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~巣の外の世界~
4-1 <剣をもつ意味>
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剣技の授業は、近衛兵の上級修練場にて行われることになった。
王国軍の修練場と異なり、近衛兵の上級修練場はサンドリア宮内にあることもあり華麗な装飾が解かされている。
代々サンドリアの方が王の住まう宮として建造されたこともあり、全体的に艶やかである。日向の存在としてのサンドリア宮殿、陰でそれを支える他の王族の住まうルイーザ宮殿。という事で、内装においても大きい格差がつけられている。
フリデリックは、初めての剣術の授業に緊張していてた。
金環の瞳の人物が、フリデリック王子の元にくるということで、見学にくるものも多いことが、その事がますますフリデリックの緊張を高めていた。王宮内であるために、入れる人間は限られてはいるものの両親に、宮内官である議員、バラムラスにレジナルドと、王宮で働く侍従や女官などだけでもかなりの人数になっている。
「コーバーグと申します。剣技の講師を拝命仕ることになりました。どうか、よろしくお願いいたします」
緊張の為堅い動きになっているフリデリックよりも、胸に手をやり優雅な仕草でお辞儀をするテリーの方が王族に相応しい風格があるようにも思える。
「王子、まず剣を抜いて構えて頂けますか?」
フリデリックは堅い表情で頷き、腰に下げた剣をつっかかりながらも抜き、真っ直ぐに両手で構える。
ダンケには基本的な所作を習っていたものの、こうも人が多いと緊張もする。構えた剣の先が震えているのが恥ずかしい。
テリー・コーバーグはその様子に、呆れを通り越して愕然としているようだ。
「……まず剣に慣れる所から、始めたほうが良いようですね。毎日どのくらいの時間剣を持たれていますか?」
フリデリックは間近で自分を見つめてくるテリーの瞳にますます緊張する。
「毎日は……週に二回くらいです」
テリー・コーバーグが毎日どんな修練を積んできているのかは、先日王国軍を訪れた時に垣間見ただけに恥ずかしくなる。
「剣を鞘に戻してみて下さい」
今度こそ恥ずかしくない所を見せようと思ったが、剣がなかなか鞘に収まらない。抜くときよりもさらにみっともない姿をさらしてしまった。流石に表だって笑う人はいないが、まわりに呆れている空気が漂う。
「これからは、毎日、今からお教えする基本の所作を、練習してください」
テリーは、フリデリックから十分距離をとり、フリデリックに『良いですか、見ていてください』と断る。そして剣を抜きそれを斜めに振り下ろしそれを左から右へ切るように動かし鞘へと収める。一連の流れには一切の澱みもなく舞の振り付けのように美しい。
「どうぞ、コレをやってみて下さい」
フリデリックは大きく深呼吸してから剣を抜こうとするがまずそこで突っかかってしまう。練習を見学しているギャラリーから苦笑する空気が伝わってくる。その気配にフリデリックはさらに緊張を高め、柄を握る手に力を込める。その様子にテリーはフッと優しい笑みを浮かべ、フリデリックのその腕にそって手を添える。
「緊張していたら、上手くいきませんよ。意識するから無駄な力が入っているから引っ掛かるのです。剣を鞘から解放させるような気持ちでやってみて下さい」
穏やかな海を思わせる深い藍色の瞳を見つめていると、心が不思議と落ち着いてくるのを感じた。その気配を察し、テリーはそっとフリデリックから離れる。
もう一同深呼吸をし、そしてフリデリックは剣に手をやり静かに抜く。先程の突っかかりが嘘のように綺麗に抜く事が出来た。嬉しくて弾けるような笑顔を、テリーに向ける。しかしテリーの曖昧な笑みに、喜ぶレベルではない事を思い出し恥ずかしくなる。
結局最初の授業はその動きを補正してもらいながらなんとか引っ掛からずに行うようになった所で修了した。情けない事に、剣のような重いものをもった事があまりないフリデリックにとってはそれでもかなりの運動で疲れ果てていた。
チェスをしたときとは違って、美しいけれど儀礼的な笑みしかみせてこないテリーの様子も気になる。驚くほど剣を使えない自分に呆れ果てているのだろう。
「王子、お疲れ様でした。如何でした身体を動かし運動するというのも気持ちよいでしょう?」
バラムラスが人の良い笑顔で近づいてくる。その言葉に、フリデリックは弱々しい笑いを返すことしか出来なかった。その後ろのレジナルドは笑ってもいない。失望させてしまったのだろうかと不安になる。
「フリッツ、他の人がどう思うかなど気にするな、何故剣を持ち学ぶのか単純に考えろ」
レジナルドは恐縮した様子のフリデリックに静かに語りかける。その言葉に、フリデリックはレジナルドの言葉を静かに考える。
(自分は何のために剣をとるのだ? 誰と闘うためというのか? 何を守るためなのか?)
フリデリックはそこで悩んでしまう。そもそも闘うという事の意味が分からない。
(何故闘わねばならぬ? 何のために?)
レジナルドはその様子に、小さく溜息をついた。そんな二人のやり取りをバラムラスは穏やかな笑みで見守る。テリーはその様子を伺いつつ、周りに静かに視線を巡らせ、その瞳を細める。
王国軍の修練場と異なり、近衛兵の上級修練場はサンドリア宮内にあることもあり華麗な装飾が解かされている。
代々サンドリアの方が王の住まう宮として建造されたこともあり、全体的に艶やかである。日向の存在としてのサンドリア宮殿、陰でそれを支える他の王族の住まうルイーザ宮殿。という事で、内装においても大きい格差がつけられている。
フリデリックは、初めての剣術の授業に緊張していてた。
金環の瞳の人物が、フリデリック王子の元にくるということで、見学にくるものも多いことが、その事がますますフリデリックの緊張を高めていた。王宮内であるために、入れる人間は限られてはいるものの両親に、宮内官である議員、バラムラスにレジナルドと、王宮で働く侍従や女官などだけでもかなりの人数になっている。
「コーバーグと申します。剣技の講師を拝命仕ることになりました。どうか、よろしくお願いいたします」
緊張の為堅い動きになっているフリデリックよりも、胸に手をやり優雅な仕草でお辞儀をするテリーの方が王族に相応しい風格があるようにも思える。
「王子、まず剣を抜いて構えて頂けますか?」
フリデリックは堅い表情で頷き、腰に下げた剣をつっかかりながらも抜き、真っ直ぐに両手で構える。
ダンケには基本的な所作を習っていたものの、こうも人が多いと緊張もする。構えた剣の先が震えているのが恥ずかしい。
テリー・コーバーグはその様子に、呆れを通り越して愕然としているようだ。
「……まず剣に慣れる所から、始めたほうが良いようですね。毎日どのくらいの時間剣を持たれていますか?」
フリデリックは間近で自分を見つめてくるテリーの瞳にますます緊張する。
「毎日は……週に二回くらいです」
テリー・コーバーグが毎日どんな修練を積んできているのかは、先日王国軍を訪れた時に垣間見ただけに恥ずかしくなる。
「剣を鞘に戻してみて下さい」
今度こそ恥ずかしくない所を見せようと思ったが、剣がなかなか鞘に収まらない。抜くときよりもさらにみっともない姿をさらしてしまった。流石に表だって笑う人はいないが、まわりに呆れている空気が漂う。
「これからは、毎日、今からお教えする基本の所作を、練習してください」
テリーは、フリデリックから十分距離をとり、フリデリックに『良いですか、見ていてください』と断る。そして剣を抜きそれを斜めに振り下ろしそれを左から右へ切るように動かし鞘へと収める。一連の流れには一切の澱みもなく舞の振り付けのように美しい。
「どうぞ、コレをやってみて下さい」
フリデリックは大きく深呼吸してから剣を抜こうとするがまずそこで突っかかってしまう。練習を見学しているギャラリーから苦笑する空気が伝わってくる。その気配にフリデリックはさらに緊張を高め、柄を握る手に力を込める。その様子にテリーはフッと優しい笑みを浮かべ、フリデリックのその腕にそって手を添える。
「緊張していたら、上手くいきませんよ。意識するから無駄な力が入っているから引っ掛かるのです。剣を鞘から解放させるような気持ちでやってみて下さい」
穏やかな海を思わせる深い藍色の瞳を見つめていると、心が不思議と落ち着いてくるのを感じた。その気配を察し、テリーはそっとフリデリックから離れる。
もう一同深呼吸をし、そしてフリデリックは剣に手をやり静かに抜く。先程の突っかかりが嘘のように綺麗に抜く事が出来た。嬉しくて弾けるような笑顔を、テリーに向ける。しかしテリーの曖昧な笑みに、喜ぶレベルではない事を思い出し恥ずかしくなる。
結局最初の授業はその動きを補正してもらいながらなんとか引っ掛からずに行うようになった所で修了した。情けない事に、剣のような重いものをもった事があまりないフリデリックにとってはそれでもかなりの運動で疲れ果てていた。
チェスをしたときとは違って、美しいけれど儀礼的な笑みしかみせてこないテリーの様子も気になる。驚くほど剣を使えない自分に呆れ果てているのだろう。
「王子、お疲れ様でした。如何でした身体を動かし運動するというのも気持ちよいでしょう?」
バラムラスが人の良い笑顔で近づいてくる。その言葉に、フリデリックは弱々しい笑いを返すことしか出来なかった。その後ろのレジナルドは笑ってもいない。失望させてしまったのだろうかと不安になる。
「フリッツ、他の人がどう思うかなど気にするな、何故剣を持ち学ぶのか単純に考えろ」
レジナルドは恐縮した様子のフリデリックに静かに語りかける。その言葉に、フリデリックはレジナルドの言葉を静かに考える。
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