愚者が描いた世界

白い黒猫

文字の大きさ
16 / 51
~剣と誇り~

3-1 <近衛隊長の剣>

しおりを挟む
 ダンケに伴われ、近衛兵用の武器庫にやってきたフリデリックは、その光景の目を丸くする。
  様々な形状の剣が、所狭しと壁に飾れている。それらは武器であり、人を傷つけるための道具。その能力を最大限生かすべく、機能を追求した形状には、とてつもなく威圧感があった。
 「剣は、大きく長剣と短剣に分類されています」
  ダンケは説明を始める。
 「長剣は一般的な戦闘にメインで使うものであることに比べ、短剣は防御の為など補助的に使うものになります。」
  フリデリックは真剣な表情で壁に掛けられた剣を見つめ頷く。
 「私や、近衛がよく使っているのがコチラのスバタ。ショートソードの一種です」
  そういって、八十センチくらいの剣をダンケは示す。
 「え、こんなに大きくてショートソードなのですか!」
  ショートソードを、短剣くらいのサイズを想像していたフリデリックは、そのサイズに驚く。
  しきりに驚くフリデリックを見て、ダンケは笑う。
 「ショートソードは、もともと普通の剣の事を示す言葉なのですよ。
  騎兵の出現によって、馬上で戦うために、より長く大きい剣が生まれるようになりました。それがロングソードと呼ばれるようになり、それに対応して普通の剣を、総称してショートソードと呼ばれるようになったのです」
  フリデリックはその言葉聞いて首を傾けてしまう。
 「そうだったのですか……」
  おかしな話である。別に態々ショートと名前つけ直さなくてもよいのでは? と想うのはフリデリックだけだろうか。
 「現在、様々な場面で利用されている剣は、こちらにあるようなものですが……
 王子、パッと見て、ご興味をもたれたものありますか?」
  あまりにも禍々しい存在感を発した剣に対して、正直言うと興味という好奇心があまり沸いてこない。
  その中で細くて、優美なラインをもったものを見つけ「コレ?」と指さす。
 「そちらは……エストックといいまして、突く事を専門にした剣で戦場において鎧の間から相手を攻撃するというもので、やや特殊な使い方するものです」
 「たとえば コチラのバスタードソードです。王国軍の方がよく使われています。
レジナルド様やレゴリス殿が、使われているものはコチラです」
  フリデリックは二人がいつも腰に下げている剣を思い出してみる。
  レジナルドの方が幅広い感じで、レゴリスは長くて細めの剣を下げている。二人の剣はかなり形状が違うように感じた。
 「レジナルドお兄様と、レゴリス殿の剣って、同じ種類なのですか? ずいぶん形が違うように思えますが」
  あまり武器などに興味のないフリデリックの目からみても、その二つは同じ剣に見えなかった。
 「レジナルド様は、戦場で使われる事が多い事もあるのでしょうね。幅広いブロードソードに近い形状をしています。
  レゴリス殿は馬上で鋭く切り込んでいくために、スピードと切れ味を重視した結果あの形状になったのでしょう。
  お二人とも師団長ですので、馬上で戦う事を前提に、剣を作られているのでどちらにしても、長めですね」
  フリデリックは今まで気にもしてなかった、ダンケの腰に下がっている剣を改めて見つめる。
  派手な装飾といったものは無いが、その抑えた装飾、手になじみ良さそうな柔らかな曲線をもった柄の、ガッシリと厚みと重さを感じさせる剣。
  優しさと強さを併せもったその剣は、ダンケが持つのに相応しものに思えた。
 「ダンケの剣も、素敵な剣ですね。力強くてなんか暖かいそんな感じがします」
  ダンケはフリデリックの言葉を聞き、最初驚いた顔をしたが、クシャとした照れた顔で笑った。
 「ありがとうございます。剣を志すものにとっては、剣は相棒のような物だけに、褒められると嬉しいです」
  ダンケは、愛おしいげに剣の柄を撫でる。
 「剣を志した物は皆そうですが、自分の戦い方を見つけたらそれを形にするため、刀匠と供に試行錯誤しながら自分の剣を作ります。自分だけの剣を見つけ、唯一の剣をもつ。剣を志すものが一番に目指すべき所です」
  自分が剣をもつという以前の状態フリデリックには、まだまだ実感のわかない世界。しかしそういう剣を持ち、己に誇りもって生きているダンケを格好良く感じた。
 「王子も、自分の剣というのを持たれる日が、早く来ると良いですね」
 「はい!」
  暖かい笑顔で笑いかけるダンケの言葉、以前の自分だったら躊躇するであろう内容なのにフリデリックは、素直に本心から頷いた。


   ※   ※   ※

 『忠義の人』、歴史においてのダンケ・ヘッセンの印象はその一言。残されたどの文書においても真っ直ぐで誠実な彼の姿を読み取る事が出来る。
 『素晴らしい騎士だったかもしれないが、人を見る目はなかったようだ。彼の残念な所は、フリデリック・ベックバードに出会い、彼に忠義を尽くしたこと』とも揶揄られている。この様々な英雄が生まれた時代に、何故よりにもよって、フリデリック・ベックバードに仕えたのか? というのが彼の人生の最大の謎とも言われている。
フリデリック・ベックバードの絵に多く登場するダンケ・ヘッセン。どの時代の彼の絵を見ても、敬愛する君主に仕えることのできた幸せな騎士の顔がそこにある。描き手とモデルとの間に溢れんばかりの信頼と親愛の想いがそこには存在しているようで、他者の評価など関係なく二人にとってはその主従関係は幸せだったようだ。

                  ~ウォルフ・サクセン記~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...