新田二五は何もしたくない

綿貫早記

文字の大きさ
19 / 45
二章

episode 7 仲居

しおりを挟む
 *
「失礼いたします」

 襖の向こう側から仲居の声がしたので、星野は「はい」と返事をした。
 すると、スーッと襖が開き朱赤色の作務衣を着た女性の仲居が一人と、黒い作務衣を着た目鼻立ちが整った綺麗な顔の男性一人が、新田と星野の部屋に入って来た。
 そして二人は一礼をしてから言った。

「本日のお夕食の配膳は、山田と宇佐美がご用意させていただきます」

 新田と星野は同時に「よろしくお願いします」と言った。

 女性の山田という仲居と、男性のスタッフの宇佐美は、次々と配膳を座卓に並べた。
 広縁の椅子に座る星野は食欲がそそられ、吸っていた煙草を灰皿の中に押し付け火を消しながら言った。

「肉に刺身に煮物や天ぷらまであるぞ!美味そうだな!」

 新田は仲居の邪魔にならない程度にそばまで行くと尋ねた。

「あの、こちらの旅館では双山村名物とかあるんでしょうか?例えば、焼きそばとか!」

 すると笑顔で仲居の山田は言った。

「焼きそばはございませんが、双山村名物には輝水がございます!温泉は勿論のこと、こちらの食事にも輝水を使用しておりますよ」

 新田はクルッと振り返り椅子に座る星野を睨んだ。

「おい、騙したな」
「騙すなんて人聞きの悪いこと言うなよ、俺は祭りの出店の話をしたんだぞ?」
「祭りの出店だろうがなんだろうが、双山村の名物はただの水だって仲居さんが言ってるんだ!」

 山田は困り顔で言う。

「いいえ、ありきたりな水ではございません!輝水は――」
「ちょっと仲居さんは黙っていてください!」
「おい二五、仲居さんに当たるなよ!」

 お邪魔しますと言いながら日向が部屋に入ってくると、新田と星野が言い合っている。
 日向はすぐさま二人の間に入った。

「ちょっと何やってるんですか!?仲居さんの邪魔になりますよ!」

 すると新田はとめに入ってきた日向に向って言った。

「石川さんも知っていたんだね?双山村名物が何なのかを!」
「はい?いったい何の話をしてるんですか!?」

 山田と宇佐美は三人に向ってお辞儀をして言った。

「お夕食のご用意が整いましたので、ごゆっくりお召し上がりください」

 日向は仲居の方に振り向いた。

「騒がしくってすみません……って…す、すっごいイケメン!!!」

 日向は宇佐美の美形な顔を見るなり驚いて頬が赤くなる。

 ニコッと笑顔で山田と宇佐美はそれでは失礼いたします、と言って新田と星野の部屋を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

嘘コクのゆくえ

キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。 生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。 そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。 アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで…… 次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは…… 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。 作者は元サヤハピエン主義を掲げております。 アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

(完結)姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……

泉花ゆき
恋愛
蘭珠(ランジュ)が名門である凌家の嫡男、涼珩(リャンハン)に嫁いで一年ほど経ったころ。 一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を屋敷へ連れてくる。 やがてその女が「子が出来た」と告げると、姑も夫も大喜び。 蘭珠の実家が商いで傾いたことを口実に、彼女には離縁が言い渡される。 ……けれど、蘭珠は知っていた。 夫の涼珩が、「男女が同じ寝台で眠るだけで子ができる」と本気で信じているほど無知だということを。 どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。 嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。 ※ゆるゆる設定です ※以前上げていた作の設定、展開を改稿しています

完結 彼女の正体を知った時

音爽(ネソウ)
恋愛
久しぶりに会った友人同士、だが互いの恰好を見て彼女は……

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~

希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。 離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。 反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。 しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で…… 傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。 メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。 伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。 新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。 しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて…… 【誤字修正のお知らせ】 変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。 ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。 「(誤)主席」→「(正)首席」

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...