2 / 51
~風が吹く時~
1-1 <嵐の予感>
しおりを挟む
一級品に出会うには、王国アデレードの王都アルバードに行けばよい。
レゴナ川の周辺に広がる肥沃な大地と多くの鉱山が生み出す富が国に活気を与えており、その活気が人を呼ぶ。
著名な学者、芸術家、建築家等、有能な者が世界中から集うのがこの都市である。
壮麗と称される王都アルバード自体が、その豊富な人材の才能の結晶なのだ。
その中央にある王宮は、東側はサンドリア宮、西側はルイーザ宮と呼び、双子の女神の名を持つ。遠目では似た外観のようで、サンドリア宮は太陽と青空と雲の、ルイーザ宮は星や月の装飾が施され、二つで天空を表現している。そして王宮を囲むように作られた軍司令部には山と川、司法地区には果実をもった樹木、城下町は大地ということでそよぐ麦畑や咲き誇る花等の装飾が施されている。つまり王都アルバード全体で宇宙を表現しているのだ。
天上の都と称されるのもそれ故である。
手入れの行き届いたサンドリア宮の庭園で一人の少年が、アルバードの春を楽しんでいた。
蜂蜜色の髪に白い粉を吹き瑞々しく熟した葡萄色の瞳をもつ少年。顔はそれなりに整っているものの、繊細そうな華奢な身体と、人柄の良さがそのまま表れた温順な表情が、人物全体の印象をぼんやりとしたものにしているのが残念な所。純粋さや、あどけなさが彼を十三歳という年齢よりさらに幼く見せる。
彼の名前はフリデリック・ベックバード。アデレード国の王子である。
礼儀正しく、王族の品と謙虚さをもった彼は王宮内の誰からも愛されていた。
聡明で純真な上、勉学に真率に取り込む姿は教授達からも好まれた。
また、素晴らしい絵の才能をもっており、師匠である著名な画家も、その能力を高く評価していた。
手入れの行き届いたサンドリア宮の庭園で、フリデリックは朝咲いたばかりの薔薇を眺めながら、真剣な表情でキャンバスの上に写しとる。彼の筆が進むにつれ、春の日の中で輝く美しい庭園の風景が、キャンバスの中にも瑞々しく広がっていく。
その様子を侍女のマールは、ため息を付きながら見守っていた。
フリデリックにとって、静かにキャンパスに向かい、この素晴らしい庭園で季節と向き合う一時は至福の時間。最も彼が彼らしく過ごせる時間でもあった。
そんな穏やかな時間を破るように、遠くから鐘の音がする。
「フリデリック様、凱旋式の準備をそろそろされたほうが宜しいかと」
つい夢中で絵を眺めていたマールがハッと我に返り、フリデリックにそっと次の予定が迫って来たことを伝える。そして周りを窺い悪戯っぽい顔になりマールは小声でさらに言葉を続ける。
「実はクッキー焼いてまいりました」
子供らしく、フワリとフリデリックは笑う
「それは素敵ですね、凱旋式の後でお茶の時に頂きましょう」
王族に毒味もなく個人的に食べ物を持ってくる事は勿論禁止事項であるが、家族より長い時間を過ごしている彼女は、姉以上にフリデリックにとって親しい存在である。二人はこうして長い期間共犯関係を続けている。フリデリックはマールに嬉しそうな笑顔を返す。
優しいフリデリックの笑みににマールもつられるように微笑む。庭園になんとも穏やかで平和な空気が流れる。庭園がというよりフリデリックの纏う空気はいつもそんな感じだ。穏やかな笑顔で、優しい言葉で周りにいる人を幸せにする。フリデリックはそんな少年だった。
この少年が、後世の人達に、愚か者の意味をある『フリ』の名で呼ばれる事になる、フリデリック・ベックバードその人である。
その事を知るよしもないフリデリックは、画材を片付け、凱旋式の準備をするために庭園を後にする。
レゴナ川の周辺に広がる肥沃な大地と多くの鉱山が生み出す富が国に活気を与えており、その活気が人を呼ぶ。
著名な学者、芸術家、建築家等、有能な者が世界中から集うのがこの都市である。
壮麗と称される王都アルバード自体が、その豊富な人材の才能の結晶なのだ。
その中央にある王宮は、東側はサンドリア宮、西側はルイーザ宮と呼び、双子の女神の名を持つ。遠目では似た外観のようで、サンドリア宮は太陽と青空と雲の、ルイーザ宮は星や月の装飾が施され、二つで天空を表現している。そして王宮を囲むように作られた軍司令部には山と川、司法地区には果実をもった樹木、城下町は大地ということでそよぐ麦畑や咲き誇る花等の装飾が施されている。つまり王都アルバード全体で宇宙を表現しているのだ。
天上の都と称されるのもそれ故である。
手入れの行き届いたサンドリア宮の庭園で一人の少年が、アルバードの春を楽しんでいた。
蜂蜜色の髪に白い粉を吹き瑞々しく熟した葡萄色の瞳をもつ少年。顔はそれなりに整っているものの、繊細そうな華奢な身体と、人柄の良さがそのまま表れた温順な表情が、人物全体の印象をぼんやりとしたものにしているのが残念な所。純粋さや、あどけなさが彼を十三歳という年齢よりさらに幼く見せる。
彼の名前はフリデリック・ベックバード。アデレード国の王子である。
礼儀正しく、王族の品と謙虚さをもった彼は王宮内の誰からも愛されていた。
聡明で純真な上、勉学に真率に取り込む姿は教授達からも好まれた。
また、素晴らしい絵の才能をもっており、師匠である著名な画家も、その能力を高く評価していた。
手入れの行き届いたサンドリア宮の庭園で、フリデリックは朝咲いたばかりの薔薇を眺めながら、真剣な表情でキャンバスの上に写しとる。彼の筆が進むにつれ、春の日の中で輝く美しい庭園の風景が、キャンバスの中にも瑞々しく広がっていく。
その様子を侍女のマールは、ため息を付きながら見守っていた。
フリデリックにとって、静かにキャンパスに向かい、この素晴らしい庭園で季節と向き合う一時は至福の時間。最も彼が彼らしく過ごせる時間でもあった。
そんな穏やかな時間を破るように、遠くから鐘の音がする。
「フリデリック様、凱旋式の準備をそろそろされたほうが宜しいかと」
つい夢中で絵を眺めていたマールがハッと我に返り、フリデリックにそっと次の予定が迫って来たことを伝える。そして周りを窺い悪戯っぽい顔になりマールは小声でさらに言葉を続ける。
「実はクッキー焼いてまいりました」
子供らしく、フワリとフリデリックは笑う
「それは素敵ですね、凱旋式の後でお茶の時に頂きましょう」
王族に毒味もなく個人的に食べ物を持ってくる事は勿論禁止事項であるが、家族より長い時間を過ごしている彼女は、姉以上にフリデリックにとって親しい存在である。二人はこうして長い期間共犯関係を続けている。フリデリックはマールに嬉しそうな笑顔を返す。
優しいフリデリックの笑みににマールもつられるように微笑む。庭園になんとも穏やかで平和な空気が流れる。庭園がというよりフリデリックの纏う空気はいつもそんな感じだ。穏やかな笑顔で、優しい言葉で周りにいる人を幸せにする。フリデリックはそんな少年だった。
この少年が、後世の人達に、愚か者の意味をある『フリ』の名で呼ばれる事になる、フリデリック・ベックバードその人である。
その事を知るよしもないフリデリックは、画材を片付け、凱旋式の準備をするために庭園を後にする。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる