6 / 25
第6話 君の声 僕の声
しおりを挟む
あれから1週間後、ついにこの日がやってきた。
YUNIさんとの狩りの日……そして僕らの今後を決める大事な日だ。
約束の時間まではまだまだ時間があったけれど、僕は待ちきれずに1人で狩りをしていた。
「久村の言うとおり、今の僕はちょっとおかしいのかもな……」
僕は無心でコントローラーを動かし、その場の状況に応じた最適解を選び続ける。
標的は狼型モンスター【フェンネル】、その大きな爪と牙から繰り出される鋭い攻撃を紙一重で避け、できた隙を弓矢で射抜く。
「AHH!?GAHHHHHH!!!!」
放たれた全ての矢は命中し、フェンネルの身体が破壊された。狼の巨体が大きくのけぞり、大きな隙が生まれる。
「……ッ……!!」
その隙を逃さず僕は【決別の一矢】を叩き込む。
そしてフェンネルの体力は尽き、画面にクエスト完了の文字が表示された。
こうしていると思い出す。
僕が初めてこのゲームをプレイした時のことを。
僕は昔からそこそこ何でもできた。
授業を聞けばテストで困る事はなかったし、どんなスポーツも少し齧れば並の同級生よりは上手くできた。
しかし、どれも結局はそこそこ止まりで終わった。
塾に通うのが当たり前で、かつ元々秀才な同級生にはテストの点数で敵うことはなかったし、サッカークラブの出身で将来プロ入りと噂された同級生からボールを奪えたことは一度もなかった。
どれもそこそこで止まり、何かを極めるといったことができない人生だった。
そのことに気づいた時、僕は初めて自分の人生というものに絶望したんだと思う。
きっと自分は何かを成し遂げることもできず、何者にもなれないまま漠然と人生を無駄に生きて無意味に死んでいくのだと。
あの時まではそう思っていた。
あの時、とはご想像の通り僕がゲームに出会った日だ。
初めてやったゲームはモンフェスではなく「トワイライトデスティニー」というRPGである。当時僕の姉はハマっていたゲームを自身が受験を期にやらなくなったため僕に譲ってくれた。それまでゲームをやったことのない僕は、未知の体験に最初こそ戸惑ったものの、どハマりするのにそう時間はかからなかった。
正直対象年齢に比べればストーリーは難解で、アクション要素が強めなゲームであったため、敵を倒すのに苦戦しっぱなしだった。けれどそこで僕は諦めず敵の動きを研究し、自身のレベルを上げつつ装備を整え、あとはひたすらトライアンドエラーを繰り返すことでどんな相手も倒すことができた。
現実の世界ではどんなに頑張ってもそこそこで止まってしまっていた僕だったが、ゲームの世界は頑張れば頑張っただけ強くなれた。そのことを知った時には僕は既にどっぷりゲームの沼にハマっていて、その沼でもがいている時に見つけたのがモンフェスだった。
「そろそろ時間か……」
時刻は21時。
いつも僕らが狩りをする時間。そして
〈YUNIさんがあなたをパーティに招待しました〉
どうやらYUNIさんは僕の提案を受け入れてくれたということらしい。
ゲーム本体のアプリを起動し、パーティに参加する。
この瞬間、僕とYUNIさんのパスが繋がり、ボイスチャットは開始された。
さて、緊張の第一声である。
こんばんは?あるいは初めまして……な間柄じゃあないか。まぁもうなんだっていいや。
だから、僕は
『YUNIさんこんばんは!KUONです。改めましてよろしくお願いしますね!!』
ごく普通に、当たり前に、当たり障りのない挨拶をする。
『……』
しかし、返事はない。
あれれーおかしいぞ~?
YUNIさんの声が聞こえないな~?
……おっとこれはいけない。
危うくヒーローショーのお姉さんムーブをかましてしまいそうになった。……では気を取り直して
『YUNIさん聞こえてますかー?回線の調子悪そうだったらテキストチャットでも大丈夫ですよ!』
と投げかけてみる。
僕も久村と他のオンラインゲームをやる時、回線の状況によっては音声通話がうまくいかない時がある。こういった点もボイスチャットのデメリットの一つだなぁと思っていると
『……す』
微かに、何かが聞こえたような……?
もしかしてノイズかな?本当に回線の調子が悪いのかも……という心配は杞憂に終わることとなる。
『こ……こ……こ……こん……』
『こん?』
『こんばんは!!!!(爆音)』
『うわぁ!?』
『ぴゃっ!?』
突如耳元で放たれる爆音に、僕は思わずびっくりしてしまった。
その声の高さからすると……どうやらYUNIさんは女性らしい。テキストチャットの時といい今回といい、あのおっさんアバターとの乖離がとどまるところを知らない。
うーん……というかこの声
つい最近どこかで聞いたような?
『えーっと、YUNIさんですか?』
『あ、ひ、ひゃい!たか……じゃない!違います!いや、違わなくはないんですけど!あの、私は!』
こんな時なのに、僕は先日のことを思い出していた。
『あ、よかった~僕、2年A組の紬《つむぎ》久遠《くおん》って言います!高田ユニさんでしょうか?』
『そ、そ、そ、そう!です!!』
そして今
『YUNIです!よろしくお願い……します!!』
そんなはずはないと思いつつも、どこかでそう思わずにはいられない。
その、どこか人と話し慣れていないような彼女の声が先日家庭訪問した時にインターホン越しに会話した彼女……高田ユニのものとそっくりだったからだ。
YUNIさんとの狩りの日……そして僕らの今後を決める大事な日だ。
約束の時間まではまだまだ時間があったけれど、僕は待ちきれずに1人で狩りをしていた。
「久村の言うとおり、今の僕はちょっとおかしいのかもな……」
僕は無心でコントローラーを動かし、その場の状況に応じた最適解を選び続ける。
標的は狼型モンスター【フェンネル】、その大きな爪と牙から繰り出される鋭い攻撃を紙一重で避け、できた隙を弓矢で射抜く。
「AHH!?GAHHHHHH!!!!」
放たれた全ての矢は命中し、フェンネルの身体が破壊された。狼の巨体が大きくのけぞり、大きな隙が生まれる。
「……ッ……!!」
その隙を逃さず僕は【決別の一矢】を叩き込む。
そしてフェンネルの体力は尽き、画面にクエスト完了の文字が表示された。
こうしていると思い出す。
僕が初めてこのゲームをプレイした時のことを。
僕は昔からそこそこ何でもできた。
授業を聞けばテストで困る事はなかったし、どんなスポーツも少し齧れば並の同級生よりは上手くできた。
しかし、どれも結局はそこそこ止まりで終わった。
塾に通うのが当たり前で、かつ元々秀才な同級生にはテストの点数で敵うことはなかったし、サッカークラブの出身で将来プロ入りと噂された同級生からボールを奪えたことは一度もなかった。
どれもそこそこで止まり、何かを極めるといったことができない人生だった。
そのことに気づいた時、僕は初めて自分の人生というものに絶望したんだと思う。
きっと自分は何かを成し遂げることもできず、何者にもなれないまま漠然と人生を無駄に生きて無意味に死んでいくのだと。
あの時まではそう思っていた。
あの時、とはご想像の通り僕がゲームに出会った日だ。
初めてやったゲームはモンフェスではなく「トワイライトデスティニー」というRPGである。当時僕の姉はハマっていたゲームを自身が受験を期にやらなくなったため僕に譲ってくれた。それまでゲームをやったことのない僕は、未知の体験に最初こそ戸惑ったものの、どハマりするのにそう時間はかからなかった。
正直対象年齢に比べればストーリーは難解で、アクション要素が強めなゲームであったため、敵を倒すのに苦戦しっぱなしだった。けれどそこで僕は諦めず敵の動きを研究し、自身のレベルを上げつつ装備を整え、あとはひたすらトライアンドエラーを繰り返すことでどんな相手も倒すことができた。
現実の世界ではどんなに頑張ってもそこそこで止まってしまっていた僕だったが、ゲームの世界は頑張れば頑張っただけ強くなれた。そのことを知った時には僕は既にどっぷりゲームの沼にハマっていて、その沼でもがいている時に見つけたのがモンフェスだった。
「そろそろ時間か……」
時刻は21時。
いつも僕らが狩りをする時間。そして
〈YUNIさんがあなたをパーティに招待しました〉
どうやらYUNIさんは僕の提案を受け入れてくれたということらしい。
ゲーム本体のアプリを起動し、パーティに参加する。
この瞬間、僕とYUNIさんのパスが繋がり、ボイスチャットは開始された。
さて、緊張の第一声である。
こんばんは?あるいは初めまして……な間柄じゃあないか。まぁもうなんだっていいや。
だから、僕は
『YUNIさんこんばんは!KUONです。改めましてよろしくお願いしますね!!』
ごく普通に、当たり前に、当たり障りのない挨拶をする。
『……』
しかし、返事はない。
あれれーおかしいぞ~?
YUNIさんの声が聞こえないな~?
……おっとこれはいけない。
危うくヒーローショーのお姉さんムーブをかましてしまいそうになった。……では気を取り直して
『YUNIさん聞こえてますかー?回線の調子悪そうだったらテキストチャットでも大丈夫ですよ!』
と投げかけてみる。
僕も久村と他のオンラインゲームをやる時、回線の状況によっては音声通話がうまくいかない時がある。こういった点もボイスチャットのデメリットの一つだなぁと思っていると
『……す』
微かに、何かが聞こえたような……?
もしかしてノイズかな?本当に回線の調子が悪いのかも……という心配は杞憂に終わることとなる。
『こ……こ……こ……こん……』
『こん?』
『こんばんは!!!!(爆音)』
『うわぁ!?』
『ぴゃっ!?』
突如耳元で放たれる爆音に、僕は思わずびっくりしてしまった。
その声の高さからすると……どうやらYUNIさんは女性らしい。テキストチャットの時といい今回といい、あのおっさんアバターとの乖離がとどまるところを知らない。
うーん……というかこの声
つい最近どこかで聞いたような?
『えーっと、YUNIさんですか?』
『あ、ひ、ひゃい!たか……じゃない!違います!いや、違わなくはないんですけど!あの、私は!』
こんな時なのに、僕は先日のことを思い出していた。
『あ、よかった~僕、2年A組の紬《つむぎ》久遠《くおん》って言います!高田ユニさんでしょうか?』
『そ、そ、そ、そう!です!!』
そして今
『YUNIです!よろしくお願い……します!!』
そんなはずはないと思いつつも、どこかでそう思わずにはいられない。
その、どこか人と話し慣れていないような彼女の声が先日家庭訪問した時にインターホン越しに会話した彼女……高田ユニのものとそっくりだったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる