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幸せになって
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しおりを挟む湊和の姿は公園にあった。少し前に通話を終えたスマホを握りしめながら帽子を目深に被り公園の端にあるベンチに座り呼び出した相手を待っていた。
先程の神楽の言葉も気になるが、今はこれから現れるだろう義経とどう話をするかそれに集中しようと湊和は深呼吸を繰り返した。
「……」
目を閉じて、思い出すのは昨日の義経。
…今までは笑顔ばっかりだったのになぁ…。
恐怖に顔を歪めて、泣きすぎて腫れた瞼は加害者の湊和から見ても痛々しく。あんな顔させたかった訳じゃないと何度後悔したところで義経を傷付けた事実は変わる事も消える事もなく静かに湊和を責め続ける。言い訳を並べてみても湊和の胸は苦しくなるだけで、ただ、義経に謝りたいとその一心でここまで来たのだ。
「…ヨシ…」
自分の方へ向かってくる義経の足取りは重く、前髪で隠そうとしている双眸はやはり痛々しいほどに腫れている。思わず立ち上がり義経に走り寄ると義経は早々に足を止め湊和との間に距離を持とうとしているようだった。
「…昨日はごめん…。無理矢理あんな事して…」
素直に頭を下げ義経を伺うと俯いたまま小さく、本当に微かに首が横に動いて湊和はほっと息を吐いた。
「身体、痛いよね……ごめん…。でも、昨日、ヨシに言った事は嘘じゃないから。ずっとヨシの事好きだったんだ…好きだから…チカ君に渡したくなくて…」
「…チカに渡したくないって……どうして?チカはオレのことなんかなんとも思ってないよ?」
義経の言葉に湊和は眉間を寄せた。
「そう思ってるのは多分、ヨシだけだよ…」
「え…?」
「…もしもチカ君がヨシの事好きだったらどうする?」
「ありえない。だってチカが好きなのは、チカの隣は……男の居場所じゃない…」
驚く湊和に義経は目を伏せ気付いたばかりの想いを見ないフリをしてそう言いきった。
言い澱む義経に違和感を感じながらも湊和は意を決して口を開いた。
「一緒にカナダに行かない?」
「え…?」
「ずっと考えてたんだ。練習の拠点を海外に、カナダに移すこと。スケートの技術もあがるし、それに…」
「…」
「いい機会なんじゃない?チカ君と離れれば気持ちも落ち着くかもしれない…」
義経に考える隙も与えないほど畳み掛けるような湊和の提案に、困惑を隠せない義経は混沌としている胸中に新たな燃料を追加され混沌が更に闇を深めていく。
だが、そんな中にも消せない光があった。そしてその光がなんなのかを義経も分かっていた。
「…急に言われても…オレ…混乱して…」
「分かってる。今度の世界選手権の後に返事を聞かせて…」
真剣な表情の湊和に義経は首だけで頷くと湊和はいつもどおり優しい微笑みを湛え「いい返事を待ってる」と言い、義経だけを残して公園を後にした。
「…」
一人残された義経は先程まで湊和が座っていたベンチに腰を下ろし茜色に染まる空を見上げ自分の未来を想い描いていた。
湊和くんと一緒にカナダに行けば今より確実にスケートは上手くなる。生活に困らないほどの英語なら勉強してきたし、チカと離れればきっと湊和くんも今までどおりに戻ってくれるはずだし…きっとマイナスになんてならないだろう。
「でも…」
どんなに希望的な未来を想い描いても光は消えず義経の暗く重い胸の中を変わらずに照らしている。
…何度も考えたよ。
見上げた義経の目尻から自然と涙が零れ頬を伝っていく。
チカのいない時間は一体どうなるんだろうって…。
でもダメだった。チカとどんなに離れても、チカに…嫌われたとしても──
「オレはきっと……チカに逢いたいって思っちゃうよ…」
届かない気持ちを固く握り締めて義経は人目もはばからず大粒の涙を溢し、込み上げる嗚咽を押さえ込んだ。
嫌われても、オレはチカの側にいたい。たとえこの想いが一生届かなくても…。
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