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幸せになって
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しおりを挟む翌日。
「話したいことがある」
神妙な面持ちで義経にそう告げられた親慶は妙な緊張感に包まれながら義経と待ち合わせた公園に向かった。懐かしい公園だ。子供の頃は練習が早く終わった時にはよくここで義経や他の友達と遊んだ事を思い出し、当時より小さく感じる滑り台に触れ親慶は哀愁を含んで微笑んだ。
「…チカ…」
名前を呼ばれ振り返ると、やはり緊張に表情を固くした義経が立っていて親慶は思わず声を上げて笑い出した。
「…え…?」
「悪い悪い!お前の顔見たら昔のこと思い出しちまってさ…。お前を無理矢理この滑り台の上に連れてったら怖くて大泣きして結局滑れなかったことあったよな!!」
「なっ?!そんな昔のこと思い出すなよ!!」
一瞬、困惑の表情を浮かべた義経だが親慶の思わぬ暴露にすぐに顔を紅潮させ怒鳴り返し、親慶は笑いすぎて目に溜まった涙を指で拭った。
「…で?話したいことってなによ?」
一頻り笑った後に本題を促す親慶に、義経の表情はみるみるうちに曇り無言で拳を握り下を向いてしまった。言いにくいことがある時の義経は昔から変わらずにこの形で固まってしまうので無理に聞き出す事はせず義経本人が話し始めるまで親慶は急かさずに待つと決めていた。
「……湊和くんに……カナダに行こうって誘われた…」
「カナダ…」
思いもよらない切り出しに親慶は素直に焦り義経の言葉を反芻していた。親慶はてっきり先日の湊和との事の相談だと踏んでいたが全く違う内容に驚きを隠せない。
「オレ、英語は普通にできるし、環境が変わるのは少し不安だけど…スケートに打ち込める時間が増えるのは正直嬉しいし、湊和くんと一緒に練習できるのもオレにとってはプラスになると思う…」
でも……それでも、オレはチカに引き止めて欲しいって思っちゃうんだ。
そんな事は言い出せず、義経は握った拳に更に力を込め溢れそうになる涙を必死に押さえていた。
たしかに悪い話じゃない。
親慶は義経をまっすぐに見据え、義経の言葉を噛み砕きながら義経にとってベストな答えを探しあぐねていた。
あんなことされても……義経が本当に憧れるのはやっぱり湊和なんだな…。
先日の事は同意もなく湊和が無理矢理義経を傷付けたのだと思っていた親慶はその想像に違和感を感じざるを得なかった。自分が知らなかっただけで義経と湊和は想い合っていて、先日の事は喧嘩のもつれだったのかもしれないと。そうでなければあんな目にあった義経がそれでも湊和と一緒にカナダに行くなんて言い出すことに納得が出来なかった。
もしそれが真実なら…お前は俺の腕の中で湊和を想って泣いてたのか…?
抱き締めた腕の中で肩を震わせ泣いていた義経の姿を思い出すと親慶の胸にちくりと針が刺さった。
守ってやりたいなんてのは俺の自己満足か…。
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