公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter4__城、営業中~スタッフ日誌~

間奏のシンフォニー(4)

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 ――チャリティコンサート当日、朝――

「「なんで家に顔を出さなかったのよー!!」」
「まだ出せねーだろ。とくに父さん母さんには、会ったらさすがに嘘がバレそう」
「「もおおぉこの子はああ~~~」」

 道の城まであと半日弱のところに存在する安宿。
 そこに同じタイミングで宿泊していた姉たちの馬車に、これ幸いと便乗したとたん(だって定員オーバー気味の低運賃馬車、キッツいんだもん……)、怒りのユニゾンを浴びせられた。

 オレが数日前からブレーメ領内にいたのを知らなかった姉たちは、目をまんまるにした直後、口から火を吐く伝説の怪物みたいになってしまった。
 それを無の境地で聞き流していると、少し声の調子が落ちてくる。

「リル君がミッションに本気で取り組んでるのは、なんとなくわかったわよ。職場をどーしても辞めたくないってことも」
「だからって隠しごとばかりなら、いくら父さん母さんでも認めてくれないからね」

 そうかもな……でも悪いけど、今ほしいのは家族の納得じゃない。
 オレがオレらしくあるために。結果をだしたうえで、あの城にいたいんだ。
 無言でいると、まじめな顔で二人が言いつのる。

「私たちは意地悪するのが目的でもなければ、リル君の自由を制限したいわけでもないわ。退学の件もはじめは驚いたけど。兄さんとも話して、合わない場所で無理をするくらいなら、やめてよかったんじゃないって結論になったし」
「もっと家族を頼って。将来も、急がずゆっくり考えればいい。今のあなたにはそういう時間が必要だと思ったのよ」

「……ありがとう」

 二人の目を見てそれだけ言うと、馬車のなかに沈黙が落ちた。
 心底ありがたいと思った。学校のことですさみ、自分勝手な家出をしたオレにはもったいない家族だ。
 だけど今は、コンサートを成功させる。それ以外は考えられない。

 オレは目を閉じると、頭の中で譜面を追うことだけに集中した。


   凹凹†凹凹


 開演10分前。メインホールにずらりと並べた椅子はすべて埋まり、ちらほら立ち見もでていた。
 予想以上の客の入りに、まずはホッとする。

 ただ、いうても入場無料だからなー。
 問題はこのうちのどれくらいが投げ銭、つまり寄付金を弾んでくれるかだが……。
 正攻法でいくと決めた。音楽の力だけで、金を出したいと思わせなきゃいけない。

 気合いを入れ直して振り返ると、複数の不安げな眼差しとぶつかった。
 一人ずつ目を合わせ、一字一句に力をこめる。

「無名でも、地位もなにもかも持っていなくても。そんなの音楽には一切関係ねー。オレたちの力で、ここにいる全員にそのことを思い知らせてやるんだ」

 それぞれが仲間と視線を交わしあう。
 ただひとり、他のメンバーより頭二つぶん大きな姿が、オレと視線を合わせたまま強くうなずいた。皆も恐れを吹っ切るように、それにならう。

 よし。これならきっと練習の成果を発揮できる。
 開演時刻が迫り、ザラが合図を送ってくる。オレはしっかりとうなずき返した。


 ザラが軽く挨拶を済ませると、エンドレに司会進行役を交代した。(あいつ、まじでゆっくりコンサートを楽しむ気だな。)
 簡単な紹介のあと、拍手を受けて仮設ステージへ上がり、一礼する。

 まずはオレのピアノソロ。
 過去の巨匠が作ったド定番の3曲を披露する。どれも飽きるほど弾いた曲だ。
 鍵盤に指を置いて呼吸を整える。

 飽きるほど弾いた。だけど今日は、ぜんぶの音、ひとつひとつを大切に響かせた。
 こんなふうに弾くのは生まれてはじめてかもしれない。

 大きな拍手で我に返った。
 慌てて立ちあがり、一礼して降壇、舞台袖代わりのついたての中に引っ込む。
 曲に没頭しすぎて客の反応見てる余裕なかったけど……。
 まだ続く拍手の音。反対側のついたて内にいる姉たちの笑顔に、手応えを感じた。

 次はブレーメ家の親戚筋(同じく無名)の音楽家二人、トランペットとチェロ奏者が登壇した。
 1曲合奏したあと、続けてアイリス・クラリスが袖から現れる。
 双子の心地良い、しかし意外と技巧的な歌声を、伴奏がうまく引き立てている。

 美声のコーラスが部屋に響きわたると、盛大な拍手が送られた。

 その後オレもステージに上がり、五人でここ数年の流行曲をいくつか披露する。
 姉たちが聴衆をうまくのせ、客たちにも一緒に歌わせたりして盛り上げた。


 ホールの熱気がおさまらないなか、一度袖に下がり、出番を待つ四人を見回す。
 はやく歌いたいって顔だ。オレは思わず微笑んだ。

 彼らを壇上へ連れていく。にわかに客席がざわついた。
 10歳から13歳の少年少女。質素な身なり。会場にいぶかしげな空気が漂う。

 彼らは孤児。寄付先の孤児院で暮らす子どもたちだ。
 実はこの数日間、オレは彼らのところに居候していた。
 院長にコンサートの件を話し、協力をお願いすると快く受け入れてくれた。
 で、期間限定の押しかけ音楽教師をやっていたのだった。

「この空気、ひっくり返してやろうぜ」

 口の動きだけで伝えると、四人が大きくうなずいた。
 自信を胸にピアノへ向かう。一度視線を交わしあって、最初の一音を鳴らした。

 四人の澄んだ声が会場に響いた。聴衆が息を呑む。
 どーよ、オレが見込んだ選抜メンバーは! 田舎の歌うまナメんじゃねえぞ~!!

 ユリディス教会が運営する孤児院。子どもたちは定期的に教会の祭礼に参加する。
 幼い頃から讃美歌を覚え、信者とともに合唱する機会が多いんだ。
 今日は彼らが普段歌っている曲の中から、一般人にもなじみのあるものを選んだ。

 女子二人はソプラノとアルト。男子二人のうち一人はアルト。
 そしてもう一人は……、

「テノール……バリトンも出せるの!? なんて伸びやかな低音」
「すごいな、こんな子が片田舎の孤児院にいたのか……」

 独唱がはじまり、オレの優れた耳が客席のごく小さな囁きを拾う。
 驚いたか! 一つ年下のくせにオレより頭一つデカい、ロイドの音域と才能!
 指導するまで本人は無自覚で、なぜか歌が下手だと思い込んでいた。指導者不足が深刻な田舎あるあるだよなー。

 ロイドが独唱を終えると、会場中から割れんばかりの拍手と歓声がわき起こった。
 ひと呼吸おき、今度は子どもたち全員で合唱する。

 いつの間にか子どもだとか、孤児だとかを気にする者はいなくなっていた。
 皆、天使のような歌声に引きこまれ、ただ音楽に身をゆだねている。

 気付けばオレの頭からも、寄付金だの成功だのが吹っとんで――、

 客席からまっすぐ向けられた、淡いバラ色の瞳がキラキラ輝いているのを視界の端に入れたあとは。
 心地よい音の波に、オレも身をゆだねることにした。


   凹凹†凹凹


「孤児院の子たちを巻き込むなんて。反則ギリギリって気もするけど」
「ま、こんな結果を出されちゃ、強く非難はできないかな」
「もっと素直に褒めてもいーよ?」
「「調子に乗らないの!!」」

 集まった寄付金を前に。
 大きく胸を張ってみせると、両側から頭をこぶしでグリグリされた。

 いででで。結果を出してみせたんだ、ちょっとくらい調子に乗せてくれよ。

「目標金額を大きく上回って、大成功だね」
「これなら半年以上、充実した食事内容で過ごせるだろう」
「これだけ余裕があれば、孤児院の全員でミルコの飯を食いに来れるな!」
「ミルコさんの料理を一度味わってしまうと、その後が大変かもしれませんが」

 姉たちにヘッドロックされながら、なんとなくザラの感想を待つ。
 まだコンサートの余韻の残る、蕩けた瞳と視線が合った。思わず鼓動がはねる。

「本当に素晴らしかったわ! あたし、ファンになっちゃった」

 ま、まじ……? ザラ、ようやくオレの魅力に気付いて……!!

「あの四人、とくにロイド君♪」

 ――はあああぁっ!!? そっちかよっ!!!

「「自業自得」」

 両側から同時に放たれた、容赦ない一撃がオレの耳にこだました。

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