【BL】くそガキとたわむれ

祈 -inori-

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続・あんたに内緒のバレンタイン【竜太×神楽】

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「…ちゅーかわええ事があったんよ」
「えー!!なにそれ、かぐっちゃんめっちゃ可愛い!!」
「……」

    数年後の二月十五日。休憩時間に第三会議室を訪れた俺は来なければ良かったと後悔した。
    ここは女子高かと見間違える光景に俺は溜め息を吐いてから一瞬入るのを躊躇って恐る恐る足を踏み出した。

「…勝手になんの話をしてんだ竜太…」
「こいつがアキの恋バナ聞きたいゆうから話しとったんよ。アキのかわええ~昔話🖤」
「…」

    にやりと悪意を込めた笑顔に俺は深い溜め息を吐いて近くの椅子に座った。

    なんでこんな話してんだ、こいつら…。

「でも意外だなぁ~!かぐっちゃんもそんな可愛いことしてたなんてぇ~♪」
「うるせぇよ…」
「…んで?今度はお前らの番やで?」
「えぇ~♪どうしようかなぁ~♪」
「お前がその条件出してきたんやろがさっさと話せや」

    なるほど。
    親慶が義経との事を自慢したくて竜太を焚き付けたって事か…。

「それがぁ~昨日、練習終わってから一緒にチョコ作ったんだけどねぇ~♪可愛いんだよあいつ🖤」

    練習終わってから手作りチョコとかわけぇな…。

「そんで、そんでぇ!あいつ不器用だから溶かしたチョコを型に流し込むだけなのに腕とか顔にめちゃくちゃチョコつけまくっててぇ~♪もうすっげぇ可愛くて~!」

    …それからの展開が読めるな。
    今日はこいつ、義経に避けられまくってるし。

「そんで?それをイケメンが全部舐めとったんか?」
「義経は嫌がってたんだけどさぁ~それから盛り上がっちゃってぇ~♪」
「ナカヨシデナニヨリダ…」
「そうなんだよ♪仲良すぎてもう本当に幸せ♪」

    このでれっでれのだらしねぇ顔をSNSに晒してやりてぇ…。
    ファンが泣くだろうな…。

「…イケメン…お前って顔はええのに中身はほんま残念やんなぁ…」
「残念でも幸せだからいいんですぅ~♪」
「そか…そら良かったな…。なんかイケメンの話聞いとると胸やけしてくるわ…」
「えへへ~♪羨ましいでしょぉ~♪…あ、義経の練習そろそろ終わるからリンク戻るねぇ!じゃね、東儀コーチ☆」
「…」

    …なんだ?
    親慶が竜太にウインク?
    なんの合図だ? 

    パチンと星を飛ばしながらアイドルよろしく華麗にウインクして騒がしく会議室を出ていく親慶に、珍しく手を振って返す竜太を一瞥して俺は来る時に買ってきたコーヒーを開けた。

「…」
「…」

    親慶がいなくなった二人っきりの会議室は妙に静かで缶コーヒーに口をつけて手元にあった雑誌に視線を落とした。

     この不自然な沈黙に俺はさっきの推理が間違いだった事を理解した。
    そして、なぜ竜太が親慶を使ってこんな真似をしたのか…その理由になんとなく心当たりがあった。

    …今年はなにも用意してなかったからな、俺…。

    雑誌を見てる風を装いながら視線は遥か遠くを見てる俺は無言の針をちくちく受けながらコーヒーを喉に流し込んだ。

    仕方ないだろ。
    俺だって大変だったんだ。
    いきなり現役復帰させられて可愛い後輩達の恋路を見守って……恋人と過ごす時間も久々過ぎて慣れるのに時間がかかったし…そもそも恋ってなんだっけってところから感覚取り戻してんだぞこっちは…。
    だから──。

    言い訳をつらつらと並べたてて、ふぅーと息を吐いた。

「…悪かったよ」
「ん?」
「っ…バレンタイン…なんも用意してなくて…」

    明後日の方向を見ながらそう切り出せば竜太は拗ねたように口を尖らせた。

「べっつにぃ~?怒ったりしてへんよ、俺は…」

    …嘘つけよ。
    どう見たって怒ってるだろうが。

    頬杖ついて反対の方を見る竜太に面と向かって悪態などつけず俺は雑誌を閉じてその後頭部を見つめる。

    どうしたもんか…。
    とりあえずホットチョコレートでも買ってきて渡すか?
    意味ねぇだろうな…そんなの…。

「…今日……作るか?チョコ…」
「…別に…イケメン達の真似したいわけとちゃうしなぁ~…」
「じゃあなんなんだよ…」

 受け入れられるはずのない提案はやはりぶすったれた表情と拗ねた口調で拒絶された。
 反射的に舌打ちしそうになったのを堪えて目の前の金髪を撫でるとようやく表情が柔らぎその瞳に俺を映してくれた。

「今更チョコなんていらんよ…」

 竜太の頭の上に置いたままの手を絡めとられ指を唇で啄まれるとどくんと心臓が高鳴った。

 竜太の望みが分かった。

    あんたは俺のスケジュールも知っている上でその望みを俺に押しつけてくるんだな…。

「アキが欲しい…チョコなんて溶けてまうくらい熱いのが…」
「…っ、随分たけぇおねだりだな…」

 素直に受け入れ難いおねだりに憎まれ口を叩くがその間も扇情的な眼差しで俺の指を啄み続ける竜太に俺の体は熱を煽られ続ける。

「……っ…くそっ‼︎」

 脅迫めいたそのおねだりを俺が断れるはずがないって分かってる。

 ずるい男だな、あんた…。

「…離せ、っ‼︎」

 手を振りほどいて椅子から立ち上がった。

「…」

 あぁ…そんな目で俺を見るのはやめてくれ…。

「くそ、っ…‼︎」

 歯止めが効かなくなる…。

 何度目かの感嘆詞を吐き捨てて机の上に手をついて勢いよくキスをしてやった。
 ガチッとお互いの歯がぶつかり悲鳴を上げるがそれでもかまわずに唇を塞ぎ続けると竜太に角度を変えられさらに深いものにされる。酸素を求めて口を開く度にくちゅと生々しい水音が鼓膜を揺らす。
    長く続く甘いキスに机を叩いて限界を訴えるが、それでも角度を変えながら続けられるそれに俺は竜太の襟元を掴み力ずくで引き離そうと試みるが酸欠の腕には力が入らず…結局、キスは竜太が満足するまで続けられようやく離された時には二人の間に透明な糸が引かれた。

「…はっ……く、そぉ……」

    俺は酸欠で体を支えられず膝から崩れると机に突っ伏しながら酸素を求めて肩と胸を大きく揺らす。

「今日はえらい口悪いなぁ…」
「…語彙力がなくて悪かったな…。この苛立ちをどう表現すればいいか分からねぇもんでな…」
「苛立ち…?」
「腹立つだろ…そりゃ…」
「…アキのは苛立ちちゅーか罪悪感やろ?」
「罪悪感…」
「あとは照れ隠し?」
「……なんだそれ…」

    呼吸が落ち着いた俺はしゃがんだままの体勢から椅子に座り直して竜太に向き合った。

「アキはこういうイベント苦手やもんねぇ?」

    また頬杖をついた竜太は先程の拗ねた表情はどこへいったのかと悪戯心を隠しもせずにけらけらと笑う。

    悔しいな…。
    竜太はなんでもお見通しだ。

「バレンタインにチョコを渡すなんて恥ずかしくてでけへんけどそれでも真面目な性格が渡さない自分を許さへん…なんて難儀な性格やな?」
「…めんどくせぇ性格で悪かったな…」
「アキのそんな性格も全部俺にはかわええんやけどなぁ」
「変わってんな…」

    目を細めて俺の頬を撫でる竜太は言葉にされずとも「愛しい」というオーラが溢れていた。

    むず痒いような照れ恥ずかしいような…こんな感情を幸せだというんだろうな…。

「…俺はこれであがりだけどあんたはまだやる事があるんだよな?」
「せやね。ちびっこと構成について少し話しせんと…」
「そうか………だったら」

    立ち上がり今度は優しく竜太の頬にキスを落とすと竜太は驚きに目を見開いた。

「先に帰って待ってるぜ?…ダーリン🖤」

一房掬いとった竜太の金糸にも唇を寄せて親慶と同じようにウインクしてみせれば珍しく竜太の顔が赤く色付いたのが分かった。

    あぁ、こいつのこういう表情は好きだな…。

「じゃあな」

    安っぽい挑発に簡単に煽られてくれる恋人を一人残して俺は逃げるようにスケート場を出て車に乗り込んだ。

「……あぁいうのは出来るんだよな、俺…」

    なぜあんな風に挑発出来るのにバレンタインのチョコを買う事が出来ないのか…。

    本当に自分でも不思議に思う。

    とりあえず竜太に追いかけられるのも嫌なので俺はさっさと車を発進させた。


    来年もおそらくチョコは買えないだろう。
    それならばもういっそ「俺を食べて🖤」などとリボンを巻いて自分自身を差し出すのもいいかもしれない。
    竜太はきっとそんな馬鹿な事でも喜んでくれるだろう。

「いや……やっぱり来年はちゃんとチョコを用意しよう」

    ガッチガチの『ザ・本命🖤』チョコレートを用意したらきっとさっきみたいに可愛らしく頬を染めてくれるだろうから。

「竜太のあの表情を見るのは悪くねぇ…」

    先程の可愛らしい竜太を思い出しくすくすと笑いながら目を細めた。

    それからあのむず痒いような照れ恥ずかしいような感情もまた感じられたら嬉しいと俺は家路に向かいながら一人破顔させるのであった。



end
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