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~見えてきたのは~
5-5 <踏み出した一歩>
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フリデリックが希望していた巡察の日程が決定したのは、意志を伝えたあの日から二週間程後の事だった。
王都から近いという事でヴォーデモン公爵領にて孤児院を訪問して、一泊し次の日は果樹園を見学するというスケジュールとなった。一週間前からその時の衣装合わせなど宮殿内でもその準備が行われ思った以上に大事になっている事にフリデリックも戸惑いを覚えるものの、泊まりで出かけるという事自体も初めてであることもあり、喜びと期待の方が多い。ようやく王族としての仕事が出来るという事がフリデリックの気持ちを奮い立たせる。しかしその事が思った以上に色々大変な事であるというのを行く前から思い知らされた。
大きい鍔の帽子に宝石と金糸が施された赤いビロードのプールボワンに、白のキュロットにマントとなんとも大仰な恰好に異を唱えたものの、王族たるものは人前に立つときはそれなりの装いをすることが皆への示しであり礼儀であると諭される。この巡察で出会う人に敬意をもって接する為にもこの恰好で頑張るしかないとフリデリックは溜息をつき諦めた。とはいえ胸幅を厚くみせる為に詰め物をしてあるプールボワンはなんと着心地が悪く、レースがふんだんに使われた絹のブラウスもフリデリックの首を刺激して落ち着かなくさせていた。着付けをした人が離れたタイミングでフリデリックは溜息をつき、ソッと侍女のマールに話しかける。
「あの、この恰好の私はなんか変に見えませんか?」
その質問にマールは少し困った顔で笑う。
「まあ、今はそういう恰好が貴族の間でも流行しているようなので、皆さんもそういう感じの装いをされています」
フリデリックは、母親がドレス着る為にウェストを心配になるほど締め付けていたり、身体が倍くらい大きくなったのではないかと思うくらいの膨らんだ肩のデザインのドレスを着ていたりしているのを思い出す。ファッションに気を使い着こなすというのも大変なようだ。
「どんな恰好しても、フリデリック殿下はフリデリック殿下です。いつもの笑顔でこれから会われる方とお話すれば、絶対伝わります貴方様の想いも。頑張って下さい」
一番共にいる時間が長く、心を許しているマールからのその言葉はフリデリックにとって強い心の支えとなる。
「ありがとうございます。頑張ります。
お土産何が良いですか?」
マールは明るい緑の瞳を見開く。
「お仕事ですので色々お忙しいでしょうに。そういう事はお気になさらずに、色々なお話を聞かせていただくのを楽しみにしています」
マールのニッコリとした笑顔でフリデリックは気負いや緊張が解けていくのを感じ、いつもの笑みを返す事ができた。その笑顔でマールも嬉しそうに笑う。いつもの穏やかな空気が二人の間に広がった。フリデリックはマールと話す事で落ち着きを取り戻し自分の目的を取り戻す事が出来た。
たった二日空けるだけなのだが、盛大に見送る宮殿内の人達に挨拶して、フリデリック人生初の旅行が始まる事になった。街の人は何事かと視線を向けている中、馬に乗った近衛兵の五十人に囲まれた華麗なデザインの馬車は首都アルバートを抜けていく。
街道へと進んだことでカーテンを開けて外を見る事が許される。殆ど出た事のない首都の外の風景をフリデリックは楽しむ。 馬車は車輪もよく、シートのクッションも効いている為が揺れも噂に聞くほど酷くもなく、快適なものだった。同行していた次女がお茶等の世話をしてくれたし、何より首都アルバートの外に広がる森や平原と次々装いをかえていく風景はフリデリックを夢中にさせた。秋色にそまっているだけに、より鮮やかなその光景にフリデリックは何度も小さい感嘆の声をあげる。向かいに座るクロムウェル公のそれぞれの場所に纏わる話も面白くヴォーデモン公爵領までの時間はあっという間だった。
領内にある絶景と言われるモルタナ湖畔にあるヴォーデモン公爵の別荘にまず案内され、そこで遅めの昼食を頂く事となった。ヴォーデモン公爵夫妻とその娘テリシアに歓迎され和やかな会食が始まる。婦人は榛色の豊かな髪に明るい緑色の瞳を持つ美しい女性だったが、夫同様ふくよかな身体が、見る人に美しさよりも威圧感を与える結果となっていた。その娘もテレシアは黒い髪に母親譲りの緑の瞳で愛らしい顔立ちをしていたが、平均よりもポッチャリとした身体が彼女を十六歳という年齢よりも幼く見せていた。また無邪気な様子でどこか必死な感じでフリデリックに話かけてくる感じがまた、彼女も淑女といくより少女のように子供っぽく見せていたのかもしれない。
昼食として出された食事はヤマシギのベリーソースかけに、ナッツやドライブフルーツをふんだんに使ったパンに、子羊のパイに、宝石のように輝く採れたてのフルーツ。内容もさることながらフリデリックとクロムウェル公、ヴォーデモン公爵ファミリーだけで頂くには明らかに量は多すぎた。すぐにお腹いっぱいになってしまいナイフとフォークを置いてしまったフリデリックとは異なり、他の四人のペースは止まらず口を喋る事、食べる事にフル活用され賑やかな昼食の時間は進んでいく。テラスから外を見るとそこには静かに水を称えたモルタナ湖の見事な風景が広がっている。しかしフリデリック以外は誰もその風景等の興味なんてないようだ。フリデリックとは異なり彼は既に何度も見ている見なれた風景画なのだろう。
フリデリックの気持ちは目の前風景を映しつつも、これから出会うであろう子供達、農場の人達らの事を想う。全てはここからなのだ。彼らと直に触れ合う事で見えて来るモノは何なのか? そして歩むべき道とは? そう思いながらテーブルに視線を戻すと、そこでは昼間から馳走とワインを楽しみ談笑する優雅な貴族らしい世界が広がっている。そこにいる人達のはしゃいで朗らかな姿を一人ただ静かに見つめていた。
王都から近いという事でヴォーデモン公爵領にて孤児院を訪問して、一泊し次の日は果樹園を見学するというスケジュールとなった。一週間前からその時の衣装合わせなど宮殿内でもその準備が行われ思った以上に大事になっている事にフリデリックも戸惑いを覚えるものの、泊まりで出かけるという事自体も初めてであることもあり、喜びと期待の方が多い。ようやく王族としての仕事が出来るという事がフリデリックの気持ちを奮い立たせる。しかしその事が思った以上に色々大変な事であるというのを行く前から思い知らされた。
大きい鍔の帽子に宝石と金糸が施された赤いビロードのプールボワンに、白のキュロットにマントとなんとも大仰な恰好に異を唱えたものの、王族たるものは人前に立つときはそれなりの装いをすることが皆への示しであり礼儀であると諭される。この巡察で出会う人に敬意をもって接する為にもこの恰好で頑張るしかないとフリデリックは溜息をつき諦めた。とはいえ胸幅を厚くみせる為に詰め物をしてあるプールボワンはなんと着心地が悪く、レースがふんだんに使われた絹のブラウスもフリデリックの首を刺激して落ち着かなくさせていた。着付けをした人が離れたタイミングでフリデリックは溜息をつき、ソッと侍女のマールに話しかける。
「あの、この恰好の私はなんか変に見えませんか?」
その質問にマールは少し困った顔で笑う。
「まあ、今はそういう恰好が貴族の間でも流行しているようなので、皆さんもそういう感じの装いをされています」
フリデリックは、母親がドレス着る為にウェストを心配になるほど締め付けていたり、身体が倍くらい大きくなったのではないかと思うくらいの膨らんだ肩のデザインのドレスを着ていたりしているのを思い出す。ファッションに気を使い着こなすというのも大変なようだ。
「どんな恰好しても、フリデリック殿下はフリデリック殿下です。いつもの笑顔でこれから会われる方とお話すれば、絶対伝わります貴方様の想いも。頑張って下さい」
一番共にいる時間が長く、心を許しているマールからのその言葉はフリデリックにとって強い心の支えとなる。
「ありがとうございます。頑張ります。
お土産何が良いですか?」
マールは明るい緑の瞳を見開く。
「お仕事ですので色々お忙しいでしょうに。そういう事はお気になさらずに、色々なお話を聞かせていただくのを楽しみにしています」
マールのニッコリとした笑顔でフリデリックは気負いや緊張が解けていくのを感じ、いつもの笑みを返す事ができた。その笑顔でマールも嬉しそうに笑う。いつもの穏やかな空気が二人の間に広がった。フリデリックはマールと話す事で落ち着きを取り戻し自分の目的を取り戻す事が出来た。
たった二日空けるだけなのだが、盛大に見送る宮殿内の人達に挨拶して、フリデリック人生初の旅行が始まる事になった。街の人は何事かと視線を向けている中、馬に乗った近衛兵の五十人に囲まれた華麗なデザインの馬車は首都アルバートを抜けていく。
街道へと進んだことでカーテンを開けて外を見る事が許される。殆ど出た事のない首都の外の風景をフリデリックは楽しむ。 馬車は車輪もよく、シートのクッションも効いている為が揺れも噂に聞くほど酷くもなく、快適なものだった。同行していた次女がお茶等の世話をしてくれたし、何より首都アルバートの外に広がる森や平原と次々装いをかえていく風景はフリデリックを夢中にさせた。秋色にそまっているだけに、より鮮やかなその光景にフリデリックは何度も小さい感嘆の声をあげる。向かいに座るクロムウェル公のそれぞれの場所に纏わる話も面白くヴォーデモン公爵領までの時間はあっという間だった。
領内にある絶景と言われるモルタナ湖畔にあるヴォーデモン公爵の別荘にまず案内され、そこで遅めの昼食を頂く事となった。ヴォーデモン公爵夫妻とその娘テリシアに歓迎され和やかな会食が始まる。婦人は榛色の豊かな髪に明るい緑色の瞳を持つ美しい女性だったが、夫同様ふくよかな身体が、見る人に美しさよりも威圧感を与える結果となっていた。その娘もテレシアは黒い髪に母親譲りの緑の瞳で愛らしい顔立ちをしていたが、平均よりもポッチャリとした身体が彼女を十六歳という年齢よりも幼く見せていた。また無邪気な様子でどこか必死な感じでフリデリックに話かけてくる感じがまた、彼女も淑女といくより少女のように子供っぽく見せていたのかもしれない。
昼食として出された食事はヤマシギのベリーソースかけに、ナッツやドライブフルーツをふんだんに使ったパンに、子羊のパイに、宝石のように輝く採れたてのフルーツ。内容もさることながらフリデリックとクロムウェル公、ヴォーデモン公爵ファミリーだけで頂くには明らかに量は多すぎた。すぐにお腹いっぱいになってしまいナイフとフォークを置いてしまったフリデリックとは異なり、他の四人のペースは止まらず口を喋る事、食べる事にフル活用され賑やかな昼食の時間は進んでいく。テラスから外を見るとそこには静かに水を称えたモルタナ湖の見事な風景が広がっている。しかしフリデリック以外は誰もその風景等の興味なんてないようだ。フリデリックとは異なり彼は既に何度も見ている見なれた風景画なのだろう。
フリデリックの気持ちは目の前風景を映しつつも、これから出会うであろう子供達、農場の人達らの事を想う。全てはここからなのだ。彼らと直に触れ合う事で見えて来るモノは何なのか? そして歩むべき道とは? そう思いながらテーブルに視線を戻すと、そこでは昼間から馳走とワインを楽しみ談笑する優雅な貴族らしい世界が広がっている。そこにいる人達のはしゃいで朗らかな姿を一人ただ静かに見つめていた。
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