公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter4__城、営業中~スタッフ日誌~

間奏のシンフォニー(3)

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 オレの進退がかかったチャリティコンサート。
 善意の寄付だけで孤児院の食費半年分とか、無茶振りにもほどがある。あの姉たち、怒らせるとまじで鬼なんだよ……。

 それにしても。今日も泣くほど飯がうまい。
 ミルコが料理長になったら、食事目当てにやってくる客が爆増したのも納得しかないよな。

 ……そーだ! 『高額寄付者限定メニュー』を作るってのはどうだ!?
 たくさん寄付した者だけが味わえる、一日限定の特別メニュー。ミルコのファンが絶対食いつくぜ~。

「食べ物で釣るのは反則じゃないですか? 音楽で勝負しましょうよ」

「当日は遠方から訪れる客で、部屋が埋まる可能性も高い。その日と翌日の食事だけで手一杯だろう。限定メニューまでやらせては厨房が破綻しかねない」

 ぐぬ。たしかにミルコにぶっ倒れられたら困る。獣っぽい見た目のわりに、体力はいまいちだからなー。

 こうなったら、背に腹は代えられねえ。
 最終兵器――ザラの生足作戦!!

 ジャンヌの作品をまとったザラを、姉たちの前に立たせて口パクさせる。金持ちのオッサンども、ついでにビサイツィアのお坊ちゃまあたりを誘惑してやるのさ。
 お涙ちょうだい系の切ないナンバーで、「高額寄付お願いします」とか歌詞の一部を変更したりして……。

「ダメだってば。もしタチの悪い客がついたら、ザラの身が危険に……さらされる前に、失踪したことにして牢獄に閉じ込めておけばいいか」

「いいわけねーだろ。まずは穏便に、ボコ……、二度とこの城に足を踏み入れないよう、よーく言い聞かす」

 一気に客離れ待ったなしの事件を起こそうとすんな!!
 こいつらを敵に回しちゃいけねーってことだけは、改めて理解したぜ……。


 これといった案が出ないまま、時間だけが過ぎていく。

「「今度は逃げるんじゃないわよ」」
 と捨て台詞を吐き、一旦家に帰った姉たちの泊まった部屋を整えていると、何度目かわからないため息がもれた。

「意外とまじめに悩んでるね」
「……悪いかよ」

 館内を掃除中のザラが入口から顔をのぞかせた。オレとは正反対な、明るい表情で部屋に入ってくる。

「寄付金の額なんか気にしないで、楽しんじゃえばいいじゃない。久しぶりにゆっくりダリルのピアノが聴けるの、あたしはすっごく楽しみ」
「だからお前、経営者がそんな甘い考えじゃ……」
「お金の悩みから解放される時間も必要よ。素敵なものを素敵と思えないくらい神経すり減らしたら、むしろ経営にも支障をきたしそう」

 その意見にはおおむね同意するけど。
 お金さん大好きいつでも絶賛募集中のオレだって、できることなら頭の中は芸術で満たしておきたい。

 ただ……、軽やかな口調が、今は無性にイラついた。

「そりゃ有能なスタッフたちに囲まれてれば、お気楽でいられるよな。オレがいなくなったところで、ここにはなんの影響もないもんなー」

 言ってしまって後悔した。「そんなことないよ」が欲しいガキか。
 演技だったらなんとも思わず言えるのに。素だと羞恥がやばい……。
 顔をそむけ、いつもの倍のスピードでベッドメイクを終わらせる。
 そのまま部屋を出ていきかけたオレの背中に、穏やかな声がかかった。

「ダリル。もし今回は家族の同意を得られなくても。1年後には、また一緒に働けると思っていてもいい?」

 なんだよ。15になればどうせ戻ってこれるだろって? だから能天気にコンサートを楽しもうって?
 素直にうなずきたくなるのを堪えたら、勝手に言葉が口をついて出た。

「この流れで出戻りとか、ダサすぎるから無理。あと給料低いし」


   凹凹†凹凹


 勢いで自ら退路を断ってしまった。
 強制終了をまぬがれるには、目標金額を達成するしかない。(しんどい。)

 本音をいえば、ザラの言葉に甘えたい気持ちもある。
 ……だけどそれじゃあ、「ゆるゆる演奏してるうちに、いつかパトロンに見つけてもらう」なんて都合のいい夢をみてるガキのまま、成長できない気がする。

 オレが目を逸らし続けていたのは家族だけじゃなかった。
 音楽への向き合い方。自分の甘さ。うぬぼれ……。今回の件で、まざまざと目の前につきつけられたのだった。

 だからこそ“正攻法”で結果を出したい。今は本気でそう思ってる。


 悩んだ末――コンサートまでの数日間、休みをもらうことにした。
 実際、道の城はオレがいなくても大して影響はない。悔しいけどあいつら本当に有能なんだよな。

 ユージンの手綱さばきに慣れた身には過酷すぎる安い幌馬車に揺られ、完全に食欲を失った頃。

 たどり着いたのは懐かしい故郷。
 古めかしい建物がまばらな街並み。のどかを通り越した、隠しきれない寂寥感。

 この小さな町一帯が、だいたいブレーメ領の全てだ。
 町っていっても規模はほぼ、村。相変わらず他人の城をとやかく言えない、残念な田舎だ……。

「さて。のんびりしてる暇はないぜ」

 ひとつ大きく伸びをして、かたい座席で凝り固まった身体をほぐす。
 オレは少ない荷物を抱え直すと、雑草だらけのデコボコ道を急ぎ足で進んだ。

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