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本編

12 結末(終)

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ショーが終了する頃、俺は少しの間気を失った。目が覚めたのは煌びやかなライトが己を照らしていた時だった。

「……」

回らない頭だが、盛大な拍手が送られていた事だけは分かった。俺の事を見つめる大勢の人達が見え、何だかとても嬉しい気持ちになり、ふやけた顔でみんなに微笑みかけた。


◇ ◆


「律、お疲れ様」

その後またすぐに眠りに落ちた俺が次に目を覚ました時、俺は理央の自宅に居た。綺麗になった体にはスウェットを着せてもらっており、少し香る理央の匂い。

「……あれ、俺…」

「お前すげーな。優勝したよ」

「え?…嘘」

「発表の時に一瞬目覚ましてた気がしたけど覚えてない?」

そういえばライトに照らされていた様な気もするが、あまり覚えていない。

未だに頭はぼんやりとしていて、かなりだるい。賞金を得た嬉しさも感じない程に疲労していた。強く印象に残っているのはショーの時に与えられた狂いそうになる程の快感だけ。

「これで借金しなくても支払いは問題ねーだろ。良かったな。お前の店には響が連絡入れてくれて数日休みもらえることになってるから心配すんな」

「さすがサポート…行き届いてんな…」

「まぁ今回無茶させてるから説得力ねーけど、お前らが気持ち良く働くために俺達が居るからな。落ち着いたら家まで送るし、安心しろよ」

「……理央はまたショーに出んの?」

「パートナー変えてすぐに出ると印象悪いから暫くは出ねーよ」

「そ、か」

「もう嫌いな俺とはおさらば出来んぜ。良かったな」

「……清々するわ」

短い会話を終え、俺は回復した後に家へ送り届けてもらった。シャワーを浴びる時に見えた縄の跡と、激しく残る快感の余韻。

理央と出会って変なショーに二回も出場して、おかしくなったんだろうか。終始頭はふわふわしており、体もだるくて上手く物事を考える事が出来ないまま過ごした数日は、俺にとってかなり辛い時間だった。

(また、あの快感が欲しい)

何日か仕事を休んで一人で過ごす時間が増えると、そう思う回数が増えていく。そんな自分が嫌になり、店の近くのカフェに響を呼び出した。

「わぁ、すごい気怠そうな顔~」

開口一番イラつく言葉をかけてきた響を睨みつけながら、カフェで軽く世間話を交わした。

「それにしても理央先輩も絶賛してたよ。律くん最高に良かったって。レベル3に初出場で優勝なんて普通あり得ないよ。律くんは流石だね」

「……なぁ、パートナーショーは出れないの分かってんだけどさ」

「うん?」

「…俺、また理央に会いたいんだけど」

勇気を振り絞ってそう伝えると、にんまりと微笑む響。可愛らしい表情だが、何となく腹立たしくて仕方ない。

「…んだよその顔」

「随分理央先輩に躾けられたみたいだねぇ」

「ぶっ飛ばすぞ」

「あはは、ごめんごめん。で、会いたいってどういう意味で?先輩に惚れた?それともまたショーに出たいの?」

「…SMショーなら、出れんの?」

「うん。パートナーショーのレベル3+以外なら出れるよ。先輩に聞いてるかもしれないけど、SMやパートナー以外にもたくさんのショーが開催されてるんだ。今後新しく増える可能性もあるし。律くんが今抱いている感情が分からないからなんて言うのか一番なのか分からないけどさ」

「…うん」

「もし理央先輩に恋愛感情を持ってるなら、二度と会わない方がいい。でもそんな感情はなくて、ただ快感を求めているなら二人で突き詰めたらいいんじゃない?俺達のグループはショーを盛り上げないといけないなら、律くんが出てくれるなら万々歳。それで律くんの体の疼きが治るなら一石二鳥じゃない?」

「…そう、か」

「俺と恋人はお互いに恋愛感情を抱いたからお付き合いする事になったけど、正直俺達みたいなケースの方が稀なんだ。ていうか初めてじゃないかな。ビジネスパートナーとしていくつもショーに出てる人の話も聞くし、先輩に話してみたら?」

「…ん、話聞いてくれてありがと。もう少し考えてみるわ。つーか、その…今日以外もありがと。理央に聞いてるかも知んねーけど、パートナーショーに優勝出来たのは響達のおかげだから」

「きっかけは俺達の事応援してくれた人達かもしれないけど、律くんが素敵だったから優勝出来たんだよ。だから、本当におめでとう。律くん、これからも宜しくね」

「ん、こちらこそ。んじゃまたな」

「またね、律くん」


◇ ◆


響と別れた後、体が癒えた頃に店にも出勤し、俺は今までと何ら変わらない生活を送った。

変わったのは強請られても奢る事がなくなったくらい。今まで通り指名してくれているお客さんを可愛がってあげて、たくさん愛して、そしてたくさん求めてもらって。

そんな日常を過ごして改めて自分の心に素直になった頃、俺は理央を呼び出した。

「久しぶりだな。まさかまた会うとは思わなかったわ。何かあった?」

久方ぶりに会う理央はほんの少しだけ髪の毛が伸びていて、いつも見ていたセットアップスタイルではなくラフな私服だった。髪の毛もセットしていなくて完全にオフモードに近い。

「今度、またSMショーがあるんだってな」

「そうだな、あるけどそれが?」

「……俺、出てやってもいいけど」

「は?」

「お前の所為で体の疼きが止まんない。ずっとまた快感が欲しいって体が訴えてきてて…また縛られたい。おかしくなるくらいに気持ち良くしてほしい。……全部お前の所為だ。だから最後まで責任取れよ」

「…へぇ、たった数回で随分俺に堕ちたみてーじゃん」

「お前に堕ちたわけじゃない。ただ刺激が欲しいだけ」

「…ま、こっちとしては別に盛り上げてくれるなら嬉しいけど」

まだ少し困惑した表情を浮かべている理央だが、その後も俺の意見が変わらない事を確認すると、SMショーにエントリーしてもらう事になった。

「お前が出場してくれる限り、他の奴とパートナー組む気はねーから。だからお前も俺以外と組むなよ。この世界すぐバレるから」

「分かった」

「…ところで、ショーは再来週だけどどうする?お前あれから攻められてねーんだろ?俺ん家でまた"練習"するか?」

「……する」

じっと瞳を見つめて頷くと、口角の上がった少しS気を含む笑顔を向けられた。

その表情にドクンと胸が大きく高鳴った。

お金のために、たった一度だけしか出る気のなかった裏世界のショー。それがこうも俺の心と体を変える事になるとは思わなかった。

差し出された手と共に、俺は暫くこいつとビジネスパートナーとして過ごす人生を掴んだ。

end.
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