家出少年は鬼畜格闘家に飼われる事になりました

あさきりゆうた

文字の大きさ
1 / 5

格闘家目指して家出した!

しおりを挟む
 幼少期から俺はキックボクシングをTVで見てきた。なんだか知らないが、とても心がわき上がるものがある。男と男が互いのプライドをかけて全力で闘う姿は本当にカッコイイ。俺もあんなふうになれたらなと思っていた。俺の将来の夢はプロの格闘家でほぼ決まっていた。もちろん親が簡単に承知するわけがない。だから俺は中学卒業と同時に家を飛び出した。
 俺の家は安定志向を一番の価値観としていた。母親が極端な教育ママだった。とにかく俺に勉強だけさせるように教育していた。一方親父は見て見ぬふりである。家庭内では俺に公務員あたりになってもらいたいという願望があった。俺はそんなのが嫌で思い切って飛び出した。貯金をはたいて都内までたどり着いた。

「ここか……」

 俺は都内で有名な頂上ジムの前にいた。ここなら俺は強くなれると思った。早速玄関に入った。

「いらっしゃいませ。見学の方でしょうか?」

 受付には綺麗なお姉さんがいた。左胸に「菊川」というネームプレートがついている。

「このジムに住み込みできませんか?」

 俺の質問の意味を理解するのに受付のお姉さんが数秒ばかし時間を要したようだ。

「……住み込みですか? また珍しい人が来ましたね……分かりました、一度館長とかけあいますね」

 そう言って受付のお姉さんが内線の電話で誰かにつないだ。

「館長はあと数分で戻ってくるそうです。その間ジムの練習を見学してみてはどうでしょうか?」

「分かりました」

 受付のお姉さんに練習場まで案内される。

どす すぱん どす

 重そうな打撃音に徐々に近づいてきている感覚だった。引き戸を開けると熱気とプレッシャーが一気に伝わってきた。

「あちらに見学者向けの椅子がありますのでそこでゆっくりしてください。飲み物も後でお持ちします」

 そう言って受付のお姉さんが去って行った。
 俺は練習場を眺めた。リングの上で実践さながらのスパーリングをしている二人の格闘家、大きな鏡の前でシャドーボクシングをしている格闘家、大きなダンベルをあげてフィジカルトレーニングをしているもの等様々だった。

もみゅ もみゅ

 突然何者かが、自分のお尻をもみほぐさした。

「ひゃうっ!?」

 後ろを見ると、178cmぐらいの男がいた。見ただけで強いオーラが伝わってくる。というよりまず、すごく見覚えのある顔だ。ただ、尻を突然野郎に触られたという事実に色々と記憶がぶっ飛んでしまった。

「良い尻だな」

 そう言ってその男は去って行った。

「おおっ! お前さんが住み込みたいといった奴か! わしが館長の石居や! えろう若いな! 名前と歳を教えてくれんか?」

 間髪入れずに俺の元に人がやってきた。ぱっとみ話好きそうな関西人に見える。

須藤令良すどうれいら、15歳です」

「はっはっは! 須藤君か! 中学卒業したてやないか! いいぞ! 若い内に格闘家修行しようという精神は素晴らしいわ! お前さんのように中学卒業と共にタイ修行した奴、それにオランダのジムに住み込みながらファイターやっている奴も知っているで!」

「はい、知っています! 確かヒロキ選手とノブヒロ選手ですね!」

「驚いた! 須藤君、格闘技に詳しい方か?」

「ええ、まあちょっと格闘技おたくなところはありますね」

「はっはっは、将来有望そうだわい……と言いたいところだが、まあ住み込みたいという奴は他にもおるからのう。ちょいと須藤君をじっくり見ないと住みこみさせるかどうかは決められんな」

 なんてことだ。勢いで家を飛び出してきてここまで良い雰囲気だったのに、この見るとやらでつまづいたら俺はこの先の住処はない状態だ。

「ふむ、わしが見た感じ身長は160cm、成長期だからまだ伸びるかな。あと尻が大きいな。尻が大きいと下半身が安定している選手になる。他、胸筋・背筋がまあまあ発達しているな。ただ、手足の筋肉は貧弱といったところやな」

 石居館長が俺の体を触りながら観察して評価を下している。

「とりあえずミット練習してみようか。おーい!! 誰か、この子の攻撃を受けてくれ!!」

 石居館長が大きな声で選手達に呼びかけたが、選手達が一瞬石居館長を振り向くとまた自分の練習へと専念した。

「薄情な奴らや。こうなったらわしがお前の攻撃を受けるか……」

「その役目、俺にやらせてもらえませんか?」

 そう言ってやって来たのはさっき俺の尻を触った男だった。あんましこいつと関わりたくないなぁ……。

「おぉ! 氷堂やんか! 須藤君も知っておるやろ? 彼はキックボクシング団体Champのスーパーウェルター級つまり70kgの階級の世界王者や! キックボクシング団体は現代に乱立しておるが、Champに関してはまじものの強豪がかなりそろっておる。ここで世界一と言うことはまぎれもない世界一ということや! それに氷堂のおる階級は、キックボクシングの世界では激戦区であり、文字通り化け物じみた外人ファイターも多い! そんな氷堂と練習できるなんて滅多にないチャンスやで!!」

 石居館長の話でようやくこの男の顔を思い出した。俺がこのジムを選んだきっかけは世界チャンピオンの氷堂選手がこのジムにいるからだ。

「さて、本来なら体をよく動かしてからこういう実践練習はするもんやが、須藤君は遠くから来たんか? 長距離歩いてきてそれなりに体は温まっているように思えるな」

 石居館長の眼力には驚いた。確かに東北から家出当然に飛び出し、そこから電車やバスなどを使いながら長距離歩いてきた。もっともちょっと足が痛くて休みたい気持ちもあるが……。

「つけてやるよ」

 氷堂選手は俺の拳にぐるぐるとテーピングをした。たしかこれの名称って聞いたことあるけどなんだっけ?

「こいつはバンテージってやつだ。格闘家がグローブをはめる前に拳を守るためにぐるぐる巻きにするんだ。ちなみにこのバンテージに水を含ませるととんでもない堅さになるから試合では御法度だ。実際にやって問題になった選手もいる」

 今、すごい裏話も聞いちゃったな。バンテージの存在は知っていたけど、ただ包帯をぐるぐる巻きにしているイメージしかなかったわ。


「グローブは試合よりも軽めのやつにしておくか」

「氷堂、軽いグローブ使って大丈夫か? 怪我するで?」

 石居館長が氷堂選手をからかった。

「逆に試合用のグローブをつけたら素人じゃあ拳を思うように動かせないですよ」

 グローブが自分の拳に装着された。軽めのグローブとは言っていたが拳が一気に重くなったみたいだ。まさかジムに来ていきなり初日に氷堂選手相手にグローブをはめるとは夢にも思わなかった。

「ほな、須藤君! 適当にパンチを出してみい」

 俺はミットをかまえる氷堂選手に向けて全力で打ち込んだ。

ぱすん ぽすん

 自分でパンチをうっていて分かる。非常に軽い、手応えがない。なんだか拳に上手く重さをのっけられない。自分なりに強いパンチをうとうと体の動かし方を工夫したが全く強いパンチにならない。むしろスタミナがなくなりどんどんパンチの威力が弱くなってきた。先程まで明るかった石居館長の顔も一気に変わった。

「やっぱりパンチが弱いなぁ」

 石居館長の独り言が俺の心に刺さった。

「次は蹴ってみい」

 蹴りで挽回しなければ駄目だと思った。俺は格闘家の蹴りの動きを頭の中で思い浮かべながら渾身の蹴りをいれた。

ぱしぃぃん

 いい音が響いた。石居館長と氷堂選手の表情が変わった。

「須藤君、どっかで練習していたのか? 右のローキックに関しては素人にしてはいいもんや」

「実は、格闘技の試合見ながらローキックを真似すること多くて、いつの間にか良い蹴りを出せるようになっていたみたいです」

「よし、続けてみい!」

 俺はさっきの調子でローキックを出し続けた。十発以上出した頃で、そろそろ他の指示が来る頃かなと予想した。

「そうか、次はハイキックだしてみい」

 そう言われて俺は渾身の力を込めて足をあげっ!?

「ぎゃふぅ!!」

 自分の柔軟性の許容限界を越えてハイキックをうとうとした結果、股間が割れそうになった。

「やはりのう、体が硬いなと思ったんや」

 石居館長がリングにあがって俺の肩に手を載せた。

「住み込みはあきらめい! まぁ金払ってジムに通うんならいつでも大歓迎やで! がっはっはっは!!」

 早くも俺の格闘家の夢は潰えた。金はないし、どこかで野宿するか、もしくは他のジムで何とか拾って貰おうか。しかし、石居館長の評価に俺はテンションやモチベーションがものすごい下がっている。他のジムに行っても駄目そうな気しかしない。このまま家に戻るしかないのか……。

「石居館長、こいつは俺の家で預かる。練習、用具、食費等諸々俺が負担する」

 氷堂選手の言葉に俺は驚いた。石居館長もきょとんとした顔をする。

「なんや? 良いことでもあったのか?」

「今のこいつは雑魚だと思う。しかし今後強くなると思った。それだけだ」

「ええやろ、お前が金払うならわしは文句いわへん。好きにせい」

 まさかの展開になった。一度あきらめたが、俺は格闘家として修行できるようになったのだ。氷堂選手に関しては少しひっかかる点もあるが、このチャンスを逃したくはない。
 石居館長が耳を貸せというジェスチャーをとった。俺はそのジェスチャー通りに耳をそばによせた。

「あいつな、こっち系の人なんや。貞操には十分気をつけいよ」

「……」

 どうしよう、ここに来て迷ってしまった。不安もあるが、格闘家になりたいという気持ちも強い。

「いくぞ令良」

 氷堂選手は俺の気持ちの整理を待たず、俺の手を引っ張ってジムの外へと連れ出した。しばらく都内を歩き、電車に乗り、しばらく歩いて氷堂選手の住むマンションへと到着した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...