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やっぱり好き
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しおりを挟むはぁ、と盛大な溜め息を吐くと近くにいたスタッフが緑茶のペットボトルを差し出しながら背中を叩いてくれた。
「…ありがとうございます…」
「大変だよねぇ。スケートで世界と戦った後の心休まる時期だろうに慣れないドラマ撮影…しかも内容がボーイズラブ…いや、本当に感服するよ」
「はははっ…」
スタッフの言葉に親慶は渇いた笑いを返すと誤魔化すようにペットボトルに口をつけた。
そうなのだ。
あの時、かぐっちゃんが受けたドラマの内容は男子高校生が同性の同級生に恋をして葛藤しながら最終的に駆け落ちするという今の俺達にはなんともいえないタイムリーなものだったのだ。
しかも二人が演じるのはそれぞれ現実とは設定が違うものの「弁天親慶」と「古河義経」なのだ。
いたたまれない…。
もはや何が現実で何が演技なのか今の俺にはもうなにも考えられない…。
「まぁ、もうすぐ終わりだから頑張って!!」
「はい…」
あの日、話を持ちかけてきたスタッフは何がなんでも二人を説得するつもりだったらしく
契約書にサインする頃には撮影の日程も組まれていて放送日すら決まっていた状態だった。
そのため、二人は混乱しながら監督やスタッフに言われるがままに翻弄されながらここまで撮影を進めてきたのだ。
「弁天さん、お願いします!」
「はい!」
「頑張って!!」
スタッフに呼ばれ立ち上がると、隣に座っていたスタッフの満面の笑顔に親慶は再び渇いた笑いを返した。
駆け寄る先には同じ制服を着てスタッフとこれからのシーンを確認してる義経がおり、親慶は深呼吸を繰り返しながらその輪の中に加わった。
親慶とは違い義経の態度はいつもとあまり変わらなかった。
だからこそ親慶は色々と悩んでしまうのだが、それでも義経を前にすればいつもどおりの親慶を装っている。しかし、神楽やおそらく義経も違和感を感じてはいるのだろう。ここ最近、義経の口数は少なめだ。
今回は高校の入学式のシーン。親慶が義経に一目惚れをするところだが、カメラが回り、役に入り込む親慶はそれでも、目の前の義経に心臓が跳ね顔を紅潮させてしまったところでスタッフの声がかかり映像チェックに入る。
「いやぁ…弁天君いいよ!すごく自然な演技だよ!!」
「はぁ、ありがとうございます…」
監督からお褒めの言葉ももらい頭を下げる親慶は一人離れたところに座ると再び盛大な溜め息を吐いた。
…演技じゃない…。
演技じゃないんだよ…。
はぁ、と何度目か分からない溜め息を吐くと親慶は頭を抱えた。
ドラマの脚本があまりに今の心境にシンクロしすぎていて求められている演技を素の弁天親慶で褒められてしまえばますます頭は混乱してしまう。
「…」
義経は元々スケートの時も憑依型なので完全に本人と役の古河義経とは別の人物として演技出来ているため、頭で計算して演技する親慶のように悩むことはないのだろう。
羨ましい、そう呟いて親慶は再び溜め息を吐く。ここ最近で自分はどれだけ溜め息と一緒に幸せを逃がしてしまっているのだろうと親慶は思考を巡らすが、それでも溜め息は止まる気配すらない。
それからは学校で同級生として過ごす平穏な日々のシーンは順調に撮影を進めていたが、怖れていた告白のシーンになると緊張から、親慶の心臓は早鐘を鳴らし呼吸すら苦しく感じてしまい撮影を中断させてしまう。
「っ…すみません…」
「初めてだから仕方ないよ。慌てずにいこう」
監督の優しい言葉に少しだけ救われた親慶は深呼吸を繰り返した。
現実でも言えない言葉は演技だとしてもこんなに重たいものだと思わなかった…。
「好き」という言葉が喉に張り付いてどうしても出てこない。
同じところで言葉に詰まる親慶に、その度に義経は心配そうに親慶を見つめる。その言葉の重みは義経にとっても同じで、台詞を現実と混同しないように自分に言い聞かせていた。
ここは困惑するシーンだから間違っても喜んじゃいけない…。
制服のズボンを握り締めると、義経は最近あまり会話をしていなかった親慶の元へ向かった。
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