冷たいアイツとジェラテリア

結城 鈴

文字の大きさ
14 / 15

14

しおりを挟む
 火曜日。出勤するランと一緒にマンションを出て、自分も駅に向かい電車に乗る。フラゴラのある商店街へは、すぐそこだ。それでも、ランとの甘い空気から、仕事モードに切り替えるには十分だったが。
 整骨院で見てもらったのが良かったのか、右手の痛みが引けていて、しかし無理をすればぶり返すのは目に見えている。
今日もレジをやらせてもらえたらいいな、と思いながら、改札をくぐった。
 アーケードを歩いて、フラゴラの前まで来ると、なんだか人だかりができている。どうしたのかと人混みをかき分けると、警察の規制線が張られていて、中には入れないようになっていた。そこに、不破がやってきて、高梨君!と呼ばれた。
「あ、店長、これ、どうしちゃったんです?」
「強盗・・・かなぁ?玄関のガラス戸割られてて、被害があったかどうかは捜査中なんだ。念のため、昨日の話しとか警察が聞きたいみたいだから、協力頼むよ。」
アリバイ?という奴だろうか。しかし、商店街にはカメラもたくさんついているし、大胆なことするやつがいたものである。犯人がすぐに捕まることを祈る。とりあえずは、自分を含めて人的被害が出なかったようで、ほっとする。人がいる時に強盗は来ないだろうが。
「なんにしても、今日は営業できないかなぁ。」
「あー商品は無事なんですかね?」
「それもわからない。」
不破は頭を抱えている。
「学生組は、学校終わってから来る予定になってるから、高梨君しばらく一緒にいてくれない?心細くて。あ、天羽さんももうすぐ来るけど。」
天羽さんか。いろいろ相談したいことがあったけど、それどころじゃなさそうだな。
そういえば、あの人って子持ちなのかな。
「店長、前に天羽さんが連れてきてた女の子って、天羽さんのお子さんです?」
なんとなく、きいてみたのだが。不破の答えは意外だった。
「あぁ。あの子は違うよ。姪っ子さん。一花ちゃんのお姉さんが二人目妊娠してて、時々あぁやって面倒見てるの。そろそろ生まれるんじゃなかったかな。」
あぁ。そうなんだ。じゃぁやっぱり、ここの給料は生活と推し活のためのものなんだ。
なんとなくそれにほっとして、吐息する。
なににほっとしたんだろう。子持ちの母親じゃなかったところ?
たしかに、自分はそれが一番苦手だけれど・・・。
天羽の処女性・・・とか?
三次元には興味ないと断言していた天羽だ。リアルの恋人がいたこともないかもしれない。それはつまり・・・。
いやいや・・・。女の子のそういうの、想像しちゃだめでしょ。
自分に嫌気がさしてため息していると、不破が首を傾げた。
「高梨君ってさぁ・・・小さい子連れのお客さん、苦手だよね。すごく緊張してるのがわかるくらい。なんで?」
不破にも見抜かれていたのかと思い、苦笑する。
「オレ・・・毒親育ちってやつで・・・。思い出しちゃうんですよね。っていうか・・・ジェラートなんて買ってもらったことなくて、いいなぁって羨ましくなっちゃうっていうか。
ズルい・・・って感じちゃって。しんどくなっちゃうんです。」
不破は黙って聞いていたが、じゃぁ接客きつくない?とやんわり言った。
「慣れるかなって・・・。慣れて、何でもないことになったら、昇華できるかなって。・・・まだまだですけど。」
言葉にして、自分の気持ちが少し整理できた。こんな風に思っていたのかと、少し驚いた。
「甘えられなかったんだね。・・・伊住さんは?甘やかしてくれてる?」
「はえっ?」
不破がニヤリと笑う。
「付き合えたんでしょ?」
首の後ろまで熱くなるのがわかる。ちょうどそこに天羽がやってきた。
「何の騒ぎなの?」
付き合えたかどうかの答えは、言わずもがなである。
 それから、警察が何人か店の中を調べたり、本社の人が来たりして、不破は対応に追われていた。ランが来るかとも思ったが、ランは商品開発で、この件とは無関係だから、時々進捗をメールするにとどめた。
 溶けてしまって、商品にならないジェラートをカップに掬って、広場のベンチに天羽と座った。警察の聞き取りは、やはり昨日の犯行時刻と思われる時間、誰かと一緒にいたかとか、どこにいたかとか、そんなところ。天羽は家族と一緒だったし、自分はランと過ごしていたから、確認が取れて解放されたところだった。
 ココナツミルクのジェラートを一掬い、口に入れて味わう。癖はあるが、自分はこれが好きだった。天羽の方は、いちごミルク。無言で食べ進めているが、何か聞きたそうにしているのが気配で分かる。
「・・・ねぇ。さっきさ・・・。店長となに話してたの?」
切り出されて、やっぱりか、と思う。
「うん・・・。伊住さんと、付き合ってるって話・・・したところ。」
「そっかー。おめでとう。・・・で、いいんだよね?」
「あはは。・・・うん。」
でも、楓李君ゲイじゃないでしょ?と問われる。
「多分。だけど・・・オレ、ランじゃなきゃダメだと思う。
オレね、恋人っていたことなくて。付き合うのはランが初めてなんだ。でも、その・・・いろいろあって。」
いろいろ?と問われて、占いのことを話した。
「占い?この商店街にそんなお店あったかしら?」
え?
自分より、長く商店街にいる天羽が知らないなんてことあるだろうか。女の子は、占いとか好きそうだし、目に入ると思うのだけれど。
「聞いたことないわ。」
「ほんとに?ほら、はす向かいのアクセサリーショップの奥だよ?」
知らないわねぇ。と首をかしげる。
「そんなに言うなら、見に行ってみる?当たるなら、私も見てもらいたいかも。」
「うん。お店の様子も気になるし、食べたらいったん戻ろうか。」
それからは、無言でカップのジェラートを飲み干し、屑籠にごみを入れると、アーケードの方に向き直った。
 「あれ?」
ない。
アクセサリーショップはある。けれど、その奥にあったはずの、重そうなカーテンがない。商品がつるされた壁があるだけである。
「あ、あのっ!占いのお店、なくなっちゃったんですか?」
思わずレジにいた店員の女性に声をかけてみるが、首をかしげて、占い?と聞き返された。
「占い・・・なんて、やってたことないけど・・・。」
天羽が、ほら!と相槌をうつ。
えぇぇ・・・。
自分だけでなく、同じ紙を持っていたランも、ここで占い師に会っているはずである。なのに・・・。
どういうことだ?
とにかく、ないとなれば営業の邪魔である。すごすごと退散して、再びフラゴラの方へと向かう。不破が店先でたい焼きを齧っていた。
「やぁ。二人ともおかえり。」
「ただいまです。・・・あの。変なこと聞いてもいいですか?」
なぁに?と不破が、たい焼きを飲み込むのを待って、占いの部屋のことを聞いてみる。しかし、やはり返事は見たことない、とのこと。自分はいったいどこに迷い込んだのだろう。しかも、お守りはまだ財布に入っている。不思議な事、で済ますには腑に落ちなかった。
帰ってからランにも聞いてみよう。
「あ、それよりさ。きょうは、というかしばらく営業できないから、修理と点検と、ジェラートの搬入が終わるまで、お店はお休みね。土日に再開するから・・・高梨君は悪いけど次の火曜までお休みだね。」
「えっ?・・・お給料減っちゃいます?」
「会社都合だから、保証されるみたい。大丈夫だよ。この機会にゆっくり・・・伊住さんと親睦を深めてね。」
不破はまた意味深に笑うと、天羽と自分には解散でいいよと言い置いて、本社の人と思われるワイシャツ姿の人のところへと歩いて去って行った。
「深めちゃう?」
天羽がニコリと笑う。
「・・・まだ、早いと思います。」
湯気が出るんじゃないかと思うほど、顔が熱い。
「なんでも聞いて?知ってる範囲で教えてあげるから。」
なんで自分の周りはこう・・・協力的なんだろう。
男が男とセックスするって、そんなに一般的なの??
別次元の話だと思ってたのに。ファンタジーだと思ってたのに。
周りから固められてる・・・。
そういう感じでするものじゃ、ないと思うんだけどな・・・。
ランは、わかってくれるよね?
大丈夫だよね?
 天羽と別れ、昼食時だったこともあり、アーケードのハンバーガーショップへと歩き出した。

 昼食を食べてから、電車に乗り、ランのマンションへ。予備のカードキーを預かっているから、難なく家へは入れる。アドリーナのために入れられたエアコンがひんやりとしていて心地よい。玄関が開く音に反応したのか、アドリーナがとたたと走ってきて、なーんと鳴いた。脛に額を擦り付けて、体の周りをくるくると回っている。
「ご、ごめんね、ランじゃなくて!」
アドリーナは、なーんと鳴くと、かがんだ自分の手指をぺろりと舐めて、リビングの方へ去って行った。
あれ?意外となつかれてるのかな。
同居人として認めてくれているのだろうか。嬉しくなって、彼女の後をついて行く。餌の時間は、朝夕の二回だし、ソファーに乗った彼女の背を撫でてやると、嬉しそうにゴロゴロ言いながらグルーミングし始めた。
昼寝の時間なのかな。
仕事に行っている間の彼女が何をしているかは、ランも知らないだろう。こうしてゆっくり主の帰りを待っているのかもしれない。
ランが帰ってくるまであと・・・六時間くらいあるだろうか。
夕食の買い物をして、なにか作っておく?それとも、キッチンを勝手に使うのは嫌がるだろうか。
あ、と思いつく。
そうだ。三時にはティータイムがあるから、その頃なら電話できるかも。
外は暑い盛りだし、少し昼寝でもしちゃおうか。それとも・・・。
ボトムの準備の仕方・・・勉強しようかな・・・。
ネットで調べればわかるだろう。一人の時じゃないとできないことだ。幸い、今はアドリーナも寝入っていて、こちらには見向きもしてない。
さっそくスマホを取り出すと、検索を掛けた。この履歴は、後でちゃんと消しておくつもり。存外すぐに目当てのものにいきあたる。読んでいくうちに、無意識にお腹をさすってしまった。
「これ・・・できるかな・・・。」
初めてなら、薬品を使って、直腸を洗浄しておくだけでいいらしい。というか、あとはランにまかせればいいということらしい。さすがに自分で中にローションを入れたりは無理そうだ。とてもじゃないが恥ずかしくてできない。「らしい」ばかりになってしまう脳内に、どうすりゃいいのと頭を抱える。とりあえずは、薬局に行かなければならないようだった。

 身が持たないから、一緒にお風呂に入るのは、特別に気分が高まった時だけね、と宣言される、夕食後。
今日は、サラダそうめんを食べた。まだまだ暑くて、さっぱりしたものが食べたかったのだ。とはいえ、やっぱり肉も食べたくて、サーロインのカットステーキもつけた。
下洗いをして食洗機に皿を入れながら、ランがそんなことを言い出す。そんなの、こっちだって身が持たない。毎回あんな、あんなことをされていたら、もうすぐにだって抱かれちゃいそう。・・・ちょっと怖いけど。
もちろん、そんなことを口に出したりは、絶対にできない・・・。
恥ずかしい。これは、恥じらいと男としてのプライド。
女の子みたいに、無理やり暴かれるのを待ってる。強引に来てくれたら・・・うん、って言ってやらないこともないんだけどな。ランはきっと、紳士だからそういうことはしない。
チラチラ視線を送ってしまう。
それに気づいてか、麦茶のおかわりいる?とか聞いてくるのだ。
酷いことされたいわけじゃないけど、一度気持ちよさを味わうと、もうちょっといいかなーとか、もっとすごいのかなーとか思っちゃうじゃないか。
ドキドキするし、たぶん、顔は赤い。夕食の時のリキュールのせいじゃない。
「・・・口数少ないじゃない?何かあった?」
なにか・・・。
「あ、マユミさんに会ったよ。整骨院で。」
「あぁ。何か話した?」
男の手はどうだったか・・・。
ぼん、と耳まで赤くなるのを自覚した。
「えっ?えっちな話したの?」
ランが察して小声になる。
「えっちぃはなし・・・した。ランの手、どうだったって。」
ランは、うわぁと天を仰いで、で、なんて答えたの?と聞いてきた。
「嫌じゃなかった、って。オレ、ゲイじゃないんじゃなくて、ラン限定で、ランの手が好きなんじゃないかなって。」
ランが嬉しそうに笑う。そ、と耳元に右手で触れられて、ぞくっとした。さわさわと、耳を弄られる。形をなぞるように弄ばれる。
「気持ちいいんだ?」
うっとりと閉じた目じりから、涙がポロリとこぼれた。
こんなに感じちゃうくらい、ランのことが好き。
そうだ。いくら、性的な接触を避けてきたとはいえ、さすがにわかる。このゾクゾクふわふわは、「感じている」のだ。
もじ、と膝をすり合わせる。
「たちそう?」
こく、と素直に頷くと、じゃぁ今日も一緒にお風呂だね、と笑われた。

 お店がしばらく休みなら、抱くなら今のうちがいいかなぁ、と言われる風呂上り。
「なんで?」
「初めてのセックスだよ?痛い思いさせるかもしれないし、体つらいかもしれないし・・・。立ってるのもしんどいような状態で、仕事させたくないな。」
それは確かにそうだけど。それはつまり、今週中ってこと?
上目遣いにランを窺うと、可愛い顔しないで、と笑われる。
「抱く方は負担ないかもしれないけど、抱かれる方はやっぱりね。」
調べた?と問われて、少し、と俯く。
「じゃぁ今日は、一緒にえっちな動画でも見ましょうか。」
ソフトなやつ見繕っておいたから、と誘われる。
「ランがいいんであって、他の男同士は気持ち悪いかもしれないよ?」
「ダメだったら、それはそれでいいじゃない。見ながらしてみない?」
なにを?
「ペッティング。お互いに、可愛がるの。」
たしかに、今日はお風呂では洗いっこしかしなかったけれど。
「・・・意外と積極的。」
ランは、まぁ、と言葉を濁すと、休みのうちに指くらいは試したい、と呟いた。
「指・・・ですか!?」
入れないやつでもいいって言ってたのはどの口なのか。
「だめ?」
泣きそうな顔をして、首を垂れる。
いや、そんな風に来られると、指くらいなら?まあ?とか思いそうになるけど・・・。
「・・・指、入れるときも、あれでしょ?・・・洗浄ってやつやるんでしょ?」
「頑張ってくれると、より気持ちいいみたいだよ?」
どういう理論で??
わかんない、と顔に出ていたのだろう。
「だって、中にあったら楓李も困るでしょ?触られたくないって思うでしょ?」
それについては、コクコク頷いた。
「まずその心配がないと、気持ちい方に集中できるでしょ?」
首をかしげる。
「そもそもお尻に指入れるのって、気持ちいいの?」
「性的な興奮を覚える人もいるみたい。あとは、生物学的に、気持ちいい機関があるので、そこを刺激すると、男はみんな腰が砕けるくらいいいみたい。」
知ってる。前立腺ってやつのことだ。でも、そこに触れるには、かなりの深さまで指を差し込まなくてはならない。
「楓李、手、軽く握ってみて?」
こう?と右手を軽く握る。その、人差し指と親指の輪の中に、ランが人差し指をねじ込んだ。掌がそれを受け入れて、ランの指を包み込む。大体この辺、とランが薬指の腹側を押し上げた。
「なにが?」
「気持ちいいところ。」
あれ?思っていたより浅いな。
大丈夫かも。
どう?とランが、手のひらに指を組み合わせながら左手でくすぐってくる。もう、それだけでだいぶ気持ちいい。
「えっちい・・・。」
「手だけでも感じるでしょ?」
ランは得意げだ。
「なんでそんな、オレの体のことわかるの?」
「んー・・・。触られてこなかったから、逆に敏感なんじゃないかなって。ここも・・・。」
するっと不意に痣のところを撫であげられて、かくんと膝が落ちた。
おっとっと。と抱きかかえるように支えられて、香りと体温にドキリとする。
「ここ、好きでしょ?」
もう、駄目とか嫌とか言える状況になかった。体が勝手に反応する。どうしたって、そこを触られると堪らなく感じてしまうのだ。
「いっぱい舐めてあげるから、寝室にこない?」
ランの・・・寝室?
アドリーナに誘われて、ちょっとだけ入ったそこに、なにが準備されているか知っている。
ゴクリとのどが鳴った。

 二度目ましての、ランの寝室。広いベッドに上がらせてもらい、間接照明だけの、オレンジ色がぼんやりと光るベッドの上で、クッションを抱えて胡坐を組んでいる。ランは、男同士のAV を見ながらしようと言ったけれど、壁面のテレビのディスプレイには何も映っていない。やっぱりちょっと、どういう気持ちになるかわからなかったから、辞退したのだ。ランのベッドは、客間のものより少し硬い。ランは、アロマディフューザーに、何種類かの液体を入れて、ん、と頷いた。ふわりと、いい香りが漂ってくる。ラベンダーをベースに、時々香る、ランの匂い。不思議に思っていると、いつも使っている香水と同じものを少し混ぜたよ、と教えてくれた。部屋がランの香りになっていく。それだけで、まるで体を抱かれている気分になって、頭がぼんやりし始めた。思っていたよりも、ランの香りが好きだったようで、吸い込むとクラリとした。甘いランの匂い。けれど、いつもと少し違うのは、まだランの体臭と合わさってないからだと知っている。
「・・・媚薬みたいなものかな。どう?気持ちいい?」
「・・・うん。ふあふあする・・・。」
答えると、ランはいいね、と下唇を舐めた。クッションを取り上げられてゆっくりと押し倒される。そっとパジャマをたくし上げられ、胸の尖りを触れられて、あっと声が上がった。鋭い刺激に腰が引ける。びくりとはねたその背を、ランが優しく宥めるように撫でた。
「痛い?布の上からの方が好きかな。」
かり、と布越しに引っかかれて、じんわりとした快感が腹の深いところに落ちていく。腰骨の内側がざわざわする。
「ううん・・・。」
こっちのほうが、きもちいい・・・。
身もだえていると、ランが、服の上から口づけて、舌で転がし、軽く歯を立てた。ぴちゅ、と舐めたり吸ったりを繰り返している。じんじんするそこが腫れていくのがわかって身じろいだ。
「やぅ・・・。」
「痛い?」
うー・・・。変なところがむずむずする。
腰をもじもじとくねらせていると、そろ、とランの手が膝がしらに触れた。つるつるのそこを撫でられて、じわりと快感が生まれる。けれど、足りない。
ちがう、もっと・・・。
そろそろと手は上にのぼってくるが、肝心のところには触れないのだ。その間に、どんどん体が熱くなる。ランの手も熱いが、こうなってくると少し冷やりと感じる。
触ってほしい、腿の内側。赤い紅葉の痣・・・。舐めてくれるって言ったのに。ランは余裕を見せていて、こちらばかり追い詰められる。こんな風に思う自分に戸惑いがないわけではない。あさましいとも思う。でも、ランがくれるものは全部欲しい。
「ラン・・・。もっと・・・。」
丈の長いパジャマの裾が、今は少しじゃまで、ランがそれをゆっくりとした動作で捲り、そこがあらわになる。
薄暗い中で、そこは少し黒く濁って見える。醜くないだろうか、不安がよぎる。ランの指先が、そろ、と触れた。冷やりとして、ビクンと体が跳ねる。
「大丈夫・・・。」
宥めるように言うと、形をなぞって指先が動く。そのたびに、堪らない感覚が沸いて、中心がびくびくと跳ねた。
「触ってほしそうだけど、まだね。まずはこっちを舐めてあげないと。」
手のひらでさわさわと撫でていたそこに、唇を寄せる、乗せた手はそのままに、広げた指の間から、ちろりと舌先を這わせた。
「ひん。」
ペニスが腹を打つ。先端から、つーっと糸が垂れた。
それを、左手の指先でくるくると撫でながら、腿に舌を這わせる。ぺろぺろと舐められるたびに、背がしなる。たまらなくてシーツを握りしめ、足の指がきゅうと丸まった。シーツをソワソワと何度も足指の先がひっかいて、快感を逃がそうとすればするほど、中心は固くなっていって。ドキンドキンと胸が高鳴り、もっともっとと涙がこぼれる。
こっちも?とランが目で問うてきた。舐めて欲しいかと。でも、してほしいけれど、すごくしてほしいけれど、そんなことさせられない。なけなしの理性で首を横に振る。
「いいよ?」
するりと下着が下ろされた。布との間に、キラキラとした粘液が糸を引く。取り払うと、ランは指先で、奥まった部分に触れた。ツンとつつかれて、思わず足を閉じる。
「あっそっちは!?」
いれないよ、とクスクス笑われて、頭に血がのぼる。
「垂れてる。ぬるぬる・・・。」
カワイイ、と囁かれてぎゅうと目を固く閉じた。くいくいと、指の腹ですぼまりを押されて、怖くて逃げ腰になる。濡れているせいか、指先が浅く潜るのだ。ぬるりと縁を撫でられて、ぞわっとした感覚が腰を震わせる。怖いのに、気持ちいいのだ。ところが、そこへの刺激を続けるかと思われたランの指は、あっさりとそれをやめて、腫れて重くなった袋を柔くもみ、ペニスの付け根を押した。筋をなぞるように何度も指を滑らせて、ついに唇を寄せた。
「くわえてあげるから、その前にキスしよ。」
恐る恐る目を開けると、思ったよりも近くにランの顔があって・・・。ちゅう、と下唇を吸われた。ちゅ、くちゅうと唇を吸い合って、口を開く。ベロ出して、と誘われて、からませて、唾液が交わる。それが、ぽたりと腿に落ちた。
くわえるって言ったか?
ランのあの形の良い唇が、自分のあれを咥える?卑猥な想像をしただけで、出してしまいそうになる。限界が近いのがわかる。舐めたりなんてしたら秒殺だ。顔にかけしまうかも。
「だ、だめ・・・。」
「なんで?よくしてあげたいよ?」
すぐ出ちゃう、とは男のプライドが口に出すのを拒む。けれど、触らなくてもはじけてしまいそうなくらい、それは固く張りつめていた。ぴくぴくと震えて、もう長く持たないことを知らせている。
そろ、とランが痣をなぞる。こっちならいい?と聞かれて、たまらず頷いた。
べろりと、ランの舌が触れる。やはり、少し冷たく感じるのは、自分が熱いから。
爆発する・・・!
そう思った矢先、ランが痣を下からべろりと舐め上げた。ざらりとした舌の感触に、ぞわわっと快感が沸き起こる。
「ひあぁぁっ・・・んっ!・・・んぁ・・・あ・・・はぁっ。」
放たれたそれは、ランの、汗で少ししっとりとした髪に、重く纏わりついた。白い粘液が、ランの色素の薄い髪に絡みつく。滴らないほどに濃いそれを呆然と見つめていると、ランがクスリと笑った。
「わ・・・ぁ・・・ご、ごめん・・・。」
顔にかかるとまではいかないまでも、これはまずい。
ランは、枕もとにあったタオルで無造作に拭うと、シャワー浴びるから心配しないで、と笑った。
はぁはぁと、整わない呼吸で、俯く。中心はまだ張りを失っていない。直接の刺激でなかった分、余裕があるようだった。
ランは、身をかがめてそれを口に含み、ためらいもなく先を吸った。
「んぁんっ!」
刺激が強すぎて悲鳴が上がる。
「あっ、だめ・・・きたないよ・・・だめ・・・。」
「汚くないし、してあげたいの。楓李大好き。」
「うぇーん・・・。オレもランのこといっぱい好き。」
ふふふとランが笑い、濡れた袋の下のすぼまりをつついた。
「楓李に好きって言われちゃったー。」
ランは嬉しそうに、しかし指先は浅くそこを開いている。
「あっ、や、だ。そこはまだまって・・・覚悟出来ない。」
「・・・入れるつもりなかったけど、待ってたらさせてくれるの?」
それは・・・。
「・・・ランとは・・・したい。もっと・・・全部・・・あげたい。」
「うれしい。・・・今日はここまで?」
コクコク頷くと、じゃぁ先にシャワー行かせてね、とランはお腹にタオルをかけて、寝室を出て行ってしまった。
「休んでてね~・・・。」
そうは言うが、もしかしなくても、お風呂で一人するつもりなのだろう。ランだって、ギリギリだったはず。
「てつだう?」」
「怖がらせちゃいそうだからいいよ。ゆっくりしてて。」
頷いて、ぐったりと目を閉じた。
放埓の余韻。射精の後の微睡みは、心地いいのである。
気がつくと、いい香りに包まれて意識を失っていた。

「さすがに今日は一緒に寝てくれるよね?」
三十分ほど仮眠を取った後、シャワーを終えて客間に戻ろうとしたのを見咎められる。廊下で待っていたランは、不服そうだ。
「仮眠取ったし、すぐには眠れないでしょ?」
どうだろう。体はとろりと怠いが・・・。
「バラのソルベがあるんだけど、ちょっと味見しない?」
「薔薇?」
商品開発のだろうか。
「蜜漬けのバラのつぼみを一度凍らせて、レモンのソルベに混ぜてあるの。美味しいよ。」
それは魅力的。
ぱっと目を輝かせたのがわかったのか、ランの機嫌も上々だ。
いこう?と誘われて、ダイニングテーブルに座る。
ランはすぐに、器に盛りつけられたバラ色のソルベを持ってきた。どうぞ、と言いながら正面に座る。
「いただきます。」
スプーンで一掬い。香りを楽しんでから口に入れる。レモンの風味は控えめで、はちみつの甘さとバラの香りが鼻に抜けた。上品な味である。
「美味しい?」
「うん。美味しい。・・・でも、これ商品にならないやつでしょう?」
「あたり!」
また、幻のソルベを口にしてしまった。
「これは、ラヴィアンローズをテーマに作ってみたんだけど、やっぱりコストがね。それで、初めてえっちなことした時に食べてもらおうって、とっておいたの。」
あらためて言われると恥ずかしい。
えっちなこと、二回目だけど、どっちも一方的にいかされてばかり・・・。ランの中では、今日が初めてにカウントされたみたいだけど・・・。
次回は・・・。もうちょっと先に進みたい。でも、それって、どういう状況?この先って、指を入れてみる?それとも、自分がランのをする?
想像して、赤面してしまい、さくりとスプーンでソルベを口に運ぶ。
「ラン・・・次は、どんなことする?」
ランは天井を眺めたが、無理はさせたくないんだよなぁと呟いた。
「無理って・・・?」
「・・・エネマってわかる?」
初めて聞く言葉に首をかしげていると、浣腸だよ、と言い直してくれた。
「あー・・・。うん。すればいいの?」
「・・・してあげたいの。」
そ・・・れはさすがに・・・。
恥ずかしい。し、自分がどんな醜態を見せるかわからないから、不安だし怖い。
でも、ランはそんなのを見たいのだ。
さらけ出す覚悟・・・。
「したい?」
「だめ?」
お尻は見られちゃったしなぁ・・・。
「トイレの中までは駄目だからね?それでいいなら。」
いいよ、と言うと、ランの顔は目に見えて明るくなった。
「マユミさんに聞いて、おすすめの買ってくるから!」
「なんでマユミさん!?」
「他に詳しい人知らないんだもん。」
ランはそう言うと、ちょっとちょうだいね、とバラのソルベを一口して、ニッコリと笑った。

 好き、ってこんなかんじなんだなぁ・・・。

目が覚めると、外が白み始めていて、早く目が覚めたのだと知る。
いつもと違う部屋。香り・・・。カーテン越しの明かり。寝具の感触・・・。
ランの体温と寝息。
隣で眠るランは、枕に半分顔をうずめていて、その半分の造形にため息が漏れる。
面食い?いや・・・ランの第一印象ってどんなだったろうか。
たしか、少し冷たい印象で・・・いい匂いがして。
そう、どちらかと言うと、匂いが好き。
そう考えると、わりと初めから好きだったようにも思うが、ランは、妙なことを言っていた。「思い出して」、と。
どこかで会っているとしたら・・・。
それは多分、フラゴラだ。時期的にも、ランが研修で店舗にいた時期と、自分がヘロヘロになって癒しを求めて買いに行っていた時期が重なる。でも、ランなら印象に残っていそうな気もするのだが・・・。
疲れてたんだろうな。それどころじゃなかったもんな。
なら、ランと再び合わせてくれたのは・・・。
うと・・・と戻ってきた眠気に促されるまま、目を閉じる。
まつ毛長いなぁ・・・。
目の色も・・・好き・・・。
薄い瞼に隠されて見えない、瞳の色を思う。
緑がかった琥珀。
アラームが鳴るまで一時間。爪の先が妙に整えられた、ランの手に指を絡めて眠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

処理中です...