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INTERVAL

クウネルトコロニ スムトコロ

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 商店街には、家族で経営している方が多い。それゆえに仕事というものの中に家族があり、家族という中に家の稼業がある。篠宮さんや、富田さんや、繁盛さんの所のように家族関係を積み上げながら仕事をしていっているお店ばかりである。そういった事情は良く分かる。しかし……。

 きちんと杜さんと澄さんと大人として向き合っていくためにも、二人に自立し成長したところを見せるためにも、近くにアパートを探そうとしていた。それに今現在いるのは、杜さんの家の客室を使っている。ベッドだけでなく、簡単に洋服を収納するクローゼット、テーブルセットもあるためにこの生活するには困りはしない。今までは就職するまでということで実家の部屋そのままで季節ごとに実家に荷物を取りに帰り、必要最低限の荷物で生活していた。
『就職したなら、もう大人だな。キッチリと家を出ろ。一か月以内にウチにあるお前の荷物を整理して捨てるなり持っていくなりどうかしろ!』
 両親に言われたこともあり、本格的にこの場所で生活する為に下宿先を探していたら、何故か滅茶苦茶二人から反対されてしまった。
「今の部屋が狭いからか? 確かに今後の事考えると狭いかもな。六階を改装して君の部屋にしよう! どうせ倉庫中心に使っていたしな」
「そうね、あの空間だったらユキくんの良い部屋になるわ! ベットルームだけじゃなくて、ちゃんとバスルームも必要ね。そしてユキくん用の書斎とあったら素敵♪ 簡易キッチンをもっとキチンとしたものにしたら彼女とか出来ても楽しく過ごせそう♪」
 二人が勝手に盛り上がっていっている。あの、部屋の話していましたよね? 書斎とかリビングとか、そういった話まで広がっている。
 Bar『黒猫』のある第一根小山ビルヂングは、一階から三階まではテナントになっているがそれより上は根小山夫婦のプライベート空間になっている。四階には広いアイランドキッチンのあるリビングライニングとワインセラー、杜さんの仕事部屋、客室。五階には二人の寝室と、書斎と、澄さんの趣味室と、プレイルーム等があり、六階には倉庫と、温室と屋上庭園がある。
 この空間のどこまでに人を招かれるかで二人のそのお客様への心の距離が分かる。銀行や保険の担当員といった人はリビングもしくは家にすら入れずに地下のBarで対応し、商店街の人は四階全体を解放され、紬さんや籐子さん雪さんとかいった澄さんと仲良くしている人は屋上庭園でお茶会していたりするようだ。杜さんは燗さんとプレイルームで将棋打ったり、酒飲んだりしているのを見たことがある。そして俺は身内で子供時代からよく遊びにきていた事もあり、唯一全ての空間に入り込んでも嫌がられない。彼らにとっては、俺はいつまでたっても、小さい子供に見えている所もあるのかもしれない。
「あの、そんな勿体ない事しなくて良いですから」
「いやいや、コレは就職祝いだから!」
 慌てて突っ走ろうとしている二人を止めようとするが、そんな言葉を返してくる。
「もうお二人からもう散々色々頂いたじゃないですか! それにそんな無駄使いしないで下さい」
 改装費用がどれくらいかかるのかと考えると怖くなる。こだわり屋の二人には中途半端とか適当という文字はない。
「無駄使いではない、我々にとって重要な投資だ」
 つまりは、将来的には、その空間を下宿としても使うつもりなのだろうか?
「 ……投資って…… 俺言いましたよね? あまり甘やかさないでくださいって」
 杜さんは険しい顔になる。
「籐子さんからも言われただろ、人にちゃんと甘える事を覚えろって!
 それにコレは甘やかしているのではない! 強い愛情をもって接しているだけだ!」
 そんな事を言われて、唖然とした意味で言い返せなくなる。籐子さんの言う『甘えなさい』というのはこういう事ではないと思うのだが ……。
「確かに俺と君は雇用主と社員だ、しかしそれ以前に親子なんだ。外ではそうでも、プライベートな空間では家族として楽しむ事を最優先に考えたら良い。そうだろ?
 それにコレは雇用主として、社員の住居を用意するのは当然な事だ」
 公私は別だと言いながらゴッチャに考えているように思えるのは俺だけなのだろうか? 
 結局暴走する二人を俺が止める事は不可能で、二人の住まいを二人の資産で改装するという事を止める権限は今の俺にはなかった。
 出来た事は雇用契約を見直して家賃と光熱費を毎月支払うように変更した事だけ。二人は不満そうだったが、世間一般の家族は就職したら、そうして親に家賃を払うのが普通で、それこそが健全な大人の家族関係だと説得してなんとかそこで折り合いをつけることになった。
 しかしあの超現実主義で就職決まったら即家から放り出す両親と、どこまでも甘く優しく子供扱いで接してくる根小山夫妻。俺は二組みの両極端な両親を持ってしまったようだ。
 六階の改装工事も着々と進む中、杜さんと澄さんは実家から送られてきた俺の荷物を楽し気に開けている。二人が今見ているのは俺の子供時代からの成績表、文集等の学生時代に作成した作品の数々。親はなんでそんなモノをシッカリ残していたのか……捨ててくれても良かったのに。幼稚園時代の前衛的とも思える動物の絵とか、青臭い事を言っている文集なんて後でみても恥ずかしいだけだ。
「あの、それは開けなくても。もう完全に必要ないし、捨てるだけので……」
 そう声かけると、二人は同時に顔を上げキッと俺を睨む。
「何言っているの! コレは透(ユキ)くんの大事な歴史の一ページなのよ! 大切にしないとダメ! 透くんがいらないというならば、私達がもらうから!」
 そういって、俺の黒というか青く恥ずかしい過去の遺物を取り上げられてしまった。この二人はコレをどうするつもりなのか? とも思う。
 後日それが店とかリビングに額装されて飾られているのを見て、俺は仰け反る事になるなんて知るはずもなかった。

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