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【番外編】大不正解(東儀×神楽)
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しおりを挟む「…どうしたん?こんなに目ぇ腫らして……俺が出掛けてしもたんが寂しくてずっと泣いてたん?」
殺伐とした惨状だが、浮かれた頭はまだ状況を把握出来ていないのか的外れな問い掛けは神楽をさらに苛立たせ、頭がお花畑の竜太の胸ぐらを勢い掴み怒鳴り声を上げる。
「っ…あんたが!!」
「…え…?」
「あんた…なんの説明もしないで出てくから…けぇやく、とか………い、つだって…あんたが好きなのは『セイレーン』の俺なんだろ…ばかぁーーっ!!」
「ちょっ、アキ!キャラ変わっとるで?!」
「うっせぇ!ばぁか!!」
「悪かったって!俺が悪かったから泣き止んで…?」
表情も声も怒気を含んだ険しいものなのに口調はなぜか幼児化してしまっている神楽の可愛さに、竜太は不謹慎にもにやけてしまいそうになる口許を耐え胸ぐらを掴んだまま暴れる腕を押さえ込んで抱き締めた。
頭を撫でながら宥めるも、神楽はおとなしくなる気配もなくしゃくり上げ泣き続けながら容赦なく竜太の足を蹴り続けている。
こんな状況でも攻撃してくるなんて…ほんま泣くか攻撃してくるかどっちかにして欲しいわ…。
「よっ!!」
「ぅ、わっ!!」
苦笑しながら神楽の細い体を肩に担いだ竜太は寝室のベッドに下ろした瞬間、抵抗されないように覆い被さる。だが、すぐに胸ぐらを掴んで鳩尾を蹴られたことで短く呻き声を上げると、天地を返され、天井を見つめた竜太の顔に冷たい感触が降ってきた。
「…アキ…?」
体の上に跨がっている神楽の涙が重力で落ちてくるのは必然で、竜太は頭を抱えた。
三年前だって俺の前じゃ泣かへんかったくせに…。
元々神楽は人前で簡単に涙を流すような性格ではなく、自分の前ですら行為中ぐらいしか泣き顔を見た記憶のない竜太は的確な対応が分からず、降参の意を示すように大の字に手を広げた。その無抵抗の様子を見て神楽は脱力し竜太の胸に頬を押し当てるように倒れ込んだ。
「…ほんまごめんて…はよせんと会場が用意出来んくなってまうって頭一杯で…それと、これ…」
ようやくおとなしくなった神楽の頭を撫でながらあまり身動きが取れない竜太だが身を捩り、先ほど暴れる神楽と一緒にベッドに下ろしたファイルを手に取るとその中に入っていた二枚の書類を神楽の前に開いて見せる。
「……また契約書かよ…」
神楽は不満を隠しもせず盛大に舌打ちをして威嚇をしてくるが竜太は動じず、穏やかな口調で続ける。
「そっ、弁天親慶と古河義経の担当振付師にもなってきた」
「どうして…」
「アキの事やから、あの二人を中途半端にしておけんとか言い出すやろうなぁと思うてな。そんなら二人とも手中に納めてしまえばアキはより一層俺から離れられへんようになるやろって事で」
「…人質かよ…」
呆れたように神楽が息を吐くと竜太は寂しげに目を伏せた。
「…ほんまは俺な、弁天親慶の事、殴ったろうと思うて日本に来てん」
「は?」
「アキ、あんまり泣かへんやん?いっつも強がって歯ぁ食いしばって…それなのに弁天親慶の事でぼっろぼろ泣いてる姿見たら…あぁ、これがアキの新しい男なんやろなぁって、そう思うたらいてもたってもいれんくなってあんの綺麗な顔、一発ぶん殴ってやろう思うてな…」
「殴っ…教え子が世界一になったらそりゃあ………泣くだろ……」
「あのちっこいのの時は泣いてへんかったやん?」
「………泣か、なかったか…?いや、でも義経はいつも成績良かったから……ってか、よく見てんな?!」
「アキの事やからね。でも日本に来て遠目でもアキの事見たらやっぱり渡したくないなぁって…そしたらいつの間にかアキの両親のとこ行って契約書に判子もろうてた」
不思議やわぁ、なんて笑う竜太に神楽は得体の知れない恐怖を感じ寒気を覚えるが、竜太はなおも笑いながら話しを続ける。
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