愚者が描いた世界

白い黒猫

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~王子と剣~

2-6 <盤上の対話>

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 ナイジェルとテリーは今までの二人組とは違って、この場を楽しんでいる様子だ。
 「ところでテリー、チェスは得意なのか?」
  駒を並べながら、ナイジェルはテリーに気軽な様子で話しかけてくる。
 「昔、兄と遊んでいました。フリデリック様、チェスはお好きですか?」
  テリーは視線をフリデリックに向けて視線を向けてくる。
 「いえ、ルールを知っているくらいで、あまり遊んだことないのですよ。周りにもチェスする人がいない事もあって」
  いきなり話しかけられ、フリデリックはその美しい顔にドキドキしながらも丁寧に答える。
 「そうですか、チェスは面白いですよ。ゲーム自身も面白いのですが、人間観察もできて」
  テリーはフリデリックにニコっと微笑む。レジナルドとは、また違った華やかさをもった笑みに、フリデリックは顔を赤くする。
  整いすぎた顔は黙っていると、彫刻のように冷たい威圧感感じるものだが、逆に笑みを纏うだけ華やかな別の意味で印象深い空間を作り出す。
 「……観察?」
  フリデリックは、テリーの瞳を見つめながら聞き返す。どんな宝石よりも透き通っていて深い味わいのある色をした美しいその瞳から眼が離せなかった。
 「言葉ではなくて相手とチェス盤を介して対話できるのです。
  結構、性格が出るのですよ、チェスは。相手はどう物事を考え行動する人かとかもね」
  そう言って、ナイジェルの方を意味ありげな視線を投げる。
  ナイジェルはその視線をうけ苦笑する。
 「おいおい、お前はオブバーザーとして参加だから良いけど、そう言われるとフリデリック様と私がやりにくいでしょうに」
  クスクス笑いあう二人につられ、フリデリックも思わず笑ってしまう。今までの二人とは異なり、フリデリックも交えながら会話しながらする。このコンビとのチェスは楽しかった。 ここはこうしたら面白そうだといった感じで、対戦を楽しむというより、ゲームの流れを作って楽しんでいるという感じだった。
 「お二人は仲よいのですね」
  ナイジェルとテリーは顔を見合わせて困ったように笑う。
 「今までこういう風に、ゆっくり話す機会がなかなかなくて。今日ようやく会話ができた状態ですね」
  ナイジェルの言葉にフリデリックは驚く。
 「まあ、同じ戦闘に参加する機会が、今までありませんでしたしね、私のような新参者が、ナイジェル様程の方に話しかけるというのも出来ませんしね」
 「よくいうよ!」
  ナイジェルはそう言いながらチラリとレゴリスの方に眼をやってから、意味ありげにテリーに視線を戻す。テリーはフッと笑みをナイジェルに返す。今まで大した接点がなかった二人とも思えないほど、テンポのよい会話が交わされていく。
  二人の社交的な性格がなせる技なのだろうか?
  大勢いて個々の接点がなくても、バラムラスとレジナルドへの忠誠心をもち、想いを一つにしている王国軍に属する者だからこそ、通じ合える関係なのだろうか?
  フリデリックは感心してしまう。
  駒を動かしたナイジェルの顔が「あっ」という顔をする。
 「王子……」
  テリーがニヤッと笑い フリデリックを促す。フリデリックは、一見盲点に存在していたビショップでナイジェルのキングを追い詰める。そういう結果も含めて、二人が演出しているのは、流石のフリデリックでも理解している。しかし他の組の義理的な感じでゲームをしていたのとは異なり、彼ら自身も楽しんでいる。その事でフリデリックも素直に結果を素直に楽しめた。
  この二人と過ごす三十分が一番楽しく、あっという間に過ぎた時間だった。
 「いい機会だ、昇進祝いに今夜でも飲みに行くか」
 「ありがとうございます。喜んで行かせていただきます」
  フリデリックに挨拶を終え、楽しげな会話をしながら離れていく二人の後ろ姿を見つめる。
  次の組がやってきて駒を並べている間、フリデリックはまだテリーとナイジェルを目で追っていた。
  それぞれ他の連隊長と楽しげに話をしている。その視線は仲間に向けられフリデリックの方を眺めることはない。そのことに一抹の寂しさを覚える。
  このテーブルの周りでしか、誰も自分に話しかけてこない、自分は彼らにとっては空気にも等しい存在なのだろう。
  レジナルドがテリーに穏やかな笑みを浮かべ声をかけている。二人が親しげに会話を始める。同じ髪の色を持ち、同じ金の瞳をもつ二人が並ぶとため息がつくほど見事な光景がそこに作り上げられる。テリーは尊敬の瞳でレジナルドを見つめ、レジナルドもテリー信頼に満ちた愛おしげな顔で見つめ返している。
  従兄弟であるレジナルドと、この中で最も年齢が近いテリー。身近なはずの二人の姿がやけに遠くに感じた。いや、二人だけでない、ここにいる皆が、フリデリックには遠い世界の人に見えた。
  ふと視線を感じ振り返ると、ダンケがフリデリックを包み込むような瞳でコチラを見ていた。
  フリデリックはその視線に救われ、ホッと溜め息をつく。

    ※   ※   ※

 ウォルフは、手袋をした手で、一つのスケッチブックをテーブルの上に置く。
  そして静かにマルケスの前で、そのスケッチブックを広げる。

  紙も傷み、木炭も擦れてしまっているものの、そこには華奢でたおやかな美しい人物が現れる。
  瞳の色は、木炭で描かれた絵では分からないが、髪の色はどうやら明るいようだ。マルケスはその描かれている人物の美しさため息をつく。
  少年? 少女? 中性的な魅力をもったその人物は、真っ直ぐとマルケスを見つめ返す。
 「この美しい人物は、どなたですか?」
  マルケスが問うと、ウォルフは自慢げにニヤリと笑う。
 「テリー・コーバーグだ」
  その言葉にマルケスは目を見開く。
 「え? あの伝説の!」
  驚きながら、改めてその絵を見直すが、白鷺師団長までを勤めあげた伝説の英雄であるとは信じられない程、その絵の中の人物は美しくそして華奢だ。
  でも、良くみると軍服を着ていることを改めて気付く。
  『T・コーバーグ』は、金髪と藍色の瞳で金彩眼をもつことでアデレード九代目国王テオドールと近い容姿で、時代が近い事から混合される事も多いが、二人は別人である。
  華々しい活躍と多くの伝説のわりに、活躍していた時代が十年も満たない。アデレードの歴史に突如と現れ、忽然と姿を消した。
  しかも活躍とは裏腹に、その人生には謎が多い。その地上に舞い降りた天上の民とも言われる麗しい姿は、文章では残っているものの、正式な肖像画という形では一切残っていない。
 「テリー・コーバーグは、遺体もなければ墓もない。この国に残っているのは、伝説とこのフリデリック・ベックバードの描いた絵だけという事になるな」
  ウォルフの言葉に改めて、この擦れた絵が、歴史において深い意味をもつのかを思い知らされた。

  ★   ★   ★

~二章完~

 二章の主な登場人物
フリデリック・ベックハード
 アデレード王国の王子 十三歳 第一王位後継者
  後生の人に『フリ(愚か者)』の名で呼ばれる

 レジナルド・ベックハード
 アデレード王国の王弟子 二十六歳
  フリデリックの尊敬する従兄弟
  王国軍 金獅子師団師団長 上級大将 金彩眼をもつ
 第二王位後継者

ウィリアム・ベックバード
 アデレード王国の国王
  フリデリックの父親

エリザベス・ベックバード
 アデレード王国の姫
  フリデリックの姉 十八歳

バラムラス・ブルーム
 王国軍 元帥 公爵家

レゴリス・ブルーム
 王国軍 紫龍師団師団長 上級大将
  レジナルドの親友 バラムラスの息子

キリアン・バーソロミュー
 元老員議員 按察官 伯爵家 二十一歳

ダンケ・ヘッセン
 フリデリック王太子近衛隊長 二十九歳

グレゴリー・クロムウェル
 フリデリック王太子の史学の教師 侯爵家次男

ナイジェル・ラヴァティ 
 王国軍 第四連隊長

ガイル・ウィロウビー
王国軍 第二連隊長

Tテリー・コーバーグ
王国軍 第二十三連隊長
 金環眼をもつ少年
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