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chapter4__城、営業中~スタッフ日誌~
間奏のシンフォニー(2)
しおりを挟む「アイリスです」
「クラリスよ」
「「弟がいつもお世話になってまーーす!!!」」
ザラへ向き直った二人が見事なユニゾンで一礼した。
彼女たちはオレの2歳年上の姉。見てのとおり双子だ。
得意ジャンルは歌。声もそっくりなので、どっちが歌っているのか家族でも聴き分けるのが難しかったりする。
「こちらこそダリル……さんには、いつもまじめに?働いていただいて?感謝しております??」
ぜんぶ疑問形かよ!
いやツッコミ入れてる場合じゃねー。さりげなくその場を後ずさっていると、
「こらー! この期に及んで逃げられると思うなあ!」
「おらおら! 家族に心配かけたツケはきっちり払ってもらうわよ~」
ぐああ!? 相変わらず動きのシンクロ率はんぱねぇ!!
素早く両側に回りこみ、同時にオレの腕を片方ずつ拘束する姉たち。
それを落ち着き払って見ていたザラが言い放った。
「ごめんねダリル。あたしがご家族に手紙を送ったの」
「はあっ!!?」
「あなたはまだ14歳。この国はそういうのユルめとはいえ、15歳未満の者との労働契約は保護者の同意を得ておくべきなのよ」
くそっエンドレ(もしくはヘルムート)、余計な入れ知恵しやがって……。
怒りと呆れの入り混じる、息の合ったため息が両肩にかかった。
「もうっ……なにが『退学した。でも先生の家に居候して無料レッスンしてもらえることになったから、心配しないで』よ! やっぱ嘘だったんじゃない!」
「のんきな父さんと母さんは騙せても、私たち兄妹はずっとおかしいと思ってたんだから。兄さんは何度か学校に足を運んで、寮で聞き込みをしたりしてたみたいよ」
両側からいっぺんに文句言うなってば~。
てきとーな理由つけた手紙を送っておけば、バレないと思ったんだけどな。うまく騙せたのは両親だけだったみたいだ。
「嘘ついて悪かったよ。でもまぁ、今はここでまじめに働いてるし。兄さんにもよろしく伝えといて」
オレの肩越しに二人が顔を見合わせる。傍観していたザラが口を挟んだ。
「でもね、ダリル。あなたがここで働くこと、まだ同意をいただけてないのよ」
「え!?」
「当たり前よ! 寝耳に水すぎて、いきなり了承できるわけないでしょ」
「ていうかザラさんの手紙は兄さんと私たちの間でストップさせてるから。父さんと母さん、まだ気付いてないわよ」
うっわ失敗した。先に両親にだけこっそり事実を伝えておくべきだったか。二人はいい意味で、頭の中が年中春らんまんなところがあるから……。
かくなるうえは。オレは表情を『ビジネスショタ』に切りかえ、ザラを見つめた。
「ザラ、さぁん! オレがここでどれだけ真剣に働いているか、姉さんたちにきちんと説明してあげてよお~!」
「あ……うん。一応手紙に書いたのよ? できる限り、詐欺にならない程度に、あなたの“きちんと真面目な”仕事ぶりを。……2行くらい」
少なっっ!!?
おいこら! ひとの汗と涙の労働の日々がたった2行ってどういうことだよ!!
もっとあんだろ、カラオケに乗って活躍した話とか!(魔法のくだりは伏せて。)
口ごもるザラを見て、姉たちの目つきがますます剣呑になる。
「私たちが考えた“ミッション”をクリアするなら、兄さんと二人の同意を引きだしてあげてもいいと思っていたけど……」
「なんかそれすら、甘やかしすぎな気がしてきたわね~?」
な、なんだよ、ミッションって……。
「それってどんな内容なんですか?」
ザラが訊くと、二人が一度視線を交わし、ユニゾンで回答した。
「「チャリティコンサートよ」」
凹凹†凹凹
「はああぁ……」
「ため息も空気も重いですよー。せっかく愛らしいお姉様たちがいらしたのに」
休憩室の椅子にぐったりもたれていると、エンドレが呆れ声をかけてきた。
「そのお姉様たちが厄介な話をぶん投げてきたせいだから」
「根本的な原因は、君の日頃の行いでしょう」
うっせー。同僚の姉にさっそく話しかけにいった野郎に言われたくねー。
「チャリティコンサートの開催。それ自体は悪くない案だが……」
「いいんじゃないか? なんか面白そうだ」
「でもダリルのお姉さんたちが求める金額を達成するのは、難しいだろうね」
一見思案げだけど、口調は軽いヘルムート。能天気ないつものユージン。まったり茶をすすりつつ言うアシュレイ。
もっとまじめに悩めよ。オレの今後がかかってんのに……。
姉たちがオレに課したミッション。それは入場無料のコンサートを開催すればいい、というものではなかった。
「目標は『ブレーメ領内の孤児院へ、食費半年分を寄付すること』。豊かな発想力をお持ちですよね。ザラ嬢も乗り気ですし、楽しみです」
エンドレが笑顔で言う。他人事だと思いやがって。
「なに笑ってんだよ! 規模の小さい孤児院とはいえ、食べ盛りのガキが10人以上いるらしい。半年っていってもバカにならない額だぜ」
「それを聴衆の投げ銭だけでまかなおうとはな。しかも無名の音楽家のみで」
「徒手空拳で挑んでも、おそらく不可能でしょうねえ」
「だからザラに『皆で何かいいアイディアを考えよう♪』って言われたけど……」
「とりあえず金持ちを片っ端から招待するしかないんじゃないか?」
脳筋の言う通り、まずは懐のあったかそうな相手へ招待状を送る。
だけど実際に金を出すかどうか、金額も、あくまで“善意”だ。
もし強引なやり方をすれば、この城自体の客離れにつながって本末転倒になりかねない。
頭を悩ませるオレの肩に、ポンと片手が置かれた。
「大丈夫です。……万が一不達成の時は、盛大な送別会を開催しますよ」
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ふざけやがるエンドレに便乗して、三人が生暖かい視線をよこした。
「お前のピアノが聴けなくなるのは残念だ。短い間だったが楽しかったぜ!」
「元気だして。送別会ではきっと、ジャンヌが腕によりをかけてくれるよ」
「君の分まで、我々がこの城の経営を支えると約束しよう」
…………こいつら~~!?
ザラの身近な男を一匹排除する、いいチャンスと思ってんじゃねーだろな!??
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