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やっぱり好き
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しおりを挟む「その方が現実的だろ?」
「…」
当たり障りのない答えに再び雨粒が奏でる静寂に包まれる。
「じゃあ、なんで『あの時』俺のこと抱き締めたの…?」
「『あの時』?……っ……あっ!」
またしても思いもしない問いかけに親慶が動揺した瞬間、隙をついた義経は腕を振り切り逃げ出し気配はすぐに闇に消えてしまった。
なんでって…言われても、困る。
外国っぽくした、とか?ついノリで、とか?
もし、取り繕うための嘘なんかじゃなくて素直に「お前が好きだから行って欲しくなかった」って言ったらどうする?
俺達の関係はどうなる?それでも俺の側に居てくれるか?
そんな確証もないのに…本心なんて言えるかよ…。
「…そういうもんだろ…?別れ際って…」
本来伝えるべき言葉をエゴと一緒に飲み込み腹の底へ沈めた親慶は、どこにいるかも分からない義経に向かい自分自身に対する言い訳のように吐き捨てるも義経の反応は感じられなかった。
暗闇の中、義経の表情を伺う術がないのは親慶にとって不安で仕方ないのだ。
今の言い訳は義経にとって正解だったのか。
「…謝るから許してよ…」
何に対する謝罪なのかは親慶自身も分からないが、それで義経の近くにいることを許されるならと親慶は藁にも縋る思いだったがそれにも返事はなかった。
「…義経?返事ぐらいしてくんねぇ?」
「………………………なに?」
半ば自暴自棄になりつつ投げた祈りはたっぷりと間を空けて、心底不機嫌に返ってきたので親慶はその方向へ手を伸ばして掴んだ義経の腕を、抵抗されるのも構わず強く握り締めた。
「やぁっと捕まえたぜ!」
おそらく義経は暗闇なのを利用して元いた場所から少しずつ移動しているだろと踏んでいた親慶の予想は見事に的中し捕らえた義経は親慶からさらに離れたところへ移動していた。目が慣れてきていたとはいえ義経の腕を捕まえられたのは奇跡だなと親慶は驚きを隠していた。
「……その方が現実的だろ?」
「なに?」
「…そういうもんだろ…?別れ際って…」
「どうしたんだよ…」
「チカにとって…オレってそんなもんなの…?」
ギシッ、と胸が軋む音がした。
それは全てが本心ではないが二人の関係を壊さないためには必要な言葉だった。
しかし義経はそれでは不満だと言いたげに復唱し吐き捨てる。
「じゃあ…なんて言えば良かったんだよ。お前の未来も考えずに『行くな』って言えば良かったのかよ」
「…」
「黙ってたら分かんないって…」
「…」
やっと身柄を押さえたというのに義経はだんまりを決め込み、顔すら親慶から逸らしているのが暗闇でも分かる。
「…」
「…」
しばらくの沈黙の間、電気の復旧を期待した親慶の願いも虚しく状況は膠着を極めた。
親慶も諦めて雨音の不規則なリズムに耳を傾けつつ義経が不機嫌な理由を探すが皆目検討もつかない。
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