優しくて美しい世界

白い黒猫

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浮かび上がってくる現実

残酷な刻

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「センセイ……っ!」

 期待を込めて振り向いて、相手の姿を視認し私の身体は恐怖に震える。

「おおっ怖っつ。いきなり飛びついてくるなんて」

 黒いメタル系な図柄のTシャツに黒いダメージジーンズ。無造作ヘアで野生的な精悍な顔立ちの男が、嫌な笑みを浮かべ見下ろしている。

 私が世界で一番嫌悪し、怖い存在である十一残刻が何故かここにいた。しかもコイツは……
「何故……。アンタは死んだ筈」
 私の言葉を十一残刻は鼻で笑う。確か数年前に事故で死んだと、ニュースになっていた。
「俺が死んだ?
 だから、また渉夢にフラフラ近づいてきたと? 俺は渉夢の優秀なるガーディアンだぞ。そう簡単にくたばるかよ!」
 刑務所のテレビのニュースで心肺停止で死亡したと聞いたような気がしていたが、それは私の願望が見せた幻だったのだろうか?
 今、その彼が、確かな存在感を持って私の前にいる。
「俺は言ったよな? 二度と渉夢に近づくな、見るな、声にも出すなと」
 目を細め私を見詰めてくる。私は震えながら顔を横にフルフルと振る。
「いや、違うの。でも……」
 距離を取りたくて後退るが壁にぶつかる。
 大人がすれ違うのがやっとな幅の通路な為に距離が思ったより広がらない。
 逆に私の行動は湾曲した内側に自分嵌め込んだことで逃げにくい状況に自分を追い込んでしまっていた。
「ま、いいか、お前はもう二度と渉夢とは巡り会えないから」
 もしかして私は殺されるのか? 身体がガタガタ震える。
「やめて! 私とセンセイは真剣に愛し合っているの! だから認めて! 邪魔しないで……」
 必死に訴える事にしたが、何故か十一残刻は私を呆れたように見てくる。そして思いっきり顔を顰めた。
「ホント、キモいな。流石の俺もひくわ……。
 どこをどうしたら、アンタと渉夢は付き合っている事になるんだ?」

 センセイは私に微笑んでくれた……一緒に喫茶店でプリンを食べたりもした……

「そもそも二人っきりで話した事もないだろ? アンタがただただしつこく付き纏っていただけ……」

 観葉植物越しに見える隣のテーブルに座るセンセイと……チガウ……前に座っていたのは……私ではなく……。

 でも……でも……共同アトリエでは絵について色々語り合い……

「ち、違う!」
 私は十一残刻の言葉を必死に否定する。

 …………デッサンしている私の後ろで、センセイのアドバイスを受ける神道龍一。
    私はその会話を聴きながらスマホのカメラでセンセイの姿が撮れているか確認している……。
      センセイは私の方を見ることもしない…………。

「寧ろ渉夢はアンタの事嫌ってるし、怒ってる……」

  ……ラウンジで手作り弁当を食べた……

「そんな訳ない!」

 ……私の斜め前のテーブルで秘書であるあの女と弁当を食べるセンセイ……笑い合う二人。

 十一残刻の顔が怒りで歪む。
「元々、渉夢は礼儀知らずの人間は嫌う。
 それに加え、大切な俺達の仲間を傷付けたアンタを許せる訳ないだろ!
 優しいアイツだけに滅茶苦茶怒ってるさ! 俺も、友人の樹里を怪我させたのは許せない!」
 私は顔をブルブルと顔を横に振る。
 階段の上から、私は血を流し倒れている眞邉樹里を笑いながら見下ろしている光景を想い出す。
 センセイが駆け寄り、眞邉樹里を抱き締める。
 血で服が汚れるのも気にせずに。
 そして私を怒りに満ちた目で睨みつけてきた……。

「でも、もう終わり。アンタは死んだから。
 渉夢に永遠に関わる事も出来なくなっているから安心だな」

 耳をふさいでいても、間近にいる十一残刻の言葉を防ぐ事なんて出来る筈も無い。
 私はその言葉に驚き眼を開ける。
 近くに嘲るでも怒るでもなく真面目な顔をした十一残刻の顔がある。
「な、何を言っているの?」
「なぁ、教えてくれないか?」
 十一残刻はニコリと彼にしては優しく嗤う。

「アンタ、どうやって死んだ?」

「私……死んでない……生きてる」
 必死に比定する私に十一残刻は手をユックリと振り上げる。殴られると思ったか衝動がこない。恐る恐る目を開けるとまだ振り下ろされてない。
「なら何故アンタは俺に触れられない?」
 十一残刻の手はゆっくりと私の顔に近付き撫でるように動くが何の感触もない。私の顔を、脳を、捏ねるように食い込む位置で大きな手を動かすが私は何も感じない。まるでここに私など居ないかのように十一残刻は手を動かしているだけ。
「なんで、ずっと七月十一日という日を繰り返している? 夏以外の季節もうとうの昔に感じなくなってんだろ?」
「ちが……そんな……違……」
 否定する証拠を示そうとするが。私の記憶は彼の言葉を肯定する要素しかない。

 事件レベルの事を仕出かしても朝が来たら何も無かったように振舞ってくる家族。
 殺しても夜が明けたら生き返る父親。
 事故で一緒に死んだ筈なのに次の日には何も無かったように話しかけてくる兄……。
 変わり映えしないというレベルを超えて、出されるご飯が同じだったこと。
 いくら使っても減らず自由に使えるへそくり。
 何故バアバの足の捻挫はずっと治らない?
 何故出荷してもしても野菜は元通りになっている?
 ずっと降らない雨。でも家族は慌ててない。

 何故、夏が終わらない?

「そろそろ11時11分だな。
 お前が死んだ時間だ」

 残刻の声が【永遠の幽囚】中で響く。

「お前は何処で、どのように無様に死んだ?
 罪深いお前の事だ。さぞ無意味に、そして哀れな死に方したんだろうな。
 教えてくれよ……俺に……お前が何処で、どのように死んだのか……」

 私は叫ぶ。蘇ってきた悍ましい記憶を振り払うように。
 恐怖で叫びながら逃げ惑う子供たちの声。
 呆然と見つめる私の前で竜巻は練り動いている。私は恐怖から立ち竦み目を閉じ耳を塞ぐ。
 そんな時に身体に激しい衝動が走り視界が真っ赤になるのを感じた。
 目を開けると何故か私は血だらけだった。身体によく分からない破片が複数刺さっている。
 其れを抜かないとと、手を動かそうするが右手が何故かなかった。
 その事に驚いていたら、何か激しい光に包まれた気がした。それと同時にナイフのような何かが私の頭に突き刺さった。

「……で……竜巻で……私は……死んだ?」

 私の言葉を聞きながらウンウンと十一残刻は頷く。

「霜月小学校で……お前は……竜巻に巻き込まれて……ボロボロになりながら死んだ……。
 それが真実か? どうだ?」

 私の言葉の断片を繋げて十一残刻は、真実を告げてくる。私は力無く頷く。

「それがお前の罪の結果だ……果てなき無間地獄でもがき苦しみ続けるのが。悔いて嘆き続けろ永遠に……」
 十一残刻は他にも言ったようだが、私の耳には入っていても、意味のある言語として届かなかった。

 気が付くと十一残刻の姿も見えない。
 混乱していた私には、彼が消えたのか去ったのかも分からない。
 そして座り込む自分の姿に囲まれながら、ただ呆けているしかなかった。
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