公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter4__城、営業中~スタッフ日誌~

間奏のシンフォニー(1)

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 ザラが休憩室にノートを置いた。『スタッフ日誌』……なんだそりゃ?

「働くなかで感じたこととか、今日こんなことがあったよ~とか。書きたい時に自由になんでも書いてね」

 そんなもの書いてなんの意味があるんだよ。

「普段みんながどんなことを思っているのか、ちょっと知りたいなあって」
「べつに言いたいことがあれば直接言ってるだろ」
「そ、そうだけど~」

 そして言いたくないことは、人目に触れるノートになんか誰も書かない。
 オレの当然の理屈にザラが困ったように眉を下げた。
 “変身前”にはありえなかった表情。かわ……いや面白いからつい、わざと意地悪を言ってしまう時もある。

「わかりました。僕の想いをご理解いただけるよう、心を込めてしたためます」
 こいつ日誌をザラ宛てのラブレター代わりにする気じゃねーだろな。書いたら破って捨てとこ。

「おう、なんか思いついたら書けばいいんだな」
 なんか幼児の日記みたいになりそう。

「自由になんでも、かぁ……。難しいけど、がんばるね」
 読んだらメンタルに支障をきたしそうな内容はやめろよ……?

「了解した。周知しておくべき内容があれば記入する」
 おいおい。それ日誌ってより、ただの報告書じゃね??

 それぞれの返事を聞いて、なぜか満足そうな笑顔になる。

「うん! 好きなことを好きなだけ、気が向いた時に書いてもらえれば!」

 だからなんの意味が……って。
 こいつの意味不明な言動にもすっかり慣れた。それはオレだけじゃない。

 揃いも揃って、ザラに緩みきった視線を向ける野郎共。孫娘を溺愛するジジイか。
 最近は鉄仮面のヘルムートの奴ですら、うっすら目元をほころばせて……。

 あーあ。日誌に『スタッフの一部に雇用主への下心まるだしの人たちがいます。取り締まりを強化するべき』とでも書きこんでやろーかな。
 ……まぁ、いろいろやりにくくなりそうだからやめとくけど。


   凹凹†凹凹


 こんな田舎のいわくつき、あさってな進化をする変な城。
 しかもショボい低賃金でオレが働く理由は、クソ真面目になったらまあまあ可愛げがでてきた雇用主のため……では、ない。ないぞ。

 今は人生の小休止。いわば“間奏”にあたる時間。

 才能の安売りは悪手だ。半端に庶民の間でウケたって、貴族から安物のレッテルを貼られでもしたら、一生這い上がれなくなる。
 世の中、実力よりも雰囲気だのしがらみだのでなんでも決まっていくもんだ。

 とはいえ若さを無駄に消費するのも面白くないしな。
 だからまがりなりにも高位貴族の所有地で、のんびり腕前を披露してるってわけ。
 最近は少しずつ貴族の常連客も増えてきた。どこで誰の目にとまるかわからないからな。そんなに悪くない環境だと思う。(トイレ掃除さえなければ……)

 だからしばらくはここで、オレのピアノに惚れこみパトロンになってくれる金持ちが現れる幸運にも期待しつつ。
 才能を発揮できる舞台と縁ができるまでは、労働にいそしむつもりだ。


 ……ん? お前だって貴族のはしくれだろ、って?
 才能あるならセコセコまわりくどいことしてないで、人気サロンあたりで一発かまして「期待の大型新人!」的にのし上がっていけばいいって??

 うん、貴族社会の序列ナメんな。
 ブレーメ子爵家――うちはそういうお気楽出世街道からほど遠い、ぶっちゃけ没落寸前の崖っぷち一族なんだよ。

 芸術的才能を活かし、宮廷でそこそこ華やかに活躍できたのは数代前までの話。

 実力はあっても権謀術数には弱いタイプが多かった。成功を妬まれ、足を引っ張られてアッサリ地位を奪われた。
 これはオレの勝手な憶測ではないはず。だって現在進行形だから。

 長男の兄は貴族向けの学校へ行き、主に経済を学んだ。なので卒業まで穏やかに過ごせたようだ。

 でもオレは、実力・実績を持った有名教師がいる音楽の名門校を選んだ。
 学費の高さに悩んだけど……、家族の応援もあって決めた。
 実技重視の入学試験はらくらくパス。有名教師にも特別熱心に指導してもらえた。

 順風満帆に思えた頃。ちょっとずつ、まわりでおかしなことが増えた。
 楽器が壊されただの、高価な装飾品や財布の中身がなくなっただの。きまってオレのアリバイがない時間帯に。
 言っておくが(当時は)他人のものに手をつけたことは一切ない。レッスンに必死でそれどころじゃなかったしな。

 ――ある日鞄の中から、高価な紛失物が出てきた。
 わかりやすく単純な罠。金とコネだけで入学した連中に、オレはまんまとはめられたのだった。

「ぼくは盗みなんかしていない!! 誰かが勝手に鞄に入れたんだ!!」
「だがブレーメ。君のお家は経済状況が苦しいんだろ? 1年分の学費を払うのすらギリギリらしいって聞いたよ」
「……っ」
「幸運にも、今この教室には僕たちしかいない。見なかったことにしてもいいよ。ただし、君が大人しくこの学校を去るならね……」
「……ぼくを脅す気か」
「身の丈に合わない夢をみた君が悪いんだ」

 バカ令息どもの言いなりになる気はなかった。
 だけど。尊敬していた教師が、コロッとそいつら側に寝返った。
 罪を認めないのなら、オレには二度とレッスンをしない、と。
 どうやら金を握らされたらしい。服や靴が今までよりちょっとよくなっていた。

 急になにもかもアホらしくなったオレは、たった1年で学校を退学した。

 その後の行状は……、まぁお察しくださいって話だ。

 だから、噂を聞いてフラッとこの城までたどり着いたオレに、
「あんたピアノ弾けるの? ふーん……じゃあ取り寄せるわ(公爵家のツケで)」
 って、ポーンとピアノを購入したザラには、一応感謝してたりする。

 ……そのわりには手癖が悪すぎる?? かたいこと言うなよ★

 今は正式に雇われた身だからな。雇用主を見習って、真面目なもんだぜ。
 ザラがコソコソ戸棚に隠すおやつくらいしか……、おっと誰か来たようだ。

「いらっしゃいませー★ 道の城へようこ……そ……」

 ザラが連れてきた客を玄関ホールで出迎えると。作り笑顔が引きつった。
 そっくりな見た目をした二人の少女が、オレを見た瞬間声をそろえ、同じタイミングで指をさす。

「「おおーーっ!!! リル君はっけーーーん!!!」」

「ねっ……姉さんたち!!?」
「あ、やっぱりごきょうだい」

 三人の顔を見回したザラがのんびりと言う。
 音信不通同然になっていた家族の登場に、オレは思わず頭を抱えた。

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