公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter3__城、営業中

狂愛×もふもふ=闇の味!?(4)

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「もしミルコさんさえよろしければ。正式に道の城のシェフになってください」

 目を見すえ、ザラが決然と言う。ミルコが垂れていた耳をピンと立てて驚いた。
 ヘルムートが満足げに頷く。

「君ならそう言うだろうと思っていた」
「わたしは亜人ですよ……? この手も、気味悪くありませんか」
「もふもふでダークなゴッドハンド。美食を生みだす素晴らしい手に憧れこそすれ、気味悪いだなんて思いません」

 後に続いて、皆もザラの言葉を肯定する。

「差別感情から、美味を堪能する機会を逃すなんて。愚行としかいえませんよね」
「宝の持ち腐れってつまんねーだろ。認められた場所で咲いとけば~?」
「あんたの料理、めちゃくちゃうまかった。俺からもお願いするぜ!」
「愛と憎しみは表裏一体らしいよ。嫌う者から好む者へ。案外簡単に反転するかも」

「……だから言ってるじゃないですか。この城のシェフにふさわしいのはあなただ」

 どこかまぶしそうな顔のイアンへ、ミルコがぺたりと耳を伏せて言葉に詰まる。
 ザラが今度はイアンへ向き直った。

「あたしはあなたにも、ここにいてほしいわ」
「……! そのお言葉だけで、充分です」
「やっぱり、他にやりたい仕事ができたの?」
「……」
「違いますよ。イアンさんはフラれそうな予感にちょっと怯えているだけで。その方と同じくらい、料理も愛しています」
「ちょっ、ミルコさんっ!?」

 急に自信満々で断言されてイアンが動揺する。どうやら図星らしい。

「料理を食べればわかります。生真面目すぎるほど、まっすぐ料理と向き合っている。基本に忠実。半端なテクニックで誤魔化そうとする不誠実さがない」
「いや、半端なテクニックすら身についてないってだけで、」
「もしかしたら料理は、わたしではなくこういう人に作ってほしいのかも、と。内心嫉妬を感じることもあったりなかったり」
「それは正直やめてください……。とにかく俺、皆さんの足手まといには……!」

「だったらミルコに料理を教わればいいじゃないか」

 名案だろ、と笑顔でユージンが提案する。
 や、そんな脳筋理論で解決しないだろ。いろいろ感情的にさぁ……、と難しい表情で一同が黙るなか。

「……そっか。その手があったか」
「「「「「え?」」」」」
「料理修行はここで。ミルコさんの下で、やればいいだけの話でしたね!!」
(((((脳筋理論で解決した)))))

「えーと。イアン? じゃあここに残ってくれて、しかもミルコさんがあなたの上役のシェフ、つまり料理長になるってことでいい、かな??」
「はい、それで大丈夫です!」
(((((ポジティブ)))))

「料理へのストレートな向上心……底抜けの明るさ……あぁ嫉妬が止まらない……」

 にこにこ返すイアンの背後で、ミルコがじわっと負のオーラを漂わせた。


   凹凹†凹凹


「ノヴァ様。こちらのお席へどうぞ」
「うむ」

 ザラの案内で窓辺の席につき、ノヴァがちらりと横目で見上げる。

「わざわざ手紙をよこすだけのことはあると。期待していいんだろうな?」

 ミルコを正式に雇うと、ザラは彼にダイレクトメール的な招待状を送った。
 疑念を大いに含んだ視線を、微笑みで受ける。

「どうぞご自身の舌でお確かめになってください」
「ふん、言うじゃないか」

(彼は現時点で、顧客いち肥えまくった舌の持ち主。おそらくこのスペシャルランチの結果がそのまま、ビサイツィアでのうちの評価になる――)
(もちろん、満足させる自信があるから手紙を送ったんだけど)

 今回はスペシャルといってもコース料理ではない。ノヴァの訪問に備えてミルコ・イアンと作戦を練り、豪華なワンプレートにする案で落ち着いた。

(別名『美食家おセレブ様ランチ』。デザートも一気出しの一発勝負よ!)

 ノヴァのすぐそばの窓際に立つニコロがザラへ、口の動きだけで「がんばってくださいっす!」と声援を送る。彼にはのちほど冷えてもおいしい折詰を渡す予定だ。
 しっかり頷き返す。そこからは給仕に集中した。


「……なんだよ、これ」

 運ばれてきた大きな皿を眺め、ノヴァが憮然と眉をひそめた。

「一皿にてんこ盛りした工夫はいい。だが料理自体は、今までとたいして変わらないじゃないか! 僕を子どもと思って侮っているんじゃないだろうな!?」
「この城の評判を左右できるノヴァ様を侮るほど、恐れ知らずではございません」

(そう。見た目はこれまでと大差ないわ。見た目は)
 睨みつけても平然と返すザラに、じれたように荒っぽくフォークを掴む。

 ノヴァが皿の左上、こんもり丸く盛られたポテトサラダにフォークをつっこんだ。
 ほんのりピンク色なのを少しだけ怪訝に見てから、ばくっと口におさめる。

「……んんっ!!? こっくりとした深い味わい……口の中でプチプチ弾ける食感。これは……!?」
「塩漬けした魚卵を合わせました。ピンク色なのはそのためです」
(前世でいうところのタラモサラダみたいなものね)

 どこか呆然としたまま、無言でサラダを口に運ぶ。
 食べ終えると次は皿の右上あたりに添えた、季節野菜のマリネを味わった。

「……酢漬けを全部食べきったの、はじめてだ」
(うんうん。いつも皿のはじっこに残してたもんねー)

 苦手なはずの料理を、名残惜しそうにたいらげて。皿の中央、まだほのかに湯気を立ちのぼらせている、シンプルなハンバーグにナイフを入れた。
 一口サイズにしたそれを、ゆっくり口に入れて噛みしめる。

「……ーーっ~~~~っっっ!!!!?」
(わかる。もふダークゴッド手ごねハンバーグ。言葉にならないのよ)

 肉汁たっぷり旨みがっつり。口いっぱいに広がる、ミルコがこねた(狂)愛……。
 絶品ハンバーグに悶絶したノヴァが、目に涙をためて声を震わせた。


「ふえぇなにこれぇ……!! じゅわじゅわお肉にブラウン、いや濃厚ダークソースがしっとりからんで……!! やさしさに包みこまれるよおぉ~~~!!!!」
(常闇に抱かれてお眠りなさい……(おうちに帰ってから。))


 感涙にむせびながらパンを頬張り、「これ毎朝食べたい~」と呻き。
 残しておいたハンバーグ一切れを付け合わせと一緒にパンに挟んで、「これ毎日ニコロに取りに行かせる~~」「さすがに無理です坊ちゃん……」と断られ。

 プレートを見事に完食したあとは。
 スプーンに持ちかえ、足つきグラスに盛られたデザートを目の前に引きよせた。

「『イチから出直しプリン』でございます」
「? 珍妙な名前をつけたな。一見いつものカスタードプリンだが。これも僕の助言で招き入れた、新しいシェフが作ったんだろ?」

 わけ知り顔で言うノヴァに、ザラがゆっくり首を横に振る。

「――いいえ。こちらはとにかく明るい向上心を持った料理人が、たゆまぬ努力を続ける決意を表明するため、お作りしたものになります」
「え~~。元からいたあいつかぁ……」

 とたんに表情が冷める。イアン作と聞き、不満げにスプーンをぶらぶらさせた。

「どうか一口だけでもご賞味ください」
「ちっ。仕方ないな、一口だけだぞ」

 ザラに促され、しぶしぶプリンをひとかけすくって口に入れる。
 軽く咀嚼して飲みこみ――ふと目を瞬かせてから、もう一口。さらにもう一口。
 気付くとグラスはきれいに空になった。

「ん。まあ、悪くなかった」

 澄ましこんだぶっきらぼうな感想へ。ザラがその日一番の笑顔をみせた。

「料理人に伝えておきます」

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