先の、輝きをたたえる美しい湖とは対照的な、黒くよどんだ水面。
うっすらとたちこめる、どこか重苦しい霧。名称のイメージを裏切らない場所だ。
「なんだか闇を感じますね~」
「事実、沼から闇の魔力をわずかに感じる。別段、危険はないはずだが……」
「うーーん。こんな闇が深そうな場所に、やっぱり幸せの羊なんて――」
その時。沼のほとり、低木の茂みがガサリと鳴った。
三人が反射的に視線をやる。茂みの中からゆっくりと動物が現れた。
青白い顔と四本の脚。瞳と蹄はやや緑がかった水色だ。横長の瞳孔は深い濃紺。
そしてずんぐりした胴体を包む、目にも鮮やかなスカイブルーの羊毛――。
「「「いた!!!!?」」」
「メ……??」
到着から数秒で発見した、伝説的生物に驚愕する三人と対峙して。
青い羊がきょとんとつぶらな瞳を瞬かせた。
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