4 / 25
流行りのワード
しおりを挟む今日は近隣のスケーターが集まっての合同練習。
人見知りの義経が外部のスケーターの中でほとんど唯一と言っていいほど懐いてるのが花巻 湊和。
…この前、あわや鼻血出すようなことされちゃったから俺はあんまり近付きたくないんだよなぁ…。
そんな俺の心中など完全にお構いなしな二人は雑誌を見ながら人の悪い笑顔を浮かべ、なにかを企んでるもよう…。
今のお前らの顔、動画取ってSNSにでもアップしてやろうか。
嫌な予感しかしない。
あいつらが二人でいる時は大概俺に対してなにか悪さしようとしてんだよなぁ…。
ほら、考えてる内に義経と湊和が楽しそうに俺に近付いてくる。
「チカくぅ~ん」
「ち、チカぁー」
甘ったるい声に満面の笑み、湊和のファンに見られたら俺殺されるかも。
湊和の後を頑張って付いてきてるくそガキは真似しようと試みたけど全くダメダメ。甘さも笑顔も足りない。
「チカ君、背中を壁につけて」
「……こうか?」
今からなにをするという説明もなくされる指示に一瞬だけ抵抗しようかとも悩んだけど、10年来の付き合いだ。頭の一部から無駄だ、やめておけって声が聞こえた気がした。
大人しく壁に背中をつけると義経が意地悪い笑み+緊張つー訳分からん表情をしながら俺の前に立つ。そして…。
「「壁ドン!!」」
「……」
楽しそうに声を合わせて俺の体の両脇に勢いよく両手をついた義経。
あー…うん。
なにがしたいのかは理解した。
でも今のこれは俺が知ってる壁ドンじゃあない。
「義経、もはやそれは『胸ドン』だ」
20㎝の差というのはやっぱりでかくて、義経の顔は俺の胸の前にある状態で、どうトキめけばいいのよ、これ。
「やっぱりこの身長差は無理だよね…。じゃあ僕がやってもいい?」
「俺はこの前お前に『萌死』させられかけたばかりだから嫌だ…」
湊和の提案は軽く拒否して、胸の違和感に視線をうつす。
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり……。
「…義経、なにやってんの?」
さっきの『胸ドン』の体勢のまま義経は自分の額を俺の胸に押し付け、頭を左右に振りながらぐりぐりしてる。
「…ぐりぐりぐりぐり…」
可愛いかよっ!!
返ってきた返事はまさかの「ぐりぐり…」。
なんだよ二人してまた俺を萌死させようとしやがって!
「…だって、悔しいじゃん…」
ようやくぐりぐりをやめて上げた顔は頬をぷぅ、と膨らませて身長差で必然的な上目遣いで俺を責める。
あー…もう認める。
俺、義経のこの顔が本当にツボ。ドツボ過ぎてなんも言えない…。
でも何回もやられてばっかの俺じゃないのよ。
はぁ、と溜め息をついて自身を落ち着かせてから目の前の義経の体を抱き寄せそのまま反転する。
「ぃっ…!」
少し強めに義経の背中を壁に押し付けると短い悲鳴をあげたけど、そんなのお構いなしで俺は腰を曲げて唇を義経の耳に近づける。
「…あんまり可愛いことされると俺だって我慢できなくなるだろ?」
「っっ!!!!」
義経にだけ聞こえる音量でそう囁いてから駄目押しでほっぺにキスしたら義経は声にならない悲鳴(?)をあげて顔を真っ赤に染めたまま壁づたいにずるずると崩れ落ちていった。
大人の色気ってやつはこうやって使うんだよ。
なんて悪態つきながら心の中でべーと舌を出してほくそ笑んだ。
「じゃ、湊和。次はお前な!」
「うわぉ☆マジ勘弁!」
目線は義経に向けたまま湊和は真顔のままそう言うと辺りを見回した後、大声で「神楽コーチ!!」と叫んだ。
呼ばれた神楽コーチが湊和に向かって手を上げた瞬間―――
「チカ君が破廉恥っ!!」
「なっ!!!!」
リンク内に響き渡る程の声で続けて叫ぶと遠くにいる神楽コーチが鬼の形相でこちらに向かって走ってくる。
「じゃあね、チカ君!」
「…覚えとけよ。てめぇだけはぜってぇ許さねぇ…」
「受けてたつよ。…チカ君が無事だったらだけど☆」
べっと軽く舌を出してウインクまで決めた湊和は悪びれることもなく悠々とリンク上を滑っていく。
世界一になるようなやつは並みじゃねぇな、やっぱり…。
心臓に3本くらい毛が生えてるぜ、絶対!!
「親慶ぃー!!お前、義経になにしたんだ?!」
「俺の色気で義経が堕ちました!…いってっ!!!!」
鬼のコーチにものすっごく真面目な顔で返したら持ってたバインダーで思いっきり頭をはたかれた。
それから、放心状態の義経の横で俺は正座にさせられ長々と説教をくらったのだった…。
後日談――。
「あ……」
「ん?」
前から歩いてきた義経が俺の顔を見て声を上げた。そして壁に背中をつけて俺から出来る限りの距離を取るとそのまま素早く俺の横を通り抜けた。
「忍者か、お前は…」
「ぅわ!」
逃げようとする義経の首根っこを掴むのは簡単なことで、どうして忍者みたいな歩き方をしたか問いただすと。
「だって、神楽コーチが『親慶に近付くと妊娠するから義経は絶対に近付いちゃ駄目だぞっ!!』って…」
「…もうセクハラで訴えてやる…」
そう呟いた俺の瞳からは涙が溢れた…。
end
0
あなたにおすすめの小説
好きです、今も。
めある
BL
高校の卒業式に、部活の後輩・安達快(あだち かい)に告白した桐越新(きりごえ あらた)。しかし、新は快に振られてしまう。それから新は大学へ進学し、月日が流れても新は快への気持ちを忘れることが出来ないでいた。そんな最中、二人は大学で再会を果たすこととなる。
ちょっと切なめな甘々ラブストーリーです。ハッピーエンドです。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる