トーチ

長月

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居酒屋での話

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 奏太は、幸成が酒を飲むのは想像出来ないと言ったが、それは幸成も思っていた事だ。まさか自分が酒を美味いと思うとも、しかも強い酒を嗜むようになるとも想像できていなかった。
 真面目にも20歳を過ぎるまで飲酒の経験は無かった訳だが、幸いにもアルコールに強い体質だっらしく、酒での失敗はまだした事がない。

 だからか、耳まで赤くなった奏太を見て実は少し驚いていた。

「意外だよね」
「こっちのセリフだ」

 とはいえ、2人とも5杯は飲んでいるのだから、奏太が弱いというわけではないのだ。気分も良く、なんだか愉快だ。お互いの近況や奏太のフランスでの話を聞いて時間は過ぎていった。
 幸成はバイト先の話もした。調理場をしていること、リカさんのこと、店長や息子さんのこと。

「そうか、楽しそうだな」
「うん。すごく充実してる。でもさ」

 煮物の肉を箸でいじめながら、幸成はしんみりした気持ちに包まれる。
「アルバイト、なんだよね」
「?そうだな」
 奏太は不思議そうな表情で唐揚げを頬張る。

「そう。まともな就職だってしてない。高校生みたいな給料で働いてんの」
「調理をしてるじゃないか。それに今はアルバイトでも、続けてたら今後どうなるかわからない。ナリが料理を仕事にして、充実してて、俺はそれでいいと思う」

 こんな話をするなんて、酔っているのだろうか。奏太は大分回ってきたのか、大人の雰囲気が少し外れている。目を潤ませて、声にも熱がこもっていく。

「俺は、自分の店を持つのが夢だった。その為にめちゃくちゃ勉強したし、お金だって貯めた。ナリはどうだ?夢があるなら続けろ。ナリは大丈夫。お前はできるんだから」
「はは。どうかな。奏太に比べたら全然・・・・・・」
「大丈夫」
 
 奏太の熱をもった手が、幸成の左手を掴む。

「ナリはできるんだから」
「・・・・・・ありがとう」

 幸成の返事に満足したのか、奏太は豪快に笑って、そういえば気になったんだけどと、今度はリカさんの話を詳しく聞き出した。詳しく話すこともないよと幸成は返すが、奏太は楽しそうに続きを聞きたがった。

 憧れの奏太が、自分をできると言った。その言葉に嬉しさを感じながら、そんなことはないと思う自分もいた。

 奏太はいつだって、どんどん先を歩いて行く。追いつこうと幸成が必死に走っても、いつの間にか遥か先で手招きをしている。近づけるわけがない。その気持ちと、幸成は何年も付き合ってきた。奏太は理想であり憧れの存在だ。追いつけるわけが、ないのだ。

 氷で薄くなったサワーを一気に飲み干す。強い酒が欲しかった。
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