冷たいアイツとジェラテリア

結城 鈴

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 翌日は、昼までのんびり寝て過ごし、シャワーを浴びてから食事をとった。夜もたくさん食べるだろうからと、ペペロンチーノとサラダ。デザートは、レモンのシャーベット。食器を洗いながら、ランがアドリーナをかまうのを見る。
なんかいいなぁ。ランは、いい父親になりそう。
時折、ランを雌の視点で見てしまうのは、もうどうしようもなかった。ランは優秀な雄だ。その雄に求められるのは、気分が良かった。

 ガヤガヤと人の話し声と、食事の音。安いオリーブオイルと、肉を焼く匂い。スパイスの香り。それに混じって、アルコールの空気。
待ち合わせたその店は、雅弓のパートナーであるアンドレアというイタリア人が気に入っているという。だから、もっと、本格的なイタリア料理を出す洒落た店を予想していたのだが。案内されたそこは、良く見聞きする日本の居酒屋チェーンがやっている、格安のイタリアン居酒屋だった。意外な展開に拍子抜けしたが、緊張せずに済みそうかなと思い、ほっとする。
 遅れてくるというアンドレアを待つ間に、雅弓とランと三人で、メニューを眺めている。六人掛けのボックス席で、体の大きいメンツに配慮されているらしかった。楽すぎる。こんなんでいいんだろうかとは思うけれど、当のアンドレアの指定なのだからいいのだろう。祝われるのはランなのに、ランのお気に入りの店でないのはなぜだろう、とちらりと思わずにはいられない。それほどまでに、安い価格帯。
ランと雅弓を窺うと、二人ともオーダーは決まっているらしく、特に食べたいものがあれば、とタブレットを渡してくる。それはつまり、アンドレアが一緒の飲み会は、いつも必ずここなのだということを示していた。
日本とイタリア両方好きな人なんだろうな、アンドレアさん。
首をかしげていると、ランが魚介も美味しいよ、と囁いた。
「あ、うん。みんなが食べるやつつまむから。それより、ちょっと喉乾いたかも。」
ほぼ初対面の雅弓の存在感はなかなかのもので、さらにアンドレアが加わるのだと思うと、緊張でのどがひりついた。
「あー、じゃぁ飲み物頼もうか。伊住さん、今日は飲める?」
雅弓は、ランを「伊住さん」と呼ぶ。おそらくは年上だ。ランは親しい人と位置付けているようだったが、パワーバランスがわからなかった。
「飲みたいので、バスで来ました。」
そのかわり、あんまり遅くなれないです、と続けると、雅弓が、タクシー代くらい奢るね、と返した。
「あの、アンドレアさんって、何時頃きます?」
「んー。七時半までには、って。来たら乾杯し直せばいいよ。怖い人じゃないから、緊張しないで。」
七時に待ち合わせたから、そろそろつくころ。軽く料理を頼んで、飲み物はその後でもいい気がする。取りあえず、とお冷のグラスに口をつける。
体の大きい二人に挟まれて、なんとも心もとない。そんな気持ちを察してか、隣に座ったランが、テーブルの下で手指を触れさせていた。
「何飲むか決めた?」
「カシスオレンジかな。」
ランの問いに答えて、タブレットを置く。雅弓とランはビールにするようだった。ランがタブレットを手にして、オーダーを入力していく。
「アンドレアもビールでいいよ。もう来るって、メール来た。」
「じゃぁ、頼んじゃいましょう。あとは適当にサラダとか、から揚げとか入れちゃいますね。」
エスカルゴとムール貝頼んでおいて、と雅弓が笑う。それがあれば大丈夫だから、と。
あぁ。仲いいんだな。パートナーって、そういう感じか。
同性のパートナーがどういうものか、身近にいないせいもあって、よくわからなかったが、いないアンドレアを気遣う雅弓の表情が柔らかい。久しぶりに、二人でゆっくりできるだろう時間を、ランに割いてくれるのも、嬉しかった。
 飲み物が届く頃、雅弓が席を立つ。件の彼が、店に到着したのを迎えに行ったのだ。料理が届く前で良かったと思う。
ややあってから、雅弓に連れられてきたのは、背丈はランと同程度の、やはりがっしりとした体つきの男性だ。思ってたのと違ったのは、目と髪が黒よりの濃い茶色だったこと。なんとなく、外国の人はみんな明るい髪の色をしているイメージだった。半袖の白いシャツにデニムというラフな姿。
「こんばんは。お待たせしてすみません。ランの友人の、アンドレアです。」
聞き取りやすい、慣れたイントネーションの日本語に呆気にとられつつ、ペコリと頭を下げる。
「は、はじめまして。楓李です。」
「フーリ?」
「ふうり君。」
ランが口を挟む。自分は呼び捨てなのに、アンドレアにされるのは嫌なのだと、直感で分かる。子供っぽい、幼いやきもちだ。けん制するランに、微笑んでしまう。
「ふうりくん。よろしくおねがいしますね。」
「こちらこそ。お友達、紹介してもらえるの、楽しみにしてました。」
社交辞令というやつである。
何はともあれ、乾杯の流れになった。
「ラン、お誕生日おめでとう!」
カンパーイとグラスをあげる。
「ありがとうございます。」
照れくさそうに笑うランは、やはりいつもより少し幼く感じる。周りが年上だとこうなのだろうか。これは、可愛がられるタイプだ。羨ましい。
そうこうしているうちに届いた料理をつまみながら、お互いの近況報告をしたりして、和やかな時間を過ごした。
ランがトイレに立つと、雅弓が席を移動して、近くに寄ってきた。そして、こそ、と耳元に小声で言った。
「どこまでいった?」
言われた意味にピンときて、しかし首をかしげて見せてやる。
「どこまでって何ですか?」
「恋人らしいこと。パートナー、で連れてきたのが楓李君なら、そういうこともしてるんでしょう?」
うーん。これは、興味本位なのか、心配されているのか計りかねるな。
ようやくキスをしたばかり。しかしそれを公言するのは憚られた。男同士だから、とかではなく、二人のことは大事にしまっておきたかったのだ。
「雅弓さんたちは、どうなんです?」
それとなく会話の向きを変える。
「できることは全部してる。」
雅弓はあっさりとそう言って、ちら、とアンドレアを窺った。
「ゲイってわけじゃなさそうだし、でも伊住さんは本気だから、心配してて・・・。」
そういう・・・。
「・・・確かにオレは違うので、どこまでこたえられるかわからないけど・・・。ランは無理強いしたりしないって思ってるから。御心配には及びません。」
「伊住さん、体力あるし、淡白な方じゃないと思うよ。いつまで我慢してくれるかな。」
「・・・。」
雅弓の表情は、茶化している風ではなかった。
淡白じゃない、とすれば・・・いや、だからってどうにもできないじゃないか。
「・・・その・・・。もしやり方とか困ったら、力になるから、聞いてくれていいよ。」
やり方って、セックスの、だろうか。それは、確かに大まかな知識しかないが。
戻ってきたランを意識して、どぎまぎしてしまう。
「雅弓さん、近過ぎですよ。・・・なんの話してるんです?」
不満げに雅弓を追い払う。
「えっちの話。」
思わず目をテーブルに向けてそらしてしまった。
「え?楓李本当?」
「や・・・えっと・・・。」
これ、なんて言えばいいんだ?
「もしもの時のために、楓李君とアドレス交換したいなー。」
雅弓がニコニコと笑う。
「うーん。まぁ、それはいいですよ。俺に何かあった時、連絡取れる人はいてもいいと思うし。」
あれ?意外と寛大。嫌がるかと思ったのに。
「じゃぁ後でね。」
雅弓はそう言うと、アンドレアの元に戻っていった。アンドレアがこちらに、軽いウィンクをよこす。
「それより楓李、ほんとにそんな話してたの?」
「・・・はい。」
ランはため息すると、トイレに立つのも難しい、とぼやいた。
その後は、アンドレアがランのために持ち込んだ、バースデーケーキを食べて、お開きになった。アンドレアの遅刻の理由は、予約したケーキ屋を探して、迷子になったためらしかった。

 帰り道、アンドレア、どうだった?とランに聞かれ、うーんと唸った後、案外普通の人だったと答えた。緊張していたのは最初の方だけで、気さくな人だったし、人懐こいのに距離感は保っていて、親しみやすい人だったと思う。雅弓さんの方も同様に、踏み込んできてほしくないところは、あれ以上はなかったし。パートナー、だと言われれば納得の二人だった。となると、パートナーとして日の浅い自分たちのことを比べてしまう。
「オレたち、どう見えてたかな・・・。」
あの店内で、男だけの飲み会、と言えばそうだろう。決して不自然ではない、と思う。けれど今は、なんとなく、恋人として認知されたい気分があった。そこそこ飲んだ酒のせいだろうか。
帰りのバスの一番後ろに陣取って、こっそり指先を繋ぐ。触れ合った人差し指の先が熱くて、ドキドキと胸が高鳴るのは、摂取したアルコールのせいではないだろう。降りるバス停はすぐそこ。でも、ずっとこうしていたい。帰る家が同じでも、このままいたい。ランも同じ気持ちだったらいいのにと、そっとうかがう。ランは、少し思いつめた顔をしていた。なにを考えているのかは、なんとなく聞けなくて、そのまま俯いてしまう。同じ気持ちじゃないのかな。それでも、一緒にいられることが心地いい。
ランの隣が心地いいのは、なんでなんだろう。
やっぱり、好意を持たれている安心感だろうか。
裏切られたりしない安寧が、心を落ち着かせる。
海で見た波のようなさざめきもいいけれど、もっと安心して寄りかかれるような、どっしりとした大樹のような、そんな存在感。それを求めるには、ランだって若くて幼いところもあるのだと、今日、見聞きしたはずなのに・・・。
求めすぎは良くないな。
ランは、こう見えて同い年なんだから。兄弟がいない分、お兄ちゃんでやってきた経験は生かしていかないと。
甘えすぎたら、駄目なんじゃないかな・・・。
バス停で降りて、マンションの部屋に入るまで、ランはなにか考え事をしているようだった。

 慣れつつある、マンションのドアを開けて、中に入ると、アドリーナがなーんと鳴いた。ご飯の催促らしい。ランがキッチンの方に行き、相手をするのを見やって、洗面所でうがいと手洗い。お酒臭いだろうか。程よく酔いが回って心地いい。ふわふわと眠くて、このまま眠ってしまいたかった。明日は月曜で休みだし・・・。ランは仕事なんだけど。
「お風呂入る?シャワーにしておく?」
ランが、アドリーナの相手を終えてやってくる。バスルームの方へと行きながら問われた。
「正直眠い。」
「うん。けっこう飲んだよね。・・・酔った勢いのキスは、嫌い?」
「したい?」
ランが、ゴクリと喉を鳴らした。つられて唾液を飲み込む。
酒臭いのはお互い様だし、いいかなと思っていると、沈黙を了承と思ったのか、ランが肩を抱いた。熱い手のひらにびくついていると、もう片方の手が腰に回り、がっちりとホールドされてしまう。
「口、あいて・・・すこし舌を出してみて。」
おずおずと、言われた通りにすると、ランが赤い舌先を伸ばして触れた。しっとりとしたざらついた感触。ぺろと舐めるようにくすぐっていた舌先を、唇で食まれた。
なんか、すごいことされてる・・・。
ランの口の中に引き込まれて、舌先を擦り合わされる。ぴちゃ、と音がして、唾液が顎にしたたった。ぼんやりした頭で、溺れそう、と思っていると一際きつく吸われて、ちゅっと解放された。ぎゅう、ときつく抱きしめられて、苦しくなる。
ランが、首をかしげてこちらを窺っている。
思わず俯いてしまい、顔が上げられない。その頭を、ランがポンポンとなでた。
「早かった?でも、したかったんだ。俺のものだって、実感したくて・・・。ごめん。」
「ランの・・・もの?」
「え?あ、違わないよね?」
焦るランが可愛くて吹き出してしまう。
「そっか。オレ、ランのものなんだね。そっか、セックスしなくても、これでいいんだね。」
「セックスしたらなるって思ってた?」
ランが不安そうに首をかしげる。
「なんとなく。全部あけ渡したらなるのかなって。キスでもいいの?」
「俺的には、抱きしめあったらそうかな。・・・足りない?」
足りなくはないが。いずれ、セックスはするんじゃないかという予感がある。想像はできないけれど。
「まずは一緒にお風呂に入りたいんだよね。」
「・・・それはごめん。・・・。」
さす、と腿を撫でる。今日もしっかり黒のレギンスを履いている。
「・・・んと・・・。家族しか知らないんだけど、かなり大きな痣があって、見せるのが怖い・・・。」
「そうなの?」
ランは、思案気に天井を眺めていたが、教えてくれてありがとうと言い、オレは全てを愛する自信があるよ、と微笑んだ。

 酔っていた、のだと思う。
リビングのソファーに、はいていたハーフパンツを脱ぎ、次いで恐る恐る足首までのレギンスのウエストに手を掛けた。その様子を、ランが正面から見ている。
酔っている。そうでなければ、自分から脱ぐなんてことありえないはずだから。おぼつかない指先でウェストのゴムを引っ張り、ゆっくりずらしていく。
「ラン・・・。」
脱がなきゃダメ?と目で問うと、ランは優しく目で頷いた。
もうこうなったらと、腹をくくる。酒の力を借りていたとしても、抵抗があった。
そろ、と腿までを下ろす。
これでもう、左の内腿にある子供の手のひらほどの、紅葉のように赤い痣が見えてしまう。思わずそれを手で隠した。すると、ランは、驚いたように息を飲み、みせて、と覆いかぶせていた手に震える指先で触れた。そっと手のひらをどかされる。あらわになったそれは、ライトの下で赤々としている。
「きれいだね・・・。」
ランはそう言うと、ほう・・・とため息をついた。
「えっ?そ・・・そうかな・・・。」
そんなことを言われるのは初めてで、思っていたリアクションと違いすぎて面食らってしまう。
「びっくりした。そうか・・・楓李がそうなんだね。」
え?
何のことかわからずに、ランを窺う。するとランは、リビングのドアのところに置いてあった仕事用のカバンから、名刺入れを取り出して、中から一枚の紙を持ってきた。どこかで見たような覚えのあるそれに、すぐにピンとくる。自分の財布に入っている、占い師に貰った紙と同じものだ。
見て、とたたまれた紙を開くと、金色の粉が混じったインクで、赤い紅葉のマークがあった。
「前に、話してないことがあるって、言ったの、覚えてる?」
うん、と頷く。
「これは、占い師からもらった紙で、運命の相手に出会ったことがすぐにわかるお守りみたいなものだって・・・。」
それには覚えがあった。
だから、頷いた。
「・・・知ってる。同じものを、オレも持ってる。」
「え?」
ランは、びっくりしたようだった。サコッシュの財布から、ランが持っているのと同じ紙を取り出す。銀の粉が混じった、青いインクで書かれた、星のマークの描かれた紙を。
「星を操る人だって言われたんだ。ランの車、スバルの・・・。だから、オレはすぐわかったんだ。でもごめん・・・言えなくて。」
ランが、どうして、と問うてくる。
「オレにとって運命の相手で、オレを幸せにしてくれるってわかってても、ランにとって、オレがそうかわからなかったから。ランの運命の相手が、どこかで待ってたら、って思うと・・・言えなかった。」
ランは黙って聞き終えると、軽くため息した。
「俺は、もし運命の相手がどこかで泣いていたとしても、楓李を選ぶつもりだった。・・・よかった。楓李が俺の運命なんだね。」
ランは、心底嬉しそうに、頬を上気させて目を細めた。
「そう、なんだね。なんだ・・・こんなことなら、早く打ちあければよかった。」
でも、こわかったんだもんね、とランが髪を撫でる。その手がこそばゆい。
「そういうことなら、遠慮はいらないね。・・・お風呂支度するから、一緒に入ろう。」
もう、隠すものないでしょ、と笑う。
中途半端に引っかかったままだったレギンスを脱ぎ、下着一枚になる。光の下に、赤い痣。でも、ランはそれを愛おしそうに指でなぞると、ひざまずいてそっとそこに唇を寄せた。
人に触れられたことのないそこは敏感で、それだけで甘い疼きが足る。びくりと体が震え、腰から力が抜けた。
「おっと。」
ランが支えて倒れ込むのを助けてくれる。
「ここ、舐めたら気持ちよさそうだね。」
ギラリと光る獣の目に圧倒されて、腕の中できゅうと肩をすくめた。どきどきと心臓がうるさい。
食べられるの?
いつかの天羽の言葉がよみがえる。
お守りを見せあったことで、確実にランの遠慮がなくなった気がする。それはもちろん自分もだったけれど。
でも・・・食べられるのはコワい気がする・・・。
お風呂で何かされるのかな。
抱っこされたまま、ランの肩口に縋ると、ランは口の端をあげて笑い、ゆっくりね、と囁いた。

 ちゃぷ・・・。
浴室は、いくつか置かれたキャンドルの明かりで薄暗く、洞窟の中のような気分にさせた。特別なことがあった日に入れるのだという、とっておきの入浴剤の香りにうっとりしながらのぬるめのお風呂は、火照った体に心地よく、しかしランに後ろから抱きかかえられていて、どうしていいかわからない。バックハグ、の体勢でしっかりと抱きしめられて、洗ったばかりの髪に、鼻先をうずめられている。
「いい匂い。」
ランが夢見心地、と唇で首筋をくすぐる。ときどきぺろ、と舐められる感触がするのは、もしかして汗を舐めているのだろうか。
ドキドキと胸がうるさくて、口から飛び出しそう。
腰のあたりに、ランの欲望を感じて、体がすくむ。もじ、と腰を揺らすと、ランがあんまり動かないで、と笑った。
「刺激されると堪らなくなっちゃう。もう、結構我慢してる。」
わーわー・・・なんてこというの!
ランのそれは、見なくてもわかるほどに硬く大きくて、ぴくぴくと脈が感じられるほど猛っていた。この状態が、どれほどつらいか、わからないわけではないが・・・。
オレは男なの!入れられたりするのには覚悟がいるの!
ましてやこんなに大きいの・・・。ほんとに入るの?女の子だってきびしそう・・・。
「・・・こわい?大丈夫だよ。すぐにはできないんだって。
準備して、慣らして、時間かけてゆっくり愛して・・・。」
それ、誰情報なの・・・。
俯いていると、ランの手が前に回った。
「楓李のもたってるね。」
「さ、触んないで。恥ずかしい。」
ランの大きいのに比べたら、自分のささやかなものを見られるのはいたたまれない気持ちだった。興奮しているランにつられて、そこが熱くうずくのは否めなかった。
「可愛いし、楓李のなら舐めてもいいよ。口に入れるの、抵抗ないな。」
真面目な声音でランがそんなことを言う。
「あ、それより、ここ・・・撫でていい?」
ここ、と痣の方を指されて戸惑う。家族にすら触られたことはない場所だ。自分でも、そういう意図で触ったことはない。
ゴクリと喉を鳴らし、小さく頷くと、ランは遠慮がちにそこに触れた。
「・・・っ・・・ん・・・ぁ・・・。」
形をなぞるように、ランの指先が動くたび、声が漏れてしまう。敏感で、たまらない。こらえきれない声が、浴室に響いた。
「痛いんじゃないよね?」
コクリと頷く。その証拠に、中心がぴっとりと腹についていて、先からぬめりをこぼし始めていた。
「こっちきつそう。いかせてあげたいな。」
「ゃだ・・・。」
恥ずかしかったし、そんなこと、人にしてもらうことじゃない。頭ではわかっているのに、ランの手を拒めない。ごつごつとした男の手。自分の手よりさらに雄の手。なのに、そうされるのが当たり前のように受け入れてしまう。ぬるりと親指の腹で撫でられると、びくりと震えて腹を打った。
「んぅっ!」
悲鳴が上がるが、ランはぬるぬると先端を愛撫していく。薄いピンクだったそこが、濃い色に充血していく。お湯の中にある茎の部分をちゃぷちゃぷと扱きながら、裏の筋やカリの部分を撫でられて、あっという間にヒクヒクと痙攣し始めた。
きもちいい・・・きもちよすぎちゃう・・・。
人前で出すのは初めて、なんてことを考える余裕はなかった。出したい、きもちいい、出したい、そのことで頭の中がいっぱいになる。
「ラン・・・いく、でる・・・でちゃう・・・ぅ。」
「いいよ。」
「で、るぅ・・・でるぅ・・・でるぅ・・・きもちぃ・・・きもちいいよぉ・・・あ、あ、ぁ・・・んんっ!・・・あー・・・あー・・・っ。」
とろ、とお湯の表面に粘度のある白いものが放たれて、溶けずに浮かんだ。ランはそれを手で湯船のふちから追い出して、何事もなかったように、萎えた茎を絞り、残りを押し出した。入浴剤のいい匂いに、青臭さが混じる。敏感なそこは、その刺激にも身をよじるほど感じてしまい、首をランの方へと縋らせる。すると、ランはちゅ、と頬にキスをしてから、唇を啄み、リップ音を立てた。
「きもちいい?」
「・・・はい・・・。」
くた、とランに体を預けて天井を仰ぐ。目を閉じると、瞼の裏がチカチカした。快感の余韻に、体が重くなり、ランの体がそこになければ溺れてしまう。
きもちいい・・・。
とはいえ、ランの欲望は一つも充たされていないわけで。さっきよりもさらに硬くなった気がする。
「・・・ランの、する?」
「んー・・・。まだ、あとにとっておきたい。先に出てて。してから出るから。」
なにを、とは言わずに、ランが笑う。濡れ髪から水滴が滴り、上気した顔が壮絶に色っぽい。
キュンとしてしまい、これはまずい。抱かれてもいいかも、とちらりと思いながら、重い体引きずって、脱衣所に出た。ふわふわのタオルで水気を取りつつ、してるのかな、と気配を窺う。聞き耳を立てたら駄目だと思うけれど、声を殺して自慰をするランを思うと、堪らない気持ちになった。

 「どうでした?初めてえっちなことをした気分は?」
ランは、缶ビールを飲みながらそんなことを言う。カシュ、とプルタブを開けながら一口して、すごかったです、と消え入りそうな声で答えた。そんな風呂上り。
一人で済ませたランは、存外すっきりとした顔をしていて、情事の空気を残してはいない。その代り、初めてだった自分のことを気づかわし気にしていた。
もちろん、嫌だったら射精はできないんじゃないかと思う。
巧みな手淫、というほどの刺激ではなかったし、自分でするのとそう変わらないていどの行為だったように思う。
それでも、そうとうに気持ちよかったけれど。
真っ赤になりながら、ちびちびビールを飲んでいると、ランがふふ、と笑った。
「もっとすごいことはゆっくりやろうね。」
「・・・っていうかさぁ。ランはそういう情報どこで仕入れてくるの?」
自分はと言えば、桃から借りる漫画の知識で。漫画では、準備も何にも必要なくて、(もちろんリアルにそういうことを書いてあるのもあるけれど)いきなりずっぷり、なんていうのもある。でも、現実はそうじゃないだろう。大体、排せつ機関なのだ。出さなければ入れられないのである。
その時に、自然に出したくなるかと言えば、そうじゃないことの方が多いだろう。ということはつまり、無理やり排泄するのである。そのことを思うと、あーっと頭を抱えたくなる。
ランは、自分のそんな様子を見て、クスクス笑った。
「まぁ、動画見たり、ハウツー見たりだけど・・・マユミさんに聞いたりかな。あの人慣れてるし、コツもわかってるから。・・・大丈夫。俺器用な方だし、何とかなるよ。」
最初は指でじっくり慣らそうね、と苦笑している。
「できるかな・・・。オレ、その雄だから、かなり抵抗ある・・・。」
「気持ちよくするから、考えてみて。でも、最初にも言ったけど、できなくても俺は大丈夫だよ。バニラでも十分楽しめると思う。」
挿入なし、か・・・。
指まで入れたら・・・欲しくなったりするのかな・・・。
奥の、深いところに・・・?
思わず、子宮の位置を左手で撫でる。
そこにあるのは腸で、男だから中で射精されても排泄されるだけ。お腹痛くなったりするみたいだけど、女の子じゃないし、子供ができないのは頭では理解している。
でも・・・コワい。
この話も、ランにはいずれゆっくりしないといけないな。
 手入れされてふわふわの髪を撫でながら、ビールの缶をテーブルにカツンと置いた。
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