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お城奪還編
第31話 助ける理由
しおりを挟む「日が暮れる前に、買い物に行きたいんだけど…… 良いかな?」
午前中の悪天候とは打って変わり、午後は少し風が強いながらも出掛けるには最適な天候。
十数人分の食料となると、昼餉の分だけで無くなってしまうと考えたレイ。
馬車に換金用の玉鋼を詰め込み、シナモンとアルと共に近くのマリノ村まで行こうと提案する。
「もちろん、私は構わないのです!」
自信満々に言うシナモンを他所に、少し面倒臭そうな様子のアル。
「良いけど…… お前は追われてる身だから、留守番じゃないの?」
少し意地悪な質問を、シナモンへとぶつけるアル。
その言葉を聞いたシナモンは、少し不満げな様子を見せていた。
「何言うです。 商売の玄人である私が行かないで、誰が行くというのです!」
「そっか! じゃお前とレイで行けば良いじゃん」
シナモンの発言を聞いてアルは、待ってましたと言わんばかりに返答する。
そのアルの言葉を聞いて、レイはジトッとした目でアルを睨みつける。
「アーールーー? そういう事言うなら、晩ご飯抜きだけど…… 良いのかな?」
「……はぃ。 行きます……」
レイの言葉に絶対服従なアルは、渋々ながら了承した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
出発の準備が整うとシナモンは、トタトタと旧アストリナ貴族達が居る集会場へと向かう。
「ちょっと食料を調達してくるのです。 少しお待ち下さいなのです!」
そう告げペコリと会釈をすると、またトタトタとレイ達の元へとやってきた。
「バッチリなのです! さぁ、出発するですよ」
意気揚々と馬車の荷台に乗り込むシナモン。
レイとアルは馬の手綱を握りながら、徒歩で村へと向かう事になった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
村へ向かう道中。
アルは何気なく、レイへ問いかけた。
「なぁ。 何で、シナモン達に協力しようって思ったんだ? 絶対、金じゃないだろ?」
レイが金貨三万枚に魅了されていたのは、アルも承知していた。
しかし、そんな話を聞く前からレイは、シナモン達に協力しようとしていたのも事実。
「まぁ、お姉ちゃん達のお願いって理由もあるんだけどさっ! 何ていうか……」
レイは、自分の言いたい事が上手く纏められず、小声で「うーん……」と唸っていた。
そして考えが纏まったのか、少し言葉を選ぶようにアルヘと話を続けた。
「私って物心ついた時から、お姉ちゃんと二人きりだったんだけど……」
「あぁ。 みたいだな」
「正直、結構生活も大変だし、頼れる知り合いも居なくてさ」
アルはバレリアから、そういった内容の話を聞いていた事を思い出す。
(事情とかって、あんまり聞かない方が良いよなぁ……)
アルはチラッとレイに視線を送りつつ、静かに「うんうん」と頷いていた。
「そんな時、ワンちゃんが来て色々と助けてもらって。 すっごく嬉しかったの」
レイは思い出すように時折、空を見上げつつ話を続ける。
「私はずっとあそこで暮らしてて、友達とかも一人も居なかったからさ」
少し寂しそうな表情で話すレイ。
しかし、その寂しそうな表情が少しだけ明るく変わっていく。
「だから、困ってる人が居たら出来るだけの事、してあげたいの。 お姉ちゃんやワンちゃんが、私にしてくれたみたいにね!」
そう言いながらレイは、笑顔のままアルへと視線を向ける。
「まぁ、そのおかげでアルも行き倒れにならなかったんだし! 感謝してよ?」
「えっ? あぁ。 そりゃ感謝してるよ。 ありがと」
レイの笑顔に、少し照れたような表情に変わるアル。
そんなアルの表情を満足そうに見つめながら、レイは話を続けた。
「お姉ちゃんとワンちゃんが居なくなって、正直、かなり寂しかったけど……」
レイは再度、少しだけ寂しそうな様子を見せた後、僅かに口角が上がっていく。
「けど、アル。 それに今日シナモンちゃんが来てくれてさ! 何か楽しいっていうか」
「まぁ…… あのガキはちょっと、こましゃくれてるけどな……」
アルは後ろの馬車の方へと視線を向けつつ、小さな声で呟く。
「あははっ。 でも、可愛いじゃん! あの貴族の人達とも、仲良く出来たらいいなぁ」
レイは少しご機嫌な様子で、アルへと話しかける。
二人の話す会話は、無言のまま馬車の荷台に座るシナモンの耳にも届いていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
レイ達一行と玉鋼を積んだ馬車が、マリノ村へと到着する。
数日前、レイとバレリアが来た時よりも人通りは疎らだが、少し慌ただしさも感じられる。
「何かあったのかな? 前は、こんな感じじゃなかったけど……」
小さいながらも活気のあった村一番の通りは、以前であれば露天や行商人が多く見られた。
しかし、現在はまだ正午過ぎだというのに、そういった露天商達の姿は見当たらない。
「そうなのか? でも何か、あそこは人が多く集まってるみたいだけど」
アルは、大通りの隅に出来た人集りを指差す。
大勢の人が集まるその場所では、人々がガヤガヤと声を荒らげていた。
すると、馬車から降りてきたシナモンが、レイ達へ声をかける。
「ちょっと私が見てくるですから。 レイ様は待ってて欲しいですよ」
「えっ? シナモンちゃん一人で、大丈夫なの?」
「任せるですよ! 私はちゃんと、レイ様のお役に立つですから!」
シナモンはそう言うと、してやった的なドヤ顔をアルへと向ける。
「クッ…… ウゼェ……」
アルは小声で呟きながらも、シナモンへ声をかける。
「レイ様はって…… 俺は? 一緒に行ってやろうか?」
「アルさんは、好きにすると良いです」
シナモンはアルヘ素っ気なく答えると、人集りの方へとトタトタと走り出す。
その言葉を聞いたアルは少し呆れつつも、心配そうにシナモンの背中を見つめていた。
「可愛くねーガキだなぁ…… てか、一人で大丈夫なのかね」
「まぁまぁ。 さすがに馬車を、そのままにしておけないし…… 待ってよっか?」
レイとアルは通りの端に移動すると、人集りに視線を向けつつシナモンの帰りを待つ事にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一方、シナモンが人集りの前へ到着すると、そこは想像以上に人々が密集する。
背の低いシナモンにとって、それは人の壁のように感じられた。
「また、徴税かよ! 一体、幾ら払えば気が済むんだよ」
「こんなんじゃ、商売上がったりだよ!」
「はぁ…… この村も、もうお終いかねぇ……」
人集りに集まった人々の声が、喧騒となってシナモンの耳へと届く。
声を荒らげながらうごめく人々の姿に、シナモンは少し抵抗感を示していた。
しかし、シナモンはゴクリと息を飲み、意を決して……
「ちょっ、ちょっと通して欲しいのです。 ごめんなさいなのです」
と大きな声で叫びながら、自らの身体の小ささを活かし、人垣を縫うようにスルスルと移動する。
もみくちゃにされ、少し髪や衣服が乱れながらも、やっとの思いで先頭付近へと到達した。
「なっ、何か高札が立ってるです! 内容は…… えーっと……」
そこには領主ゼニールによる、徴税の布告が書かれていた。
人の波に揉まれたシナモンに、細かな内容は確認出来なかったが、一際大きな文字が目に入る。
「八公二民!! とっ、とんでもない租税なのです!!」
その文字を確認したシナモンは、高札に押し寄せる人波に身を任せ、人集りの外へと移動した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ハァハァ…… ちょっと…… 疲れたのです……」
髪も衣服も乱れ、息切れをしながらも、シナモンはフラフラとレイ達の元へと戻ってきた。
そのシナモンの形姿に、レイは心配そうな表情で駆け寄る。
「だっ、大丈夫? 怪我とかしてない?」
レイは中腰になり、シナモンの衣服や髪の毛を優しく整えながら声をかける。
「大丈夫なのです。 大体の内容は、分かったですよ」
シナモンは、レイ達へ高札の内容を分かる範囲で説明する。
レイはそういった事に疎いのか、「んん?」と唸りながら首を傾げていた。
その様子を見ていたシナモンは、真剣な面持ちでアルへと視線を向ける。
「ちょっと不味い事になると思うですが……。 分かるですか?」
シナモンの試すような問いかけに、アルは想像出来る範囲で答えた。
「まぁ…… 玉鋼の換金にも税金が掛かるよなぁ。 当然、食料も値上がりするだろうし……」
「そうなのです! とてもじゃないですが、足りないのですよ」
シナモンとアルの話を聞いたレイは、ようやく事の重大さに気付いた様子を見せる。
「えぇぇ!? じゃ…… どうするの?」
レイは困ったような表情で、シナモンを見つめる。
その視線を向けられたシナモンも同様に、困惑した表情を見せた。
そして二人は見つめ合うと、ゆっくりとアルへと視線を向けた。
「どうするです? 何か良い案、無いのですか?」
「うんうん!」
期待と不安が入り混じった表情を向けられたアルは、不機嫌そうな表情を見せていた。
(えぇ…… 何で俺…… 商売の玄人じゃないんかい……)
そんな事を思いつつ、アルは思いついた事を二人へ話す。
「とりあえず、出来る事するしかないだろ……」
「出来る事って、一体何したら良いのです?」
アルは腕を組むと少し上に視線を移し思案する様子を見せながら、説明をしていく。
「まず、現時点での食料の相場を知る必要があるかな」
「相場…… なのですか?」
「あぁ。 実際に、何がどれだけ必要かは商人であるお前が、一番詳しいと思うけど」
「当然なのです!」
自信満々に言うシナモンへ、アルは言葉を続ける。
「それと大量に買ったら、幾ら値引き出来るかも知りたいかな! 商売の玄人なら余裕だろ?」
「もちろんなのです!」
アルはシナモンの自尊心を擽りながら、その気にさせていく。
そして、やる気に満ち溢れたシナモンから、少し不安げなレイへと視線を向ける。
「レイは、まず一個だけ玉鋼を換金してきてくれ。 実際の価格が幾らか知りたいしな」
「うん! 分かった!」
レイはアルの言葉を聞いて、胸の前で両拳を握りしめながら、やる気を見せている。
「それで、アルさんは何するですか?」
「決まってるだろ」
アルは馬車を指差すと、自信満々に答えた。
「見張り。 とりあえず、パパッと行って来てくれ。 早くしろよ」
(とりあえず、面倒な事は皆に任せるに限る。 決してサボりたい訳じゃないぞ。 うんうん)
通常なら、アルのサボりたい気持ちを察しそうな二人。
だが状況が状況だけに、そんな事とは露知らず、それぞれ目的を実行するのだった。
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