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夢と現実の狭間
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しおりを挟む「……失礼ながら、ソフィアはミックスなのか?」
「──子どもを作る方法は人間とさほど変わらない。だがミックスになることはなく、魔物か人間かどちらかになるんだ。人間だと何も問題はないんだが、魔物だと不完全になってしまう」
不完全。ルイスも完全ではないと言っていた。
「その顔は何かしら知っている顔だね……分かってはいた。ソフィアと同じような匂いがあった」
どこか淋しそうに呟いていた。リュトいわく、完全でないとインキュバスやサキュバスとして生きていくのに精一杯で、どうしたって差がつけられてしまう。だからといって人間として生きていくには常に精気が必要で、ずっと隠していけるほどの魔力はなく到底無理な話だという。
「ソフィアはまだ子どもだから、角や尻尾、翼はまだ出ていないが、おそらくどれかが出ないだろう。そういうインキュバスを私は知ってる」
──もしかしてルイスのことだろうか。ルイスは翼を出してるのを見たことがない。この前訊ねた時に嫌な顔された以上、おそらく翼はないのだろう。
「私はそういうのを全て見下していた。不完全なら不完全らしく底辺で生きてろと──。そう思っていた自分に未だに反吐が出るよ」
リュトはソフィアを優しく見守りながら、自分を戒めていた。
リトは何も言うことは出来ず、ただエリカに入れていただいたお茶の表面に写った自分の顔を眺めていた。
人間だけでなく魔物もそういった差別はあった。むしろ魔物は人間よりも本能に生きているだけに容赦ないだろう。
ルイスも俺と同じように孤独で生きていたのだろうか。そう思うと無性に会いたくなった。
夢の中ではない。現実で──。
「……さて、教えられるだけは教えてやった。他に知りたいことはあるか?」
ほぼリュトが勝手に話していたが、思ったより収穫はあった。だが、知りたいことがまだひとつあった。
「あの、インキュバスやサキュバスの住処……」
「話すわけないだろう」
ズバッと言われた。もしやと思ったが駄目だったか。肩をすくめてお詫びした。
「ただでさえ、現実にいること自体知っていただけでも抹殺だからな。気をつけろよ」
「……何故ここまで話してくださったんですか」
リュトはしばらく黙って、そして切なそうな声で話した。
「……ソフィアにも君みたいな人と出会ってくれたらと思ったからだ」
リュトの目線の先にはエリカとソフィアがおままごとしていてとても楽しそうにしていた。
◇
その後、せっかくの来訪者だしソフィアが俺を離したがらないのことで夕食をごちそうになった。
インキュバスでも食べるのかと驚いていたら「そりゃ食べるよ?」と言われてしまった。精気だけで生きてるわけじゃないらしい。
夕食の際に『クスノキの下に住んでるお姉さん』のことを話すと、エリカはとても懐かしそうな顔をしていた。もう二度と会えないのは淋しいけれど、その人のおかげで今があるのことだった。
そして現在、山頂から降りるためにリュトと共にしばらく歩いていた。
「夕食までごちそうにしていただいて」
「まぁ、めったにない来訪だからね。ソフィアもよほど楽しかったのかもう寝てしまった。本当だったら泊まらせるのが筋だろうが……、まぁ事情が事情だけにね」
「いえ、これでも冒険者なので問題ありません」
リュトは分かっているかのように、ここでお別れだ、と手を降った。
会釈して降りようと振り向いた時、リュトからわざとらしさを感じる声で呼び止められた。
「そうだ。ひとつ伝えておくことがある。今君が見ていた私やソフィアの姿は、本当の姿じゃない──見つかるのを祈ってるよ!」
最後にとんでもないことを落とされて、どういうことだと訊こうと振り向くと、歩いて来たはずの道が消え、森林で覆われていた。やられた。
本当の姿じゃない? カムフラージュしているってことか……? ということは、そんなに簡単に見つからないってことか。
ルイスが現実のどこかで生きていることに嬉しさがあるも、難航しそうだということに大きなため息をつく。
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