あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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お城奪還編

第52話 裸のアズサ

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 湯船から立ち上がったアルの目前、浴槽の前には一糸まとわぬ姿のアズサの姿があった。

「おぅわぁぁぁ! なっ、何でお前が入ってくるんだよっ」

 その姿に驚いたアルはすぐに湯船に浸かると、アズサに背を向ける。

 アルのその様子に対し、アズサは驚く事も無くキョトンとした表情で問いかける。

「んっ? 何か不味かったかな? まぁ気にしない気にしない」

 あっけらかんとした表情で笑うと、洗い場の椅子に腰掛ける。

 そして桶に入れた湯を頭から被ると、長く艷やかな髪がアズサの細い身体に纏わりついた。

「ぷはぁぁっ…… ふぅ。 いやぁ、今日も疲れたねぇ」

 浴槽で背を向けるアルの事を全く気にする事無く、アズサは髪を洗いながら話しかける。

(おいおい…… どうなってんだ…… 変な奴だとは思ってたけど……)

 アルはそう思いつつも理性より興味が少しだけ勝り、チラッとだけアズサに視線を送る。

 浴槽から洗い場を見ると横からの姿とは言え、何も隠す事のないアズサの姿が見えた。

 機嫌良さそうに鼻歌を口ずさみながら、髪の毛を洗うアズサを見たアル。

(いやいや…… 隠せよ…… 貞操観念はどうなってんだよ……)

 あまりの光景にアルは少し恥ずかしくなり、改めてアズサに背を向けていた。

「ねぇねぇ? ボクの分のお酒、残しておいてくれてるよねぇ?」

 そんなアルの事を気にもせず、アズサは髪を洗いながら言葉をかける。

「えっ? あっ、あぁ。 そりゃ残してはいたけど…… アズサ、寝てただろ」

「何か今日疲れちってさぁ。 気付いたら寝ちゃってたよ! あはは」

 気不味そうなアルを他所に、アズサは話しながら髪を洗い終え身体を洗っていく。

 一方のアルは理性を取り戻したのか、極力アズサを見る事無く浴槽に浸かっていた。

「ふぅぅぅ。 さっぱりしたぁ! さて、ボクも温まろうかなぁっと…… えいっ」

 身体を洗い終えたアズサは、大きめの浴槽に勢いよく飛び込む。

  ザッパァァーーン…… ザザザ……

「おぉぉっ…… なっ、何してんだよ」

 アズサが勢いよく飛び込むと、浴槽のお湯が溢れ津波のように洗い場まで流れていく。

 その子供のような様子を見たアルは、思わずアズサの方へと視線を送る。

「えっ? あっ、ごめんごめん! 何か大きなお風呂見ると飛び込みたくならない?」

 濡れた髪に透き通るような素肌のアズサ。

 その容姿端麗で大人の雰囲気を醸し出す姿は、子供っぽい言動や行動とは真逆に感じられた。

「まぁ…… 気持ちは分からんでも無いけど…… 大人は飛び込まないだろ」

「まぁまぁ。 それを言っちゃお終いってやつだよねっ」

 ニカッと口角を上げ白い歯を見せるアズサだが、アルは目を反らすように天井を眺めていた。

(気不味すぎるだろ…… まぁ…… 本音は名残惜しいけど…… 出るか……)

 アルは意を決して浴槽から立ち上がると、アズサの方へは視線を送らずに言葉をかける。

「じゃっ、じゃぁ俺は先に出てるから。 酒は用意しとくよ」

「あっ、ちょっと待って? もうちょっと付き合ってよ」

 アルの後ろ姿を浴槽から眺めていたアズサは、ハッとしたような表情で引き止める。

(えぇぇ…… それは…… どういう意味で……?)

 声を掛けられたアルはピタッと止まると、恐る恐るアズサへ視線を送る。

 浴槽の中のアズサはアルにニコッと笑顔を向けると、右手を湯船から出し手招きしていた。

「いや…… それは良いけど…… とりあえず隠せよ……」

「んっ? 隠すって何を?」

 キョトンとした表情のアズサを見たアルは、洗い場に置かれていた大きめの手拭いに目を付ける。

 そしてそれを手に取ると、アズサに投げ渡した。

「何をって…… 色々あるだろ……」

「えっ? あぁぁ。 別にボクは気にしないけど」

「俺が気にするんだよっ!」

 目を背けながら少し怒ったように言うアルの言葉を聞いて、アズサは少し苦笑いを浮かべていた。

「ごめんごめん。 んっしょっと……」

 アズサは受け取った手拭いで身体を隠すと、改めてアルに言葉をかける。

「これで大丈夫かな! とりあえず入って入って」

 アズサの言葉を聞いたアルはチラッと視線を送る。

 湯船の中のアズサの身体に手拭いが巻かれている事を確認すると、恐る恐る浴槽へと戻っていった。

「ふぅ…… それで? 何か用なのか?」

 少し照れたように顔を赤くしたアルが、目を反らしながらアズサに言葉をかける。

 アズサは浴槽の中で長座し、両手を組んでグーーッと身体を伸ばしながらアルに問いかけた。

「アルルン達は、ゼニールを追い出すだけ…… なんだよね?」

 アルルンと呼ばれ少し疑問に思いつつも、話の腰を折る事はせずに返答する。

「えっ? あぁ。 まぁ一応な」

「じゃぁ追い出した後はどうするの? お城は? あの人達は?」

 矢継ぎ早に質問を重ねるアズサに対し、アルは少し困惑していた。

(リナがアストリナの王女ってのは秘密なんだよな…… でも確かにリナはどうするつもりなんだろ)

 湯船のお湯を両手で掬いバシャッと顔にかけたアルは、少し言葉を選びながら返答する。

「まぁ…… 城は貴族の人達が何とかすると思うけど……」

「それだけ? 追い出したら終わり? ねぇねぇ?」

「おわっ、ちょっと近いって。 離れろ離れろ」

 アルの返答を聞いたアズサは問い詰めるように、グッと顔を近づけてくる。

 大きめの浴槽とは言え近づいてくるアズサに、アルは少し照れた様子を見せていた。

「あっ、ごめんごめんっ! まぁ…… それだけでも助かるかぁ……」

 アズサは少し落ち込んだように、顔を半分湯船につけていた。

「アズサはアストリナの復興が目的…… なんだよな?」

「もちろん! 絶対!」

「それって…… どうやるつもりだ? 城があれば復興出来る訳じゃないだろ?」

 アルの問いかけにアズサは少し気不味そうな表情に変わる。

「うん…… ボクさっ、昔の事なんだけど…… アルルンは昔アストリナに何があったか知ってる?」

 気不味そうな表情のアズサの問に、アルは思い出すように返答する。

「あぁ。 まぁ話だけはな。 十年位前の事なんだよな?」

「うん。 あの時ボクさ。 お父さんの言付けで、リナリア王女達と一緒に逃げたんだよね」

 アズサの言葉を聞いてアルは少し驚いた表情に変わっていた。

(って事はリナの事を知ってるはず…… だよな? でも十年前だとリナも相当幼いか……)

 言葉を出さずに考え込むアルの様子を他所に、アズサは話を続けていく。

「ただ途中で逸れちゃってそれっきりでさぁ。 だから、何としてもリナリア様を見つけて……」

 言葉が詰まるアズサに対し、アルは少し思案する様子を見せていた。

(リナも城を取り戻すのが目的だし…… ディンゴのオッサンも他国に口利きしてくれるんだよな)

 そして考えが纏まったアルは、押し黙るアズサに言葉をかけた。

「つまり、城を取り戻してその王女さんを見つける…… って事か?」

「うん! そして国を復興して…… 出来ればぁ、ボクを第五将軍にぃ…… なんて」

「おっ…… おぅ」

(意外としっかりしてんなコイツ。 侮れん……)

 アズサの言動に少し引いていたが、そんなアルの様子を他所にアズサは言葉を続ける。

「だから本当は、お城を手に入れた後…… リナリア様を捜すのを手伝って欲しいとか…… チラッ」

「いや…… チラっじゃねぇから…… ってかアズサってさ」

「んっ? なになに」

 アズサはアルが王女探しを手伝ってくれると思ったのか、パッと明るい表情に変わる。

 そしてアルの顔を覗き込むように、ググッと身体を近づけてきた。

「いやだから近いって……」

「あっ、ごめんごめん」

 アルの言葉を聞いたアズサはパッと身体を話すと、苦笑いを浮かべながら頭を掻いていた。

「まぁ良いけど…… そうだな。 じゃ城を取り戻す事が出来たら、王女さん探しも手伝ってやるよ」

「本当に? 絶対だよ? 約束だよ?」

「あぁ。 取り戻せたらな……」

「ぃやったぁぁぁ」

 ザッパァァーーン……

 アルの返答を聞いたアズサは喜びのあまり、飛び込むようにアルに抱きついた。

 抱きついたアズサの胸に顔を埋めたアルは、そのまま浴槽の中へと沈んでいく。

「ゲホッゲホッ…… こっ、殺す気か……」

「えっ? あっ! ごめんごめん。 あはは」

 ぐったりするアルとは対象的に、悪びれもなく屈託の無い笑顔を見せるアズサ。

 改めて少し距離を取り、アルが落ち着くのを待っていたアズサは真剣な表情に変わる。

 そして少しだけ気不味そうに、話すのを躊躇っていたが意を決してアルに問いかけた。

「んーーっとさ! アルルン達は今回の事、上手く行くと思ってる?」

「さぁな。 正直、どうなるか分からんけど…… でもやるしか無いだろ?」

 アルの返答を聞いたアズサは予想外の返答だったのか、少し驚いた表情に変わった。

「分かんないの? 何で?」

「何でって言われても…… やってみないと分かんないだろ?」

 アズサは伸ばしていた足を曲げ、両膝を手で抱えながら顔を半分湯船につけていた。

「バボボボバボボっ」

「いや…… 何言ってるか分かんないから……」

 顔を半分付けたまま話し始めたアズサを見て、アルは呆れた表情に変わる。

「あははっ。 ごめんごめん! いやぁ、アルルンって【数字の烙印】を持ってるんでしょ?」

 湯船から顔を出したアズサは、笑いながら問いかける。

「えっ? あぁ。 まぁ…… 一応な」

「それだったら【数字の烙印】の力で何とか出来ないのかな?」

 何かを期待するような表情でアルの顔を覗き込むアズサ。

 そのアズサの様子を見てアルは少し気不味そうな表情に変わる。

(やっぱ期待するよなぁ…… 実際、何の力も無いようなモンなのに……)

「そりゃ難しいかもなぁ」

「そっ、そっかぁ…… そうだよねぇ」

 少しガッカリするアズサの様子を見て、少しだけ申し訳なく思ったアル。

 取り繕うように、言い訳とも言える言葉をアズサにかけた。

「他に【烙印】を持ってる奴が居ればな。 城だって何とかなるだろうけど……」

(まぁ実際、レイの【剛】とシナモンの【商】か。 リナは多分持ってないだろうし…… って言っても女の【烙印】は使えないって話だしな…… 意味ねぇか)

 アルがそんな事を考えている横で、アズサは少しニヤッと笑いながら俯いている。

 そして小声で呟くように、アルに話しかけた。

「【烙印】を持ってる人が居れば…… 何とかなるんだよね?」

「えっ? あぁ。 居ればな」

 アルはチラッとアズサに視線を送るが、湯船から見えるアズサの腕には【烙印】は見えない。

(もしかして…… 誰か知り合いでも居るってのか?)

 ザバッ……

「おわぁ。 何だよ。 急に立ち上がるなって」

「ふふ…… ふふふふ……」

 アルの言葉が聞こえていないのか、アズサは立ち上がったまま小さく笑っている。

 そしてクルッとアルの方を振り返ると、身体に巻いていた大きめの手拭いを脱ぎ捨てた。

 その突然の光景に驚いたアルは、反射的にアズサから顔を背ける。

「おっ、おい! いきなり何してんだよ」

「良いから! 見てってば!」

 ザバッ… ザバッ… ガシッ……

 アズサは顔を背けるアルに近付くと、両手でアルの頭を掴む。

 そしてアルの顔をグイッと動かすと、自らの胸の下辺りに近づける。

「おい! 何をして」

「良いから! 目開けて」

 アルは促されるようにゆっくりと目を開ける。

「えっ? これって……」

 アズサの胸の下には【射】という【烙印】が刻まれていた。 
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