阿呆になりて直日の御霊で受けよ

降守鳳都

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其の伍拾参

一言主神

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古事記と日本書紀には、雄略天皇が葛城山において
大王のごとく振舞う一言主神と出会って交流した話がある。
二つの話の結論は少し違っているが、
いずれにせよ大王家と同等かそれ以上の
権威を持った存在として、一言主神は描かれている。

一言主神は葛城氏族の神であるので、
この話から葛城氏族が大王家と一、二を争うほどの
権威を持っていたであろうことも推察出来る。
この葛城氏族から出て来たのが蘇我氏であり、
蘇我臣稲目に始まり蘇我臣入鹿の死によって
一つの区切りがつくまでの間、大王家の権威の
正当性を裏づけるかのような役割を
蘇我氏の本宗家は政権内において担っている。
その区切りのきっかけとなった出来事の一つに
蘇我大臣蝦夷による祖廟の造営の際に披露された
八佾の舞(やつらのまい)がある。
八佾の舞は、大王家のみに許されているものであり、
臣下である蘇我氏が披露することは許されない。
祖霊を主体として披露されたとするならば、
それは葛城氏族の神である一言主神を
担ぎ出していることになるので、帝位簒奪を
画策していると推察されたとしても、
言い訳のしようがない話である。
さらに、蝦夷の子である入鹿においては、
ドラえもんという漫画に登場するジャイアン
のようなキャラクターであることが、
残されている話から見て取れるので、
さらに疑いは深まるばかりであり、
厩戸皇子の子である山背大兄王を滅ぼすことによって、
最高権力者として揺るぎない立ち位置を得ることになり、
そこから疑念は確証に繋がって
乙巳の変が起こることになる。

実際のところ蘇我大臣蝦夷の父である
蘇我大臣馬子によって、崇峻天皇が殺害されているので、
入鹿が山背大兄王を滅ぼしたからと言って
帝位簒奪を疑われることはないはずなのだが、
ものすごくシンプルに入鹿という人が怖くて
何も言う事が出来ないから殺された
と言う風に考えられなくもないのである。

その後、一言主神は奇しくも飛鳥寺(蘇我氏族の寺)
で仏教を学び、神仏習合の新しい信仰の形である
修験道を生み出した葛城を地盤とする
鴨(賀茂)氏より出た役小角(えんのおづぬ)
によって呪縛されることになる。
このタイミングと蘇我氏の勢威の標準化が
ちょうど当てはまるので、考えようによっては
蘇我氏と言う葛城氏族から発展した氏族とその神である
一言主神が、仏教を軸とした国家形成によって
権威を失ったと言えなくもない。
鴨(賀茂)氏からは、平安朝において
陰陽道で名を馳せる賀茂光栄(かものみつよし)
が出ている。最も彼よりも有名なのは、
その弟弟子である安倍晴明の方であるが…。
鴨(賀茂)氏がある種の呪術的な修法を
専門とするルーツが、役小角にあることは
あまり知られていないが、平安朝において
仏教のうちの密教が主体となった起点として、
役小角を見直してみると面白い。

また、鴨(賀茂)氏の同族には
三輪氏や胸形(宗形)氏などがあり、
大海人皇子の長子である高市皇子の母である
尼子娘(あまこのいらつめ)は、胸形君徳善の娘である。
大海人皇子が横河で式(ちく)を回しているが、
もしかすると氏族の縁あって役小角と接触や交流
などもあったのではないかと思ったりもする。
ちなみに役小角は、二十歳ごろに中臣連鎌足の
病を治療したという話も伝わっているので、
大海人皇子が中臣連鎌足に彼を紹介したのかも知れない。
また、面白いことに鴨(賀茂)氏族の神は
事代主神である。
そう、高市県主許梅に降りて来た神であり、
大海人皇子を守って不破へ無事に送り届けた神である。
役小角と大海人皇子との間に交流がなかったとすれば、
事代主神が大海人皇子を次の大王に推すことは
まずないだろう。と思う視点は、
かなり一般から離れた視点のように思われるが、
古の政治は、祭事と政の調和が
何よりも重視された時代なので、
このような視点に立つことによって、
この時代の人々の目線に立つことが
出来るものだと私は思っている。
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