5 / 11
第四章 Aの共闘・ダイヤとクラブ
しおりを挟む
日が昇り始めた頃、切り札の森の北側から剣のぶつかる音が聞こえてきた。そこでは五体の城と戦う青年がいた。
青年-ザクロは余裕の笑みを浮かべたまま、ジョーカーたちの攻撃を紙一重で避けていた。
そして、大きく跳躍して距離を取った。
「よっと。さて、もう終わりにしますか。」
ザクロは左足を引いて剣を斜め下に構えた。すると、剣は青い光を纏った。
「フラッシュ」
動かないザクロに向かって、ジョーカー達は突進して来た。だが、彼はその場から動くことなく、剣を二度振るった。
一度目は下から右上に振るい、二度目は真上から振り下ろした。
それによって生まれた斬撃がジョーカー達を襲った。
ジョーカーたちは全て青い光を纏って消滅した。
剣を納めたザクロは息を一つ付いた。
「ふぅ。全く、変なことがいろいろ起きすぎでしょ。」
そう言って、ザクロは空を見上げた。
*
ミチュ王国の会議室に上級騎士と総司令官が揃っていた。
「以上が先日の調査報告です。」
そう言ってミコトは席についた。
ミツルギ・オウガ・ミコトの三人は先日、凶々しくなったジョーカーの事を調べる為、切り札の森を訪れていた。森の中でジョーカーを倒していた三人は新たな異変をきたしたジョーカーの出現を待っていたが、中々出現しなかった。
その為、一度帰還しよおとした時、そのジョーカーが現れた。
そのジョーカーをなんとか倒すことはできた。だが、問題があった。
「KとQである二人がついていけない強さだなんて。」
報告を聞いたツカサは、青い顔をして言った。
それにオウガは肩をすくめた。
「俺もなんとか受けたんだが、相手のスピードが尋常じゃなくてな。追いつけなくて吹っ飛ばされたよ。」
オウガは当時を思い出しながらそう言った。
それにミコトも同意した。
「僕もです。相手の動きを見ることはできたんですが、体が反応する前に引き飛ばされてしまいました。」
二人の話を聞いて場が静かになった。
総司令官は顎に手を当て、何かを考えながらミツルギを見た。
「ミツルギ、ジョーカーの事で何か気付いた事はあるか?」
それに少し逡巡した後、ミツルギは答えた。
「いえ、スピードもパワーも先ほど報告した事以外は特に何も。」
ミツルギは静かにそう言った。それに総司令官は息を吐いた。
「そうか。」
総司令官がそう言った事で、部屋の中は落胆の空気が広がった。
「総司令官。」
そんな中、オウガが声をあげた。
「何だ。」
「今回のジョーカーのことについて、他国との連携を取る事はできませんか。」
オウガが言った事に、全員が驚いた。だが、すぐに復活したミコトも続いた。
「僕も同意見です。」
総司令官は二人を見据えたまま、顎の下で手を組んだ。
「そう考えた理由は何だ?」
その目に負けず、二人は答えた。
「今回のジョーカーの一件で、今対抗できるのはAであるミツルギだけだと判明しました。それならば他の国でも、同じようにAでないと対抗できないはずです。ならば、他国との連携をとった方が得策だと思います。」
「それに、今回のような状態のジョーカーが今後増加しないという保証はありません。それならば早い内から対策をとった方が懸命だと思います。」
オウガの言葉に続くようにミコトが言った。
二人の意見を聞いた総司令官は難しい顔をした。
「ふむ。」
考えを巡らす総司令官に5対の目が集中した。
そして、静かに言葉を発した。
「検討してみる価値はあるか。」
「!それでは。」
総司令官の言葉を聞いたオウガは嬉しそうに身を乗り出した
総司令官は顔を上げ、言った。
「この事は一度上に報告をする。その上で検討してみよう。」
そう言って、全員を見回した。
「今回はこれで終了とする。今後もジョーカーの行動に注意を怠らぬよう。解散。」
『はい。』
全員が席を立ち、部屋を出て行った。
「ミツルギ。」
名を呼ばれたミツルギは後ろを振り返った。そこにはオウガとミコトが居た。
浸りはミツルギに近寄った。
「どうした。」
「あとでお前の部屋に行ってもいいか?少し、話したいことがある。」
「分かった。」
オウガの言葉にミツルギは頷いた。そして、三人は別れた
*
ミツルギの部屋にはオウガとミコトがいた。
「話したいこととはなんだ。」
ミツルギは二人にそう切り出した。言われた二人は真剣な顔をしてミツルギを見た。
「ミツルギ、先日のことで聞きたいことがある。」
オウガはそう言った。ミツルギはそう言われるのをわかっていたのか、軽く顔をうつむけた。
「シンラとの事、か。」
小さな声でそう返した。それに二人は頷いた。
「あぁ。とは言ってもお前を責めるわけじゃない。先日も言ったように、俺たちはお前をなくしたくはない。ただ単純におまえらのかんけいがきになっただけだ。」
「僕たちもできることがあるならあなたに協力したい。だから、話してくれますか?」
苦笑しながら言ったオウガにミコトが続けた。その言葉に覚悟を決めたのか、ミツルギが顔をあげ二人を見た。
「分かった。元より、いつかは話さなければいけないと思っていた。だから、今話す。」
そう言ってミツルギは語り出した。
ミツルギは先日のシンラのこと以外に、ザクロやハヅキの事も話した。そして、彼らと時々あっていることや、その際お互いの情報を交換している事も話した。
ただ、役の最高位のことは何も言わなかった。
ミツルギの話を聞き終え、オウガは納得したようにため息を一つついた。
「なるほど、そういうことか。」
「まさか、他の国のAとそこまでの交流があったなんて。」
ミコトは少し驚いたように言った。
そんな二人を見ながら、ミツルギは顔をうつむかせた。
「すまない。お前達のことを、信用していなかった訳では、ないんだ。ただ、お前達とだと、どうしても俺の持つ称号のことで上下関係ができてしまうから、あまり深くは入りにくかったんだ。」
言葉を詰まらせながらそう言ったミツルギの肩に、オウガは手を乗せた。
「そんな顔すんなよ。確かにちょっと遠ざけられてるかな?とは思ったけど、どういうことなら俺も少しわかる。だが、もうおれたちは仲間だって分かっただろ。」
オウガの言葉にミツルギは少し顔を上げた。
「オウガ」
「そうですよ、ミツルギさん。」
オウガの隣にミコトも並んだ。ミツルギはミコトを見た。
「僕たちもミツルギさんのこと、遠ざけていたことがあります。でも、僕たちはいまはミツルギさんが大切なんです。仲間として。だから、もっと僕たちに頼ってください。」
「ミコト」
微笑んだ顔でミコトは言った。その言葉にミツルギは顔を完全に上げた。
二人の言葉にミツルギは張り詰めていた息を吐き出した。そして、シンラ達の前でしか出さなかった笑みを浮かべた。
「ありがとう、二人とも。」
礼を言われた二人は見た事もない笑みに驚いたが、すぐに同じように笑い頷いた。
*
翌日早朝。
ミツルギは誰にも見つかる事なく城を出た。約束の3日目である今日、ミツルギは森の奥の神殿を目指した。
神殿に着くと先にシンラがいた。他の二人はまだきていないようだった。向こうもこちらに気づき、目の前に来た。
「ミツルギか。そのようだとそちらも大丈夫そうだな。」
会ってすぐ、シンラはそう言って微笑んだ。ミツルギもそんなシンラの様子を見てとり、同じように微笑んだ。
「どうやらそちらもおなじようだな。」
二人が相手の様子にそれぞれ安堵している時、どこからかふざけたような声が聞こえて来た。
「ちょっとちょっと、二人だけの世界作らないでくれる。」
二人は一斉に声のした方を向いた。そこには呆れた顔をしたザクロと彼の隣で苦笑いをするハヅキがいた。
二人を見たミツルギ達は肩の力を抜いた。
「すまない。先日のことで少しな。」
シンラが苦笑しながらそう言った。それに同じような顔をしたミツルギも頷いた。
「ふーん。二人がそんな顔するってことは、悪いことじゃないんだ。」
「どんなことがあったんですか?」
二人の様子に悪いことではないと見て取ったザクロ達は、逆に興味を示した。
興味津々な二人にミツルギとシンラは先日のことを話した。
新たに凶々しくなったジョーカーの事、それにはいくつか気になることがあること、凶々しくなったジョーカーを倒すために仲間の前で共闘し関係がバレた事、自分たちの関係を知ってもそれでもなお見限らずより一層仲間だと言えるようになった事。
二人の話を聞いて初めは驚いたザクロ達だが何も言わず、話の後半になると逆に祝福するような笑みを浮かべていた。
「ふーん。良かったじゃない、仲間に認められて。」
「僕たちもそんな風に言ってもらえるといいんですが。」
茶化すように言うザクロだが、内心安心していた。そしてそんなミツルギ達の様子に、自分もそういう関係になりたいと思うハヅキとザクロだが、不安が顔に出ていた。
そんなハヅキに安心させる様にミツルギ達は微笑んだ。
「大丈夫だろう。俺たちがこうなったのに、お前達だけ否定されるなんてあるはずが無い。」
「あぁ。それに私たちと同じことがお前たちに起こらないという保証はどこにも無いからな。」
ふたりの気遣いにザクロとハヅキは顔を上げた。ミツルギたちの顔を見て安心し、笑みを浮かべた。
「ありがと、二人とも。そういえば、二人が関係ばらすことになったジョーカーってそんなに強いの?」
二人に礼を言ったザクロは、思い出した気になっていたことを二人に聞いた。
その問いに全員が真剣な顔をした。
「あぁ。スピードもパワーも上がっていてな、その早さに普通のやつはついていくのは無理だ。」
「おそらく今のままではあのスピードについていけるのはAである私達だけだろう。」
ミツルギの説明に引き継ぐ様にシンラが続けた。二人の話にザクロとハヅキは眉を寄せた。
「はぁ。全く、今の状態でも凶暴性が増して大変だっていうのに。これ以上とか最悪以外のなにものでもないでしょ。」
重いため息をついてそう言ったザクロは頭に手を置いて唸った。 それにハヅキが続いた。
「やはり、役の最高位が今後必要になってくるということでしょうか。」
「それだけじゃないよ。」
不安げに言ったハヅキに付け加える様にザクロが言った。
「もし役の最高位が必要になってくるのなら、国同士のことに縛られてる今の状況じゃあ、全部は守りきれないよ。今の、国同士がバラバラなままじゃね。」
目を細めてそう言ったザクロはこの状況をなんとかできないか思案していた。それを止める様にシンラが言った。
「だが、私たちが国を相手にできることなど限られている。」
苦々しい表情でシンラは言った。それにザクロとハヅキも顔をしかめる。
「なら、俺たちが今できることをすればいい。」
ミツルギの言葉にハッと顔を上げた。ミツルギは剣に手を置いていた。その意味を察した三人はすぐに笑みを浮かべた。
「そうだな。今私たちがやることは一つ。」
シンラが好戦的な笑みを浮かべた。それにやれやれといった様にザクロが肩をすくめる。
「確かに、まずは僕たちがやらなきゃね。」
だが、ザクロもいつもの笑みを浮かべた。それにハヅキもうなづいた。
「そうですね。さきのことでなやむより、まずはいまできることをやるだけです。」
ハヅキがいつもの調子を取り戻し気合いを入れるように言った。
そして全員がお互いを見て頷くと、森の奥に入っていった。
数時間後、森の中心部に轟音が響いた。その後彼らはそれぞれの国へ帰っていった。
*
森から戻ったミツルギは部屋に入ろうとしていた。その時後ろから声がかけられた。
「ミツルギ。」
呼ばれたミツルギは声の方へ振り向いた。そこにオウガとミコトがいた。
ミツルギは二人を部屋の中に招いた。ミツルギは二人と対面するように座った。
「ミツルギ、Aどうしで話してきたことを聞かせてくれるか。」
オウガに言葉に頷き、ミツルギは話し始めた。
今の状況では新たな異変の起こったジョーカーに対処できるのはAだけだという事、国同士が協力しない限りこれ以上の犠牲が出るだろうという事、ジョーカーに起こった新たな異変について少し気になることがある事。
話を聞いていく中、ミコトはあることに引っかかった。
「『気になること』ですか?それは一体?」
「先日俺とミツルが対峙したじょーかー・后は始め象並にまで弱体化したものが急にあの変化をしたが、シンラたちの方に出たジョーカー・兵は異変の起きた一体がそばにいた他のジョーカーを喰ってあのように凶々しくなったらしい。」
「なっ!ジョーカーが共食いをしただと⁉︎」
ミツルギの話を聞いた二人は驚いた。今までジョーカー同士の戦闘は確認されたことがあったが、共食いなど聞いたこともなかったからだ。
だが、いち早く冷静になったオウガはそういえばと何かを思い出した。
「そういえば昨日凶々しくなった城が出現したと聞いたが、そいつは后と同じような状態だったらしい。」
「ジョーカーはどうしたんだ?」
「ツカサとミツルの二人掛かりで倒したそうだ。それでもギリギリだった様だが、大事には至っていないらしい。」
「そうか。」
二人が大変な事態に陥っていなくてミツルギは安心した。
それを見たオウガとミコトは微笑んだ。そして、先ほどの話と関連づけて考え出した。
そして一つの考えに至った。
「もしかしたら、ジョーカーの異変が起こったその状態はジョーカーの強さによって変わるのかもしれない。」
『!』
二人はオウガの言葉に驚いた。だが納得できることでもあった。
そして三人はそのまま話し続けた。
*
ミツルギたちがそんな話をしている頃、ディアマンテ王国とクラーバ王国の境界の森で二つの国の上級騎士たちが大量のジョーカーに囲まれていた。
ディアマンテ王国からはザクロ・オウキ・ノブタカの三人が、クラーバ王国からはハヅキ・マサト・タイコウの三人がいた。彼らは先日のミツルギたちと同じくジョーカーの調査に来ていたところを鉢合わせ、言い合いをしている時に大量のジョーカーに襲われたのだ。
だがさすがは上級騎士。すぐに対応して相手の邪魔はしないまま次々とジョーカーを倒していった。
そんな中、混戦状態を利用してハヅキとザクロは戦いながらも言葉を交わしていた。
「あ~らら、やっぱりこうなっちゃったね。」
「そうですね。いつかはこうなると思っていましたが、こんなに早くザクロさんたちと一緒に戦うことになるとは思ってもみませんでした。でも、今はまだあの状態になったジョーカーはいません。このまま倒しきれば終わりです。」
そういってハヅキが飛び出そうとした時、異変は起こった。
『グオオォォ』
六人が別々に戦っている中、マサトとタイコウの近くにいたジョーカーのうち一体が大きく吠えた。その一体は周りにいるジョーカーに襲いかかり共食いを始めた。
それにつられるように別の場所にいたもう一体も周りのジョーカーを襲い始めた。
「な、なんだこれは⁉︎」
「どういうことですか?」
離れていたザクロたちはその光景を見て一度大きく下がった。そして、ジョーカーの共食いを間近で見たマサトとタイコウは目を見開いていた。
「なんだなんだ。おもしろいことでも始んのかぁ?」
それとは対照的に、オウキが嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべていた。彼の隣でノブタカが顔を険しくして剣を構えていた。
六人が見ていた中、最初の半分ほどを食べ終えたジョーカーは、身体中に鋭いトゲを生やし、禍々しい姿をしていた。
オウキ・ノブタカ・マサト・タイコウの余人が剣を構える中、ザクロとハヅキは彼らの前に立った。それを見て彼らは目を見開いた。だがザクロとハヅキはそのまま凶々しくなったジョーカーの方に歩み出た。
「ハヅキ?」
「マサトさん、タイコウさん。お二人は他のジョーカーを頼みます。このジョーカーの相手は僕たちがします。」
マサトが声をかけるが、ハヅキは歩みを止めずにそう言った。
「お前らもだよ。特にオウキ、お前もちゃんと他のジョーカーの相手してな。」
「あぁ⁉︎俺にもそいつらの相手させやがれ。」
「無理だよ。こいつらの相手は今のままじゃ僕たちじゃなきゃできない。その代わり、他のジョーカーのことは頼んだよ。」
ザクロの言葉にはじめは反論したオウキだったが、返された言葉を聞いて押し黙った。
ザクロとハヅキは視線だけを交わらせると、一気に駆け出した。それにつられるように他のジョーカーも動きだした。
*
マサトたちはジョーカーと戦いながらも、ハヅキたちの方を気にしていた。
(ハヅキ、なぜ君が国を裏切るようなことをするのですか?)
マサトはハヅキの行動に複雑な心境だった。そんな彼の背中を狙ってジョーカーがその爪を振るおうとしたが、横からタイコウによって弾かれた。タイコウはバランスを崩したジョーカーを斬り倒し、マサトと背中合わせになった。
「背中がガラ空きだぞ、マサト。」
後ろからかかった声に、マサトは苦々しい顔をして小さな声ですみませんと言った。そんな彼の様子にタイコウはため息をついた。
「はぁ。ハヅキのことで悩むのは分かるが、時と場合を考えろ。今の状態でそんな風にされたんじゃこっちが迷惑だ。それに、この状況で協力しないでいるっていうのがそもそも無理なんだ。いい加減国のことにこだわるのはやめろ。」
二人は場所を立ち代り入れ替わりしながら、ジョーカーを倒していった。そして、悩んでいたマサトも目の前のジョーカーを倒し、余裕ができたところで大きく深呼吸した。その表情にはもう迷いはなかった。
それを見たタイコウは小さく笑みをこぼし、新たなジョーカーへ向かっていった。
ハヅキとザクロは互いに目配せをしながら息の合ったコンビネーションで戦っていた。
ザクロが右のジョーカーの爪を弾くと、その背中を狙ってもう一体が腕を振り下ろそうとしたが、ハヅキが下から受け止め押し返した。押されたジョーカーはたまらず後ろへたたらを踏んで下がった。
「サンキュ、ハヅキ。」
「まったく、ちゃんと周りをみてください。ザクロさん。」
反省した様子もなくふざけた物言いをするザクロにハヅキはため息をこぼした。それを面白がっていたザクロだが、すぐに真剣な顔をしてジョーカーを見据えた。
「けど、あの二人が共闘しなきゃいけなかった理由もわかるね。確かにこれじゃ、今のあいつらにはキツいでしょ。」
「えぇ。それに…」
ハヅキは暗い表情をして顔を少しうつむけた。そんな彼の様子を察したザクロはオウキたちの方を見た。そして口元に笑みを浮かべた。
「どうやら、僕たちの方も心配いらなさそうだよ。」
「え?」
ザクロの言葉にハヅキは顔をあげマサトたちの方を見た。
そこではオウキを狙っていたジョーカーをマサトが倒していた。他のところではノブタカとタイコウがぎこちないながらも一緒に戦っていた。
「マサトさん、タイコウさん。」
それを見たハヅキは前を向きジョーカーを見据えた。ハヅキの様子を察したザクロも改めて剣を構えた。
そして、二人同時にジョーカーに向かっていった。
二人が同時に剣を振り下ろせばジョーカーはそれを腕で受け止めた。それにハヅキはかがんでジョーカーの視界から消えると下から剣を振り上げ腕を弾いた。動画ガラ空きになったところをハヅキが切りつければ、ザクロを振り切ったもう一体が爪で襲いかかってきた。体制が崩れたままのハヅキの上から爪を止めたザクロは追い討ちをかけるように上から剣を振り下ろした。
倒れた二体のジョーカーから二人は離れると、剣を顔の正面に縦に構えた。
「やるよ。ハヅキ。」
「はい。ザクロさん。」
二人の剣は紫色の光を纏った。
『フルハウス』
二人は同時に駆け出し、ザクロが左のジョーカーを、ハヅキが右のジョーカーをそれぞれ斬った。斬られたジョーカーは紫色の光に包まれて消滅した。
オウキたちの方でも役を使いそれぞれ倒し終えていた。そして最後の一体を倒し、全員剣を納めた。
*
「あぁ~、疲れた。」
そう言ってオウキはその場に座り込んだ。信孝は何も言わずに彼のそばに佇んでいた。そんな彼らの元にザクロが近づいた。
「お疲れさん。二人とも怪我とかないの?特にオウキとか。」
「いえ、ございません。オウキの方もかすり傷はあれど、大した怪我ではありません。」
ザクロの茶化すような言葉にそれまで黙っていたノブタカが答えた。その答えにザクロは肩の力を抜いた。
「そっか。」
安心したような彼の様子にオウキとノブタカは目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。
ザクロたちとは反対に、マサトとタイコウがハヅキの元に駆け寄った。
「大丈夫ですかハヅキ。怪我などはありませんか?」
マサトはハヅキの体をくまなく調べた。それにハヅキは笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよマサトさん。お二人の方こそ、あの大量のジョーカーを相手に怪我とかありませんか?」
「心配するな。大量と言ってもそこまでの量じゃなかった。怪我はしていない。」
二人の心配をしたハヅキに頭を撫でながらタイコウが答えた。それにハヅキも肩の力を抜いた。
「そうですか。良かったぁ。」
そう言ったハヅキにマサトとタイコウは微笑んだ。
仲間のことを確認したザクロとハヅキはすぐに真剣な表情になった。その様子にオウキたちも纏う空気を一変させた。
「それで、王国の裏切り者である僕たちのこと、上に報告するかい?」
「王国のことも貴方方のことも裏切った僕たちをどうしますか?」
ザクロはいつもの何を考えているかわからない笑顔で、ハヅキは真剣な表情でそう言った。
二人の言葉を聞いて、オウキたちはそれぞれ顔を見合わせ、頷いた。
そしてオウキが不敵な笑顔をして言った。
「 バーカ。誰が仲間を売るかよ。んなこと言ったら俺らだって同罪だっての。」
「貴方を、ザクロ様だけを責めるつもりなどありません。貴方は私たちの仲間ですから。」
オウキの言葉に、続けたノブタカの言葉にザクロは目を見開いた。
「お前ら…」
ザクロの表情にオウキは珍しいものを見て笑った。
彼らの隣でも同じことが起こっていた。
マサトはいつもの優しい笑みを浮かべて言った。
「確かに、今回のことは上に報告するのが当然でしょう。ですが、僕たちは君のことを報告するつもりはありません。」
「お前だけを責めるつもりはないし、罪がお前だけにあると言うつもりもない。俺たちだって王国を裏切ったんだからよ。」
続けたタイコウは口元に笑みを浮かべていた。
二人の予想もしていなかった言葉にハヅキは嬉しく思い、笑みをこぼした。
ザクロとハヅキは顔を見合わせ頷きあうと、彼らに自分たちの関係を明かした。他国のAと交流を持っていたこと、その際それぞれの国の現状について話していたこと、残りの二人の方も同じように仲間に認めてもらったこと、その原因となったジョーカーのこと。話を聞いている中で驚くこともあったが、誰も口を挟まなかった。
話を聞き終え最初に動いたのは意外にもオウキだった。
「てことは、お前らもそいつらと同じようになったってことか。良かったじゃねぇか。」
「ホントだよ。まさか僕たちの方まであいつらと同じことになるとは。て言うか、オウキのそれ褒めてないでしょ。」
肩をすくめて言ったザクロだが、最後はいつものようにおどけた調子で返した。だがザクロも内心嬉しく思っていた。その隣でハヅキも頷いた。
「さて、そろそろ撤収するとしますか。」
そう言って、彼らはそれぞれの国へ帰っていった。その最中、ザクロとハヅキは同じことを考えていた。
(やっぱり、今のまんまじゃ危ないね。特にA以外の戦力不足が。)
(ジョーカーの異変も起きやすくなっています。いずれ国同士が協力しないとバラバラのままじゃ手に負えなくなってしまいます。)
同じ頃、ミチュ王国の自室でミツルギも考えていた。
(近々、役の最高位を使わざるを得なくなる。)
同じくスピリット王国の渡り廊下を歩いていたシンラも空を見上げて考えていた。
(おそらく、それを使う原因となるのは、ただ一つ。)
《王の出現!!》
この時四人の考えは一致した。
ザクロはため息を一つついて先を見据えた。
(一筋縄じゃいかないか。)
ザクロの口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
青年-ザクロは余裕の笑みを浮かべたまま、ジョーカーたちの攻撃を紙一重で避けていた。
そして、大きく跳躍して距離を取った。
「よっと。さて、もう終わりにしますか。」
ザクロは左足を引いて剣を斜め下に構えた。すると、剣は青い光を纏った。
「フラッシュ」
動かないザクロに向かって、ジョーカー達は突進して来た。だが、彼はその場から動くことなく、剣を二度振るった。
一度目は下から右上に振るい、二度目は真上から振り下ろした。
それによって生まれた斬撃がジョーカー達を襲った。
ジョーカーたちは全て青い光を纏って消滅した。
剣を納めたザクロは息を一つ付いた。
「ふぅ。全く、変なことがいろいろ起きすぎでしょ。」
そう言って、ザクロは空を見上げた。
*
ミチュ王国の会議室に上級騎士と総司令官が揃っていた。
「以上が先日の調査報告です。」
そう言ってミコトは席についた。
ミツルギ・オウガ・ミコトの三人は先日、凶々しくなったジョーカーの事を調べる為、切り札の森を訪れていた。森の中でジョーカーを倒していた三人は新たな異変をきたしたジョーカーの出現を待っていたが、中々出現しなかった。
その為、一度帰還しよおとした時、そのジョーカーが現れた。
そのジョーカーをなんとか倒すことはできた。だが、問題があった。
「KとQである二人がついていけない強さだなんて。」
報告を聞いたツカサは、青い顔をして言った。
それにオウガは肩をすくめた。
「俺もなんとか受けたんだが、相手のスピードが尋常じゃなくてな。追いつけなくて吹っ飛ばされたよ。」
オウガは当時を思い出しながらそう言った。
それにミコトも同意した。
「僕もです。相手の動きを見ることはできたんですが、体が反応する前に引き飛ばされてしまいました。」
二人の話を聞いて場が静かになった。
総司令官は顎に手を当て、何かを考えながらミツルギを見た。
「ミツルギ、ジョーカーの事で何か気付いた事はあるか?」
それに少し逡巡した後、ミツルギは答えた。
「いえ、スピードもパワーも先ほど報告した事以外は特に何も。」
ミツルギは静かにそう言った。それに総司令官は息を吐いた。
「そうか。」
総司令官がそう言った事で、部屋の中は落胆の空気が広がった。
「総司令官。」
そんな中、オウガが声をあげた。
「何だ。」
「今回のジョーカーのことについて、他国との連携を取る事はできませんか。」
オウガが言った事に、全員が驚いた。だが、すぐに復活したミコトも続いた。
「僕も同意見です。」
総司令官は二人を見据えたまま、顎の下で手を組んだ。
「そう考えた理由は何だ?」
その目に負けず、二人は答えた。
「今回のジョーカーの一件で、今対抗できるのはAであるミツルギだけだと判明しました。それならば他の国でも、同じようにAでないと対抗できないはずです。ならば、他国との連携をとった方が得策だと思います。」
「それに、今回のような状態のジョーカーが今後増加しないという保証はありません。それならば早い内から対策をとった方が懸命だと思います。」
オウガの言葉に続くようにミコトが言った。
二人の意見を聞いた総司令官は難しい顔をした。
「ふむ。」
考えを巡らす総司令官に5対の目が集中した。
そして、静かに言葉を発した。
「検討してみる価値はあるか。」
「!それでは。」
総司令官の言葉を聞いたオウガは嬉しそうに身を乗り出した
総司令官は顔を上げ、言った。
「この事は一度上に報告をする。その上で検討してみよう。」
そう言って、全員を見回した。
「今回はこれで終了とする。今後もジョーカーの行動に注意を怠らぬよう。解散。」
『はい。』
全員が席を立ち、部屋を出て行った。
「ミツルギ。」
名を呼ばれたミツルギは後ろを振り返った。そこにはオウガとミコトが居た。
浸りはミツルギに近寄った。
「どうした。」
「あとでお前の部屋に行ってもいいか?少し、話したいことがある。」
「分かった。」
オウガの言葉にミツルギは頷いた。そして、三人は別れた
*
ミツルギの部屋にはオウガとミコトがいた。
「話したいこととはなんだ。」
ミツルギは二人にそう切り出した。言われた二人は真剣な顔をしてミツルギを見た。
「ミツルギ、先日のことで聞きたいことがある。」
オウガはそう言った。ミツルギはそう言われるのをわかっていたのか、軽く顔をうつむけた。
「シンラとの事、か。」
小さな声でそう返した。それに二人は頷いた。
「あぁ。とは言ってもお前を責めるわけじゃない。先日も言ったように、俺たちはお前をなくしたくはない。ただ単純におまえらのかんけいがきになっただけだ。」
「僕たちもできることがあるならあなたに協力したい。だから、話してくれますか?」
苦笑しながら言ったオウガにミコトが続けた。その言葉に覚悟を決めたのか、ミツルギが顔をあげ二人を見た。
「分かった。元より、いつかは話さなければいけないと思っていた。だから、今話す。」
そう言ってミツルギは語り出した。
ミツルギは先日のシンラのこと以外に、ザクロやハヅキの事も話した。そして、彼らと時々あっていることや、その際お互いの情報を交換している事も話した。
ただ、役の最高位のことは何も言わなかった。
ミツルギの話を聞き終え、オウガは納得したようにため息を一つついた。
「なるほど、そういうことか。」
「まさか、他の国のAとそこまでの交流があったなんて。」
ミコトは少し驚いたように言った。
そんな二人を見ながら、ミツルギは顔をうつむかせた。
「すまない。お前達のことを、信用していなかった訳では、ないんだ。ただ、お前達とだと、どうしても俺の持つ称号のことで上下関係ができてしまうから、あまり深くは入りにくかったんだ。」
言葉を詰まらせながらそう言ったミツルギの肩に、オウガは手を乗せた。
「そんな顔すんなよ。確かにちょっと遠ざけられてるかな?とは思ったけど、どういうことなら俺も少しわかる。だが、もうおれたちは仲間だって分かっただろ。」
オウガの言葉にミツルギは少し顔を上げた。
「オウガ」
「そうですよ、ミツルギさん。」
オウガの隣にミコトも並んだ。ミツルギはミコトを見た。
「僕たちもミツルギさんのこと、遠ざけていたことがあります。でも、僕たちはいまはミツルギさんが大切なんです。仲間として。だから、もっと僕たちに頼ってください。」
「ミコト」
微笑んだ顔でミコトは言った。その言葉にミツルギは顔を完全に上げた。
二人の言葉にミツルギは張り詰めていた息を吐き出した。そして、シンラ達の前でしか出さなかった笑みを浮かべた。
「ありがとう、二人とも。」
礼を言われた二人は見た事もない笑みに驚いたが、すぐに同じように笑い頷いた。
*
翌日早朝。
ミツルギは誰にも見つかる事なく城を出た。約束の3日目である今日、ミツルギは森の奥の神殿を目指した。
神殿に着くと先にシンラがいた。他の二人はまだきていないようだった。向こうもこちらに気づき、目の前に来た。
「ミツルギか。そのようだとそちらも大丈夫そうだな。」
会ってすぐ、シンラはそう言って微笑んだ。ミツルギもそんなシンラの様子を見てとり、同じように微笑んだ。
「どうやらそちらもおなじようだな。」
二人が相手の様子にそれぞれ安堵している時、どこからかふざけたような声が聞こえて来た。
「ちょっとちょっと、二人だけの世界作らないでくれる。」
二人は一斉に声のした方を向いた。そこには呆れた顔をしたザクロと彼の隣で苦笑いをするハヅキがいた。
二人を見たミツルギ達は肩の力を抜いた。
「すまない。先日のことで少しな。」
シンラが苦笑しながらそう言った。それに同じような顔をしたミツルギも頷いた。
「ふーん。二人がそんな顔するってことは、悪いことじゃないんだ。」
「どんなことがあったんですか?」
二人の様子に悪いことではないと見て取ったザクロ達は、逆に興味を示した。
興味津々な二人にミツルギとシンラは先日のことを話した。
新たに凶々しくなったジョーカーの事、それにはいくつか気になることがあること、凶々しくなったジョーカーを倒すために仲間の前で共闘し関係がバレた事、自分たちの関係を知ってもそれでもなお見限らずより一層仲間だと言えるようになった事。
二人の話を聞いて初めは驚いたザクロ達だが何も言わず、話の後半になると逆に祝福するような笑みを浮かべていた。
「ふーん。良かったじゃない、仲間に認められて。」
「僕たちもそんな風に言ってもらえるといいんですが。」
茶化すように言うザクロだが、内心安心していた。そしてそんなミツルギ達の様子に、自分もそういう関係になりたいと思うハヅキとザクロだが、不安が顔に出ていた。
そんなハヅキに安心させる様にミツルギ達は微笑んだ。
「大丈夫だろう。俺たちがこうなったのに、お前達だけ否定されるなんてあるはずが無い。」
「あぁ。それに私たちと同じことがお前たちに起こらないという保証はどこにも無いからな。」
ふたりの気遣いにザクロとハヅキは顔を上げた。ミツルギたちの顔を見て安心し、笑みを浮かべた。
「ありがと、二人とも。そういえば、二人が関係ばらすことになったジョーカーってそんなに強いの?」
二人に礼を言ったザクロは、思い出した気になっていたことを二人に聞いた。
その問いに全員が真剣な顔をした。
「あぁ。スピードもパワーも上がっていてな、その早さに普通のやつはついていくのは無理だ。」
「おそらく今のままではあのスピードについていけるのはAである私達だけだろう。」
ミツルギの説明に引き継ぐ様にシンラが続けた。二人の話にザクロとハヅキは眉を寄せた。
「はぁ。全く、今の状態でも凶暴性が増して大変だっていうのに。これ以上とか最悪以外のなにものでもないでしょ。」
重いため息をついてそう言ったザクロは頭に手を置いて唸った。 それにハヅキが続いた。
「やはり、役の最高位が今後必要になってくるということでしょうか。」
「それだけじゃないよ。」
不安げに言ったハヅキに付け加える様にザクロが言った。
「もし役の最高位が必要になってくるのなら、国同士のことに縛られてる今の状況じゃあ、全部は守りきれないよ。今の、国同士がバラバラなままじゃね。」
目を細めてそう言ったザクロはこの状況をなんとかできないか思案していた。それを止める様にシンラが言った。
「だが、私たちが国を相手にできることなど限られている。」
苦々しい表情でシンラは言った。それにザクロとハヅキも顔をしかめる。
「なら、俺たちが今できることをすればいい。」
ミツルギの言葉にハッと顔を上げた。ミツルギは剣に手を置いていた。その意味を察した三人はすぐに笑みを浮かべた。
「そうだな。今私たちがやることは一つ。」
シンラが好戦的な笑みを浮かべた。それにやれやれといった様にザクロが肩をすくめる。
「確かに、まずは僕たちがやらなきゃね。」
だが、ザクロもいつもの笑みを浮かべた。それにハヅキもうなづいた。
「そうですね。さきのことでなやむより、まずはいまできることをやるだけです。」
ハヅキがいつもの調子を取り戻し気合いを入れるように言った。
そして全員がお互いを見て頷くと、森の奥に入っていった。
数時間後、森の中心部に轟音が響いた。その後彼らはそれぞれの国へ帰っていった。
*
森から戻ったミツルギは部屋に入ろうとしていた。その時後ろから声がかけられた。
「ミツルギ。」
呼ばれたミツルギは声の方へ振り向いた。そこにオウガとミコトがいた。
ミツルギは二人を部屋の中に招いた。ミツルギは二人と対面するように座った。
「ミツルギ、Aどうしで話してきたことを聞かせてくれるか。」
オウガに言葉に頷き、ミツルギは話し始めた。
今の状況では新たな異変の起こったジョーカーに対処できるのはAだけだという事、国同士が協力しない限りこれ以上の犠牲が出るだろうという事、ジョーカーに起こった新たな異変について少し気になることがある事。
話を聞いていく中、ミコトはあることに引っかかった。
「『気になること』ですか?それは一体?」
「先日俺とミツルが対峙したじょーかー・后は始め象並にまで弱体化したものが急にあの変化をしたが、シンラたちの方に出たジョーカー・兵は異変の起きた一体がそばにいた他のジョーカーを喰ってあのように凶々しくなったらしい。」
「なっ!ジョーカーが共食いをしただと⁉︎」
ミツルギの話を聞いた二人は驚いた。今までジョーカー同士の戦闘は確認されたことがあったが、共食いなど聞いたこともなかったからだ。
だが、いち早く冷静になったオウガはそういえばと何かを思い出した。
「そういえば昨日凶々しくなった城が出現したと聞いたが、そいつは后と同じような状態だったらしい。」
「ジョーカーはどうしたんだ?」
「ツカサとミツルの二人掛かりで倒したそうだ。それでもギリギリだった様だが、大事には至っていないらしい。」
「そうか。」
二人が大変な事態に陥っていなくてミツルギは安心した。
それを見たオウガとミコトは微笑んだ。そして、先ほどの話と関連づけて考え出した。
そして一つの考えに至った。
「もしかしたら、ジョーカーの異変が起こったその状態はジョーカーの強さによって変わるのかもしれない。」
『!』
二人はオウガの言葉に驚いた。だが納得できることでもあった。
そして三人はそのまま話し続けた。
*
ミツルギたちがそんな話をしている頃、ディアマンテ王国とクラーバ王国の境界の森で二つの国の上級騎士たちが大量のジョーカーに囲まれていた。
ディアマンテ王国からはザクロ・オウキ・ノブタカの三人が、クラーバ王国からはハヅキ・マサト・タイコウの三人がいた。彼らは先日のミツルギたちと同じくジョーカーの調査に来ていたところを鉢合わせ、言い合いをしている時に大量のジョーカーに襲われたのだ。
だがさすがは上級騎士。すぐに対応して相手の邪魔はしないまま次々とジョーカーを倒していった。
そんな中、混戦状態を利用してハヅキとザクロは戦いながらも言葉を交わしていた。
「あ~らら、やっぱりこうなっちゃったね。」
「そうですね。いつかはこうなると思っていましたが、こんなに早くザクロさんたちと一緒に戦うことになるとは思ってもみませんでした。でも、今はまだあの状態になったジョーカーはいません。このまま倒しきれば終わりです。」
そういってハヅキが飛び出そうとした時、異変は起こった。
『グオオォォ』
六人が別々に戦っている中、マサトとタイコウの近くにいたジョーカーのうち一体が大きく吠えた。その一体は周りにいるジョーカーに襲いかかり共食いを始めた。
それにつられるように別の場所にいたもう一体も周りのジョーカーを襲い始めた。
「な、なんだこれは⁉︎」
「どういうことですか?」
離れていたザクロたちはその光景を見て一度大きく下がった。そして、ジョーカーの共食いを間近で見たマサトとタイコウは目を見開いていた。
「なんだなんだ。おもしろいことでも始んのかぁ?」
それとは対照的に、オウキが嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべていた。彼の隣でノブタカが顔を険しくして剣を構えていた。
六人が見ていた中、最初の半分ほどを食べ終えたジョーカーは、身体中に鋭いトゲを生やし、禍々しい姿をしていた。
オウキ・ノブタカ・マサト・タイコウの余人が剣を構える中、ザクロとハヅキは彼らの前に立った。それを見て彼らは目を見開いた。だがザクロとハヅキはそのまま凶々しくなったジョーカーの方に歩み出た。
「ハヅキ?」
「マサトさん、タイコウさん。お二人は他のジョーカーを頼みます。このジョーカーの相手は僕たちがします。」
マサトが声をかけるが、ハヅキは歩みを止めずにそう言った。
「お前らもだよ。特にオウキ、お前もちゃんと他のジョーカーの相手してな。」
「あぁ⁉︎俺にもそいつらの相手させやがれ。」
「無理だよ。こいつらの相手は今のままじゃ僕たちじゃなきゃできない。その代わり、他のジョーカーのことは頼んだよ。」
ザクロの言葉にはじめは反論したオウキだったが、返された言葉を聞いて押し黙った。
ザクロとハヅキは視線だけを交わらせると、一気に駆け出した。それにつられるように他のジョーカーも動きだした。
*
マサトたちはジョーカーと戦いながらも、ハヅキたちの方を気にしていた。
(ハヅキ、なぜ君が国を裏切るようなことをするのですか?)
マサトはハヅキの行動に複雑な心境だった。そんな彼の背中を狙ってジョーカーがその爪を振るおうとしたが、横からタイコウによって弾かれた。タイコウはバランスを崩したジョーカーを斬り倒し、マサトと背中合わせになった。
「背中がガラ空きだぞ、マサト。」
後ろからかかった声に、マサトは苦々しい顔をして小さな声ですみませんと言った。そんな彼の様子にタイコウはため息をついた。
「はぁ。ハヅキのことで悩むのは分かるが、時と場合を考えろ。今の状態でそんな風にされたんじゃこっちが迷惑だ。それに、この状況で協力しないでいるっていうのがそもそも無理なんだ。いい加減国のことにこだわるのはやめろ。」
二人は場所を立ち代り入れ替わりしながら、ジョーカーを倒していった。そして、悩んでいたマサトも目の前のジョーカーを倒し、余裕ができたところで大きく深呼吸した。その表情にはもう迷いはなかった。
それを見たタイコウは小さく笑みをこぼし、新たなジョーカーへ向かっていった。
ハヅキとザクロは互いに目配せをしながら息の合ったコンビネーションで戦っていた。
ザクロが右のジョーカーの爪を弾くと、その背中を狙ってもう一体が腕を振り下ろそうとしたが、ハヅキが下から受け止め押し返した。押されたジョーカーはたまらず後ろへたたらを踏んで下がった。
「サンキュ、ハヅキ。」
「まったく、ちゃんと周りをみてください。ザクロさん。」
反省した様子もなくふざけた物言いをするザクロにハヅキはため息をこぼした。それを面白がっていたザクロだが、すぐに真剣な顔をしてジョーカーを見据えた。
「けど、あの二人が共闘しなきゃいけなかった理由もわかるね。確かにこれじゃ、今のあいつらにはキツいでしょ。」
「えぇ。それに…」
ハヅキは暗い表情をして顔を少しうつむけた。そんな彼の様子を察したザクロはオウキたちの方を見た。そして口元に笑みを浮かべた。
「どうやら、僕たちの方も心配いらなさそうだよ。」
「え?」
ザクロの言葉にハヅキは顔をあげマサトたちの方を見た。
そこではオウキを狙っていたジョーカーをマサトが倒していた。他のところではノブタカとタイコウがぎこちないながらも一緒に戦っていた。
「マサトさん、タイコウさん。」
それを見たハヅキは前を向きジョーカーを見据えた。ハヅキの様子を察したザクロも改めて剣を構えた。
そして、二人同時にジョーカーに向かっていった。
二人が同時に剣を振り下ろせばジョーカーはそれを腕で受け止めた。それにハヅキはかがんでジョーカーの視界から消えると下から剣を振り上げ腕を弾いた。動画ガラ空きになったところをハヅキが切りつければ、ザクロを振り切ったもう一体が爪で襲いかかってきた。体制が崩れたままのハヅキの上から爪を止めたザクロは追い討ちをかけるように上から剣を振り下ろした。
倒れた二体のジョーカーから二人は離れると、剣を顔の正面に縦に構えた。
「やるよ。ハヅキ。」
「はい。ザクロさん。」
二人の剣は紫色の光を纏った。
『フルハウス』
二人は同時に駆け出し、ザクロが左のジョーカーを、ハヅキが右のジョーカーをそれぞれ斬った。斬られたジョーカーは紫色の光に包まれて消滅した。
オウキたちの方でも役を使いそれぞれ倒し終えていた。そして最後の一体を倒し、全員剣を納めた。
*
「あぁ~、疲れた。」
そう言ってオウキはその場に座り込んだ。信孝は何も言わずに彼のそばに佇んでいた。そんな彼らの元にザクロが近づいた。
「お疲れさん。二人とも怪我とかないの?特にオウキとか。」
「いえ、ございません。オウキの方もかすり傷はあれど、大した怪我ではありません。」
ザクロの茶化すような言葉にそれまで黙っていたノブタカが答えた。その答えにザクロは肩の力を抜いた。
「そっか。」
安心したような彼の様子にオウキとノブタカは目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。
ザクロたちとは反対に、マサトとタイコウがハヅキの元に駆け寄った。
「大丈夫ですかハヅキ。怪我などはありませんか?」
マサトはハヅキの体をくまなく調べた。それにハヅキは笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよマサトさん。お二人の方こそ、あの大量のジョーカーを相手に怪我とかありませんか?」
「心配するな。大量と言ってもそこまでの量じゃなかった。怪我はしていない。」
二人の心配をしたハヅキに頭を撫でながらタイコウが答えた。それにハヅキも肩の力を抜いた。
「そうですか。良かったぁ。」
そう言ったハヅキにマサトとタイコウは微笑んだ。
仲間のことを確認したザクロとハヅキはすぐに真剣な表情になった。その様子にオウキたちも纏う空気を一変させた。
「それで、王国の裏切り者である僕たちのこと、上に報告するかい?」
「王国のことも貴方方のことも裏切った僕たちをどうしますか?」
ザクロはいつもの何を考えているかわからない笑顔で、ハヅキは真剣な表情でそう言った。
二人の言葉を聞いて、オウキたちはそれぞれ顔を見合わせ、頷いた。
そしてオウキが不敵な笑顔をして言った。
「 バーカ。誰が仲間を売るかよ。んなこと言ったら俺らだって同罪だっての。」
「貴方を、ザクロ様だけを責めるつもりなどありません。貴方は私たちの仲間ですから。」
オウキの言葉に、続けたノブタカの言葉にザクロは目を見開いた。
「お前ら…」
ザクロの表情にオウキは珍しいものを見て笑った。
彼らの隣でも同じことが起こっていた。
マサトはいつもの優しい笑みを浮かべて言った。
「確かに、今回のことは上に報告するのが当然でしょう。ですが、僕たちは君のことを報告するつもりはありません。」
「お前だけを責めるつもりはないし、罪がお前だけにあると言うつもりもない。俺たちだって王国を裏切ったんだからよ。」
続けたタイコウは口元に笑みを浮かべていた。
二人の予想もしていなかった言葉にハヅキは嬉しく思い、笑みをこぼした。
ザクロとハヅキは顔を見合わせ頷きあうと、彼らに自分たちの関係を明かした。他国のAと交流を持っていたこと、その際それぞれの国の現状について話していたこと、残りの二人の方も同じように仲間に認めてもらったこと、その原因となったジョーカーのこと。話を聞いている中で驚くこともあったが、誰も口を挟まなかった。
話を聞き終え最初に動いたのは意外にもオウキだった。
「てことは、お前らもそいつらと同じようになったってことか。良かったじゃねぇか。」
「ホントだよ。まさか僕たちの方まであいつらと同じことになるとは。て言うか、オウキのそれ褒めてないでしょ。」
肩をすくめて言ったザクロだが、最後はいつものようにおどけた調子で返した。だがザクロも内心嬉しく思っていた。その隣でハヅキも頷いた。
「さて、そろそろ撤収するとしますか。」
そう言って、彼らはそれぞれの国へ帰っていった。その最中、ザクロとハヅキは同じことを考えていた。
(やっぱり、今のまんまじゃ危ないね。特にA以外の戦力不足が。)
(ジョーカーの異変も起きやすくなっています。いずれ国同士が協力しないとバラバラのままじゃ手に負えなくなってしまいます。)
同じ頃、ミチュ王国の自室でミツルギも考えていた。
(近々、役の最高位を使わざるを得なくなる。)
同じくスピリット王国の渡り廊下を歩いていたシンラも空を見上げて考えていた。
(おそらく、それを使う原因となるのは、ただ一つ。)
《王の出現!!》
この時四人の考えは一致した。
ザクロはため息を一つついて先を見据えた。
(一筋縄じゃいかないか。)
ザクロの口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる