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わがまま
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しおりを挟む義経にとって親慶が特別な存在だということは湊和もよく知っていた。幼少期の義経は幼いながら技術はすばらしく、熱心に練習をしていたのを湊和は覚えている。しかし、一度リンクを降りれば同年代の仲間がいるにも関わらず母親の後ろに隠れてしまう程の人見知りで大人しいが少し手のかかる子供だった。
そんな義経が母親ではなくいつからか付いて回るようになったのが親慶だった。親慶はスケートを始めるのが湊和や義経よりも遅く小学生になってからで、始めたきっかけも「母親がやれって言ったから」となんとも言えない理由からだった。しかし、親慶は明るく活発な性格ですぐに通う練習場の中心的な存在となり元来の面倒見の良さで、はぐれていた義経をもいとも簡単に仲間の輪に引き入れてしまった。湊和が気付いた頃には親慶と義経は常に行動を共にする仲になっていた。
本当は僕がそこにいるはずだったのに…。
湊和は二人が一緒にいるところを見る度にいつからか激しい怒りを覚え、それが親慶に対する嫉妬の感情なのだと気付くのにそう時間はかからなかった。
誰にも気付かれてないと思ってたのになぁ…。
わざわざ仕事終わりに自分のところに牽制にくる程だから親慶は自分が義経に抱いている感情に気付いているのだろうと湊和は確信すると宙を見上げた。
先日のホテルでの義経との行為の後の自分の行動を思い出し嘲笑すると両手で自分の頬を叩き気合いをいれる。
折角巡ってきたチャンスを逃す手はないと…。
***
親慶は湊和と義経が揃う大会には極力出場しないと決めている。どちらか一人なら出場するのだが、二人が揃った大会で『ブロンズコレクター』と呼ばれるのが嫌だと周りにぼやいていた。しかし、どちらか一人が出てる大会ならばその呼び名は『シルバーコレクター』に変わるだけで親慶は頭を悩ませていた。それは義経も同様で、湊和と同じ大会に出場した結果は立派な『シルバーコレクター』だ。今回も不本意ながら獲得してしまったシルバーメダルを早々に鞄の奥底に沈めてしまった。
俺を呼べって言ったっていつもいないじゃん、チカ…。
相変わらず大会の高揚感を性的興奮に変換した体は今回も義経自身に熱を集め義経を苦しめていた。前回と違い今日は一人部屋だがホテルの廊下などで湊和に遭遇すればおそらくまた『手伝って』くれてしまうかもしれないと義経は悩みつつ大会会場のトイレにこもり時間をやり過ごしていた。いっそトイレで済ましてしまおうかとも思った義経だったが、不特定多数の人間が出入りする場所で万が一誰かにバレてしまったらいたたまれないと思い時間潰しのみに専念することに決めた。
そしてだいぶ時間が過ぎた頃、知り合いがいないことを確認しながらそろりそろりと足音すら忍ばせながらホテルの部屋を目指した義経はようやく自室のドアの前に到着すると安堵し、周りへの警戒を解いた。ルームキーを差し込み、ドアを開けようとした瞬間、肩の横から長くて綺麗な腕がドアノブを掴んだのを目の端で捉えた義経の顔からは一気に血の気が引いていくのがわかった。
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