35 / 42
15.あたしのせい?
15-1
しおりを挟む
あたしは真っ黒なリュックに、黄色い防犯ブザーをつけた。
チルちゃんから貰ったキーホルダーは、今もあたしの心を守ってくれてる。
だから、ずーっと一緒にいたい。
でも、可愛いやつだから、リュックの内ポケットに入れておく。
せっかくのショートカットと真っ黒リュックが、台無しになっちゃうような気がするから。
久しぶりの登校は、お母さん付きだった。
もうそんな歳じゃないんだからって思って、恥ずかしさが少しあった。
でも、恥ずかしいと思っていられたのは、登校する日の前の日までだった。
学校へ行くんだって思うと、だんだんドキドキしてくる。
どうやって学校へ行っていたのか、よく思い出せない。
どんな顔で学校へ行けばいいのか、あたしにはよくわからない。
だから、お母さん付きでよかったって、その日になったら思えた。
あたしの心を見透かしているのか、それとも、ふたりして同じことを考えているだけなのか。あたしとお母さんの足は、迷いなくあの道を避けて、遠回りする道を選んで、学校へと向かった。
いつもと違う道を通っているからなのかもしれないけれど、久しぶりの通学時間帯の外の世界は、なんだかいつもと違って見えた。
あたしが学校から離れている間に、世界はがらりと変わったみたいだった。
歩道を歩く大人の数が、明らかに増えていた。
これまでは、新学年になってすぐのころに、一年生のお父さんやお母さんがいるくらいで、大人の姿はほとんどなかった。
それなのに、今は子どもばかりの道じゃなくなってる。
「ねぇ、なんでみんな、一人で登校してないの? ああ、いや……兄弟がいたりとかしたら、一人ってわけでもないけどさ」
緊張を隠すようにちょっとへらへらしながら、お母さんに問いかけてみた。
お母さんはあたしを見て、悲しそうな目をして、少し口角を上げた。
「今は、そういうふうに変わったの。学校の決まりっていうか。基本的に、子どもだけでは歩きませんってなってる」
「……へぇ」
「どうしても大人がついて行けない人たちは、集合場所を決めて、集団登下校してたりするみたい」
あたしの心の中に、あたしなりの考えが膨らみ始めた。
「ふぅん」
「幼稚園バスに乗る時みたいに、集まってさ、それで――」
「それって、あたしのせい?」
「……え?」
「あたしのせいで、そうなったの?」
赤信号がピカーっと光ってる。
あたしたちの足は、止まった。
赤信号は、口の動きも止めた。
お母さんは、黙った。
「ジュアのせいじゃ、ないよ」
「でも……」
「ジュアのせいじゃない。ジュアのせいじゃないよ。ジュアはなにも、悪くないもん」
お母さんの語尾は、子どもみたいに感情丸出しだった。
お母さんの心がぶるぶると震えているように、あたしには見えた。
チルちゃんから貰ったキーホルダーは、今もあたしの心を守ってくれてる。
だから、ずーっと一緒にいたい。
でも、可愛いやつだから、リュックの内ポケットに入れておく。
せっかくのショートカットと真っ黒リュックが、台無しになっちゃうような気がするから。
久しぶりの登校は、お母さん付きだった。
もうそんな歳じゃないんだからって思って、恥ずかしさが少しあった。
でも、恥ずかしいと思っていられたのは、登校する日の前の日までだった。
学校へ行くんだって思うと、だんだんドキドキしてくる。
どうやって学校へ行っていたのか、よく思い出せない。
どんな顔で学校へ行けばいいのか、あたしにはよくわからない。
だから、お母さん付きでよかったって、その日になったら思えた。
あたしの心を見透かしているのか、それとも、ふたりして同じことを考えているだけなのか。あたしとお母さんの足は、迷いなくあの道を避けて、遠回りする道を選んで、学校へと向かった。
いつもと違う道を通っているからなのかもしれないけれど、久しぶりの通学時間帯の外の世界は、なんだかいつもと違って見えた。
あたしが学校から離れている間に、世界はがらりと変わったみたいだった。
歩道を歩く大人の数が、明らかに増えていた。
これまでは、新学年になってすぐのころに、一年生のお父さんやお母さんがいるくらいで、大人の姿はほとんどなかった。
それなのに、今は子どもばかりの道じゃなくなってる。
「ねぇ、なんでみんな、一人で登校してないの? ああ、いや……兄弟がいたりとかしたら、一人ってわけでもないけどさ」
緊張を隠すようにちょっとへらへらしながら、お母さんに問いかけてみた。
お母さんはあたしを見て、悲しそうな目をして、少し口角を上げた。
「今は、そういうふうに変わったの。学校の決まりっていうか。基本的に、子どもだけでは歩きませんってなってる」
「……へぇ」
「どうしても大人がついて行けない人たちは、集合場所を決めて、集団登下校してたりするみたい」
あたしの心の中に、あたしなりの考えが膨らみ始めた。
「ふぅん」
「幼稚園バスに乗る時みたいに、集まってさ、それで――」
「それって、あたしのせい?」
「……え?」
「あたしのせいで、そうなったの?」
赤信号がピカーっと光ってる。
あたしたちの足は、止まった。
赤信号は、口の動きも止めた。
お母さんは、黙った。
「ジュアのせいじゃ、ないよ」
「でも……」
「ジュアのせいじゃない。ジュアのせいじゃないよ。ジュアはなにも、悪くないもん」
お母さんの語尾は、子どもみたいに感情丸出しだった。
お母さんの心がぶるぶると震えているように、あたしには見えた。
10
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
マジカル・ミッション
碧月あめり
児童書・童話
小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる