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番外編:大舞台ではふんどしを着用しましょう
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練習後、近場のスーパー銭湯で汗を流し、メンバーはすぐに布団へと入った。寝台列車とはいえ長旅をしてきたせいか、すぐにぐっすりと眠ったようである。
「恋奈ちゃん案外可愛い寝顔だな~~、黙っていればくぁいい娘なのにね~~」
聖アデルが夜中に目覚めてしまい、布団の中から、同室の左京恋奈の寝顔を微笑ましく見ていた。
「おらぁ!」
ガゴォン
左京恋奈が寝ぼけながら、バックハンドーブローを聖アデルの顔面にヒットさせた。
「ふぎゃふっ!」
聖アデルの顔に赤く拳マークがつき、ぐっすりお休みに入った。
「ようし! 皆起きたわね! 食事をとったらすぐに会場へ行くわよ!」
「……お腹が痛くなったら、生露丸も用意してある……」
「くそう、心臓がすんごいバクバクする」
「ようセーム、その緊張がいいんじゃねえか! あたしも緊張しているけどよ、むしろわくわくしてっぞ! とこんで昨日ネコが鳴いたような奇声聞いたような~~」
「そうだね~~」
聖アデルは鼻に絆創膏を×印に貼っていた。
「適度な緊張感を持つのも、楽観的な考えを持つのも悪くないわね、一番悪いのが緊張を上手く処理できないセームくんね、とりあえずハグしてあげればいいかな?」
岸或斗が、塩川聖夢を抱きしめた。岸或斗は性別は男ではあるが、女子力は高い。女に免疫のない塩川聖夢の顔が真っ赤になり、湯気が立っている。
「は、はわわ……」
「あれ、余計に心音が激しくなったわね、どうしたのかな~?」
「……小悪魔系女子」
「うふふ~、やっぱ気取らずいつものカオスシンガースでいったほうが良いかもね~」
「そうとも! いつも通りやりゃあ全日本合唱コンクールで天下もとれるさ!」
岸或斗のハグをきっかけにいつものカオスシンガースの雰囲気に戻った。
さて、本番の会場は徒歩で行ける場所にある。流石に道中で服を汚すのはまずく、ステージ用の着替えは会場まで手に持ちながら持っていく。トコトコと歩いていたら会場へはすぐについた。兵庫県立とだけあっていかにも公的な施設といった感じだ。さて中に入ると、広々とした通路。壁にはコンサート、オペラ、ミュージカル等のイベントのポスターがいっぱい貼ってある。
「流石ね、有名な劇団や声楽家さんが結構くるみたい、劇団五季は皆知っているよね?」
「自分も知っている。音楽の授業とか、修学旅行とかで見たな。ミュージカルって結構面白いな~~って思った!」
「ってことは、この施設は大層な人達が歌うに相応しいステージがあるってことかな?」
「そういうことよアデルちゃん、AKT県の某施設も県内では立派な方だけど、ここと比べたら雲泥の差ね」
「……建物内に、大ホール、中ホール、小ホール、3種類のステージがある」
「あたしたちが歌うのは大ホールだよな、おっ、名前は重機のリース会社じゃねーか」
「……多分違う、データ改ざんの不祥事で有名になった神戸のとある会社だと思う」
「わおう! 座席表見てみて~、1階から4階まであるよ~!! すんごく大きいステージなんだね! AKTの某音楽施設がチャチに思えてくるよ!」
「おいおい、AKT県民いないと思うが、そんだけディスっていたらきれる。少なくとも自分はAKT愛を持ってるぞ、宮城県出身だけどもな」
「いるわよ、ここにとびっきりの秋田美人が」
全員、その声を発した人物を見て驚いた。
「あ、あなたは、秋田県合唱界首領の若桜さん!」
岸或斗が珍しく驚いていた。若桜と呼ばれる中年の女性は、AKT大学の合唱団の指揮者を務めている方で、かつては聖アデルの先生でもあった人である。
「互いに良い演奏をしましょう。自信を持ち、いつもの通りに歌えばきっと本番でも素晴らしい歌が歌えます。頑張ってくださいね」
「あざ――す!!」
バシン!!
左京恋奈の体育会系の挨拶に合わせて、岸或斗が頭をはたいた。
「あっつ~~、或斗! 何しやがる! これ以上あたしが馬鹿になったら責任とってくれんのか!」
「そうね、恋奈ちゃんは魅力的だと思うし、責任とろうかしら」
「え゛ぇ゛――――――っ!!」
「冗談よ、アデルちゃんも変な声だしちゃってもう」
岸或斗が一回こほんと咳をして話を仕切り直す。
「この方にあまり失礼のないようにね、場合によってはAKT大学にいられなくなるかもしれないからね」
「だにぃ!? だったらあたしの会社だって元々はヤクザあがり! 殴り込、ふがぁほごぉ! ふぉい!」
馬上誠実が左京恋奈の口を押え、それ以上の言葉を発せないようにした。途中までとはいえ、左京恋奈の発言を聞いていた周りの人達がざわつく。
「……これでいいか或斗」
「ナイスフォロー馬上君、では良い歌を歌えるように練習してきますので、ではでは♪」
そういって、或斗ちゃんが手を振りながら、場の雰囲気を変えるように、メンバーの皆と共にその場を去っていく。
「いつも楽しそうなメンバーね、私も若いころに戻りたくなったな♪」
若桜さんはその場を去っていくカオスシンガースを笑顔で見つめていた。
いつまでも普段着でいるわけにはいかないので、カオスシンガースはステージ衣装へと着替える。基本、ステージへは黒服で上がり、この服は絶対に汚したりしわをつけないように、用心しなければならない。本番が終わるまで、服装の確認は欠かせない。
女子更衣室において、左京恋奈の下着を見て、周囲の女性陣は驚いていた。その下着は俗に言うふんどしである。真っ赤な色で大層目立つものだ。
「恋奈ちゃん、その下着は……俗に言うさらしとふんどしかな?」
「おう! 気合入れるために真っ赤なふんどしを締めてきたぜ! 合わせて腹に晒しも巻いてきたぜ!」
「それって腹式呼吸やりづらくないかな?」
「いっけね! すぐに外すか!」
「私がいて良かった……ところで、ふんどしだとトイレって上手くできるの? パンツみたいに下げる事できないみたいだし」
「そりゃあ、こう、ふんどしをくいっと横にずらしてだな」
「実演しなくても良いよ! ていうかこういうのはセーム君の役目じゃないの!」
男子更衣室で着替える塩川聖夢は誰かに呼ばれた気がした。
「ふんどしが赤いから、ケガして血まみれになっても問題ねぇのがいいぜ!」
「異性がいない空間だからいいけど、そういうネタよそうね。本当にセーム君が必要だわ~~」
一方、男子更衣室にて。
「なんか、自分よりも皆上手そうに見えるな~」
「……俺もそう思う」
「そうね、例年金賞をとっている大学の団体もいるし、中にはプロを目指している人もいるかもね。まっ、私が一番上手いという自負はあるけどね」
岸或斗がどや顔を決めた。この男子更衣室に相応しくない、美しい容姿を持ち合わせた或斗は、その見た目だけでも注目されていたのに、この発言でさらに注目される。しかし、これは岸或斗なりの気遣いでもある。メンバー内に自分が一番だと確固たる自信を持つ者がいれば、周りも安心するだろう。そういう気持ちがあって或斗は、わざとらしい発言をしたのだ。
「……サンクス或斗」
「どうした馬上?」
「ふふふ、私の真意を理解したのは馬上君だけみたいね」
さて、カオスシンガース本番前の練習の時が来た。
「じゃあまずは自由曲のクレドいくわよ、皆は特定の宗教団体に所属していないと思うけど、今だけはキリスト教徒になって、唯一の神を信じる気持ちを持ってね」
前日の練習と変わらず、皆が良い感じで歌えていた。
「うん、いい感じね。この調子で本番もいきましょう!」
本番まであともう少しの時間となり、カオスシンガースはステージ裏の薄暗いスペースまでやってきた。このスペースは自分の団体よりも一つ先に歌う合唱団の歌が聴けるスペースでもあるのだ。
「男子も女子もきれいな声だね~」
聖アデルは心の底から思ったことが、そのまま口に出た。
「アデルちゃんも顔も声も綺麗よ」
「えへへ~ありがと~♪」
岸或斗は全員が緊張をなくして歌えるように、考慮をしながら接していた。
「……セーム、背中をはたいてくれ」
トン!
馬上誠実がセーム君にそう言うと、セーム君が遠慮気味に軽く背中をたたいた。
「こうか?」
「……もっと強くだ……恋奈代わりに頼む」
「あいよ!」
バシーン!!
左京恋奈がかなり大きなモーションをつけて、掌を馬上君の背中に落とした。
「……サンクス」
「どういたしまして! ついでにセームもっと」
バシーン!!
左京恋奈の気合いが塩川聖夢にも入れられた。
「はうちっ! いてぇ!」
「でも緊張も吹っ飛んだろ!」
「頭に入っている歌詞も吹っ飛んでしまいそうな勢いだったぞ」
「皆、こういう場合静かでいるのが常識なのよ!」
岸或斗が皆に注意をし、しまったと思った。皆が静かになり、またも緊張の空気を作り出してしまった。
「撤回! 静かにしなくても良い!」
岸或斗の掌クルーな発言でメンバー皆に自然と笑いが生まれた。
そして、ついにカオスシンガースの出番である!!
「皆おまじないしてあげる」
岸或斗が黒のマジックペンを取り出し、皆の掌に落書きを書いた。薄暗いので何を書いているのかは皆には分かりづらい。
「歌う前に掌を見ておくこと、じゃあいくわよ皆!」
遂に始まったカオスシンガースの大舞台! これまでカオスシンガースが立った舞台の中で一番規模が大きいものだ! メンバー皆がステージ裏からステージまで行くまでの、一歩一歩の重みを感じていた! その重みは今までよりも違うものなのだ!
メンバーの視界に観客席が写った! 観客席は広くでかい! 事前にステージの大きさを把握していたメンバー達ではあるが、ステージに立って、改めてその大きさを感じた! もはや一人一人が飲み込まれそうな気持ちを持っている! 五人いるはずなのに、一人しかいない気持ちになっているのだ!
(ステージに立つと天使が下りることもあれば、悪魔が下りることもある。しかも下りる時っていうのは気まぐれなものよ。私も大分悪魔にやられれたね)
その昔岸或斗が練習中に行ったことである。岸或斗以外のメンバーがその言葉の意味をこの場で初めて理解した! 現在カオスシンガースには悪魔が下りている! このままいけば、今日が一番下手な歌を演奏した団体となる!
聖アデルが何気なく掌を見た。そこにはにこちゃんマークの笑顔の落書きがあった。聖アデルに連鎖するかのように他のメンバーも掌の落書きを見始めた。
その時、カオスシンガースにおりていた悪魔が去り、笑顔の天使が下りてきたのだ! このステージのプレッシャーに耐えられず、緊張も表現してしまった団体も決して少なくは内!
しかし、今のステージ上にはカオスシンガース5人の笑顔が揃っていたのだ!
「恋奈ちゃん案外可愛い寝顔だな~~、黙っていればくぁいい娘なのにね~~」
聖アデルが夜中に目覚めてしまい、布団の中から、同室の左京恋奈の寝顔を微笑ましく見ていた。
「おらぁ!」
ガゴォン
左京恋奈が寝ぼけながら、バックハンドーブローを聖アデルの顔面にヒットさせた。
「ふぎゃふっ!」
聖アデルの顔に赤く拳マークがつき、ぐっすりお休みに入った。
「ようし! 皆起きたわね! 食事をとったらすぐに会場へ行くわよ!」
「……お腹が痛くなったら、生露丸も用意してある……」
「くそう、心臓がすんごいバクバクする」
「ようセーム、その緊張がいいんじゃねえか! あたしも緊張しているけどよ、むしろわくわくしてっぞ! とこんで昨日ネコが鳴いたような奇声聞いたような~~」
「そうだね~~」
聖アデルは鼻に絆創膏を×印に貼っていた。
「適度な緊張感を持つのも、楽観的な考えを持つのも悪くないわね、一番悪いのが緊張を上手く処理できないセームくんね、とりあえずハグしてあげればいいかな?」
岸或斗が、塩川聖夢を抱きしめた。岸或斗は性別は男ではあるが、女子力は高い。女に免疫のない塩川聖夢の顔が真っ赤になり、湯気が立っている。
「は、はわわ……」
「あれ、余計に心音が激しくなったわね、どうしたのかな~?」
「……小悪魔系女子」
「うふふ~、やっぱ気取らずいつものカオスシンガースでいったほうが良いかもね~」
「そうとも! いつも通りやりゃあ全日本合唱コンクールで天下もとれるさ!」
岸或斗のハグをきっかけにいつものカオスシンガースの雰囲気に戻った。
さて、本番の会場は徒歩で行ける場所にある。流石に道中で服を汚すのはまずく、ステージ用の着替えは会場まで手に持ちながら持っていく。トコトコと歩いていたら会場へはすぐについた。兵庫県立とだけあっていかにも公的な施設といった感じだ。さて中に入ると、広々とした通路。壁にはコンサート、オペラ、ミュージカル等のイベントのポスターがいっぱい貼ってある。
「流石ね、有名な劇団や声楽家さんが結構くるみたい、劇団五季は皆知っているよね?」
「自分も知っている。音楽の授業とか、修学旅行とかで見たな。ミュージカルって結構面白いな~~って思った!」
「ってことは、この施設は大層な人達が歌うに相応しいステージがあるってことかな?」
「そういうことよアデルちゃん、AKT県の某施設も県内では立派な方だけど、ここと比べたら雲泥の差ね」
「……建物内に、大ホール、中ホール、小ホール、3種類のステージがある」
「あたしたちが歌うのは大ホールだよな、おっ、名前は重機のリース会社じゃねーか」
「……多分違う、データ改ざんの不祥事で有名になった神戸のとある会社だと思う」
「わおう! 座席表見てみて~、1階から4階まであるよ~!! すんごく大きいステージなんだね! AKTの某音楽施設がチャチに思えてくるよ!」
「おいおい、AKT県民いないと思うが、そんだけディスっていたらきれる。少なくとも自分はAKT愛を持ってるぞ、宮城県出身だけどもな」
「いるわよ、ここにとびっきりの秋田美人が」
全員、その声を発した人物を見て驚いた。
「あ、あなたは、秋田県合唱界首領の若桜さん!」
岸或斗が珍しく驚いていた。若桜と呼ばれる中年の女性は、AKT大学の合唱団の指揮者を務めている方で、かつては聖アデルの先生でもあった人である。
「互いに良い演奏をしましょう。自信を持ち、いつもの通りに歌えばきっと本番でも素晴らしい歌が歌えます。頑張ってくださいね」
「あざ――す!!」
バシン!!
左京恋奈の体育会系の挨拶に合わせて、岸或斗が頭をはたいた。
「あっつ~~、或斗! 何しやがる! これ以上あたしが馬鹿になったら責任とってくれんのか!」
「そうね、恋奈ちゃんは魅力的だと思うし、責任とろうかしら」
「え゛ぇ゛――――――っ!!」
「冗談よ、アデルちゃんも変な声だしちゃってもう」
岸或斗が一回こほんと咳をして話を仕切り直す。
「この方にあまり失礼のないようにね、場合によってはAKT大学にいられなくなるかもしれないからね」
「だにぃ!? だったらあたしの会社だって元々はヤクザあがり! 殴り込、ふがぁほごぉ! ふぉい!」
馬上誠実が左京恋奈の口を押え、それ以上の言葉を発せないようにした。途中までとはいえ、左京恋奈の発言を聞いていた周りの人達がざわつく。
「……これでいいか或斗」
「ナイスフォロー馬上君、では良い歌を歌えるように練習してきますので、ではでは♪」
そういって、或斗ちゃんが手を振りながら、場の雰囲気を変えるように、メンバーの皆と共にその場を去っていく。
「いつも楽しそうなメンバーね、私も若いころに戻りたくなったな♪」
若桜さんはその場を去っていくカオスシンガースを笑顔で見つめていた。
いつまでも普段着でいるわけにはいかないので、カオスシンガースはステージ衣装へと着替える。基本、ステージへは黒服で上がり、この服は絶対に汚したりしわをつけないように、用心しなければならない。本番が終わるまで、服装の確認は欠かせない。
女子更衣室において、左京恋奈の下着を見て、周囲の女性陣は驚いていた。その下着は俗に言うふんどしである。真っ赤な色で大層目立つものだ。
「恋奈ちゃん、その下着は……俗に言うさらしとふんどしかな?」
「おう! 気合入れるために真っ赤なふんどしを締めてきたぜ! 合わせて腹に晒しも巻いてきたぜ!」
「それって腹式呼吸やりづらくないかな?」
「いっけね! すぐに外すか!」
「私がいて良かった……ところで、ふんどしだとトイレって上手くできるの? パンツみたいに下げる事できないみたいだし」
「そりゃあ、こう、ふんどしをくいっと横にずらしてだな」
「実演しなくても良いよ! ていうかこういうのはセーム君の役目じゃないの!」
男子更衣室で着替える塩川聖夢は誰かに呼ばれた気がした。
「ふんどしが赤いから、ケガして血まみれになっても問題ねぇのがいいぜ!」
「異性がいない空間だからいいけど、そういうネタよそうね。本当にセーム君が必要だわ~~」
一方、男子更衣室にて。
「なんか、自分よりも皆上手そうに見えるな~」
「……俺もそう思う」
「そうね、例年金賞をとっている大学の団体もいるし、中にはプロを目指している人もいるかもね。まっ、私が一番上手いという自負はあるけどね」
岸或斗がどや顔を決めた。この男子更衣室に相応しくない、美しい容姿を持ち合わせた或斗は、その見た目だけでも注目されていたのに、この発言でさらに注目される。しかし、これは岸或斗なりの気遣いでもある。メンバー内に自分が一番だと確固たる自信を持つ者がいれば、周りも安心するだろう。そういう気持ちがあって或斗は、わざとらしい発言をしたのだ。
「……サンクス或斗」
「どうした馬上?」
「ふふふ、私の真意を理解したのは馬上君だけみたいね」
さて、カオスシンガース本番前の練習の時が来た。
「じゃあまずは自由曲のクレドいくわよ、皆は特定の宗教団体に所属していないと思うけど、今だけはキリスト教徒になって、唯一の神を信じる気持ちを持ってね」
前日の練習と変わらず、皆が良い感じで歌えていた。
「うん、いい感じね。この調子で本番もいきましょう!」
本番まであともう少しの時間となり、カオスシンガースはステージ裏の薄暗いスペースまでやってきた。このスペースは自分の団体よりも一つ先に歌う合唱団の歌が聴けるスペースでもあるのだ。
「男子も女子もきれいな声だね~」
聖アデルは心の底から思ったことが、そのまま口に出た。
「アデルちゃんも顔も声も綺麗よ」
「えへへ~ありがと~♪」
岸或斗は全員が緊張をなくして歌えるように、考慮をしながら接していた。
「……セーム、背中をはたいてくれ」
トン!
馬上誠実がセーム君にそう言うと、セーム君が遠慮気味に軽く背中をたたいた。
「こうか?」
「……もっと強くだ……恋奈代わりに頼む」
「あいよ!」
バシーン!!
左京恋奈がかなり大きなモーションをつけて、掌を馬上君の背中に落とした。
「……サンクス」
「どういたしまして! ついでにセームもっと」
バシーン!!
左京恋奈の気合いが塩川聖夢にも入れられた。
「はうちっ! いてぇ!」
「でも緊張も吹っ飛んだろ!」
「頭に入っている歌詞も吹っ飛んでしまいそうな勢いだったぞ」
「皆、こういう場合静かでいるのが常識なのよ!」
岸或斗が皆に注意をし、しまったと思った。皆が静かになり、またも緊張の空気を作り出してしまった。
「撤回! 静かにしなくても良い!」
岸或斗の掌クルーな発言でメンバー皆に自然と笑いが生まれた。
そして、ついにカオスシンガースの出番である!!
「皆おまじないしてあげる」
岸或斗が黒のマジックペンを取り出し、皆の掌に落書きを書いた。薄暗いので何を書いているのかは皆には分かりづらい。
「歌う前に掌を見ておくこと、じゃあいくわよ皆!」
遂に始まったカオスシンガースの大舞台! これまでカオスシンガースが立った舞台の中で一番規模が大きいものだ! メンバー皆がステージ裏からステージまで行くまでの、一歩一歩の重みを感じていた! その重みは今までよりも違うものなのだ!
メンバーの視界に観客席が写った! 観客席は広くでかい! 事前にステージの大きさを把握していたメンバー達ではあるが、ステージに立って、改めてその大きさを感じた! もはや一人一人が飲み込まれそうな気持ちを持っている! 五人いるはずなのに、一人しかいない気持ちになっているのだ!
(ステージに立つと天使が下りることもあれば、悪魔が下りることもある。しかも下りる時っていうのは気まぐれなものよ。私も大分悪魔にやられれたね)
その昔岸或斗が練習中に行ったことである。岸或斗以外のメンバーがその言葉の意味をこの場で初めて理解した! 現在カオスシンガースには悪魔が下りている! このままいけば、今日が一番下手な歌を演奏した団体となる!
聖アデルが何気なく掌を見た。そこにはにこちゃんマークの笑顔の落書きがあった。聖アデルに連鎖するかのように他のメンバーも掌の落書きを見始めた。
その時、カオスシンガースにおりていた悪魔が去り、笑顔の天使が下りてきたのだ! このステージのプレッシャーに耐えられず、緊張も表現してしまった団体も決して少なくは内!
しかし、今のステージ上にはカオスシンガース5人の笑顔が揃っていたのだ!
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