希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫

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「何でも好きなのを頼んで!」
 駅ビルの喫茶店にて凛さんはメニューを見ながらそう言ったが、ウェイトレスが来たら勝手にコーヒー二杯にピザトーストにホットドックにサラダにケーキと色々頼んでしまった。二人分と思ったが凛さんはコーヒーだけで残りは全て俺用だったようだ。
 俺はテーブルの下でコッソリ透さんに、凛さんと喫茶店にいる事を報告しておいた。
「で、透の彼女ってどんな女?」
 お店で落ちついた所で、聞いてくる事はやはりソコ。天気や凛さん自身の話をして時間稼ごうと思ったが、そんな話をする気もないのだろう。となると澤山さんの良い情報を出来る限り与えるしかない。
「小柄なせいかもしれませんが、透さんより年上という感じが全くなくて可愛らしい方で、お似合いな感じですよ」
 凛さんの頬が、お似合いという言葉にピクリと震える。怖いよ!
「つまりは子供っぽくて、頼りない子って事?」
 何でそう言葉を曲解するのか……。
「いえ、この商店街一人できて、お店をシッカリ切り盛りしていますから、そんな事ないですよ! まだ来て間もないというのに商店街にもすっかり溶け込んで交流しているみたいですし。その商店街の仕事を一緒にしている内に二人は仲良くなっていったみたいです。
 商店街の皆も、微笑ましく見守っている素敵なカップルなんですよ!」
 そう言うと、考え込むように黙り込む。
「どっちから、アタックしたの?」
 そんなの知る訳ない。
「お二人ともシャイな方だからそれは分かりませんが、俺が見た感じでは、透さんがすごく気にされて構って、澤山さんは少し戸惑われていたけどそれを受け入れてというふうに見えました」
 どちらともなく好きですオーラ全開の二人だけど、そう言っておく。透さんが強く想っている相手という印象を強くしておいた方が良い気がしたから。
「それに、透さんは澤山さんといる時、とても幸せそうなんですよ。
 お姉さんはそれでも反対なんですか? 透さんの幸せ壊したいんですか? ーー」
 説得にもなっていない俺の言葉に腕を組んで黙り込む凛さん。澤山さんの事話すより、透さんの幸せなという方面から俺は凛さんに訴える事にする。第一、色々語る程澤山さんを知らない。
 しかし何も反応返さない相手に語る言葉も尽きてくる。間も持たなくなってきたのでピザトースト等を頬張る。実際お腹も空いていたし、こんな面倒に巻き込んでいるのだから、ご馳走になって当然だろう。
 すると今度は食べている俺をジーと見つめてくる凛さんの瞳が気になってくる。黒目がちの大きな瞳だけに視線が分かり易い。俺が顔を上げたことで目が合うと俺を見つめたまま顔を傾け、口を開く。
「それで足りる? もっと何か頼もうか?」
 先程の待ち合わせ場所で会った時もそうだけど、我侭なようで突然コチラに気をかけてくる発言もしてくるところが戸惑う。
「じゅ、十分です!」
 少し動揺した俺を黒い瞳が見つめてくる。なんて瞳なんだろう。吸い込まれそうな妙な気持ちになる。
「ホントに? 遠慮しないでよ! 迷惑かけているのはコチラなんだから!」
 迷惑かけているのは理解していたんだ……。透さんも天然だけど、凜さんも何処か天然だ。構えているとこう言う可愛らしい面を見せてきて、なんか調子狂う。
「いえ、なんかこんな豪勢な朝食ご馳走になってしまって……却って申し訳ないというか」
 俺がそういうとニカリと笑う。顔立ちと全くあってない笑みだけど、これはこれで凜さんらしくて素敵な笑顔なのかもしれない。女の子の男に対して見せる装った笑みでなく、素のままの凛さんの感情がストレートに現れた表情。そう言う意味では分かり易い人だ。
「何、水臭い事言ってるの! 私がコレだけ我侭言っているんだから、貴方も甘えてよ! でないと不公平でしょ?」
 理性的に考えれば、凛さんが俺にかけた迷惑さはモーニング奢ったくらいでは相殺できないくらいのものだけど、俺は何かその言葉に頷き笑ってしまった。二人顔合わせて笑いあい平和な空気が流れるが、凛さんが笑みをスっと引き口にした言葉で俺は、非常に困った問題を思い出す。
「食べ終わった?
 もう十時超えたし、行きましょうか!」
 しまった、だったらお腹いっぱいでも、もう一品何か注文しておいた方が良かったと後悔する。引き留めようとしたが凛さんは伝票を手にサッサと立ち上がり歩き出してしまう。
 携帯を確認しても透さんからの連絡はなし、まだキーボくんなのだろう。
 お店の外まで追いかけて、その腕を掴む。
「あの、確認なんですが、何しにいくんですか?」
 凛さんはキョトンと俺を見上げてくる。
「何って、相手の女見に行くに決まってるでしょ?」
「……見るだけ?」
 俺の質問に思いっきり眉を寄せる。
「それだけじゃ、何も分からないじゃない、その女の事!
 勿論会話もするわよ!」
 それは危険過ぎる。
「まさか、喧嘩売りに行くつもりですか!」
 その言葉に、ウッと黙り込む。そして俺の視線から目を逸らす。
「今日はしないわよ」
 『今日は』って……。いや、喧嘩を今日売りそうだ。絶対に。どうする? 何か時間稼がないといけない。視線を素早く周りへ走らせる。
『帰省土産に××のお饅頭』
 そういう文字が目に入った。
「…………………………手ぶらで行くつもりですか?」
 凛さんは『エッ?』と言って俺を見上げてくる。
「………………だって、弟さんの仕事の仲間で、いつもお世話になっている方に会いに行くんですよ?
 …………手土産は必要ですよね?」
 凛さんは目を見開いたまま俺を見つめている。そりゃそうだろう、殴り込みかけようもする相手に菓子折りなんて持って行く筈がない。
「…………え? いる?!」
 こうなれば自棄である。
「要りますよ!! しかも黒猫のお得意さまでもあるですよ!
 俺は買います! 買ってから行かせてもらいます!
 上司の大切な人を訪ねるのに、そんな失礼できませんから!!」
 凛さんは、納得は出来ていないようだが、俺はデパートの食料品売り場へと勝手に歩きだす。首を傾げながら凜さんも後をついてきて少しホッとした。

 しかしそれも大して時間稼ぎにもならなかった。決断力が異様に高い凛さんは、さっさと俺と自分のおもたせを、別のお店のを選び購入してしまう。そして包みの一つを俺に手渡し『もう文句はないわよね?』と言わんばかりに商店街の方へと歩き出してしまった。
 ヤバい、もう引き留める口実もない! 花屋さんが目にはいったが、さらにお花も買いませんか? なんて事までは流石に言えない。俺は気合い十分で勇ましく歩く凜さんを追いかけるしかなかった。

※   ※   ※

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